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<オリジナル話・4>

知的探求心【前編】


 寮生活を初めて三ヶ月が経過しようとしていた。
 さすがにそれだけこの寮で暮らしていれば、他の男たちの生活態度や本性と云うべきものが分かってくるはずなのだけれど・・・。
「あまり、変わらないかなぁ、」
 とは、食後、居間でノート型パソコンを囲んで話をする男達の様子を見ての鳥貝の感想だった。
 確かに、初対面の数日に思っていたのとは印象は変わった。話してみると、やはり鳥貝より遙かに大人な態度や身振り、物の考え方はしているものの、年齢相応らしい所も垣間見えた。くだらない事を話したり、それで笑ったり、ばかばかしと思える冗談を飛ばしたり。鳥貝の同級の男性とあまり変わらない部分もある。
 けれど、生活態度は当初の印象通りだ。
 つまり、規律正しく、清潔で、協調的。だらしない格好も見たことがない。さすがに、楽なジャージ姿や時々寝間着っぽい格好でいる事はあるけれど、それらも洗濯が行き届いた清潔なものだ。他の人間の部屋を見せてもらったことや、所用で入ったこともあるけれど、そのどの部屋も差はあるが、比較的整然としていた。一番荒れて見えた時屋の部屋だって、床の上に物が散乱、という程の状況ではなかった。世間一般が考える男子学生の部屋のイメージからはほど遠い。
 それから、彼らは・・・色の気配を感じさせない。恋人やそれ相応の相手はもちろんそれぞれにいるのだろうが、普段の生活ぶりからそれらをほどんど想像させない。あの女たらしの安羅や遊び人の時屋でさえそうだ。
 女性である鳥貝が新たに寮に入ったから、気を遣っているのかとも思ったけれど、そうでもないらしい。
 百合子に言わせれば、寮での生活態度については、当初にお世話になり始めた、几帳面な多飛本と気遣いの夏目の合わせ技らしい。ふたりがきちんと定めた規律を後から入ってきた面々も受け継いだから、という事だ。もちろん、元々の性格も影響しているのだが、そもそもが所、気の合う(感性の合う)親友達が集まった寮だから、自ずと規律正しくもなる。色の面についていえば。
「云う必要もないだろ。」
 との素っ気ない内容。
 元来、他人の事情を知ろうとは思わないタイプの人間である鳥貝にとっては、寮の人間の事を知りたいと思う欲求でさえ珍しいのだったが、それも兄夏目を知りたいと思う欲求の延長に他ならない。
 また、夏目の弟的存在であり、恋人でもある百合子のことについては・・・実は、あまり知りたくはないとも思っていたのだが、それは百合子には云えないでいる。知りたくない理由が、過去の百合子が恋をしただろう相手にさえ、嫉妬してしまいそうな気がしたからだ。むしろ、素直にそう云えば百合子は喜ぶだろうが・・・鳥貝はなんとなくおもしろくない。何しろ、鳥貝が過去につきあった男性はひとりで、百合子が過去に付き合ったのは、きっと多数であり、お互いやきもちを覚えるにしても、鳥貝ばかりが不公平だとも思うわけだ。
「だいたい、あの中にマジメに恋人と付き合ってる奴はいないぞ。おまえが聞いたら、おもしろおかしくは答えてくれるとは思うがな。」
「おもしろおかしく、って・・・、」
「男女間のことを割り切れる相手としかつきあえないんだよ、奴ら。それぞれ言い分はありそうだけどな、結局、そこの所にリビドーを感じないんだ。」
 鳥貝にはよく分からない。
 女友達が怖いくらい恋愛にのめりこんでいく姿を見て、その気持ちも理解できないと思ったけれど、男女間の事を割り切って考えるというのも思考が追いつかない。
「おれは、もうおまえだけで十分だけどな。」
