※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| <オリジナル話・9> 斎【4】 「やめてっ!やだぁ・・・、」 悲鳴に近い声が出た。涙がぽろぽろこぼれて、ソファを濡らす。 いつものじゃれあいの延長で嫌がる以上の態度に、百合子はそこでやっと気づいて・・・指をそこから引き抜いた。 「春海・・・、」 呼びかける声に、鳥貝は応えない。 嗚咽を漏らしながら泣き続ける。 「・・・春海、ごめん、」 百合子は、鳥貝の顔を自分の方に向けると、自分も背中を折り曲げて鳥貝にキスをする。 甘いキス。とろけるようなキス。 でも、鳥貝の嗚咽は、涙は止まらない。何度も百合子のキスを逃れようと頭を振る。 「や・・・もぅ、やだ・・・、」 キスの合間に、拒否する言葉を漏らす。 「春海・・・、」 「もう・・・無理です・・・、」 真っ赤になった顔、涙でぐしゃぐしゃの顔。 止めどない涙を瞳に溜めて、鳥貝は百合子の顔を見ようとする。涙で霞んでいて、見えてはいないけれど。 「無理・・・百合子さんと、付き合うの、もう、無理です・・・、」 絞り出すような声。 自分で云った途端、鳥貝の目からまた涙があふれ出す。 「春海!?」 百合子の頭の中は一瞬真っ白になる。 何を云われているのか分からない。 分からないけれど、昔、付き合っていた相手から同じようなことを云われた、その時の記憶がせり上がる。 『これ以上、おまえと付き合い続けるのは、もう無理だ。・・・疲れたんだ。・・・一途なのも情熱的なのも、おまえの魅力だった。けどな、それが自分だけに集約されるのは、受け止める側には負担なんだよ。おまの情熱に応えてやりきれない。だから・・・ごめんな。』 相手の言葉が、胸に痛かった。けれど、相手を引き止めはしなかった。引き留めれば、あるいは相手は別れを考え直してくれたかも知れないけれど、それは百合子の恋愛ではなかった。 鳥貝が云っているのは・・・あの言葉と同じ事なのだろうか。自分の想いが負担になったと云う事なのだろうか。 百合子の真っ白になった思考に、鳥貝の言葉だけが形を持って、残る。・・・そして、記憶の言葉が鳥貝の言葉と繋がる。 『百合子さんと付き合うの、もう、無理です・・・疲れました。ごめんなさい。』 心臓が低く脈打つ。 「春海・・・、」 むせび泣く鳥貝の顔を自分の方に向ける。 自分が今どんな表情をしているのか、百合子には理解できていない。 「嘘だよな? 冗談だろ?」 鳥貝は、怯えるように瞼を閉ざして頭を振った。 「春海!?」 鳥貝を、手放したくはない。 だから、再びキスをしようとするけれど、今度は鳥貝は頑として唇を開けない。 「春海・・・、」 不意に近くの椅子の上に置かれていた鳥貝のバッグから携帯の着信音が鳴った。 鳥貝ははっとして目を開けるけれど、今、それに出られる状況ではない。百合子に、怖い顔でじっと見つめられていて、身がすくむ。 「・・・出る必要はない。それより・・・、」 百合子の低い声。 「ひゃっ!?」 百合子が鳥貝の足を掴み、持ち上げた。身体のバランスが崩れそうで、慌ててソファの背にしがみつく。 一度止まった着信音が再び鳴る。 「おまえは、おれだけを感じてれば、いい・・・、」 云い、再び鳥貝を突き上げ始めた。 「っ、ゃ・・・っ・・・んっ、」 片足を持ち上げられたまま、百合子が出入りを繰り返す。 こんな明るい場所で、そんな格好をさせられるなんて、恥辱でしかない。 でも、抵抗できない。 鳥貝は、きつく瞼を閉ざして自分の状況を見ないようにし、唇を噛んで声を上げないようにした。 ・・・嫌なのに、身体は感じている。それを、百合子に悟られたくはなかった。 