※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| <オリジナル話・11> Birthday〜彼女の生れた日に【2】 窓から、月が見える。 鳥貝は百合子の身体にしがみつきながら、自分の部屋の窓の外に視線をやった。 この部屋を与えられたのは、小学校に入る少し前。それまでは階下の両親の部屋で一緒に寝起きしていた。 やたらに広いスペースを、静かすぎる夜を、最初こそ怖がって、寂しがって・・・何度も両親の部屋に寝に行った。 子供の頃からの想い出が詰まった部屋。 少しだけ子供っぽいカーテンの柄も、小学校入学で買って貰ってそのまま使い続けていた勉強机も、高校生になる年の誕生日に買って貰ったこのシングルサイズのベッドも・・・一年前と何も変わらない。 鳥貝の子供の頃を包み込んできた、その光景の中で、今・・・。 ベッドがキシキシと音をたてる。 あまり高級ではないベッドマットのスプリングが、ふたりの人間の動きに悲鳴を上げているようだ。 「やっ・・・百合子、さんっ・・・、そんな、したら・・・下に響いちゃう、っ、聞こえちゃうからっ、」 「おまえの両親の部屋、この真下なのか?」 「んっ・・・違う、けど・・・、っ、やぁ、」 下から突き上げてくる動きに、鳥貝は逆らえない。バランスを取るのに、向かい合った百合子の身体にしがみつくので精一杯。 「おまえ・・・いつもより、締まる。やっぱ、実家で・・・おまえの子供の頃からの部屋でしてるからか? 身体が、ちょっと緊張してるのが、イイ。」 自分の肩にある鳥貝の頭にちゅと口づける。 「ばか、もう・・・、」 荒々しい呼吸をはき出して、鳥貝は百合子を睨め付ける。 でも、多分、百合子の言葉通りだ。 十数年過ごしてきたこの部屋で、恋人と身体を重ねるのは、背徳的な気分にさせた。 たった一年使っていなかっただけの部屋は、どこか他人の顔をしていて・・・それが、鳥貝を妙に恥ずかしい気分にもさせた。 「去年の今頃・・・おれとおまえ、ふたりきりでバースディ祝ってたよな。」 動きを止めて百合子が囁くように云う。 「美羽子さんお手製のアプリコットタルトを前にしてましたね。」 鳥貝は正面から百合子に微笑みかける。 「あの時、絶対近いうちにおまえとこういう関係になれると、確信していたよ。」 「・・・わたしは、まだ百合子さんの事よく知らなかったけれど、でも・・・あなたに惹かれてました。兄さんの替わりじゃないって云ってくれて、嬉しかった。」 軽く唇を重ねる。 「・・・歌おうか?」 「Happy Birthday?」 くすっと笑って、今度は深く口づける。 唇を離すと、百合子が囁くように歌い出す。 Happy Birthday to you・・・ 少しだけ笑いを含ませて、目の前で笑っている鳥貝に向けて歌う。 昨年は、抱きしめられながら、彼の胸郭の響きを感じながらこの歌を聞いた。 でも今年は・・・もっと、ずっと近く・・・繋がりながら、聞く。全身に彼の響きを感じる。 「・・・お誕生日おめでとう。それから・・・おれのために生まれてくれて、ありがと。」 「百合子さんのためにって、なんですか、」 「だって、おれはおまえに救われてる。おまえがいたから、今のおれがあるんだ・・・幸せ、なんだ。」 しみじみと云い、鳥貝の頬を両手で包み込む。 鳥貝は百合子の手のぬくもりに微笑む。 「じゃあ、わたしも色々な人にお礼が必要ですね。産んでくれた美羽子さん、育ててくれた両親、今のわたしの人格を形成してくれた、これまで関わってきた全ての人達。・・・百合子さんに幸せを与えられてるのが、わたしっていう存在なら、わたしを作ってくれた人達全てに感謝を、します。」 可愛いことを云う鳥貝に、百合子は笑うしかない。 心から・・・感謝する。彼女自身に・・・彼女を形作った存在全てに、彼女を導いて、巡り合わせてくれた夏目に。 強く抱きしめて、そのまま彼女を押し倒す。 「・・・や・・・っ、」 慌ててしがみついてくる彼女の身体のぬくもりが、柔らかさが心地良い。 「おまえを一番感じられる体位がイイ・・・、」 鳥貝の上にのしかかって、幸せそうに笑い続ける鳥貝に唇を重ねる。 「重い?」 「大丈夫。百合子さんの重み、気持ちイイから・・・、」 身体と、心と。両方とも。 