 百合子の甘い言葉は毎度の事。どこまでが本気か分からない、その甘い言葉にたぶらかされて、自分ばかりが本気になるのも怖いと鳥貝は思う。何しろ、百合子の過去は鳥貝と比べものにならないくらいに、奥深い。・・・と、鳥貝は寮の他のメンバーに時々吹き込まれていた。百合子がこれまでになく本気で鳥貝に惚れているからこそのからかい半分なのだが、それを本気に取ってしまうのが、鳥貝という人間。
 百合子の過去に嫉妬できる程度に百合子に惚れてはいるが、どこかで自制のブレーキをかけてしまうくらい、恋愛には用心深い。
「そもそも、男性と女性じゃ、恋愛感も違うから、わたしには理解できないのかな、」
「いや、あいつらが特殊。おまえも、特殊。」
「わたしが? 普通ですよ。」
「普通なわけないじゃないか。」
「ごく普通です。」
「そうやって、自覚出来ない部分だな。それでよく、女友達とコミュニケーションとれるな?」
 女性の話題が主に恋バナばかりだと思っているらしいが・・・実際、6割方はそうだから否定できない。もっとも、恋バナになった時は鳥貝はもっぱら聞き役に回る。
「大丈夫です。人並みの恋愛感はありますから。」
「人並みぃ?」
「なんです、その云い方。人並みにあるからこそ、百合子さんと付き合ってるんですよ。・・・それとも、百合子さんと付き合える時点で、人並みじゃない、」
 最近、鳥貝も少しくらい口達者になってきた。百合子はじめ、男達と付き合っていくにはある程度の反撃ができないとやられっぱなしになる事を学習してきているのだ。
 けれど、百合子に反撃すると、いつも理不尽な目に合う。
 今日は言葉途中でくすぐられた。最近になって自分でも知った弱点、うなじである。正確には、百合子に発見された弱点、なのであるが。
 指先の触れるか触れないかの位置をつつっとなぞられて、ぞくぞくと背筋をふるわせてしまう。
「百合子さんっ、」
「春海ってば、ビンカン。後はこれくらい敏感なオトメ心があればな、と。」
 逃げるように百合子は居間の男達の元に立ち去った。
 食堂に残されて、今まで見ていた建築関係の雑誌に視線を落としながらも、自分のどの部分が特殊なのか、人並みじゃないのか、考えを巡らせずにはおれない生真面目な鳥貝だった。
 思い当たる節はなくはない。
 確かに、百合子と付き合う前は恋情がどんなものか分かっていなかった。本気の恋をした事がなかったのだ。でも、今は理解できていると思う。ただ、恋人に対してどういう態度をとるのか、世間一般のそれは分かっていないかもしれない。もっとも、あの百合子と付き合っていて、世間一般の枠でとらわれるような恋人関係になれるとも思えなかったけれど。
「結局、百合子さんが特殊だからじゃない。」
 元々、女よりも男とのつきあいが多かったという百合子の性癖は特殊としか言えないものであり、その百合子から鳥貝や寮の他の男達が特殊扱いされるいわれはない、と鳥貝は納得した。
 とはいえ、寮の男性達の恋愛事情がやはりなんとなく気になるのは・・・普通の女なら仕方ないと、鳥貝は自分に言い聞かせる。「だって、女の話題は恋バナばかりだし。」
 女たらしで名を馳せる安羅が、単に女性をたらしこむのを得意としているだけで、特定の恋人はいないのか、遊びだけの恋人ならどれくらいいるのか、とか。
 自他共に認める遊び人の時屋は、確かに付き合っている女性はいるようだけれど、それが複数なのかそうじゃないのか、やはり一晩だけの恋人もいたりするのか、とか。
 普段寮にいる事の多い白熊、外見は丸ころだけれど、弁は立つし、一見人あたりも柔らかく、誠実そうだ(実際、それで鳥貝も騙された)。こういうタイプの男性に惹かれる女も多いはずで、一番特定の恋人がいそうな人ではあるが、その実態は、とか。
 一番の謎は、多飛本の左手薬指の指輪。特定の恋人がいるのか、それともあるいは実は結婚しているのか。前に本人が云っていた発言「よそでそれなりに求めがある」のは本当なのか、とか。
 想像力が豊かとは言い切れない鳥貝は珍しくそんな事に思いを巡らせていて、背中に感じる人の気配に気づけなかった。
