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<オリジナル話・4>

知的探求心【後編】


 鳥貝の知りたかったこと。それを暴露しだした男たち。
 口々に云い始めた内容はこうだ。
「残念なことに、彼女は研究室にこもりきりで相手にしてくれない。大詰めらしくてね。」
「ぼくは春先に別れたばかりだからね。今は色々物色中でここにまで連れてこられる相手はいないなぁ。」
「まぁ、ぼくの事は云うに及ばず、だろうな。」
 最初から、白熊、安羅、多飛本の言葉である。
 鳥貝は、ちょっとぽかんとしてしまう。
 こうもあっさりと暴露されてしまうとは思っていなかった。
「春海ちゃん?」
 よほど間抜けな顔をしていたのだろうか。安羅が声をかけてきた。
「す、すみません。でも、今まで皆さんの恋人、とかの事聞いたことなかったんで、ちょっと、」
「隠してたわけでもないんだけどね。云う必要もなかっただけで。」
 白熊は百合子の即答と同じような事を云う。
「意外な事に、白熊の彼女は高校時代に知り合った、一級先輩で、今はT大の研究室にいる。研究一筋の才女だ。」
「安羅の前の彼女はN女子大生。ミスキャンパスになってからつきあい悪くなって、別れたんだよな。で、今のつきあいは把握しきれない。」
「正確には、忙しくなったからってふられたんだよ。で、多飛本は・・・詳細はそのうち分かる。」
「そのうち分からせるのか? 春海に?」
「向こうからやってくるだろう。」
「云ったのか?」
「云わないわけにもいかないだろう。」
 何の事やら。
 それぞれがそれぞれを暴露し始めて、鳥貝はぽかんとする。白熊の話だけでも大いに驚いて唖然としてしまったのに。安羅の内容には何となく納得したけれど・・・多飛本に関しての話は、さっぱり分からない。
「ちなみに、時屋は・・・だいぶ年上の社会人だ。ちゃんとしたつきあいというより、遊びだよな、お互い。あいつはいつもそういう相手を選んで、つかず離れずで、自然と別れる。」
 この場にいない時屋の事を暴露したのは百合子だった。
 何か、多飛本の話にまずい部分があって無理に方向転換したともとれる会話の流だったが、ややした混乱をきたしている鳥貝には分からなかった。
「まぁ、そういうわけで、ぼくたちの相手はここには連れてこられないため、春海ちゃんに協力して欲しいわけだ。」
 話とその場の混乱を無理にまとめようとしているらしい、安羅の言葉に、鳥貝は我に返る。
「って、まだ何かするんですか?」
「だって、百合子のは春海ちゃんを安心させるための前振り。機械そのものに害はないって分かっただろ?」
「鳥貝が正常なデータを出してくれれば、すぐに終わるよ。」
「・・・お断りします。」
 結構きっぱりと言い切った。
 多飛本たちの事は(百合子に比べて)信頼しているつもりだけれど、この状況で協力すると云ったら、どんな風にエスカレートするか分かったものじゃない。そもそも、研究熱心な理系のこの男達は、研究の進展になるような事であれば、何でもしてしまいそうな部分がある。
 だから、鳥貝が警戒するのも無理はない。
「お願い、春海ちゃん。何しろうちの大学、女性少ないからこういう実験に付き合ってくれる子あまりいないんだ。春海ちゃんが頼り。」
 安羅が手を合わせるのに、鳥貝は冷たい視線を送る。
「学友クラブにたくさんいるじゃないですか。彼女たちに協力してもらえばどうなんですか。」
 この春先に二度目にお邪魔した学友クラブにて、女性徒数が全体の1割程度の大学にも関わらず、学友クラブに在籍している女性の圧倒的多さを知った。その一因がこのTK大史上最悪の女たらしである事を鳥貝は云うのである。
「あー・・・学友クラブはねぇ、斎さんの支配下だから、今。クラブの誰かに、ぼくがこういう実験に付き合ってもらったとして、たぶん、斎さんからとんでもない横やりが入る。」
