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<オリジナル話・6>

夏休み【2】


『春海、今日Nくんに会って聞いたんだけどね、あんた、すごい人とつきあってるのね!?』
 唐突な言葉に、鳥貝は息が詰まる思いがした。
 Nとは、先日帰省した時に偶然会ってしまった、高校時代の鳥貝の元恋人である。彼には、百合子と一緒にいる所を見られてしまっている。しかも、彼の前で百合子に不意打ちでキスまでされた。
 口が堅い方だと思うNだったが、さすがにあれらの事態が気に入らずに地元の友人に吹聴したのかもしれない。少しだけ恨めしく思った。Nはもちろん、百合子の事も。
『TK大の首席で、すごいハンサムって聞いたわよ?』
「あ〜・・・、」
 本人が真横にいるから、どう答えていい物か分からない。
 確かに、大層整った顔はしていると思うけれど、すっかり見慣れた今となっては、改めてそういう事を云えないというか。特殊な性格を知り、だらしない顔も知っているわけだし。
『しかも、ペアリングしてるとか、婚約してる?』
「こっ、婚約はしてないっ。」
『でも、春海の自宅に彼と一緒に行ったのよね? 両親は公認?』
「公認・・・だけど、別に婚約とかはしていないから。」
 何を思ったか、百合子が鳥貝を背中から抱きしめてきた。電話の最中であるというのに。
 鳥貝は「え?」と、思いはしたが、電話中に反応できない。電話の向こうの友人に、この男がそばにいる事がしれてしまう。こんな時間に一緒にいる・・・つまりはそういう事なのだから。
『確かに私も、つきあっている人がいるかどうかしか聞かなかったけどさ、せめて写メくらい送ってよ。見てみたい。そして、あわよくば、東京に遊びに行った時に、本人を見てみたい。』
「え、と・・・、」
 どう答えればいいかわからない。
 そういえば、百合子の写真を鳥貝はあまり持っていない。あまりというか、本人から送られてきたのとか、以前誕生日に百合子が鳥貝の携帯を使って撮ったのとか、そいうのしかないのに今更気づく。
 本人に会わせるのは・・・正直、どうしたらいいか分からない。今、本人に聞こうものなら「喜んで、」と答えそうな気もするけれど、面倒くさいことになりそうで、あまり会わせたくはないと思う鳥貝だった。百合子は人を見て対応出来る人間だから、鳥貝の友人に対して鳥貝に取るような態度は絶対に取らないとは思うが、Nの前でしたような事は平気でしそうなのが想像できて怖いのである。
 鳥貝を抱きしめている百合子の手が前身ごろを片手で押さえている鳥貝の手を簡単にどかして、その隙間から入り込む。そして、唇が首筋にふれる。「・・・!」
 けれど、鳥貝にはどうすることもできない。
「あ、の、」
 電話の向こうに必死で意識を集中しようとする。
「写メは、また後で送る。あまり、いいのないけど。本人は・・・どうだろう、都合が、合わないかもしれない・・・、」
「合わせるよ、」
 ふいに携帯をあてがっているのとは逆の耳元で低く囁かれた。熱い吐息も一緒に耳に吹きかけられて、鳥貝はぞくりとする。
『え?え?』
 携帯の向こうにも聞こえたらしい。友人の戸惑う声が聞こえた。
 さすがに、鳥貝も慌てて携帯を耳元から話して、話口を押さえた後、百合子を怒鳴りつけずにはいられなかった。
「百合子さんっ! どうしてそういう事するんですか!」
「・・・友達が遊びにくるなんて、聞いてない。」
 拗ねた声。
「云ってませんから。だって、別に云う事でもないし・・・、」
「・・・だからさ、春海はそういうところ、なんで変に割り切るわけ?」
「割り切ってますか?」
「おまえ、自覚ないから。どうしようもない、関係のない事でも、聞きたいんだよ、おれは。そういうモンだろ、付き合ってるって。」
「そう、でしょうか。」
 恋愛成長途上の鳥貝には、いまいち把握できない事柄だ。情緒的な衝動がまだまだ未発達なのである。
「おれは、何でもおまえに云いたいぞ。ただ、おまえが興味ないそぶりするのに傷つくからあまり云わないだけで。おまえも聞かないしな。」
