※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| <オリジナル話・7> 海辺にて【3】 さて、目前の海の家に向かった鳥貝は、少しご機嫌斜めである。まるで子供に云い聞かせるように、百合子にあれこれ心配されたからだ。「変な男に声をかけらたれたら、まずナンパと疑う。」「ナンパされたら、連れがいると云う。」「それでもしつこいようなら、Eのお袋に助けをもとめろ。」等がその言葉である。 確かに自分の迂闊さには自覚がある。気をつけているつもりでも、どこか抜けている。それは、この春以来さんざん実感もした。 けれど。 「百合子さんは、過保護すぎますっ、」 ぽつりと呟く。 何事も人生経験。経験を積んで、もっと大人になりたいと鳥貝は思っている。努力もしているつもりだ。 なのに、百合子ときたら、経験を積む前にそれを遮ろうとする。 そこに鳥貝は憤っている。 とはいえ、する必要のない経験はしない方がいいのも、事実。 海の店でEの名前を出すと「ああ、あなたが千里くんの彼女。なお美先生も前に話してたわ。」と、ふくよかで愛想の良い婦人が笑った。 百合子の母からの情報もあったらしい。 百合子の恋人として知られているのが、くすぐったい。それから、百合子の母にも公認されている事が、少し嬉しい。 注文は百合子が戻ってきてから、と思っていたのだけれど、ほとんど無理矢理手元にかき氷を押しつけられた。正確には氷の上に果物が多々乗って、練乳のかかったフラッペとでも云うべきものだ。 サービスしておくよ、と、通常のよりも山盛りに作ってくれた気持ちは嬉しいけれど・・・店内食用のプラスティックの容器に盛られたそれを、空いている席まで運ぼうとすると、かなりの集中力を要した。てっぺんに置かれたかわいい赤いサクランボがいつ転がり落ちても不思議ではない状態だった。 しかも、一部エアコンの効いている店内を陣取る客は多く、鳥貝は店外の席を目指さざるを得なかった。 手元ばかり気にして歩いて、前を向いていなかった鳥貝。 だからそれは、自業自得である。 どん、と横合いから誰かにぶつかった。手元のフラッペは死守したつもりけれど、衝撃でフラッペの一角が崩れて、チェリーが転げ落ちた。 「きゃ、」と小さな悲鳴。 それから、ぶつかった瞬間、あれ?柔らかいと思ったものは・・・・・・。 「あ、す、すみませんっ!」 完全に不注意な自分が悪いわけだから、すぐに謝罪を口にして頭を下げた。 くすっと涼やかな声が頭上からした。ぶつかった相手は鳥貝より背の高い女性らしい。柔らかかった感触は、おそらく・・・・・・その胸。 「いいえ、こちらこそ。よそ見していて、不注意だったから。折角のチェリーが落ちちゃったわね。」 耳に心地よい女性の声だった。甘くも聞こえる声に、柔らかい口調。けれど、そこには知性で裏づけされた凛とした芯が通っていた。 顔を上げた鳥貝は、まずは豊かな白いふくらみに息を呑む。それから、鳥貝よりも頭半分くらいの位置に、美しい女性の顔を見た。 確実に外国人の血が入っている、白い肌に彫の深い顔立ち。灰色をした大きな瞳とその大きな目をさらに印象付ける長い睫はフェイクではい。ふっくらとした唇の赤みも、口紅の色ではなさそうだ。栗色の髪は揺るやかなウェーブを描いて、細く長い首に蔦のように絡み付き、女性の鎖骨の辺りまでを麗々しく彩る。 美女、だった。テレビ画面や雑誌で見るモデルか女優のような美しさ。しかも、その美しさは簡単に安売りできるようなものではない。知性、教養、品位。全てが彼女の中にあるからこそ、高雅に華やかに彼女を形作る。 当然、スタイルも美しい。豊かな胸、しっかりとしたくびれのある腰、すらりと伸びた長い脚。