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<オリジナル話・5>

誕生日【後編】


 百合子の誕生日当日。
 平日なものだから、鳥貝は寮にて彼の誕生日祝いをする事にした。
 20歳、記念すべき成人のバースディである。
 しっかりした家族のいる百合子なら、家族と過ごすべきかもしれないとも思ったけれど、百合子いわく、家族とのバースディは前日に済ませているとの事らしい。百合子が生まれたのは、日付が変わったばかりの深夜だったから、だとか。
 百合子の夕食のリクエストは特になかった。そもそも、彼の好みは一部の味の強い野菜が苦手という事しか分からない。あとは、不味くなければなんでも食べると本人は云う。
 迷った末に、鳥貝は、普段はほとんどしない揚げ物を夕食に選んだ。
 大体の若い男性が好きな揚げ物を、寮の男たちはあまりリクエストしないが、一通り聞いた所によると嫌いではないらしい。ただ、"油の始末が面倒"という理由でそれまでほとんどしていなかったとの事だ。ついでに、先の台所の管理人の多飛本が、油を使った後の後片付けを事細かに注文するものだから、食べたくとも誰も作りたくなかったのだとか。
 野菜、肉、魚、エビ、イカ、揚げ物の食材はなんでも有りである。味付けも深く考慮しなくて良い。後は、油の火加減と衣の作り方次第だ。鳥貝は雑多な食品を並べて、自分好みに天ぷらとフライを作ってみた。
 少しだけ特別な夕食だけれど、平日の真ん中のその日も男たちが全員揃う事はない。夕食の時間には多飛本と安羅が欠けていた。とはいえ「遅くはなるが帰りはする。」の連絡を受けていた。一応、百合子の記念日を祝うつもりはあるらしい。
 20歳、これで正々堂々とお酒が飲めるわけである。20歳でなくとも、比較的堂々と飲んではいたが。
 だから、時屋と白熊は百合子の為に大量のお酒を用意していた。どうやら、朝まで酒を酌み交わすつもりらしいが・・・翌日は平日で講義も普通にあるはずなのに、との鳥貝のごくごく真っ当な心配は、当然のごとく黙殺された。
 鳥貝は一応恋人である百合子の行動に口出しをしない放任主義者なものだから、わざわざ説教なんて事はしなかったけれど「自業自得な状態になっても知りません。」とは一言、言っておいた。
 自業自得というか・・・そのとばっちりをうけるのは、やはりというか、なぜかというか、いつも鳥貝になってしまうのではあったが。
 午后11時も過ぎた頃、多飛本と安羅が相次いで帰ってきた。その手には示し合わせたように、お酒。
 多飛本はブランデー。安羅はこの間のお返しか、年号ワインだった。
 けれど、百合子はすでに結構できあがってしまっている。酒の味なんて分からないだろう、な状態に限りなく近い。
「20歳になった暁には、己の酒量の限界を悟らねばならぬ。」
 とは、時屋の言葉。
「スマートにお酒を飲むために自己管理要綱だよね。大人なら知っておかないと。」
 とは、白熊の言葉。
 百合子と同時期から雑多にお酒を飲み始め、彼らが割合ケロッとしているのは、自己管理要綱を正確に把握しているからだろう。
 鳥貝もちゃんと覚えてはいないけれど、百合子は当初からハイペースでお酒を飲んでいる。食事時の日本酒から始まり、焼酎、その時点ではまだしっかりしていた。食後になって居間に移動してから各種リキュール、ワイン、ウィスキー・・・そこらへんから怪しくなる。
「そりゃあ、ちゃんぽん飲みはまわるよねぇ。」
 安羅がまた今度、と年号ワインを台所に仕舞ってきてから、自分も栓の空いたワインを飲み始める。