「傷ついてるんですか? 百合子さんが?」
「・・・ばかにしてないか?」
 百合子が実は結構ナイーヴなのは知っているが、普段からしてあまりに俺様主義が目立つので忘れてしまいがちになる。
 百合子が普段、何をしているか。知りたくないわけはない。時々、色々聞きたくもなる。自分の知らない百合子の事が多すぎて、胸を痛める思いをする事もある。けれど、人のことを根掘り葉掘り聞く事は、鳥貝の主義ではない。何より、そういう風に恋人に束縛されるのを、自由人の百合子は嫌いそうな気がしていたのだ。
 ふたりの言い争いの最中、携帯の向こうで置いてけぼりをくらっている友人が、携帯口で呼びかけている。
 そういえば、百合子との云い争いに夢中になって、話口を押さえるのを忘れていた。
『春海? ちょっと、春海!』
「ご、ごめんね、あのね・・・、」
『もしかして、彼氏の所に泊まってるトコ!?』
 やはり、そう思われても仕方ない。ちなみに、友人に現在住んでいる寮の詳細は話していない・・・というか、話せていない。男ばかりの寮だという所の説明が、複雑かつ面倒くさい内容になりそうだからだ。
『ごめん。じゃあ、邪魔しちゃったわけ? また明日にでも連絡するよ。』
 云うが早いか、携帯は切れた。
 実際、そういう直前状態だったのだからする云い訳もない。
 友人との次の連絡にて、どういう反応をするべきか、あるいは何を聞かれるか、身構えないといけないのが、しんどい。
「春海・・・、」
 まだ背後から鳥貝を抱きしめていた状態の百合子が、再開とばかりに首筋に唇を這わせてきた。
「百合子さんの、ばかっ、」
 鳥貝は思い切り身をよじって百合子の腕の中から逃れた。
「人が電話している時に、ちょっかいかけるなんて、信じられない。」
「だって、そうでもしないと、長話始めるじゃないか。おれのが先に、おまえとじゃれていたのに。」
 じゃれていたのだろうか。鳥貝は本気で嫌がっていたのだが。
「それより、友人とやらはいつ来るんだ。予定、開けといてやる。」
「別に開けておいてくれなくて、いいです。百合子さんが会う事もないですよ。」
「ふぅん。・・・やきもち?」
「・・・は? なんですか、それ。」
「だって、おれを会わせたくないわけだろう、友達に。おれを自分だけのものしておきたいっていうおまえの気持ちはよく分かった。」
「だから、なんですか、それ。」
 素っ気なく云いながら、少しだけ、図星だと思った。
 外見と外面の良い百合子の事、きっと鳥貝の友人達の前でも人当たりの良さを発揮するに違いない。鳥貝にしたら、初対面の百合子は、外見だけはよいけれど、口が悪くて意地悪で不意打ちにキスをする不埒な男だったのだが、人当たりの良い百合子を見た友人達はどう思うだろう。確実に、百合子に好意を抱く。それが鳥貝の恋人という事で恋愛感情に至らせはしないだろうけれど。百合子に見とれる友人達が想像できてしまう。想像だけで、胸がもやもやする。
「どうせなら、ここに来てもらえば? お茶くらい飲ませてやればいい。接客係がひとりやふたりいるだろ。」
「寮に、ですか? でも、」
「どうせ、男ばかりの寮だから気を遣ってるんだろ? 寮の奴らの事は気にしないでもいいだろうし、おまえも、これから友人達にこの寮のこと聞かれて嘘はつきたくないだろう? これからもつきあってく友達なら、オープンにしとけ。ま、夏目の事あたりは云いづらいだろうから、適当にごまかしとけばいい。奴らは上手く合わせてくれる。」
 意地悪で俺様主義だけれど・・・百合子は、やっぱり鳥貝を気遣ってくれる。根は優しい事を知っている。何より、鳥貝をとても大事にしてくれている事も、鳥貝は分かっている。
「・・・ありがとうございます。」
 確かに。嘘をつくたびに、気持ちが落ち込んでいた。黙っている事やごまかす事も必要な時もあるけれど、大切に思う人には、あまりそういうことはしたくない。
 だから、百合子にも。
「あの、百合子さん?」
「ん?」