顔の小ささからしたら、確実に10頭身はいっていそうなバランスである。 鳥貝は、思わずほけっと見とれてしまう。 美男美女と呼ばれるほどの存在に出会うことは稀だと思っていたけれど、この春からその遭遇率が異様に上がっているのを認めずにはおれなかった。何か、美男美女運ができたのかもしれない。 と、明後日な事を鳥貝が考えていると、目の前の美女は何故か、じーっと鳥貝を見つめている。少し、切なく遠い記憶をさぐるような表情で。それはまるで、鳥貝の中から懐かしい何かを探そうとするようだった。 「え? え、あの・・・・・・、」 美女に穴の開くほど見つめられて、鳥貝がたじろがないわけがない。 「ごめんなさいね、」 鳥貝の手元のフラッペを取り上げてすぐ横のテーブルに置くと、美女は鳥貝の頬に手を添え、その目線に合わせて腰をかがめた。 一体何をされてるのか、鳥貝は戸惑う。けれど、目の前の美女の顔に見とれて、顔を赤くせずにはいられなかった。 「あなた・・・・・・、」 美女が美しい眉を寄せて呟いた所に、遠くから声が聞こえた。百合子が白熊のリクエストを聞いて戻ってきたらしい。 「春海、どうした?」 声はかなり遠い。鳥貝は、声のするほうに振り返り、返事をしようとしたけれど・・・・・・。 いきなりすぎた。 両頬に添えられた手に力が入り、無理に前を向かされた。目の前に美女の微笑をたたえた顔があり、その唇が「やっぱり、」と呟いた直後に・・・・・・キス、されていた。 女性にキスされるのは人生で2度目である。しかも、この半年以内だ。18年生きてきて、この頻度。 深く重なった唇・・・・・・絡みついてくる舌の感触は、いつも男の百合子としているのとはまったく違う、甘く柔らかで優しい感触だった。これが、女性とのキス。 鳥貝は、呆然としすぎていて抵抗もできないし・・・・・・反応することもできない。 ただ、これは人生経験として必要なものだろうか、とぼんやり考えて、百合子にさんざん心配される自分の迂闊さをどこか遠くに思った。 「春海!? 何っ、何してるんだ!!」 百合子の声が聞こえてくる。遠くに。 全速力で砂を蹴る音も聞こえてくる気がする。 「ってか、おまえ! リオ!? なんで、春海に!!」 リオ? 鳥貝はそれは何のことだろうか、とキスをされながら呆然と思った。なんだか、意識が遠くなってくる気がする。 甘く濃密なキスを味わいながら・・・・・・意識がふっと遠のく、膝がかくんと崩れる。 腰に巻きついた柔らかな感触と芳醇な薔薇の香り、うふふ、と耳元をくすぐる甘い声。 鳥貝は自分が意識を失ったのかと思ったけれど・・・・・・。 「春海を、放せ! この、ビッチ!」 「あら、やだ、ユキ、そんなにひどい言葉、誰が教えたの? 下品ねぇ。」 柔らかい感触に支えられていたと思ったけれど、すぐに馴染みある腕と胸の中に囲われていた。 意識が遠のいていたのは一瞬だけ。百合子の腕の中ですぐに鳥貝は意識をはっきりさせた。 目の前に百合子の顔、斜め上に・・・・・・にこやかな美女の顔。 「ひとめ見た瞬間、もしかして、って思ったけど。やっぱり、春海ちゃんだった。ユキが現れて確信できたわ。運命みたい。会えて嬉しい。」 ひどく弾んだ声は、語尾にハートか音符でもつきそうな調子だった。 意味がわからない。 「春海に近づくな。これ以上妙な縁故を増やしたくないっ。」 「妙ってヒドイ。私だって、いつか会うつもりでいたのよ。それが、今日の運命の日になっただけ。」 「運命云うな。不運だ。春海は連れてくから。」 「えぇ。少しくらいお話させてくてれもいいじゃない。」 「おまえの魔手に春海を触れさせたくない。このレズ女。」 「やぁだ。