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<オリジナル話・9>

斎【3】


「わたしとしては、是非君にミスコンに出て欲しかったんだが。」
「どうしてですか?」
「実は私は審査員のひとりなんだ。」
「・・・はぁ?」
「君なら優勝できると思ったし、優勝した君を見てみたかったし、」
 にやりと鳥貝に笑いかける。
「君が優勝したなら、君はしばらく忙しくなるだろう。うちの大学が元々華の少ない工業大学とはいえ、ミス・キャンパスともなれば、ともするとメディアにも取り上げられるかもしれない大学の華となる。・・・で、それを一番嫌がるのは、誰だ?」
 自分がミスコンで優勝するなんてあり得ないけれど・・・と、思っていた鳥貝は、斎からの問いかけに真剣に首をかしげる。
 仮定の上の仮定で、思い当たる節はない。
 でも、少し前の遣り取りを思いだし、ふと口にする。
「・・・百合子、さん?」
「自分の彼女が忙しくなって、いちゃつく時間が減れば、そりゃあ嫌なものだろう。特にあの男は独占欲が尋常じゃない。ミスなどともてはやされて、男どもに群がられたり、そういう目で君が見られるようになったら気が気じゃない。まして、君がそういう境遇に慣れて君らしさを失うような事になれば・・・、」
 斎の仮定の上の言葉は、まるで物語を聞いているようで、鳥貝には自分の身に起こりえる話だとはちっとも思われない。
 けれど、斎は苦笑する、己の仮定話に。
「いや、それはわたしの望むところでもないな。」
 自分を不可思議な顔で見上げている鳥貝の頭に手を置いて、滑らかな質感のその髪を感じながら、そっと撫でる。
 優しい微笑みは、同性の鳥貝でさえ、どきりとするくらい綺麗だ。
「けれど、意外と頑固な君なら・・・大丈夫かな。」
「斎さん、云ってる事、よく分かりません。大体、わたしが優勝するなんて、ないですから。もっと綺麗な人は沢山います。・・・斎さんが出れば確実だと思うんですけど?」
「それを云うか。」
 斎はくすっと笑う。
 実は一年生の時に勧誘された。けれど、同性が好きな斎は、同性と争うのを好まないし、何より男性からそういう目で見られるのを嫌う。だから、ミスコンの言葉を聞いた途端、即座に切り捨てた。
「柄じゃない。それに、見られるより見る方が好きだ。だから、審査員は引き受けたわけだ。」
 鳥貝の手を取り、自分の腕に絡ませる。
「百合子が激しく凹む様を見てみたかったのだが、残念。せめて、君のその姿に今頃歯がみしている事を祈ろう。」 
「? なぜです?」
「君は分からなくていい。・・・無自覚な所こそが、君の美徳なのかもしれないな。」
「・・・無自覚って、やっぱりわたし、そんなに頼りないですか?」
「いいや。かわいい見た目より、存外しっかりしていると思うぞ。ただ、もう少し自惚れてもいい、って事だ。」
「・・・。自惚れちゃってますよ、色々。斎さんにこんなによくしてもらってる事も。リオさんや、寮の皆さんや・・・百合子さんに大事にされてる事も。」
「それは自惚れじゃない。事実認識だ。君は、皆から愛されている。その無自覚の部分も含め、君は愛されるに足る存在だからな。」
「・・・はあ、」
 云われている内容が恥ずかしすぎて、赤くなってしまう。
 百合子からの過激な愛情表現も、以前は自惚れすぎないように気をつけていたけれど、最近はそれをそのまま受け止めて・・・その愛情に溺れ気味になっている自覚がある。
 鳥貝にも百合子から愛されている自覚、自信のようなものがやっとできた。
 だから、斎に云う。
「斎さんが百合子さんをあまり好いていないのは知ってますけど・・・あまりいじめないであげてくださいね。百合子さん、あれでも傷つきやすい人だから。」
 鳥貝の思いやりの言葉に、斎はくすくす笑う。
 こういう彼女だから、傍若無人に己の欲求を先行させるかのように鳥貝を扱う百合子と付き合っていられるのだ。・・・もっとも、実際百合子は鳥貝を何より大切にしているようだけれど。
 だからこそ百合子をいじめたくなるわけだけれど・・・いじめる事で、鳥貝には嫌われたくないから、斎は笑って頷いた。
「やつが君を大事にしている限りは、本格的にはいじめないでおいてやろうかな。」