手を繋ぎ、絡ませ、繋がりあって・・・互いがそこにいる至福に身を委ねる。 翌朝。 当然、百合子は溌剌として目覚め、狭いシングルベッドゆえ普段以上に寄り添って鳥貝と眠った幸福を噛みしめた。 鳥貝は・・・ややぐったり気味である。 そして、ふたりの事情に、両親は・・・勘づいていたいりした。 「ねぇ、近い将来もしこのお家に来るなら、土地は十分余ってるし、敷地内にお家建てなさいね。建築科卒業したら、設計は自分達でできるだろうし・・・どんなお家でもいいわよ。」 朝食を準備しながら母親が上機嫌で云い、普段から口数の多くない父親は普段以上にしかめ面をして・・・それでも、何も云わなかった。 鳥貝には母が唐突にそういう事を云い出す意味が分からない。相変わらず、言葉に含まれる裏の意味を読み取るのが苦手なのである。 そして、百合子は勿論、存分に理解する。 少しだけ困った顔を作り「うるさくしてすみません、」と殊勝に謝ると、やっぱりきょとんとする鳥貝に笑いかけた。 「プロポーズはまだ春海に受け入れてもらってませんけど・・・彼女が頷いてくれた暁には是非。家の設計図も卒業するまでに考えてみます。」 「は!? 百合子さん!?」 何故に、朝からそんな話になるのか、と戸惑いまくる鳥貝を見ながら、父親が重く口を開いた。 「・・・春海は、今日やっと19になったばかりだ。百合子くん・・・ちゃんと娘の将来を考えてくれよ、」 少し涙声だった。 「勿論です、お父さん。春海はおれが幸せにするって誓ってますから。」 百合子は力強く云う。 昨日まで小父さんだったのが、お父さんになっている。 「ちょ、百合子さん!? お父さんも!? なんで!?」 訳の分からない鳥貝の混乱をおさめてくれる者は誰もなく、百合子は上機嫌で母親の朝食の準備を手伝いに行き、鳥貝は洗面所に向かった。 鳥貝が事実を百合子より吹き込まれるのは、朝食後に出かける準備をしている時。 勿論、鳥貝は恥ずかしさに身もだえまくり・・・その晩は大泣きするという手で、百合子を拒否ったとか。 19歳の誕生日には、色々な人からお祝いメールが届いた。 どれも心のこもったもので、鳥貝は幸せを感じる。 寮の男達、美羽子、月成と斎、大学の友達、地元の友達・・・。 自分がとても恵まれている事を感じる鳥貝だけれど、中でも一番恵まれているのは、こんな日に百合子といられる事。 色々と困った恋人だけれど・・・きっと、そんなところも含めて大好きだから。 来年の誕生日も、その次も・・・できれば、こうして百合子と祝いたいと思う鳥貝だった。 だから、お昼過ぎ、K沢へと向かう電車の中で、これから4日間、百合子とふたりきりでどう過ごそうかと思うと、鳥貝だって胸がときめいた。 ◎K沢3泊4日 K沢の別荘にはキッチンも備えられているという事で、実家からある程度の食材は持ち込んだ。 どうせおごりなのだからとデリバリー、あるいは外食で済まそうと考えていた百合子と違い、鳥貝は堅実なのである。 立ち並ぶ別荘地の一角に、中ノ瀬所有のそれはあった。広い敷地を有しているようだけれど、手入れは行き届いている。また、隣の別荘との距離も離れていて、ほとんど物音が響かない。ただ、自然の営みの音だけが響いていた。 教えられていた管理会社に到着時間を伝えると、その時間に管理会社の人間がいて、簡単な説明の後に鍵を渡してくれた。 外観も木製のナチュラルテイストだったけれど、内装も木目が目に付く、心地良いそれだった。 掃除も行き届いていた。 キッチンも、食器や鍋類が揃っているし、冷蔵庫に電気も通っている。 注目すべきはリビングにあたる場所にある、暖炉。本格的に薪をくべるいわゆる薪ストーブというもの。3月とはいえ雪の残る寒いこの地だから、屋内でもある程度の寒さは覚悟していたのだけれど、赤々と炎の灯る暖炉で、部屋中ほっこり暖かかった。 「すごいっ! 外観も一種独特ですけど、内観も! やっぱり、別荘の建築様式って、全然違う!」 むしろ、建築学的見地から喜ぶ鳥貝に、苦笑する百合子。 鳥貝にしてはとても珍しく、はしゃいで、別荘内を探検するその姿も、百合子には愛しい。 「春海、落ち着けって、」 お風呂場に入り、桧の湯船と温泉旅館さながらのその作りに感心する鳥貝を後ろから抱きしめる。 「後で、ふたりでゆっくり入ればいい。・・・それより、梓からメールが入ってな・・・今晩はケータリングで夕食届けてくれるよう手配してあるって。