自分がゲイを脱したからって、ヒドイ云い草。わたしだって、別にレズじゃないわよ。女でも男でも、好みの人が好きなだけなのに。せめて博愛主義と云ってほしいものね。」 「それ、博愛主義じゃないだろ。」 なんだか、大層息のあった掛け合いに思われる。どうやら、百合子の知人らしいが・・・・・・。 鳥貝はタイミングを見計らって声をかけた。 「あのぉ・・・・・・、」 「春海、構うことない。もう戻ろう。」 肩をぐいとつかまれる。そしたら、今度は手をぎゅっと握られた。 「やだ。ちょっと、待ちなさい。紹介くらいさせてよ、ね、春海ちゃん。」 にらみ合う、美女と百合子。知人らしいが、あまり仲は良くないようだ。むしろ、仲が悪いと云っていいかもしれない。 目も覚めるような美女、ただし変な性癖を持つ・・・・・・どこかにもいたなぁ、と、明後日な事も思い出しながら、鳥貝は百合子を引き止めた。 「お話しちゃいけませんか?」 まるで鳥貝の事を以前から知っているような態度の美女の事が気にならないわけがない。キスをされた事には驚いたけれど、嫌悪、というほどではなかったのだし。 また、遠くから声が聞こえた。 「春海ちゃん、百合子〜? どうした?」 安羅の声のだった。遠くで手を振っている。海の家の前でもめている・・・・・・というか、周囲の注目を集めている状況(女同士のキスシーンから美女と美青年の云い争いになだれ込む、このショッキングな展開を気にしない人間はいないだろう)に気づいて、心配してくれたのだろうが。 遠くの安羅は、声を掛けた直後、あからさまに驚いている。どうやら、この美女のせいらしい。女好きの安羅ならば喜びそうなものだが・・・・・・百合子の知人という事は安羅の知人の可能性も高かったようで、しかも、これだけの美女から安羅は逃げた。 「百合子、ぼくは戻ってるから!」 と、云って、一度拝むように手を合わせると(おそらく、百合子に向かって「ごめん。」の意思表示らしい)、足早に遠ざかっていった。 「あら、安羅くんもいたんだ。という事は、時屋くんと白熊くんと・・・・・・史司くんも一緒なのかしら。あなたたち、相変わらずつるんでるのねぇ。男同士ってこれだから。で、史司くんは?」 「あいつは、実家に帰ってる。元々海は好きじゃないからな、あいつ。逃げたんだろ。」 「ああ・・・・・・彼らしいわね。」 メンバーを知っている・・・・・・という事は、この美女もやはり地元の古馴染みらしい。しかも、どうやら、この男友達グループに苦手視されているらしいが・・・・・・なぜ、こんな美女を? 「おまえも、どうせ男連れだろう。」 「女連れって云わないのね。」 「こういう所に来るのに、女はないだろ。」 「うふふ。まぁ、ね。でも、お友達よ、あくまで。あるいは、私の取り巻き的な?」 美女が云う自惚れの台詞は、自惚れには聞こえないから不思議だ。 「ま、F女子大の元ミスキャンパスで、モデルだから、取り巻きの10人や20人いたっておかしくないけどな。そいつら、おまえの性癖知らんだろう。」 「モデルはもう辞めてるわ、とっくに。アルバイトよ、あんなもの。私が女の子を好きな事だって、わざわざ知らせることじゃないしね。」 モデルをしていた、という事に鳥貝はやっぱりと思う。それから、彼女の性癖はどうやら秘密事項であるらしい。それを知っている百合子との関係は? 少しだけ、胸がチリッとした。焼きもちだ。自覚する。 彼女が百合子を「ユキ」と呼んだ瞬間にも、胸が痛んだ。彼を親しげにニックネームで呼ぶ女性は家族や美羽子以外に知らなかった。 「で。そんな事よりも、わたしは春海ちゃんとお話したいのよね。ちょうどここ海の家。落ち着きましょう。」 