 ふぅ、と思い切り耳に息を吹きかけられて、座っていた椅子からびびっと飛び上がる。
 こんな事をするのは、唯一人しかいない。
「百合子さんっ!」
 確認するまでもなく、振り返って怒鳴りつけたら、意外な人物だった。
「ごめーん、春海ちゃん。」
「・・・安羅さん、」
 手を合わせて、でも悪びれるでもなく笑っていた。
「しかし、こういう事をするのはいつも百合子だから仕方ないけど・・・やっぱり愛してるんだね。真っ先に百合子の名が出た。」 
 頷きながら、そんな事を云う。
「ばか、安羅。当たり前だろう。というか、どうだ、春海の感度は。」
「なかなかいいんじゃない。本人曰く不感症? それはないね、絶対。それとも、百合子が開発したおかげか・・・、」
「安羅さん! 安羅さんまで、そんな百合子さんみたいな事云うなんて・・・、」
 半泣きになる。涙腺はすっかりゆるいままだ。
 不感症の事だって、真剣だっただけに、こういうふうに軽く云われると結構ショックなのである。
「っ、あ、ごめん、ごめんね、春海ちゃん、」
 久しぶりに、百合子以外の人間の前で泣きそうになる。百合子には色々と頻繁に泣かされているのである。だから、安羅も慌てて謝罪するわけだけれど、さすがに以前のように胸に抱きしめたりはしない・・・というか、できない。
「やーすーらー、今の春海を泣かせてもいいのは、おれだけなんだからな。」
 とか云いながら、百合子が鳥貝を抱きしめようとする。
「・・・百合子さんは、いつもひどすぎるんです、」
 袖口で目尻にかすかに浮かんだ涙をぬぐって、百合子の腕を避ける。
「それで、何なんですか、安羅さん。」
 百合子じゃあるまいし、理由もなくいきなり安羅がああいう事をするわけがないと思った鳥貝の言葉に、安羅は笑いながら居間の方を指さした。
 バイトで出払っている時屋以外の人間がこっちを見ていた。


「感度測定計?」
 はぁ?と鳥貝は思い切りよく顔に描いている。
 発案企画は安羅、白熊、時屋で、設計開発は多飛本との事。
「昔流行らなかった、女の子向けのおもちゃで相性診断とか。男女二人の指を玩具にくっつけて、相性を診断するようなやつとか。」
「要するに、指にかいた汗や脈拍で結果を出してたみたいなんだけどね、」
 子どもの頃からそういう事にあまり興味のなかった鳥貝は頭をひねるばかりである。
「これも似たようなものだ。だから、これも玩具だと思ってもらえればいい。何しろ、正確な裏付けは一切ない。」
「面白そうだから、作ってみたんだよ。」
「実際に裏付けを取ろうと思うと、心理学と脳科学の権威にでも確認を取らないと無理だな。」
 パソコンの画面に心電図のようなものが映し出されていて、今はまだ何の動きも見せていない。パソコンにつながった小型の箱からは、健康診断の時に心音を測るような装置がたこの足のようにのびて、複数ついていた。それがどういうものか、鳥貝には分からない。
「この装置も、主に脈拍と発汗、それから体の振動によって測定する。本来なら、アドレナリンが測定できればいいんだが、そうすると医療機器になってしまうからね。」
「それで、とりあえず、感度というものを測定するにあたって、どのうような数値で感度が測れるのかのデータが欲しいわけ。」
「そのデータ収集に、協力して欲しいってさ。」
 百合子が鳥貝の背後で面白そうに言う。
 鳥貝は、きょとんとするばかりである。
「ぼくたち自身でも試してみたんだけどね、あまり良いデータが得られなくて。そもそも、この機械利用の対象として考えているのは若い女性、あるいはカップルだから、男がしたって意味がない。」
「というわけで、おれたちの出番。」
「おれたち?」
 百合子の言葉尻を復唱する。
 話の流れは分かった気がした。
 データ収集に協力するのも、よいとしよう。