「どんなことも云った方が、百合子さんは嬉しいですか?」
 少し前の会話の続きだった。
「少なくともおれはそうだ。おまえの事、色々知りたいからな。」
「すごくくだらない事も、話しますよ? 百合子さんに全然関係ない事も。」
「関係あるかないかは、おれ自身が決めるよ。」
 云いながら、鳥貝の腕を引いて、鳥貝を抱きしめる。
「今は、まだ、おれはおまえの事をほとんど知らない。おまえの18年を、全部知りたい。」
 強く鳥貝を抱きしめる。
 だから、友人達にも会うと云い出したのだろうか。
 鳥貝が兄夏目を知るために、その親友達のそばにいるように、百合子も鳥貝の過去を知るために、百合子自身がまだ知らない鳥貝を知りたいがために。
 激しい独占欲に思われた。けれど、心地いいとも思った。
 百合子の愛は、押しつけてくるだけではない。むやみに欲しがるだけではない。そんな、利己的なものではないのは、もう分かっている。鳥貝が真実嫌がる事は絶対にしない。はじめての夜だって、結局は自分を抑えて鳥貝の気持ちを待ってくれた。
 いつも、鳥貝より一歩先のところで、百合子は待っていてくれる。
 百合子は、永遠の愛を鳥貝捧げているといつも云う。それが、恋人達の気持ちが盛り上がりきった一時期だけに強く感じ得る、戯れの言葉にすぎないとは思えない。
 鳥貝はまだ、戸惑うばかりで百合子の気持ちには追いつけそうもないけれど、彼の気持ちは受け入れている。それを、嬉しいと思っている。
 だから、鳥貝は抱きしめてくる百合子の背に、腕を回す。百合子の体の熱を感じる。
 けれど、ただ、やはり少しばかり強引にすぎるのは、止めて欲しいとも思うわけで・・・。
 浴衣の裾は長い。それを腰元の帯で調整するのが普通だ。その長い裾をたくし上げて、百合子は太ももに触れてくる。
「っ、ちょ・・・、」
 鳥貝の背中と腰元に百合子の腕は絡まるように回っている。つまり、がっちりと捕らえられている。鳥貝が百合子の背から手を離して、抵抗しても逃れられない。
「百合子さん、百合子さんってば、いい加減に・・・、」
「・・・あれ、下着・・・つけてない?」
「・・・! だから、そいう事・・・、」
「うんうん、浴衣の下に下着は着けないのは基本だな。斎さん、ちゃんと教えてくれたんだよな。そういう所はさすが。」
 普段、斎の事を毛嫌いしているくせに、よく云えたものだ。
 下着はつけていないけれど、さすがに羞恥心はあるので、膝上までのキャミソールを着ている。
 斎にさんざん、そして何度も、粋な浴衣の着こなしは、ラインが透けてしまう下着をつけるのは厳禁、と教え込まれたのだが・・・やっぱり、間違いなのかもしれない。高校の頃、母に着付けてもらって浴衣を着た時は、普通に下着もつけていた。
 鳥貝は、自分が結構だまされやすいことを自覚していながらも、こうやって毎度手玉に取られるのである。
 きっと、そこがここの男たちや最近関係してくるようになった、大人な人物達にかわいがられる部分なのだが・・・本人がそれに気づいた時には、喜ばないだろう。本人としては、もっとしっかりした人間になりたくて努力しているつもりなのだから。
 キャミソールの下に潜り込んだ手は、既に遠慮なく鳥貝のおしりを這い回っている。
 鳥貝は、慌てて百合子から離れようとするけれど、背中をがっちり捕まれていて離れられない。
「っ、ダメ、やめてください。シャワー浴びてきますからっ、」
「もういいよ。時間も遅いし、このまま・・・、」
「・・・あ、やっ・・・ん、」
 云いながら、唇が首筋を這い、手は既に鳥貝の内股をまさぐっていた。さっきまで抵抗していた鳥貝の唇から、甘い声が漏れ始める。抵抗していた手も、力なく百合子の胸元を掴むばかり。
「や、です・・・や、ん・・・、・・・汚い、から、シャワー・・・を、」
「春海・・・、」
 百合子の声に鳥貝が顔を上げると、甘い微笑みを浮かべた百合子の顔があり、そのまま口付ける。長く重なる唇、息を継ぐ間もなく、重なってくる熱い唇と別のイキモノのように絡み付いて、吸い上げる舌。