「本格的にって・・・、」
「気にするな。・・・それより、食材の買い出しに付き合う約束だろ?」
「あっ、はい。」
「君も毎日大変だな。で、今晩は何にするんだ?」
「お肉ばかり続いたから、新鮮で手頃なお魚があれば欲しいな、と。後は・・・、」
 歩きながら、すっかり主婦のような事を云う鳥貝に、斎は笑いながら相づちを打つ。
「・・・寮の男達の事は好きかい?」
「そりゃあ、勿論です。」
 にこにこ笑う鳥貝。
「わたしやリオの事は?」
「好きです。」
 屈託なく云う。
 きっと鳥貝の中では、寮の男達も、斎や月成も、同じくらいに大切な存在。
「じゃあ、百合子の事は、愛してる?」
「・・・っ、なんで、百合子さんだけそういう聞き方するんですか・・・、」
「そりゃあ、君の恋人だから。」
「・・・す、好きですよ、そりゃあ。」
 これだけの問いかけで顔を赤くするのが可愛すぎる。
 ここで屈託無く云われたら逆に疑ってしまいそうになるけれど、これだけ顕著な反応を返されたのだから、疑う余地なく実感する。
「そうか、愛してるのか。」
「っ! どうして、そういう風に云うんですかっ。」
「いやいや、ヤツが君をからかう気持ちもよく分かるな、と。」
「斎さん!?」
「ムキになる君がかわいいんだ、これが。」
 むっとした顔の鳥貝は、普段あまり見られないだけに、新鮮でかわいかった。
 それでも・・・決して斎を嫌っていないのは分かる。年長の人間に対する甘えのようなものを感じるだけだ。
 一人っ子として育った彼女。けれど、本来は誰より頼りになる兄がいたはずの彼女。あの兄と共に育っていたらならば、しっかり者の甘え上手な妹になっていたかもしれない。
 今の彼女は多くの兄や姉たちに囲まれて、そういう気質に近づいているようだ、と斎は思う。
 周囲の人間から多くの影響を受けて、彼女はきっとよりよい方向に変わってきている。
 その変化を、あの百合子という男はどう受け止めるのか。・・・あるいは、今回の彼女のこの変化を。
 それで、あの男の度量が示される。
 斎は薄く笑い、むくれる鳥貝の頭を優しく撫でた。


 斎には寮の門前まで送ってもらった。
 鳥貝としては入ってお茶くらい飲んでいって欲しかったのだけれど、男達と顔を合わせたくない、と斎が辞退したのだ。
 別れ際に「百合子に何かされたら、相談に乗るから、いつでも連絡しておいで。」 と云われたのは嬉しかったけれど・・・夏に大喧嘩して以来、ここの所は割合平穏な時間を過ごしているから、そんな必要もなさそうだ・・・と、鳥貝は思っていた、けれど・・・。


 夕食の荷物を抱えて帰ってきてみれば、寮の居間には百合子と時屋がいた。
 それぞれが、居間のソファーで手元の本を読んでいる。
「春海ちゃん、おかえり。」
「ただいまです。」
「おかえり、」
 百合子は読んでいた本から顔を上げ、やや仏頂面で云う。
 先ほどの遣り取りをまだ引きずっているらしい。
 百合子が勝手に鳥貝を私物扱いした末の結果なのだから、自分からご機嫌取りをしてやる必要もないと、鳥貝は台所へ向かった。
 食材を片付けてから部屋に着替えに戻らないと。折角斎と月成からもらった服やアクセサリーを汚してしまうわけにはいかない。
「噂には聞いたけど、すっごいカワイイ。」
 食材を冷蔵庫にしまう鳥貝の所まで来て、時屋が云う。
「噂って・・・百合子さんから?」
「違う。キャンパスの噂。斎さんがすげぇカワイイ子連れて歩いてる、って。」
「・・・また、大げさな。」
「いやいや、マジマジ。それが春海ちゃんだって気づいたヤツらに、おれ色々聞かれたから。」
 軽口が得意な時屋だから、どこまでが本当か分からないけれど、褒められて悪い気はしない。ただ、恥ずかしくて顔は火照る。
「もし、本当にそう思われたのなら、斎さんマジックですよ、きっと。」
「いいや、それだけじゃないさ。だって、特殊メイクしてるわけじゃないだろ。ほんの少しのメイクと、髪型のイメージが春海ちゃんの魅力を引き立てたんだな。」
 じーっと鳥貝を見つめてくる。
 いたたまれない。
「と、時屋さんは今晩夕食食べない事になってますけど、予定変更ですか?」
 恥ずかしさのあまりに話題をそらしたのを、時屋は笑う。鳥貝のこういう所がかわいいと思うのだ。