にっこりと心から嬉しそうに笑う美女に、鳥貝は強く興味を惹かれた。百合子たち男友達メンバーを知っているという事は、兄夏目の事も知っているはず。それから、その左手の薬指に嵌められたシンプルな指輪が、豪奢な彼女とはあまりに不釣合いで引っかかった事もある。 「はじめまして。わたしは月成璃緒(つきなり・りお)。F大4回生。」 また珍しい苗字だ・・・・・・と、鳥貝はなんとも不思議な因縁を感じる。それから、お嬢様学校として有名すぎる女子大の学生だと聞いて、鳥貝は納得する。いかにもそういう雰囲気がある。 鳥貝も自己紹介するが、相手はそれはすでに知っていたらしい。どこからの情報だろう。しかも、上から下まで鳥貝を眺め回した後で云った言葉に鳥貝は目を点にした。 「えーと・・・・・・上から78・60・80・・・・・・くらいかな。うんうん。女の子らしいわ。かわいいわ。」 何のことだろう、と、一瞬ほけっとした鳥貝に対し、百合子は嫌ぁな顔をした。 「違うね。上から80・60・83だ。」 やっぱり、何のことだろう、と首をかしげる。 「最近、前よりメリハリがついてきたかな。こいつは結構着やせするんだ。普段裸で触っている俺が云うんだから間違いない。」 百合子の言葉で何のことが全て謎がとけたものの。この人たちは一体何をはりあっているのか、と、悲しくなってくる。・・・・・・そして、今の所百合子の方が正解である。指のサイズや服の上からのサイズを目測で測れる男なので、裸を触っていればそれはしっかり測量できるだろう。体重もかなり正確に理解されていると思われる。 「・・・・・・ユキってば、独占欲の塊みたい。まぁるで、夏目くんの時みたいね。」 兄夏目の名前が出てきて、どきりとする。やはり、この人は兄の事を知っているのだ。 「夏目とコイツは違う。」 「ふん。分かってるわよ、そんなの。でも・・・・・・、」 鳥貝の目を見て、微笑む。 「目は、似てる、とても。それから、表情の表し方も。」 とても、懐かしそうでいて、切ない微笑だった。 さっき、ぶつかった直後に鳥貝を見つめたのは・・・・・・鳥貝の中に夏目の面影を見たからだったのだろう。 「別々に育ったのに、不思議ね。」 初対面ではあるけれど、どうやら、鳥貝の基本情報はインプット済みらしい。 懐かしむ彼女の態度に、百合子は何も云わない。 彼女と、夏目と、百合子に、昔何かがあったのだろうと、流れを読むのが苦手な鳥貝でさえ、伺い知れた。それがいったいどういったものだったのか、考えをめぐらせると、不思議と胸が痛んだ。 「あ、あの・・・・・・リオさんは、どうして私の事を知っていたんですか?」 「うふふ。」 彼女は嬉しそうに笑う。 「実は、情報源をふたつもっているの、わたし。」 ナイショ、とでもいうふうに、唇に指を押し当てる。その仕草も様になっている。 鳥貝は、少しだけためらってから口を開いた。 「・・・・・・もしかして、ひとつは多飛本さん?」 自分のカンはあまりアテにならいと思っている鳥貝だが、やはりそこは女。時々頭の中に点在する情報が、正しい像を結ぶ事もある。 「・・・・・・あら、正解。なぜ?」 「えっと、違ってたらごめんなさい。リオさんのその指輪、多飛本さんがつけてるのと似てるから。リオさんがつけるならもっと凝ったデザインのものが似合いそうだけど、多飛本さんの好みは、多分、そういうシンプルなものだろうし。それに、兄さんと百合子さん以外で、あなたが名前で呼んだのって多飛本さんだけだし。」 「・・・・・・うん。さすがね。カンもだけれど、情報分析力かしらね、それは。」 くすくす愉快そうに笑って、結構驚くべき事を云う。 「春海ちゃん正解。わたしは史司くんの彼女、なのかな、一応。」 