 枕を共にする前の百合子のキスは、いつも激しい。これからの行為を期待するように。
「っ、はっ・・・だめ、です・・・、もぉ・・・、」
 キスだけで、力が抜ける。足に力が入らない。頭がぼうっとして、百合子の体の熱しか感じられなくなる。
 鳥貝が崩れ落ちそうになるのを、百合子が支え、抱きかかえる。
「・・・シャワー、浴びるか?」
 意地悪な声が耳に吹き込まれて、鳥貝は百合子の腕を握り締めながら、首を横に振った。
 答えなんて、聞くまでもなく分かっているくせに、こういう風に云う男なのだ。
 自分で鳥貝の身体の熱をよび起しておいて、どうしようもないくらいに昂ぶらせておいて・・・自分ばかりが涼しげな顔をして、鳥貝から求めさせようとする。
 鳥貝に肌を重ねる快楽と幸せを教えたのは百合子自身に他ならないのに、こうやって身体に熱を燈す事を覚えさせたのも百合子なのに、こんな風にやらしい身体になったのは、全部全部百合子のせいなのに。
「・・・どうして、いつも意地悪ばかり云うんですか・・・っ、」
 ベッドに運ばれながらの、力ない鳥貝の恨みごとを、百合子はにこにこ笑って聞き流す。
 そっとベッドに下ろされる。身体には、まだ浴衣が纏わりついている。
「はだけられた浴衣、そこから垣間見える白い肌、上気した頬、潤んだ瞳・・・、」
 云いながら、ゆっくりと鳥貝の上に覆いかぶさってくる。ベッドがキシリと聞きなれた軋みをたてて、ふたりを受け入れる。
「春海・・・綺麗だ。それに、いつもの数倍、ヤラシイ・・・、」
「・・・やらしいのは、百合子さんですっ、」
 鳥貝のかすかな抵抗の声に、百合子はにやりと笑うだけで、涼しい顔をくずさない。
 鳥貝は、そんな百合子を憎らしく思う。いつも自分ばかりがいいように翻弄されて。あるいは、百合子の思うままにされて。思えば、出会いからしてそうだった。百合子の罠にはめられたように、彼に恋をした。
 そう、でも・・・悔しいけれど、やっぱり・・・好きなのだ、この男が。
「好きだよ。好きだよ、春海・・・、」
 涼し気だった百合子の顔に、声に、熱が燈る。
 心から、鳥貝を求めてくる。心の中の熱情の全てを鳥貝にぶつけるように。
 普段、何事も飄々とした表情で苦もなくこなしてしまう百合子が、必死な表情を浮かべるのは、ただこの時だけだと、鳥貝は確信していた。
 こんな表情で求められて、拒めるわけがない。
 鳥貝は、自分から百合子の頬を引き寄せてキスをした。
 こんなにも、好きになっている。
 どんどん、好きになってくる。
 もっともっと、好きに、なりたい。
「好きです、百合子さん・・・、」
 呟いた言葉が契機。
 百合子は鳥貝を強く抱きしめ、その素肌に己の熱を注ぎ込む
 鳥貝もすぐに思考能力を失い・・・ふたりは、重なり合ってひとつの影になる。


 お盆の翌週、友人たちが東京に遊びに来た。
 今回の来訪は(友人たちは冬休みも遊びに来る約束をした)、鳥貝の近況を知りたい、というのとTK大に興味があるからという事で、ホテルはTK大近辺のビジネスホテルを取った。勿論、TK大に程近い、お洒落な地域での買い物も目的のひとつではあったのだが。
 さて、1日目、お昼前にTK大傍の駅で待ち合わせて、大学構内を案内する。公園のように緑が多く、やたら広い敷地内を簡単には案内できなかったものの、尽きない話をしながら歩き回るのも楽しかった。建築学科がある事もあり、独特の形状をした建物やオブジェもある学内だけれど、それを珍しく熱心に語る鳥貝の説明は、友人たちにはやや不評だった。あまり建築物には興味がないらしく、鳥貝はちょっとだけがっかりした。
 お昼は勿論、学食で取った。
 友人たちは十分堪能してくれているようである。
 鳥貝の近況も主に大学生活とアルバイトに絞って報告した。
 恋人の事とか、寮での生活の事とか、友人たちは知りたがっていたけれど、後で寮に案内して、そこで会わせるという事で黙らせた。正直、自分のそういう話をするのは苦手だった。