 けれど、データ収集は鳥貝ひとりで行うものじゃないのか。何故に百合子も含まれる。
 鳥貝の不審な声に、白熊が百合子を押さえつける。
「とりあえず、春海ちゃんにデータ収集をお願いしたいんだよ。両手首と首にこのベルトを巻いてもらうけど、」云いながら小型の箱からつながったものを指さす「べつに電流が通ったり、痛かったりする事は一切ないから、安心して。」
「えと、データ収集に協力するのは全然かまわないんですけど、感度、って、どういう・・・?」
 百合子のさきほどの「おれたち」発言も気になって、警戒してしまう。
 安羅が安心させるようににっこり笑う。・・・あまりアテにはならない笑みかもしれないと、ここの所の学習で鳥貝は思ったけれど。
「変なこと想像しないでも大丈夫。少しくすぐらせてもらったり、さっきみたいな事をするけど・・・ちゃんと春海ちゃんに確認とってからにするからね。」
「はあ・・・、」
 どうも乗り気になれない。怖いというのでもないけれど、頻繁にここの男達に誑かされている身としては、警戒は解けない。もちろん、鳥貝を傷つけるようなだまし方は決してしないけれど、結構感情を荒立ててしまう程度のだまし方は時々される。
 それが、感情表現が同世代の女性より薄い鳥貝の良い刺激になっているのは確かだが、鳥貝はあまり嬉しくはない。
「ふむ、鳥貝はあまり乗り気ではないようだな。ぼくらも無理強いをするのは本意ではないし、ここは実験例を見てもらって安心してもらう方が良いかもしれないな。というわけで、百合子、」
「おれ?」
 多飛本が百合子をちょいちょいと手招いて、パソコンの前に座らせ、白熊が先ほど鳥貝示したバンドを手首と首筋に巻き付けた。
「今回は、あくまで玩具、あるいは大人向け玩具が目的であり、必要なのは正確な測定値ではなく、それと分かる測定値。使用した者が楽しめる値が観測できれば成功だ。」
 多飛本がパソコンのキーを軽やかに叩くと、画面には心電図のような波長が揺らめきはじめ、彼はそれを一番大きなグラフが脈拍、真ん中の脈拍よりも大きな間隔でゆらめいているのを振動、今のところ動きのない小さな棒グラフが発汗と云う。
「今回はデータ収集が目的だからこんな無骨な形をしているけど、実際形にするなら、本体をもっと小型化し、色合いを含めたデザインをもっと女性向けにしようかと思ってる。」
 安羅が云う。
 鳥貝は、はぁ、と思うばかりだ。
 そもそも、感度が測れる玩具なんて・・・楽しいのだろうか。いや、確かに、中学生高校生が戯れに測って、笑い合うくらいの目的ならば・・・けれど、頻繁に測るものでもないし、開発・製作にいくらくらかかるのか、価格をどれくらにするのか次第でもあるけれど・・・そういう数値を出して楽しむためだけに、買う人はいるのかと思う。
 けれど、鳥貝は黙っておいた。男達が楽しそうに作っているのに水をさすのもどうかと思うから。たぶん彼らは実用性云々よりも、作る楽しさを味わっているのだろうから。きっと、理工系の学生はそんなものなのだろうと、自分も理工系でありながら実際的な女でもある鳥貝は思った。
 機械につながれた百合子が、どうするんだ?と多飛本を見上げるのに、多飛本は安羅を見、安羅は取り出したふわふわ未使用のほこり取りモップで百合子の首筋をくすぐった。
 けれど、パソコンの画面にあまり反応は見られない。
「・・・いや、くすぐったいけどね。でも別にこれといって。」
 百合子が云い、今度は白熊が跪いて百合子のスリッパを取って、足の裏を・・・。
 鳥貝はその光景が普通の男子学生のじゃれあいみたいで、微笑ましく思う。彼らが「普通の男子学生」の領域から少々外れていると悟ったからこその鳥貝の感想である。
 足の裏も、脇腹も、百合子ほほとんど無反応。見た目無反応なだけでなく、実際の脈拍や発汗についてもほとんど変動なし。あるいは計器の動作がおかしいのかもしれないけれど。