 確かに、あの斎ならやりかねない。そして、喜んでこれらの実験をむちゃくちゃにするだろう。鳥貝が思っていても口に出さないでいた「実用性がなさそう」あたりの事も論理立てて容赦なく口にしそうだ。
 少しだけ、同情した。
 けれど、手伝う気にはなれない。
「安羅さんなら、大学学内じゃなくても、把握しきれないくらい、いくらでもいそうですけど。」
 先の彼女の有無発言部分も引用する。
 安羅の説得はそこで頓挫する。
 確かに、女の子はいくらでもいるけれど、こんな怪しげな実験に付き合ってくれる子がいない、とは言えない。怪しい実験を鳥貝にもアピールしているような発言になる。
 そこで白熊。
「協力してくれたら、T○L(夢と魔法の王国)ご招待とか、どう?」
「あまり興味ないです。子どもの頃、一度だけ連れて行ってもらったんですけど、その頃から興味なかったみたいで、その後二度と連れて行ってもらえませんでした。自分からも行きたいとは思えません。」
 夢や魔法や、そんな砂糖菓子みたいなものに、鳥貝は興味がなかった。そもそも、現代建築好きの鳥貝は、テーマパークの建築物に何かを見いだせるとは思えなかった。夢と営利、そんなものが秩序だって同居した毒々しい建物は、むしろ気分が悪い。
 白熊の説得もあっさり失敗だ。同年代の女の子から少々ずれている鳥貝に、普通の女の子が喜ぶ餌は効き目がない。
 次に本命多飛本だが、彼はもう説得する気もないのか、パソコンをいじりはじめた。さすが情報工学科というか、指の動きが尋常じゃない。けれど、指を動かして、画面から一寸も視線を話さない状態で、鳥貝に声をかけた。
「鳥貝、君は確か・・・、」
「はい?」
「圧力鍋とシリコン製調理器具、以前に欲しいとつぶやいていなかったか?」
「・・・はい?」
 一瞬、どういう流れでそういう事を云われるのか分からなからず、鳥貝はきょとんとし、でも律儀に答える。
「あれば便利だな、と。調理時間も短くてすむし、幅も広がるし・・・でも、高価ですから・・・、」
「圧力鍋は知人が卸関係の仕事をしているから、B級品になるが市価の3割程度の価格で入手できそうだ。ぼくが買おう。そして、幸い、シリコン製調理器具は、今流行という事もあり、うちの大学で研究している者がいる。試作品、とはいえ、市場に出回っているものと同等の品質のものが、いくらでも入手できそうだが。」
 鳥貝は押し黙る。
 最近、すっかり台所にいる時間が長くなった鳥貝。そろそろ多飛本から台所の管理権を手渡されそうな流れになっている。料理も、台所廻りの片付けも嫌いじゃないからいい。それに、最近、鳥貝の料理の腕が上がるにつれて、皆から「おいしい。」の声を聞けるのが嬉しくなってきた。新たな調理器具があれば、そんな声をもっと聞けるようになるのかもしれない。
 しばらく、鳥貝はそんなことを頭の中でぐるぐる考える。
 夜、少々手間の掛かる料理だって、圧力鍋があれば短時間で・・・夏場の熱い時だって、火を使う時間が短くなれば嬉しいわけだし・・・。
 ぐるぐると考えた結果、鳥貝は用心深くうなずいた。
「・・・わかり、ました。」
「圧力鍋確保。今週中には届けてもらえそうだ。シリコン製調理器具は明日にでも入手できる。」
 パソコン画面を見ながら云う多飛本は、どうやら製品入手について相手方とやりとりしていたらしい。
 こうして、鳥貝は見事多飛本によって落とされた。
 世間一般のこの年代の女の子が喜びそうな事では喜ばない鳥貝は、やはりどこか"特殊"であるには違いない。


 今度は鳥貝が機器につながれた。
「なんか変なプレイみたい。」
 とは、当然百合子の言葉で、やはり当然鳥貝が百合子を睨み付ける。
 百合子と同じ状態で、首と両手首にバンドを巻いて配線を取り付けている。大層身動きが取りにくい。
 痛くも何ともないとの百合子や皆の言葉は信じているけれど、やはり緊張はする。
「それでは、これからデータ収集を行います。春海ちゃん、いいよね?」
 白熊の言葉に、鳥貝はうなずいた。