 多飛本も、とりあえずブランデーは居間の戸棚に入れて、手近にあったウィスキーに手をつけた。
 アイスペールの氷がないのに気づいた鳥貝が、台所に氷を取りに向かう。ついでに、そろそろ百合子にもお酒を切り上げるような意味合いを含め、冷水でも出してやろうかと考える。
「百合子もようやく20歳か。こいつの場合、年齢のわりに捻くれてるから、時々年齢を忘れがちになる。」
「こいつの場合、あまり年齢は気にしていないと思うぞ。成年だろうが未成年だろうが、やりたい放題だろ。」
「一応、マトモに大人になってくれたようで、良かったよな。」
「マトモかわらかないけど、去年の誕生日の暗澹とした空気がなくなってるのは何より。」
「まぁ、春海ちゃんのおかげもあるだろうけど。」
「だよな。彼女がいなきゃ、今年も似たり寄ったりの状況だったかもな。」
「・・・夏目は、きっと安心してる。」
「夏目が遺してくれたものが、百合子を救ってるんだ。」
 鳥貝のいなくなった場で、男たちはすこしばかりしんみりとなった。
 彼らの中で最年少の百合子が、やっと「大人」の年齢に達した事は、色々と感慨深いものがあるようだった。
 ちなみに、百合子はソファにもたれかかったまま、ほとんど落ちている。
「あっ、百合子さん寝ちゃってますか? 仕方ないなぁ・・・、」
 台所からお盆にアイスペールと水差しをもって鳥貝が現れて、男たちはいっせいに彼女見て微笑む。
 百合子だけでなく、彼らも彼女に救われているのだと、そう実感するのだった。
「百合子さん、ここで寝てもらっていいですよね? わたし、何か掛けるものもってきますね。」
 お盆をテーブルの上に置いて、階段に向かおうとする鳥貝の腕を、寝ているとばかり思われた百合子が捕まえた。
「春海の、部屋がいい。」
「・・・は?」
 百合子が自分を見上げる潤んだ瞳、赤く上気した顔、汗ばんだ額に前髪が張り付いている様が・・・まるで最中のように色っぽくみえて、鳥貝は思わずどきりとして、顔を赤くした。
 けれど、百合子にときめいた事を他の男たちに悟られたくなくて、慌てて言葉を云い繋ぐ。
「だっ、ダメです。酔っ払い禁止です! 今日はここで寝てくださいっ。大体、明日はわたし朝一枠から講義なんですからっ。」
 言葉の中に何かしら彼女の考えが含まれている事に気づいた男達はくすくす笑う。
 そういえば先の週末、珍しく、いや、この寮で暮らすようになってからから初めて、鳥貝が外泊をした・・・もちろん、百合子と。Y市のホテルに宿泊したとは聞いたが、それが何を目的とする外泊だったかは、男たちは気づいていて何も云わない。云っても、鳥貝ばかりを困らせる事になるだろうから。
 鳥貝の抵抗を意に介さず、百合子は立ち上がってべったりと鳥貝にもたれかかる・・・というか、抱きしめる。
「春海と、一緒がいい・・・、」
 半ば眠っているようにも見えるけれど、百合子なのでわからない。部屋に入ったとたんに豹変する事も十分あり得る。
 だから、鳥貝は百合子をどうにか振りほどいて、身体を避けるのだけれど、珍しく百合子の肩を持つような男たちの言葉に説得される。
「きみの部屋のソファにでも寝かしてやってくれないか。多分、今晩は大丈夫だと思う。」
「完全に、許容酒量を超えていると思うよ。さすがにこの状態じゃ、百合子も何もできないさ。」
「今日は百合子の誕生日だし、折角だから我侭を聞いてやってくれないか。」
 我侭なら、先週末に散々聞きました。そのおかげで、くたくたに疲れさせられました。
 とは、言い返せない鳥貝だった。
 結局、男たちがほとんど寝入っている百合子を両脇から抱えて、鳥貝の部屋に運び込んだ。勿論、ソファの上だ。