 ちなみに、寮の皆には、今日、友人たちが来る事は話してある。そして、今から行く時間に寮にいるのは、時屋と安羅・・・ある意味、一番会わせたくない人物達で、不安でもあったが・・・上手く対応してくれるだろうと、鳥貝は信じる気持ちで己を奮い立たせた。
 お昼過ぎまで大学構内をふらついて、友人たちがある程度満足してくれた後、寮に向かった。寮で待機している百合子にメールで今から行くことを伝えると、すぐに返信があって《楽しみに待ってる。》との事。茶菓子は持参で、駅を降りてすぐにある洋菓子店で購入した。
 友人に寮の基本情報は伝えてあった。
 つまり、大学の生徒運営の組織で偶然紹介してもらった寮、S区の住宅街にある洋館、寮というより実質は下宿、共同生活で家事などは当番制、そういう所を。
 少しだけ誤魔化しが混ざるけれど、ほぼ本当の情報だ。
 夏目の事はもちろん、男ばかりの寮だとは伝えられていないが。
 さて・・・当然と云うか。
 S区の高級住宅街を歩いている最中でも、友人たちの期待は膨らんでいたようだが、鉄製の門扉から、緑深い小路を歩いている間も彼女たちの黄色い声は続き、いよいよ洋館を目にした瞬間に、それは悲鳴となった。
 童話にでも出てきそうなこの洋館は、いかにも女性好みだろうとは思っていたけれど、ここまで喜ぶものなのか、と建築物に関して普通の女性とはかなり趣味を違える鳥貝は思った。
 黄色い声ではしゃぐ女性たち・・・元々、感情表現豊かでない鳥貝自身ははしゃぐ方ではないけれど、彼女たちのこの感覚には慣れているし、不快とも思わない。けれど、多分・・・。
「苦手、だろうな。大丈夫かな・・・、」
 百合子は女性のこういう所が苦手だから、女性より男性を好んでいた部分もあるらしい。
 だから、ちょっと不安になるけれど・・・自分から招いたのだから、多分我慢はしてくれるだろう、とは思った。
「ねぇ、ここのお家賃、もしかしてすんごい高いんじゃない?」
「それが、実はかなり安いの。この館の管理も兼ねて住まわせてもらっている部分もあるから。わたし、本当に運が良かったみたいで、ちょうどここのお部屋が空いた時に入居できたんだ。」
 という事にしてあった。
「只今戻りました。」
 扉を開けて声をかける。普段は入るときに挨拶なんてしないけれど、多分、来客の準備をして待ってくれているのが想像できたから。
「おかえり。」
 真っ先に出迎えてくれたのは、やはりというか、百合子。
 普段なら、こういう時は鳥貝に抱きついてくるのに、今日はそれをぐっと堪えているらしい。笑顔がちょっとこわばって見える。
 一応、鳥貝の恋人である。写メは本人の許可を得て彼女たちに送ってあったから、見た瞬間、鳥貝の友人たちはそれと知れたらしい。
 鳥貝の友人だけあって、一応礼儀をわきまえている彼女たちは、喉元まで出かかっている黄色い声を押し殺した様子で、挨拶と簡単な自己紹介をした。
 寮生でない百合子が寮にいるのは、家主の縁の者だから、という事にした。出会ったのもこの寮で、という事にしてある。どれも、嘘ではない。ただ、ふたりを結びつけた要素である、夏目の事を云っていないだけで。
 その自己紹介直後、彼女たちは堪えきれずに黄色い声を上げた。喉元で押さえつけられたそれが、ついに勢い良く弾かれたような声だった。
「カッコイイ!」
「ちょーカッコイイ!!」
「芸能人みたい!」
 きゃーと声が玄関ホールに響いた。
「やあ、着いたみたいだね。いらっしゃい。」
 黄色い声を聞きつけて、エプロンをつけた安羅が顔を見せた。台所で何か作っていたんだろうか。
 安羅を見た女性たちは、更に歓声を上げる。
「だれ?」
「誰なの、あの人!?」
「ちょっと、ハルちゃんっ!」
 説明がめんどくさい。
 先に説明をしておくべきだったかと、ちょっと後悔する。
 百合子は、安羅の登場を機に「ちょっと台所行ってくる。」と引きつった顔で退場した。女性の黄色い声に中てられたらしい。
「と、とりあえず、居間に案内するね。紹介は、落ち着いてから、ね?」
 安羅に苦笑いで頭を下げて、彼女たちを無理やり居間へと誘った。



つづく