「・・・つまらないね。」
 とは、白熊の感想。
「百合子こそ、不感症なんじゃないの。」
 これは安羅。
「おれの体は正直なだけだ。というか、おまえらのテクニック不足。男を感じさせるのヘタクソだな。」
「残念なことにぼくたちは、男には一切欲情しない。ましてや、知り尽くしたおまえになんか欲情するものか。」
 その様子に、多飛本は鳥貝を手招いて耳打ちする。
 耳打ちされた内容に、鳥貝は少しだけ楽しそうだな、と思う。たまにはこういう悪ふざけもいい。
 鳥貝は、白熊と安羅とやりとり続ける百合子の背後に気づかれないようにそっと近づいて、その耳元に唇を近づけて。
「・・・百合子さん、」
 ささやいて、ふぅと息を吹きかけた。
「・・・っ!!」
 びくんと飛び上がる百合子と、あがる男達の声。
「すごい威力。」
「一気に色々振り切った。」
 確かに、パソコン画面では各グラフが慌ただしく動いていた。
 それから、振り向く百合子の恨めしそうな顔。
「は〜る〜み、ちゃん、」
「だ、だって、こうでもしないとデータとれないから、って、」
 誰が云ったかまでは云わないでも分かる。
「ま、そんなもんだろ。不意打ちでされたというのもあるが、もちろん、鳥貝の声と息がかかったというのが百合子には大きかったんだろうな。」
 黒幕の少しだけ満足そうな声。
「しかし、誰でも不意打ちでは驚くものだ。これは感度というより、驚きによるデータだな。というわけで、」
「多飛本、何がというわけでだよ。」
「と、いうわけで、鳥貝、他に何か驚きを含まない要素で、百合子の感度を示せる場所、あるいは行為はあるか?」
 なぜ、自分にふる、と鳥貝は目を丸くする。
 それは、色々、ある・・・のだろう。けれど、そのほとんどが人前でする事じゃない。
 鳥貝の戸惑いなど当然おかまいなく、百合子が上機嫌になっていた。
「春海、お詫びのキスで許してやる。データも取れるし、一石二鳥。」
「っ・・・いや、です。」
 示す抵抗は、果たして無力化する。
「すまないが、鳥貝、協力を頼む。どうしても近日中にデータをまとめておきたいんだ。」
 珍しく多飛本に懇願されたからだ。
「か、かるく、なら・・・、いいです、」
「かまわない。」
 もちろん、付き合って数ヶ月だが、鳥貝は百合子という男を理解してきている。こういう時にどういう行動に出るかも予測がつく。
 だから、おそるおそる近づいて、フェイント用に手を体の前で用意しつつ、素早く・・・頬に口づけた。
「・・・は?」
 パソコン画面の動きは、鳥貝が百合子に近づくたびにグラフの変動が大きくなっていったが、ほっぺにちゅ、直後は目に見えて穏やかな動きになった。
 計器はきわめて正確な動作を見せているといえる。計器の動作確認終了。とりあえず、それが分かっただけでも、進展があったといえなくもないかもしれない。
「・・・春海ちゃんは、がんばったよね。」
 とは、白熊の言葉。
 百合子はむすっとした顔で、計器を外して立ち上がる。
「別にいいけどね。その分、ふたりきりになった時にいちゃつけるしー。」
「・・・いちゃつきません。」
「いちゃつくだろ。今晩覚悟しとけ。」
「・・・っ! だから、そういう事はっ、」
 この程度のふたりの痴話げんかはいつもの事。
 鳥貝が言い返そうとする前に、百合子は鳥貝とは別の方向を向いて、憤りの言葉を投げつける。
「そもそも、春海を実験台にしようとするのが、悪い。おまえらが、自分の相手連れてきて実験すりゃいいだろ!」
 ・・・とは、鳥貝が知りたいと思っていた核心に随分迫った事を言い始める百合子。たぶん、百合子は彼らの彼女なりそれ相応の相手の存在を知っているのだ。 
 鳥貝も百合子に対する言葉を取り下げて、彼らの反応を見たのだけれど、それぞれが平然とした様子でごく自然に言い出した。





つづく