「・・・っ、・・春海、すげ、ヤラシイ。おまえの中に、おれが出入りしてる・・・、赤いおまえの肉が、おれに纏わり付いてきてる。・・・ほら、おまえの蜜、どんどん垂れて・・・・床の上にも落ちてるぜ・・・、」 わざとだろう、やらしい事を云う。 恥ずかしくて、たまらない。でも、どうしようもない。 反応しないでおこうと思っても、身体が勝手に反応して、百合子を締め上げてしまう。 そのたび、百合子が喉の奥から笑う。 「おまえの体は、おれのモノなんだから・・・、」 ふたりが繋がった部分にある、硬く凝った小さな肉芽に百合子が触れる。 「っ、ひゃぁ!」 嫌がる理性とは反対に、身体中が敏感になっている。そこを指の腹で転がされただけで、鳥貝は達した。 キツく百合子を締め上げて、百合子が呻く。 けれど、百合子は動きを止めない。己が達するまで、鳥貝を突き上げ続ける。 そして、鳥貝はまるで人形のように、百合子に身を任せるしか、なかった。 「・・・っ、はっ、」 「・・・ゃ・・・、」 百合子の熱いものが鳥貝の頸部にかけられた。 さすがに、中に出さない分別は残っていたらしい。 けれど、斎からもらった鳥貝の服は、汚れた。 腰を固定していた百合子の手が離れ、鳥貝は崩れるようにソファの上に膝をついて、腰を落とした。 一旦止まっていた涙が、またあふれ出す。 「なぁ、春海・・・、」 背もたれに向かい合って座る鳥貝を背中から抱きしめて、百合子は殊更優しい声音で囁いた。 「おまえは、おれのものだろう? おれから、離れていかないよな?」 優しい声音だから・・・恐ろしいと思った。 一旦、疑いが涌いて出て、恐怖を感じたら・・・百合子を、いつものように信じられなくなった。 好きな気持ちはある。 好きだから・・・レイプされるように無理矢理抱かれても、そこを憎いとは思えない。 百合子の中にある狂気を垣間見てしまった気がして・・・それが、怖い。 狂気によって無理矢理抱かれた事が、悲しい。 涙は、ちっとも涸れてくれない。 どんどん、流れてくる。 愛されているはずなのに、百合子のその想いは真実なのに・・・強すぎる想いだから、歪んでしまったのかもしれない。 もし、このまま百合子の狂気を受け入れても、きっと、ふたりは幸せになれない。 鳥貝に執着するあまり、百合子がまた何かをしないとも限らない。それは、鳥貝に対してだけではなく、その他の者に対しても。 それくらいなら・・・百合子のためにも、きっと、別れた方が、いい・・・。 鳥貝は、一度だけ、頭を振った。 「春海? ・・・嫌だ、離さない。おまえは、どこにも・・・、」 百合子は声を震わせて、より強く鳥貝を抱きしめる。まるで、抱きしめて、殺そうとするように。 その時、勢いよく玄関の扉が開いた。 外気が、風となって入り込んでくる。 「鳥貝! 百合子!!」 少し前に聞いた声。 良く通る、凛としたそれ・・・斎の声。 百合子が振り返り、鳥貝も恐る恐るそちらに視線をやる。 ずかずかと土足のまま入り込んでくる。靴底の音が板張りの廊下を踏む音が、険しい。 「心配して来てみれば・・・愚かだな。」 「あんたには、関係ないだろ。勝手に入り込んできて、どういうつもりだ。」 「この状態を目にして、無関係は装えんな。百合子、鳥貝を離せ。」 「嫌だ。」 「そうか・・・、」 斎の言葉の直後、鈍い音と共に百合子は床の上に転がっていた。 「鳥貝は連れて行く。この館の鍵、多飛本さんに返しておいてくれ。鳥貝次第で、おまえとの関係は絶たせる。覚悟しておくがいい。」 テーブルの上に、鍵を投げ出し、顔を上げない百合子を睨み付ける。 