ディナーだぞ? フランス料理らしい。」 「嬉しいけど・・・いいんでしょうか?」 「気にするな。あいつにとったらこれくらい何てことない出費だ。おまえへのバースディプレゼントって考えておけばいい。」 百合子の腕の中でしばらく考え深げにしていた鳥貝は小さく溜息をついた。 「・・・あの人の事は嫌いですけど、お礼は、しないといけませんね。」 「・・・どこまで律儀だよ。する必要ないって。これは詫びだって云ったろ? 強姦罪で訴えられなかっただけマシだ。」 「強姦罪って・・・!」 「その通りの状態だったろ?」 「・・・。はぁ・・・まぁ・・・、」 最後までされてはいなかったけれど、無理矢理辱めを受けた事には違いない。 でも、やはり律儀な鳥貝は、後でちゃんとお礼をするから、と百合子に連絡先をねだった。不承不承の百合子に、教えないと百合子のバイト先にひとりで行ってヒロさんに教えて貰う、と脅して(?)連絡先を入手した。 できればもう二度と、自分のバイト先には来てもらいたくない百合子に、その脅し(?)は覿面だったようだ。 「電話連絡だけにしとけよ? おまえひとりであいつに会うのは絶っ対にやめとくんだ。・・・何されるか分かったもんじゃない・・・、」 むやみやたらに心配される。 鳥貝だって、できれば中ノ瀬にはあまり会いたくないものだから、それには素直に同意した。 日が落ちるまで、まだ雪の残る別荘周辺を散策して、夜は中ノ瀬がオーダーしてくれていたというフランス料理のケータリングサービスが届いた。 見た目も味も本格的だった。 けれど、ごく庶民的な鳥貝は、これだけの料理・・・寮の自分の一月分の食費くらいするんじゃないだろうか、と考えると、きちんと味わって食べられなかったりした。 「ワインも極上!」 一緒に、高級品に違いない数本のワインも届けられたけれど、鳥貝にはその味の違いは分からない。 ただ、百合子が美味しそうに食べて飲んでいる姿が嬉しいから、いい。 大切な人と取る食事は、幸せだ。 今年の誕生日は、きっと、これまでの人生で一番幸せな誕生日。これから先には、もしかするともっと幸せな誕生日が沢山あるかもしれないけれど。 それから・・・一緒に桧のお風呂に入って十分身体を温めた後、百合子は鳥貝を抱きかかえて、薪ストーブの前のムートンの敷物の上に連れてきた。 「ベッ、ベットルームは、向こうだと思うんですケド・・・、」 分かっていても、恥ずかしい。 一応抵抗はしてみる。 勿論、そんな鳥貝の心の内を分かっている百合子はにんまり笑う。 「折角の別荘体験だ。普段なら出来ない所でしよう。」 素肌にガウンを着た鳥貝の唇にちゅっと軽く口づけると、彼女をそっと下に降ろして、ちょっと待ってて、と云って一旦姿を消した。 電気を消した部屋。 薪ストーブの暖かい色合いだけが、部屋に広がる。 ぱちぱちと薪が爆ぜる音が不思議と心地良い。 アルコールとお風呂で暖まった身体に、ほんのり暖かいストーブの熱が身体をほぐして、鳥貝はすぐにうとうとしてしまう。 「春海・・・、」 座ったまま船をこぎかかっている鳥貝の背中にふわっとした感触。背中から毛布が掛けられた。 「・・・百合子さん、」 「まだ寝るなよ?」 くすっと笑い、手にしたワインボトルとグラスの乗った盆を脇に置いて、自分も鳥貝と同じ毛布に潜り込む。 「すげぇ暖かい・・・、」 鳥貝を抱き寄せて笑う。 「はい・・・、気持ちよくって・・・、」 「疲れたか?」 「・・・そんな事、ないです、だって、まだ・・・、」 百合子を見上げて、顔を赤くする。 風呂場では、本当に身体を温めるだけにとどめた。 百合子曰く、4日もあるのだから、風呂場ではまた後で、との事。 だから、今晩は・・・。 鳥貝の声にしない言葉を百合子は理解する。ふたりとも、同じ気持ちだから。 「そうだな。今晩は、飽きるまで、抱き合いたいから。」 深く口づける。 口づけながら、鳥貝のガウンの腰紐をほどいて、襟元を押し広げる。 鳥貝の白い肌が、ストーブの炎の色で照らされるのは、蛍光灯の下で見るよりも・・・艶めいて見えた。 唇を離して、改めて鳥貝を見る。 何から何まで普段とは違う場所、雰囲気・・・鳥貝もいつもとは違って見えた。 「春海・・・妖精みたいだな、」 「妖精じゃありません。