「いや。今晩は外で食べるからいらないよ。もう少ししたら出るから。」
 言葉を終えた時屋は眼差しだけで背後、おそらく居間の方を振り返ってから、声を潜めた。
「百合子、超不機嫌なんだよね。何があったかは、まぁ想像ついてるけどさ。おれが出かけたら・・・気をつけるんだよ。あの野蛮人の事だ、何をしでかすか分かったもんじゃない。」
「・・・同じようなこと、斎さんにも心配されましたけど・・・、大丈夫ですよ、多分。」
 鳥貝の苦笑。
 付き合ってもう半年になるのだ。百合子の行動は大体把握している。
「そう、だといいけど・・・。今日は安羅と白熊も遅いみたいだしな・・・。・・・春海ちゃん、慣れたからといって、油断するんじゃないよ。」
 まるで、野生の獣を相手にしているような事を云うのに、鳥貝はくすくす笑った。
 けれど、時屋は中々に本気だったらしく、鳥貝の反応に肩を落として溜息をついて、ふと目前の掛け時計に目をやった時屋は慌てた表情をした。
「ヤバイ。そろそろ出ないと。・・・春海ちゃん、本当にくれぐれも気をつけて!」
 そう云いながら走り去り、どうやら2階の自室に向かったらしい、鳥貝が片付けを終えて自室に移動しようかという数分の後、全身モノトーンのかっちりした服装でばたばたと現れて「春海ちゃん行ってきます! 百合子、無茶するなよ!?」と、後半は叫ぶように云いながら出て行った。
 慌ただしいことこの上ない。
 苦笑の後溜息をついた鳥貝も、一旦自室に戻ろうとしたのだけれど、百合子に呼び止められ、手招きされた。
 相変わらず表情は不機嫌だ。
「なんですか?」
 鳥貝も少しだけぶっきらぼうに云って、一応云われるがままに百合子のそばに寄る。
 目の前に来るように手招きで示されて、むっとしないでもなかったけれど、喧嘩をするのも億劫なので、一応素直に従う。
「・・・。」
 百合子はしばらく、無言で鳥貝をじっと見る。
 顔を見て、それから視線を下に走らせて。
 まるで検分されているようだ。鳥貝も、何も云わない。
 時屋のような賛辞の言葉が口からでるような表情ではなかった。はっきり「気に入らない、」と表情で語っている。
「・・・おれは、いつものおまえがいい、」
 遂にぽつりと言葉が漏らされる。
 低い声・・・怒っているのか、拗ねているのか。
「斎さんの仕業か?」
「仕業って云い方はどうかと思いますけど、斎さんにいただいた服と靴です。メイクや髪型も斎さんにしてもらいました。アクセサリーはリオさんに貰ってます。」
 やましいところなどないから、はっきりそう云う。
 斎や月成は鳥貝にとっては大切な友人で、百合子が彼女たちの事を好いていないのは知っているけれど、とやかく云われる筋合いはないのである。
 鳥貝のその気持ちが十分に現れた言葉と口調に百合子がむっとしている。
「脱げ、」
 時々鳥貝に対して命令口調になる。
 勿論、結構勝ち気な鳥貝がそれに唯々諾々と従うわけがない。
「いやです。」
 本当はすぐに着替えるつもりだったけれど、売られた言葉をつい買ってしまった。
 さらに百合子がむっとして、鳥貝に手を伸ばし、身構えた鳥貝をものともせずにその髪をくしゃくしゃに撫で回した。
 どのみち、着替えと同時に髪型もいつもの状態にもどすつもりだったけれど、無理矢理そういう事をされると嫌なものだ。
「百合子さんっ!」
 叫んだ直後に、両頬を掴まれ、そのまま引き寄せられて、唇が被さってくる。深く唇を重ねながら、鳥貝の抵抗を簡単に押さえつけて、強く体が引き寄せられた。
 膝が崩れ、倒れ込みそうになるのを腰を支えられてそのまま百合子の膝の上に横抱きに抱えられた。
 強引なのはいつもの事だけれど、一触即発の最中の甘いムードもないこの状況では、鳥貝には苛立ちだけが募る。
 少しだけ唇が離れた瞬間に、百合子の胸を押しやって、完全に唇を離した。
「百合子さんっ! いい加減にしてくださいっ!」
 怒る鳥貝の言葉や感情を完全に無視して、百合子は云う。
「おれが脱がしてやる、」
 云うのと同時に行動にも移る。鳥貝のンピースの背中のファスナーを下ろしに掛かっている。 
「・・・っ、ばかっ!」 