斎は泣きじゃくる鳥貝の手を引いて立ち上がらせると、くしゃくしゃになり、乱れ、汚れたその様子に一瞬だけ眉根を寄せ、すぐに自分のジャケットを羽織らせると、手を引いて歩き出した。 鳥貝は素直にそれに従っている。 百合子は、追いかけてこなかった。 斎の車に乗せられ、涙の落ち着いて来た鳥貝はやっと口を開く。 「・・・斎さん、どうして・・・、」 声は掠れていて、震えていた。まだ嗚咽混じりだ。 身体はずっと小刻みに震えている。 「電話をかけた、2度。少し待っても返信がなかった。律儀な君は、気がつけばすぐに返信をしてくるはずなのに。昼のことが気にはなっていてね、不安に思ったから、多飛本さんの研究室に押しかけて、鍵を借りてきた。・・・半分まさかとは思っていたんだが・・・、」 横目で鳥貝を見て、溜息をつく。 「・・・まさか、普段からああいう風にされているわけじゃあないだろ?」 鳥貝はこくんと頷く。 「原因は、私だよな、」 後悔をにじませた声に、鳥貝は今度は頭を横に振る。 「いや、私のせいだ。君を私の手で美しくすることで、あの男を不快に気分にさせてやりたいという思いも確かにあった。・・・まさか、あの男がその憤懣をよりによって君にぶつけるほど愚かだとは計算違いだったが・・・。君がされた事は強姦だ。恋人同士でも、同意がなければそうなる。警察に行くかい?」 鳥貝は首を振る。激しく。 泣きすぎて、声が、上手く出ないのだ。 「そんなにされても、あいつを庇うか?」 「・・・がう・・・、百合子さん、わたしがいるから、ああなっちゃうんです。わたしのせいなんです。だから、わたしがいない方が、いい・・・、」 「・・・。」 鳥貝の言葉に、斎は深い溜息をついて、頭をかかえた。 「・・・私も、な、さっき百合子にああは云ったが・・・君と別れたら、あの男、どうなるか分からんぞ? 君の負担になる事を自覚してあえて云うが、今のあの男の理性は君なんだ。私は多飛本さんたちほどあの男を知っているわけではないが、これでも人を見る目はあると思うから、それは分かる。確かに、色恋の絡まないあいつはどこかオカシクはあるが、上等の部類に入る人間だろう。かつてのあいつなら、君という存在がなくても、危ういながらもそれなりの人生を歩んだだろうな。が、君は現れた。あいつを絶望の淵から救い上げ、あいつに安寧と温もりを与え得る、君が。君こそ、あいつの最愛の存在。あいつは、もう君だけだと決めてしまっているようだからな・・・君がいなくなったら、これから先、愛する事も恋する事もできなくなる。それどころか、あいつは己を見失う事になりかねない。・・・確かに君のせいになるかもしれんな。」 鳥貝は斎の言葉に何度か口を挟もうとしつつ、結局押し黙った。 百合子を怖いと思った。 自分に向けられる狂気に近い愛情を初めて知った。 自分がいるから生まれる狂気ならば、たとえ恋ができなくても、愛せなくても、一緒にいない方がいいのだ。 それを、斎に伝えて良いものか、どうやって伝えたら良いのか、考えてしまった。 ハンドルを握りながら、横目で鳥貝を見た斎は小さく息を吐いて、唇に笑みを乗せる。 「君は、奴を甘やかしすぎるんだな。君自身惚れた弱みなんだろうが・・・、子供を育てるのは時には鞭も必要だ。あいつは、君に対しては子供同然だからな。感情の表し方も、態度も。初めて心に芽生えた愛情だから、まだ成長途上なんだろう。・・・けれど、実際は大人だからタチが悪い。・・・あいつを、真っ当な大人に育ててやる気はないかい?」 斎の言葉に、鳥貝ははっとして今日の百合子を思い出す。 力こそ大人。された事こそ、大人だから。 けれど・・・確かに、自分も百合子が子供のようだと、思った。 大人であるはずの存在が、子供同然の言動をとれば、それは狂気。 