だって、ちゃんと百合子さんに触れられますから・・・、」 くすっと笑って、鳥貝も百合子のガウンの前から手を入れて、百合子の首筋から胸元をそっと撫で回して、顔を寄せると、胸元にちゅっとキスをする。 「くすぐったい・・・、」 百合子もくすくす笑いながら、自分の腰紐を外して、ガウンを脱ぎ捨てる。 唇を重ねながら、百合子の手が完全に鳥貝のガウンを取り去って、ふたりの素肌が近づく。 「ん・・・っ、はぁ・・・、」 長い口づけに、吐息を吐き出して、鳥貝はうっとり百合子を見上げた。 百合子こそ、普段とは違って見えて・・・まるで、昔の西洋絵画で見られる神話の神様のようだ、と鳥貝は思う。 こんな綺麗な人の胸の中にいるのが、不思議で、夢のようで・・・鳥貝は、百合子のぬくもりを求めずにはいられない。今が夢じゃないのだと実感するために。 腕を伸ばして百合子の首筋に絡め、自分からキスをする。甘えるように唇を絡ませれば、百合子は優しくそれを受け入れる。 身体が密着して、互いの熱を共有する。 鳥貝は百合子の首筋に回した腕を離し、その身体をなぞるように手を下に向かって這わせて、百合子のそれを探り当てると、まだ柔らかいそれを擦り上げて、百合子を快感に震えさせる。 「・・・おまえ、時々すげぇ・・・淫乱、」 嬉しそうに表情を崩して百合子は云う。 「・・・きっと、ストーブの灯りのせいです、」 鳥貝は小さく笑う。 「それじゃ、このワインいらないかもな・・・、」 「もう、十分に酔ってます。」 うっとりした表情のまま云う鳥貝が、やけに艶めいて見えるのは、言葉通り酔いのせいかもしれない。 「特別なワインだから・・・折角だから、飲もうぜ、」 「特別な?」 既に栓を抜いてあるそのボトルを傾け、ひとつだけ持ってきてあったグラスに注ぐ。 ひとつのグラスに注がれたワインをどうやってふたりで飲むのかは・・・聞かなくても、分かる。 最初は百合子が口に含み、口移しでそれを鳥貝に与え、グラスを渡された鳥貝も百合子を真似る。 赤い液体が唇からこぼれ落ち、身体を濡らしても構わない。 そのままふたりの口づけは本格的になり、ふたり、柔らかな敷物の上に身体を横たえ、折り重なる。 「・・・どうして、特別なんですか?」 零れたワインの跡を追うように、首筋をなぞり始めた百合子に息を乱した鳥貝が問いかける。 「嘘か本当か・・・LovePotion入りだそうな。」 「・・・? それって・・・、」 英語の意味が分からず小首を傾げた鳥貝を彼女の胸元から上目遣いに見て、微笑む。 「媚薬、って・・・、分かるよな?」 「・・・っ! ほ、本当に?」 慌てた声だ。 「・・・どうだろうな。」 百合子はくすくす笑う。 「実際、遙か昔からその手の薬はあったし、リンゴやチョコレートさえも媚薬効果があるとされていたらしい。科学根拠のあるものもある・・・おれには関係ないけど、バイア○ラとか。実際の効果はともかく、要は本人達をソノ気にさせる薬、だとおれは思うわけだ。で・・・ソノ気に、なった?」 「・・・ばか、」 百合子の講釈に鳥貝は炎の灯りでも分かる赤くなった頬を膨らませた。 「おまえには、アルコールだけでも十分催淫効果があるのは実証済だけどな、」 「そっ、そんな事、ない、です・・・、」 鳥貝の消極的な否定の言葉は、ほとんど肯定のそれ。 自覚はしていたらしい。 自覚するところによると、正確には・・・アルコールと、百合子の存在が自分を淫蕩な気持ちにさせるのかもしれないと、鳥貝は思っていた。 百合子の自分を見つめる甘い眼差しや、囁かれる優しい愛の言葉や、情熱的な口づけ・・・愛撫。 きっとそれらが、鳥貝にとって何よりの媚薬。 今、こんなに百合子を欲しいと思う気持ちは、きっと・・・。 「全部、百合子さんの、せいですから・・・、」 ぽつりと呟いて、おかしそうに自分を見つめる百合子の眼差しから視線を逸らせた。 「わたしをこんな風にしちゃったの、全部百合子さんのせいですから、」 「うん。責任は取る、ちゃんと。・・・むしろ、お願い取らせて?」 「・・・もう・・・、」 実際に、媚薬にいかほどの効果があったのかは分からない。 けれど・・・。 鳥貝がいつも以上に百合子にされるがままに・・・あるいは自分から積極的になったのは、確か。 薪ストーブのほのかな光と、心地良い暖かさの中で、ふたりは思う存分抱きしめあった。 つづく |