 そして、先ほど百合子にしたように新品のモップを安羅が手にしたのだけれど・・・百合子がモップを取り上げて、あっと思うまもなく、くすぐられた。弱点のひとつ、首筋だ。
「ちょ、百合子さんっ! ・・・っ、ひゃ、や・・・あ、っ!」
 パソコン上のグラフが慌しく動く。
「感度良好。」
「百合子さんっ!!」
 満足げににやにや笑う百合子を睨みつけるけれど、勿論、百合子がそれに怯むわけはない。
「誰がやっても同じ同じ。ってか、おまえを感じさせていいのは、おれだけだろ、やっぱ。」
「っ〜〜〜・・・っ!」
 恥ずかしいを通り越して、どうしようもなくなる。
 百合子のそんな言葉だけで、鳥貝の『感度』はパソコン画面で確認できてしまうのだが、恥ずかしさでどうしようもない鳥貝は、そこまで気づかない。
 男たちは、鳥貝に悟られないように笑みを押し殺しながら、パソコン画面を観察している。どうやら、実験経過は上々の成果を見せているらしい。
 というわけで。
 男たちは、鳥貝と百合子の成り行きを、黙って見守ることを目配せで確認しあった。
 つまるところ・・・普段なら止めに入るような状況、主に百合子が人前で不必要に鳥貝にコミュニケーションを求める行為を、静観する事にしたのだった。
 良心ある者たちは心の中で一応鳥貝に手は合わせた。・・・が、心から悪いと思っている者は一人もいないのは確か。
 鳥貝が多少恥ずかしい事をされるくらい、湧き上がる探究心に比べたら・・・!
 まぁ、鳥貝に実験協力要請の声をかける前から、こうなる事態は既に予測済みだったわけでもあるし。百合子にはそこの所を含めて、鳥貝貸し出しを説得したわけでもあるし。
 真に勝手な理屈により、血祭りにあげられている哀れな鳥貝。
 血祭るのは・・・百合子。
「さて、春海の弱い所はぁ・・・、」
 云いながら、百合子の視線が鳥貝の身体を嘗め回すように上下に往復する。
 視姦なんて言葉、鳥貝は知らないけれど・・・正しくそんな気分にさせられて、鳥貝は赤い顔を更に赤くさせた。
 実際・・・鳥貝の弱点数箇所に視線を止めてにやけるその行為は、視姦と呼ばずになんと呼ぼう。
「ひっ、人前でだめですっ。嫌です!」
「・・・おれ、何にも云ってないぞ、まだ。」
「わっ、わかります。だって、百合子さん、変態ですからっ!」
「・・・ひどい云われようだな。・・・けど、そこの所を理解してくれているのだとしたら、おれも躊躇う必要はない、よなぁ?」
 にんまりと笑い、動くに動けない鳥貝の二の腕を捕まえて・・・素早く、鳥貝の唇を奪った。
 勿論、鳥貝は抵抗を試みるけれど、両の二の腕を掴んでいた百合子の手は、今度は鳥貝の両頬を捕らえて、もう逃げられない。
 人前でするには、濃密すぎるキスだった。
 最初こそ、恥ずかしいし、混乱ばかりしていた鳥貝の思考も、そのうち百合子のキスに集中し始める。
「んっ・・・ふっ・・・、」
 呼吸のタイミングを上手く見計らないながら、百合子の唇は深く重なったり、浅くなったりを繰り返す。
 百合子のキスは、上手い。
 だから負けず嫌いの鳥貝も、翻弄されっぱなしは悔しいから、と大分上手くなってきてはいるのだろうけれど、当然、百合子以外に試す事なんてないものだから、その成長が実際どうなのかは分からないままだ。つまり、まだ、百合子には勝てていない。
 そして、その他の男たちはといえば、ひとりはパソコンを食い入るように見て、ひとりはパソコンとふたりのキスを交互に見比べ、ひとりは・・・姿を消していた。
「・・・よしよし、いいぞ・・・、」
 とは、パソコン画面を見つめる男の呟きである。
 そして、数分続いたキスは、鳥貝が崩れ落ちる事で終わりを迎えた。
 鳥貝は、肩で荒々しい息をしつつ、体中の力を手放して、自分を支える百合子の腕の中で半ば意識を放棄している。
「おまえら・・・すごいな、ってか、百合子、しつこすぎ。かわいそうに、春海ちゃんの唇腫れあがるぞ。」
 とは、パソコンとキスを交互に見ていた男の溜息交じりの感想。