「ベッドの上でも、朝までぐっすりそうだけどね、今日は。」
 ソファの上に寝かされて、寝息を立てている様子の百合子を見ながら時屋は呟くけれど・・・百合子だからわからない、と鳥貝は警戒を怠らない。
 怠らなかった・・・つもりだったのに。
 百合子が眠っているのを確認して、お風呂に入って30分程度。部屋に戻ってみると、 ソファで寝ていたはずの百合子がベッドの上に場所を移動していた。
 しかも、服は床の上に脱ぎ散らかしてある。
 すっかり裸のままで、タオルケットを腰の位置にかけている。
 一旦引き上げた男たちが戻ってきてわざわざそういう細工をするほど、悪趣味ではないとは思うから、百合子自身で場所を移動したのだろうが・・・。
 寝息は、立てている。
「百合子さん? 百合子さーん?」
 頬を軽く突いて呼びかけるが・・・微かに呻くような声を漏らしただけ。呼気がアルコール臭い。
「むぅ・・・、」
 鳥貝は、どうしようかしばらく考える。
 自分がソファで寝るか・・・それとも。
「寝て、ますよね?」
 少しだけ、百合子の身体を揺り動かしてみると、顔を顰めて寝返りを打つ。
 寝ているのは、確実のようだ。多分、狸ではない。
 服を着たままの窮屈さか、ソファの寝心地が悪かったのか、寝ぼけながら服を脱いでベッドまで移動し、そのまま眠りに落ちたのかもしれない。
 恋人という関係になってから、一緒に寝る事も時々ある。そういう時は、もちろん情交の延長上だったりする。
 けれど、まったくその気がないのに、無理やりあれこれされるのは・・・嫌なものである。
 大きなダブルベッドをこれ幸いと、鳥貝は百合子から離れた位置で眠りにつく事にした。
 何もしないでも一緒に寝たい、とも思わないでもないけれど・・・百合子という男は、鳥貝にその気がなくても無理にその気にさせようとする節があるから、信用できないのである。
 ・・・と、信用できないと警戒しつつも、実は警戒しきれていない迂闊な鳥貝だった。


 鳥貝も眠りに落ちてしばらくして。
 無理やり意識が現へと引き戻されたのは・・・自分を抱きしめる百合子の体の熱と、愛撫されている状態を理解したから。
「・・・っ! やっ!!」
 はっとして、身体をよじろうとしたけれど、後ろからがっちり抱きしめられていて、逃げられない。
「ダメです。ダメぇ!」
 やはり、寝ていなかったのだ。
 鳥貝は後悔した。
 けれど、後悔は先に立ってはくれない。鳥貝は予言者ではない。というか、しっかりしているくせ、どこか迂闊な人間である。
 夏用のパジャマはキャミソールとショートパンツ。そのキャミソールの下から入った百合子の片手が鳥貝の胸を揉み、片手はショートパンツの中に入り込んで蠢いている。
「やっ・・・ん、んんっ・・・っ、」
 無理やりは、嫌だ。
 身体を重ねる快感を覚えても、心のない時に、同意もなく身勝手にこういう事をされるのは嫌に決まっている。
 百合子も、初めての日以来、無理やり鳥貝を押し倒すような事はしてはこなかったのに。
 鳥貝の柔らかな胸を痛いくらいに揉みあげてその頂を指先で押しつぶすようにこね回し。ショートパンツの中の手は、鳥貝の小さな肉芽を擦りあげるように振動させる。
 いつもにはない乱暴な激しさに、抵抗しながら鳥貝は涙を零す。
 最初の時はともかく、それ以降はいつも鳥貝が感じる事を第一に、優しく丁寧にしてくれていたのに。鳥貝を気遣いながら、優しい囁きと、キスと・・・言葉よりも確実に語ってくれる眼差しと。
「ふぅ・・・っ、うぅ・・・、っ、っ、ぅん、」
 声は、抑える。