重複する驚きを、鳥貝は喉元に押し留める。 あの硬そうな多飛本に、こんなゴージャス美女の恋人がいたこと。自称博愛主義者の彼女がノーマルな相手を選んでいること。 多飛本の彼女の存在は、薬指の指輪でも分かっていたけれど、そんな気配はほとんどなかった。「いる」との断定的な言葉も聞いたことはあったけれど、それ以降、恋人の話をした事はなかった。だから、どんな相手かまで、考えが及ぶべくもなかったのだけれど。 「とは云っても、月に数度だけなのよ、会うのは。お互い忙しいから。あの男も連絡マメじゃないしね。まぁね、お互い時々性欲が満たせればそれでいい、って関係だから。」 「・・・・・・っ!」 「リオ。あまり春海にそういう事云うな。」 「うふ。こういう話苦手? 赤くなってかわいい〜。でもでも、春海ちゃんって一応ユキのお手つきなのよね。それって、もしかして、春海ちゃんってユキの性欲の捌け口にされてるんじゃないの? 嫌だったら、ちゃんと拒否るのよ。女と違って、男って、ケダモノなんだから。とくに、コイツは野獣よ、野獣。鞭もって、躾ときなさい、ね?」 「春海を変な趣味に走らせるな。」 百合子をコケにしまくる女性は、はじめてだ。鳥貝は、苦笑しながら、別の事を思っていた。なんだか、月成の口ぶりからは、多飛本の事を好いているイメージがわきにくいと思ったのだ。 「あなたたちはちゃんと愛し合ってるのよね。でも、わたしたちのはちょっと違うかな。」 少しだけ声のトーンが落ちた。視線が彷徨う。 「・・・・・・傷の舐めあいみたいなものだから。」 月成の言葉に、百合子も一瞬だけ表情を翳らせる。 意味は鳥貝には分からない。けれど、何か切ない気持ちになった。 少しだけ妙な雰囲気になったのを珍しく鳥貝が察して、場を取り繕うのように口を開いた。 「あ、あの、それ多飛本さんとのペアリングですよね? もしかして、おふたりは将来とか誓ったりしてるんじゃないんですか?」 「・・・・・・おれたちもしてるよな。将来誓い合ってるし、」 口出しする百合子の顔をぐいっと向こうに押しやる。 「そうね、お互い五月蝿いハエ避け、みたいな?」 月成の表情と口調がすぐに戻った。 「左手薬指に指輪、なんて、決まった相手がいるのすぐわかるじゃない。元々男なんてメンドーだし、口説かれ率が大分下がってありがたいわ。コレつけてるの見ても口説いてくるような男は余程の自惚れ屋かバカ。史司くんも、基本的に女性よりも研究の人だから、メンドクサイアプローチがなくなる、って喜んでたわ。」 そういう男女の仲もあるのだろうか。 百合子からの常時熱烈愛情表現に慣れている身の鳥貝としたら、月成と多飛本の関係性は理解し辛い。 「・・・・・ま、将来はどうなるか分からないけど、体の相性が驚くくらい良いから、別にこのまま付き合い続けてもいいかな、くらいは思ってるわよ。私は束縛されるのが嫌いだから、あの人の放任具合も丁度良いし。それに、女の子との浮気も認めてくれてるしね。」 本当に、理解し辛い関係性だ。 鳥貝は、やっぱり顔を赤くしてまごつくしかできない。百合子がまた、へんな主張をするのを、睨みつけることで黙らせて。 「さ、私の話はもういいの。それより、春海ちゃんの事を聞かせて?」 実は、鳥貝としてはもう少し突っ込んで色々聞きたいと思っていたのだけれど、月成は自分と多飛本の話の続きをするつもりはもうないらしく、鳥貝の事について色々と問いかけ始めた。どれも他愛のない話題ばかりだった。田舎での生活の事とか、好きな食べ物とか、付き合っていた男の人についてとか・・・・・・。 「2年も付き合っていて、キスだけ? 有り得えなくない? だって、ユキとは・・・・・・、」 「正式に付き合いだして、一ヵ月と5日後だ。」 