「へーき平気、いつもの事。ふたりきりの時は、もっと激しいぜ・・・っってっ! イテぇ!!」
 百合子が叫んだ原因は・・・腕に咬み付く鳥貝。
 どうやら・・・かなり本気咬みらしく、叫んだ後の百合子がその場で・・・鳥貝をささえている状態のまま、のたうち回っている。あまりの痛みに、床の上をバンバン叩く。
「痛い、痛いって、痛いっ! 春海ちゃん、春海ちゃん・・っ! マジ、マジマジマジ! 痛いぃっ!」
 咬みつかれても、腕の中の鳥貝を離さないのは愛ゆえではあるけれど・・・。
「あー・・・なんというか、小ひつじも凶暴化すると、咬み付くもんなんだねぇ。」
 とりあえず、誰も鳥貝を止めるつもりはないらしい。
 百合子の自業自得を理解している。
 自分たちも、こうなるは分かっていたのに・・・というか、百合子が鳥貝に何かをしかけ、それに鳥貝が怒り心頭するという事象のアルゴリズムはすでに解明されている。つまり、彼らにはわかりきった事であった。だから、彼らにも鳥貝の怒を治める責任はありそうなものだが・・・責任をとるつもりはさらさらない。結局、百合子の行動は、百合子の責任。
「っ、春海、ちょ、ちょっと! 痛いっ! ギブギブギブ! ・・・っ、ターシャにも咬まれた事ないのにぃぃ!」
「・・・ま、そうなるよね。」
 姿を消していた白熊が呆れたように云いながら戻ってきた。
 手にはお盆。
 お盆の上には、グラスにお茶と・・・チェリーパイ、今朝白熊が焼いたものを暖めなおしたようだ。
「怒れる春海ちゃんにお供え物。とりあえず、これでも食べて落ち着いて。百合子のバカにはまた別の形で報復してやればいい。」
 お盆をパソコンの横に置いて、百合子に咬みついている鳥貝に優しく声をかける。
「そうだな。もう測定器具は外して、ゆっくり休憩でもとってくれ。今日は助かったよ、ありがとう。」
 とは、データ収集に成功した喜ばしい本音を押し殺した、多飛本の言葉。
「変な事につき合わせちゃってゴメンね。このバカも連れてくから、とりあえず興奮収めてね。」
 とは、キスを静観していただけで止めようともしなかった、安羅の言葉。
 百合子の腕に噛み付く事から離れた鳥貝は、やや仏頂面ながら測定器具を外されて目の前のチェリーパイの甘い香りに瞳を細めた。
 先日、鳥貝の自宅から送られてきたさくらんぼの一部を鳥貝がジャムにしたのを使い、白熊がパイを焼いたのだ。
 安羅が百合子の襟首を掴んで食堂まで引っ張って行った後、鳥貝は甘いチェリーパイを食べてほっと一息ついて、しばらく百合子は部屋にいれない事、唇を許さない事を誓った。
 そして、実際、百合子は鳥貝の部屋に半月ほど立ち入り禁止にされ、キスもことごとく見事に避けられて、その間眠れぬ夜を過ごしたとか。
 また、百合子の腕についた鳥貝の咬み跡も、その半月程しっかり痣となって残ったとか(百合子がそれを名誉の負傷として、周囲に自慢していたとか)。
 さらに、この『感度測定器』はこの年の秋のTK大文化祭にて、ほどほどの盛況を見せつつも、商品化には至らなかったとか。
 それらは、すべて・・・寮生活の楽しい想い出のひとつ。
 そして、これから数年に渡って起こる、寮生活での沢山の出来事の中では、まだ取っ掛かりにすぎない出来事。
 この寮で過ごす年月の中で、兄を知るほどに、彼らの事を知る。彼らの性格、家庭環境、好み、人間関係・・・それを知り、それが広がる事で、より彼らが身近になって、鳥貝と彼らの絆は深まっていく。単なる青春時代の思い出では終わらない程に。
 夏目と彼らが、おそらく生涯にわたる友となり得たように、鳥貝にとっても彼らがそうなる事は確実である。
 素晴らしい友を多く得た鳥貝の人生は、(目先のあれこれを考えなければ)やはり、幸せであるといえる。
 また、鳥貝のこの幸せ(に違いない)な生活を、夏目も微笑んで見守っている事だろう。
 そして・・・この後、「いる」事が確定した多飛本の「彼女」がとんでもない波乱を運んでくるのも、楽しい想い出のひとつ・・・になるのだろうか?



おわり