 激しすぎる愛撫に、溜まらず漏れてしまう悲鳴に近い嬌声を、指を噛んで堪える。
「う・・・ん、あっ・・・、やっ・・・、」
 百合子の指が、既に濡れている中に入ってくる。
 乱暴にされても、それでも・・・濡れてしまう。百合子と身体を重ねる事に慣れて知った、自分の体の感じやすさ。百合子にされるからこそ、こんな風に、感じてしまう。
 だから・・・哀しくなる。
 無理やりなんて、やはり嫌だ。
「・・・春海・・・、」
 かすれた声が耳元にかかる。
「やっ・・・百合子さん、嫌です・・・もう、やめて、下さい・・・、」
 感じているのも確かだから、弱弱しい声で哀願する。けれど、百合子は応じない。
 応じず、愛撫をますます激しくしていく。
「んっ、んんっ、ん、ん、っ・・・ぁっ、ん・・・、」
 中に入り込んだ指が、激しく出入りを繰り返す。
 溢れる鳥貝の蜜が百合子の指に絡みついて、秘肉と共にやらしい音を立てる。
 愛の囁きも、キスもない。
 乱暴な行為に、体だけが反応する。
 心は・・・冷えていく。涙が、止まらない。
 声を抑えるのにかみ締めた指から、血の味が口中に広がった。
 痛いのは、指よりも心だった。
「ふっ、やぁ・・・やっ、やめて・・・百合子さん、やぁ・・・っ、」
 百合子と手を繋ぐのは嫌じゃない。人前では恥ずかしいけれど、二人きりの時は、手を繋ぐだけで幸せになる。暖かな彼の温もりを感じられて。
 鳥貝よりも大きな手。真っ直ぐに伸びた形の良い長い指と、大した手入れをしているわけでもないのに綺麗に整った爪に、鳥貝は見とれさえする。
 鳥貝よりもずっと器用になんでもこなしてしまう、百合子の手も、鳥貝は好きだ。
 でも今、百合子の長い指は・・・鳥貝の中に入り込んで、鳥貝を滅茶苦茶にかき回して、翻弄する。
 百合子の腰が鳥貝に擦り付けられ、お尻から太股の位置に、すっかり硬くなった彼自身が感じられた。
 望んでもいない快感が、身体を支配する。
 心が痛みを訴え続ける。
「っ、百合子さん、百合子さんっ、嫌です、やぁ・・・っ、ん、あっ、んっ!」
 たまらず悲鳴に近い声を上げるが、百合子の動きは止まらない。ただ、はぁはぁと熱い息が鳥貝の首筋にかかる。
 すっかりずり下ろされた鳥貝のショートパンツの中に、硬いものが入ってくる。
 鳥貝の中に入るでなく、それが、鳥貝の内腿の間を激しく往復しだした。
「春海・・・、好きだ・・・、春海っ、」
「っ! やっ! ひやっ、やぁぁあ・・・っ、」
 耳に掛かる湿ったような百合子の声と、散々に刺激を受けて敏感になりすぎていた肉芽を百合子の熱くて硬いもので何度も激しく擦られたことで・・・高まってきていた快感が、一気に弾けた。
「やっ・・・あ・・・っ、」
 鳥貝が達するのほぼ同時に、百合子の動きが止まり、それがますます膨張して・・・太股からお尻に熱いものが掛かったのが分かった。百合子の、吐き出したものだ。
 最初の夜、意味の分かっていない鳥貝の中に何度も注ぎ込まれたモノ。幸い、その後に鳥貝の身体には何の変調もなかったから良かったけれど、あの日以来、百合子はそれの始末をちゃんとしてくれているのに・・・今日は、どうして。
 涙が、零れる。
 抱きたいと、云ってくれれば・・・愛していると、好きだと、いつものように優しくて熱い眼差しで云い続けてくれれば、嫌々でもそのうち鳥貝が折れる事を知っているはずなのに。だって、鳥貝も百合子の事が好きなのだから。百合子と、肌を重ねる事も好きなのだから。
 なのに、どうして、今日はこんな風に乱暴にするのか。
 百合子の気持ちが、分からず、哀しくなって、鳥貝は嗚咽を漏らせて泣き始めた。
 なのに、百合子は、何も反応しない。