でも・・・心の子供を育てていけるのなら。これから共に過ごすうちに、心も大人へと成熟するのなら・・・。 斎の云う通りならば、鳥貝は百合子と離れなくても良いかもしれない。 鳥貝は、前を見て運転する斎の横顔に少しだけ笑った。 斎も、横目で鳥貝の笑顔を見て、微笑んだ。 「けどな、鞭は必要。だからあいつが、自分のしでかした事を自覚し、頭を冷やして反省するまで、君からあいつに会ってやる必要はないぞ?」 「・・・はぁ・・・でも、」 「大丈夫、奴は必ず頭を下げて君の前に現れるし・・・そうであるなら、私の家だな。」 「はい?」 斎の住むマンションは、実は鳥貝が住まう寮と同じS区にある。ただ、場所はそれなりに離れている。渋滞に巻き込まれなければ車で20分といった所か。 斎の言葉から程なくマンションに着いた。 地下駐車場に車を駐めてエレベーターを上がる。 マンション、というものに疎い鳥貝でさえ、先ほどちらりと見た外観から、学生が住むには高級すぎるそれだと分かる。 築年数はそれなりに経っていそうだけれど、モダンな外観と汚れの目立たない綺麗な外壁。 鳥貝好みの建築物と云える。 「うちの実家の持ち物だ。昔、親父殿が東京で生活する際に買った物でね。ホテルに滞在するよりは安上がりという事で。・・・まぁ、一時期親父殿の愛人が住んでいたり、我が兄が住んでいたりと居住者を変えつつ、今に至るわけだ。ちなみに、我が兄は私達の大先輩だ。」 結構すごい事をさらりと云ってのける。 斎の言葉の各所に突っ込みたい気分になるけれど、とりあえず黙っておいた。 斎の部屋は田舎の無駄に広い家に慣れた鳥貝でも、窮屈に感じることはない造りだった。 「3LDK、とでも云うのかな。さすがに、ひとりでは持てあます。キッチンはお茶を入れるくらいしか使わんし、そもそも私はここに風呂と寝る為だけに返ってくるようなものだ。・・・そうだ、よければ、鳥貝、ここに住まないかい? あの寮は月1万円と光熱費・食費、別払いだったな? なら、私は全て無料で提供するよ。君が掃除をしてくれるのなら、週に2度のクリーンサービス代が浮く。君が食事を作ってくれるのなら、私の外食費も節約できる。そうだ、君がいるのなら、猫も飼える。ふむ・・・お互い利になると思うけれど、どうだ?」 部屋の鍵を開け、鳥貝にスリッパをすすめ、リビングに誘いながらの言葉に、鳥貝は笑った。 笑って、でも、首を横に振る。 「斎さんの所にお邪魔しちゃうと、百合子さんが嫌がります。それに、寮の食事係がいなくなっちゃいます。」 「・・・やはり、百合子第一か?」 「それは、一応。だって、好きですから。あんな事されても、大好きですから。」 唇に笑みを乗せて、頬を染めながら云う。 恋する女の子だ。それが、とても可愛くて、斎は鳥貝を抱き寄せる。 鳥貝も、嫌がらなかった。 「君みたいな子に好意を寄せられるあの男は、本当に幸せ者だ。本人、それに気づいているのかいないのか。」 鳥貝は斎の腕の中でくすっと笑う。 「きっと、気づいてます。だって・・・百合子さんの寝顔、すごく可愛いんですよ? あの人の安心しきった寝顔なんて、きっとわたししか見られないです。・・・それに、そんな百合子さんを見る私も幸せです。」 「ほぅ、よく惚気るな、」 「はい。そりゃもう。」 くすくす笑い合い、鳥貝を腕から解放した斎は、改めて鳥貝の姿を目にして苦笑いを浮かべた。 青痣らしきものがないのが、救いだ。百合子は鳥貝に暴力をふるったりはしなかったらしい。けれど、痣に近いキスマークは目立つ。 「服が台無しだ。けれど、破られてはいないようだから、クリーニングでなんとかなるな。・・・とりあえず、風呂に入っていきなさい。」 つづく |