「・・・・・・っ、百合子さん!」 正式に付き合いだしたのがいつか、という所も未だに引っかかっているが、それより、そういう秘め事をやすやすと暴露しないで欲しいと思う鳥貝だった。とはいえ・・・・・・異様に記憶力の良い百合子が、付き合いだして一ヵ月記念とか、二ヶ月記念とか・・・・・・初めてから一ヵ月記念とか云々、時々云い出していたものだから、なんとなく鳥貝も記憶してしまいつつあって、自分でも怖かった。半年後とか一年後に何を云い出すのか、やりだすのか、それを想像すると今からげっそりする鳥貝だった。 「ま、ユキ的に一ヶ月は我慢したほうだと思うけどね。好きな子の傍にいて、キスまでしか許されず一ヵ月。ユキには良い拷問だったでしょうね。どーせ、今まで、好きになって手ごたえのあった相手は、速攻いただいちゃってただろうから。もちろん、ほぼ男。」 うふふ、と笑う。 月成の言葉も、その言葉が間違っていない証拠に顔をしかめる百合子の態度も、鳥貝には理解の及ばない世界である気がした。田舎育ちで、田舎の慣習そのものの母を持つ鳥貝にとって、そういう行為はあくまで秘め事であり、好きあった男女でも簡単には許さないというのが常識であるのだが、このふたりはあまりに開放的すぎるというか。そもそも同性恋愛が普通に会話に現われるとは。これが都会人との温度差なのだろうか、と鳥貝は考えるが、このふたりやその周囲の人間が少々特殊なだけなのだが、それに彼女がいつか気づける日が来るかどうかは分からない。というより、この男と付き合っている限りは、誤解に誤解が折り重なって鳥貝の意識に刷り込まれそうだが、それもまた彼女の人生。 「でもねー、ユキって、昔から男ばかり相手にしてるから・・・・・・乱暴じゃない? ちゃんと優しくしてもらってる? 女の子の身体は繊細なんだから。」 「・・・・・・っ! っつ! だから、リオさん、そういう話はっ・・・・・・、」 鳥貝は恥ずかしすぎて、顔だけでなく、首元まで赤くなってきている。自分のそういう所が、鳥貝にベタ惚れの百合子だけでなく、女好きの月成をも萌えさせる事が分かっていない。 「春海・・・・・・、」 「かわいぃ〜〜!」 いつもどおりに人前も気にせず鳥貝に抱きつこうとしていた百合子をぐいと押しのけて、月成が鳥貝の身体を抱き寄せた。正面から抱きしめられたものだから、月成の豊かなふくらみに抱きしめられる形になって、更に恥ずかしくなる。 「リオっ!」 今度は、百合子が月成の頭をぐいと押しのける。 月成は、不満を表した顔で百合子を睨みつけた後、離れがたそうに鳥貝を腕と胸から開放して。 「あなた、本当に独占欲強いわね。そもそも、春海ちゃんがどうしてワンピース着てるか、あなた知ってるの?」 百合子は、はぁ?という、疑問と不満を織り交ぜた態度を示し、鳥貝ははっとして慌てた。 「リ、リオさん、リオさんっ! それ、しっシーッ。云わないでくださいっ。」 「それはそれでかわいいわよ? そのまま浜辺にいたっていいわよ? でもねー多分、今日は上のそれ、脱ぐ気ないのよね? 勿体無すぎ。普通そういう水着って下はビキニタイプのはずなのよ。脱いだら、きっともっとかわいいと思うのよ。けど・・・・・・、」 これ以上先を続けられてなるものか、と鳥貝にしては珍しく実力行使に出た。喋り続ける月成の口を両手でふさいだのだ。 「春海?」 「なっ、なんでもないから。大した事じゃないから。」 鳥貝は必死で誤魔化すけれど、必死さがある分、誤魔化される内容は気になるものである。特に、鳥貝を独占しまくりたい願望を持つ百合子にとって、月成が知っていて自分が知らない鳥貝の秘密があるなど、許されない事なのだった。 つづく |