 普段の情交の直後がそうであるように、力を手放して・・・それでも鳥貝を抱きしめている。
 百合子の気持ちが、信じられなくなった。
 鳥貝は、力のない百合子の手を振りほどいて、百合子から身体を離して起き上がった。
 百合子を、どうやって断罪してやろうかと、怒りと悲しみで心が一杯になっている。百合子の態度次第では、別れる・・・そう、切り出してしまうかもしれないと、胸を痛めながらも思った。
 背後から、自分を愛撫し続けていた百合子を厳しい眼差しで見下ろして・・・鳥貝は・・・。
「・・・っ?」
 百合子は目をふさいでいる。何か、違和感を感じる。
 あんな事をした直後に平気で狸寝入りできるものだろうか。誤魔化そうとしているのだろうか。
「・・・百合子、さん?」
 声をかける。返事はない。
「ちょっと、百合子さんっ?」
 少しだけ声を荒げても、同じだった。
 鳥貝は呆然とする。 
 もしかして、もしかすると・・・。
「・・・寝てる、の?」
 というか、さっきまでのアレは・・・寝ながら、だったのか?
 まさか、いやでもしかし。
 鳥貝は、百合子のそれで濡れてしまったパジャマを脱いで、身体についたそれを一旦ティッシュで拭ってから、もう一度百合子に声をかけ、少しだけ揺さぶってみた。
 けれど、小さなうめきをもらして寝返りを打っただけで、他に反応はない。
「・・・寝てる人に、レイプされたわけ?」
 さっきまで悲しさと怒りが胸を締め付けていたのに、今度はなんとも、奇妙な笑いが喉の奥から漏れた。
 深酒して、完全に酩酊した百合子は、夢うつつで・・・というか、ほとんど夢想の状態で鳥貝を翻弄していたわけだ。
 いや、取り方を変えれば、そんな本能任せの状態でも、鳥貝と肌を重ねる事を思ってくれていたわけだから・・・しっかり、愛されてはいるのだ。
 もう、怒るに怒れない。
 泣いていた自分が、馬鹿のようだ。
 そういえば、初めての夜にも、百合子はアルコールを入れていた。
 どうやら、アルコールを入れると、無理にでも肌を重ねたくなるような性癖を百合子は持っているらしい。
 そんな百合子の酒癖の悪さと、自分の迂闊さを鳥貝は心に刻んで、溜息をついた。
 そして、シャワーを浴びて新たなパジャマに着替えた後、ベッドの真ん中で気持ち良さそうに、あるいは幸せそうに眠る百合子を苦々しく見てから、自分はソファで寝ようかと考えて・・・思い直す。
 つまりは。
 引き出しの中からスカーフを二枚取り出して・・・百合子の手と足をしっかりと縛った。かなり、硬く。
 これで、寝ぼけながらでも、もう手出しはできないだろう。
 念のため、クッションとタオルケットの壁で自分と百合子を隔てた後、鳥貝は眠りについた。
 そして、今度こそ朝まで安眠を勝ち得たのであった。
 
 
 で、朝。
「はるみちゃーん? おーい、」
 携帯の目覚ましの振動とほぼ同時に、百合子の朝一番の声が耳に飛び込んできた。
「は、る、み、ちゃん?」
 背中に当たっているクッションが、ぐいぐいと押し付けられて、鳥貝は身体を起こした。
 昨晩、鳥貝が縛り上げた手と足のまま、百合子がベッドに上半身を起こしていた。起きられはするけれど、身動きは取れてないらしい。
 鳥貝は、じっとりとした汚らわしいものを見るような視線を、わざと百合子に向けた。
「えーと?」
 百合子は苦笑している。
 状況が全く呑み込めていないようだ。
 縛られた手足を動けないながらももごもご動かしながら、首をかしげる。
「あのさ、昨晩、どんなプレイしたの? 緊縛的な? おれ、受け役? 全然記憶にないんだけど・・・再現してくれたら思い出すかも。」
 朝っぱらから、いかがわしい事この上ない。
 鳥貝は、クッションを2,3個、百合子の顔めがけて投げつけた後、昨日自分で噛み切ってしまった指を見せ付けた。血は止まっているけれど、痛々しい歯型がくっきりついている。
「指、どうした? ・・・まさか、」
 百合子は真剣な表情をする。鳥貝を傷つけるような事を、自分がしてしまったのだろうかと、表情が曇る。
「・・・自分で、です。でも、原因は、百合子さんですっ! 百合子さんのせいですからっ!!」
 百合子の表情がほっとするものに変わったけれど、原因が自分と云われてもさっぱり覚えがないものだから、表情は困惑する。
「百合子さん、お酒飲んだら、もうこの部屋には入れませんからっ!! というか、もう成人したんだから、限度、わきまえてくださいっ!」
 記憶にないから仕方ないのかもしれないけれど、反省の欠片もない百合子の緊縛状態を解く事なく、鳥貝は風呂場に向かった。ここで手足の戒めを解くと、シャワー中にも押し入ってきかねない事を警戒したのだった。
「本当に、おれ、何かした? 勿体無いな。春海との行為は全部記憶しときたいのに・・・、」
 とか、ぶちぶち云い続ける百合子は、19歳でも20歳でも変わりはない。一歳年齢を重ねたくらいでは、何も変わるわけがない。
 鳥貝は手足の戒めを解いてやりながら、この百合子と言う恋人が、自分に対してもう少し落ち着いた愛情を向けてくれるのはあとどれくらい年齢を重ねてからになるのか、と切なく思うのだった。
 そう考える時点で、鳥貝の中ではすでに、彼とこの先何年もを過ごす心構えができているのだが・・・本人はそれをまだ自覚していない。
「春海、今晩も泊まっていっていい? アフターバースディ。今日は酒飲まないから、ちゃんと記憶がある状態で・・・、」
 跡の残った手首と足首をさすりながらも、百合子は鳥貝を抱き寄せて、キスを求めながらそんな事を云う。
 ・・・これは、一生モノかもしれないと、鳥貝はまた哀しくなる。
 それでも・・・本当に嫌なら、ちゃんと警戒心を怠らなければいい、と鳥貝は自分を奮い立たせて、百合子のキスを手近にあったクッションを用いて、全力で拒否った。
「さて、朝ごはん作りますか!」
 今日も、滞りなく、1日が始まる。強制始動である。
 顔にクッションを押し当てられた百合子は・・・、
「本当に、昨晩何があったんだろ・・・、多飛本と安羅が帰ってきたあたりから記憶が・・・、」
 とか、しつこく云い続けていたとか。
 また、鳥貝は、寝ぼけた状態の百合子の愛撫でも感じてしまう自分の事を、暴露できるワケがないと、黙秘を続けたとか。
 ふたりのこんな関係は・・・多分、これから何年も続いていくだろうと思われる。
 何度も向える誕生日ごとに、きっと、ふたりの関係はますます深まるに違いない・・・そのほとんどが鳥貝には不本意な状況だとしても。


 蛇足であるが、鳥貝が安羅に贈ったのは、バースディケーキ。いや、正確には、以前安羅が好きだといっていた林檎のブランデーをふんだんに用いて作ったアップルパイだった。安羅ひとりでは食べきれない量のそれを寮の皆でいただいて、皆で再びの楽しいひと時を過ごした。
 また、寮の男たちのバースディを聞き出した鳥貝は、その度ごとに当人の好きな料理と美味しいケーキを用意し、男たちもそれを慣例として受け止めるようになった。・・・勿論、バースディ当日から日にちはずれる事になったとしても。
 だから、翌年の鳥貝の誕生日は男たちが鳥貝を祝ってくれる事になったのであるが・・・勿論、百合子によってそれは数日ずれる事になったのだけれど。



おわり