 じたばたともがいては見るけれど、正面から腕ごと強く抱き寄せられて、身動きが取れない。
 ジーという音と共に簡単にファスナーは下ろされて、下にキャミソールは着ているものの、素肌が外気にさらされてぞくりとする。
「だめ、百合子さんっ。やめてくださいっ!」
 無理矢理こういう事をされるのも嫌だし、ここは居間なのだ、誰がいつくるか知れない。
「やめてっ!」
 声を張り上げて抵抗するけれど、百合子は聞く耳持たない。
 それどころか、ファスナーを2/3程の位置まで下ろすと、襟元を押し広げて鳥貝の首筋に口づけた。
 暖かい唇と、濡れた舌の感触に、ぞくり、とする。
「ダメ、ダメですっ、」
 居間で何をしようというのか。
 鳥貝は抵抗を激しくする。
 もがく鳥貝を百合子の腕はやっと解放するけれど・・・それで、百合子が完全に鳥貝を解き放つ事はなかった。
 逃げようとした鳥貝の腕を捕らえて、再び引き寄せ、今度は背後から抱きしめてくる。腕ごと強くがんじがらめに、抱きしめられる。
 開いたファスナーの背中に、百合子の熱を感じる。
「・・・おれ以外の存在に、花開かされるな、」
「・・・?」
 切ない声が耳を打つ。
 鳥貝には分からない内容は、独り言なのだろうか。
「おまえが綺麗になるのは、おれの為だけであってくれ・・・。他のヤツに綺麗な笑顔で笑いかけるおまえを見るだけで・・・ツライ。」
 意味が、よく分からない。
 けれど、百合子の切なすぎる声が胸を締め付ける。
 多分・・・嫉妬してくれているのだとは思うけれど・・・斎にまで嫉妬する百合子が、少しだけ可笑しく思えて、今までの怒りを忘れて唇を緩ませた。
「・・・わたしは、百合子さんのものなんでしょう?」
 笑うような声で云うと、百合子も少しだけ笑い声漏らす。
「おまえは、おまえ自身のもの、だろ?」
「・・・時々は、百合子さんのものになってあげてもいいです。」
 鳥貝が笑い声のまま云うと、百合子は本格的に笑う。
「うん・・・。おまえがおれだけのものじゃないのは、ホントはよく分かってるんだよ。おまえは皆から好かれている。求められている。夏目がそうだったように。・・・でも、きっと、おれが求めたら、おまえは一時だけでもおれのものになってくれるんだよな。」
「・・・兄さんよりも、もっと百合子さんの近くにいます。まだ、年数は全然足りないです、けど・・・、」
 未だに百合子に慕われる兄夏目に、初めて少しだけ嫉妬を感じて、そう云う。
 百合子は、それを察したらしく、くすくす笑った。
「もっと、近くに・・・、今はおれのものに、」
 抱きしめる力が強くなる。
 鳥貝は条件反射のように、百合子の体温に幸せを感じる自分を自覚した。
 でも、幸せは一瞬。
 百合子は鳥貝を大事にしている・・・けれど、百合子は彼女を翻弄せずにはおれないらしい。・・・本人曰く、ありあまる愛情のせいで。
「・・・も、我慢、できない、」
「・・・え?」
 何の事、と鳥貝が問い返すより早く、百合子は行動に移る。
 背中のファスナーが完全に下ろされて、手が中に入り込んで・・・胸を鷲づかみにされた。
「ひゃっ!?」
 片手はスカートの下から入り込み、内腿をやらしい動きでなぞっている。
「ちょ、百合子さん!?」
 慌てた鳥貝の声に応えず、鳥貝のうなじに唇を寄せて、吸い付くようにしながら唇を移動させる。
「ここで、する・・・、」
「・・・は!? だって、ここ・・・!」
「構わない。どうせ皆帰りは遅い。」
「構いますっ! こんな所で、できませんっ!」
「部屋でしようと云っても嫌がるくせに、」
「当たり前ですっ! 夕食の準備もまだなのに・・・、っ、くっ、」
 鳥貝の言葉での抵抗に返答しながらも、百合子の手は器用に鳥貝の体をまさぐっている。
 胸元の手は、既にブラをずりあげて、直接胸に触れているし、下肢のそれは布の上から女の部分をこねている。
「や、ばか・・・百合子さんの、ばかっ!」
 云いながらも、鳥貝の体の力は目に見えて抜けていく。紅潮を深くする頬と、知らずもれる甘い吐息。
 百合子が後ろから体を抱きかかえているものだから、百合子が上体を倒していくと、力の入りきらない鳥貝の体はあっさりとそれに従う。
「やっ・・・ん、ふっ・・・、」
 鳥貝の弱点は知り尽くしている百合子の巧みな愛撫に、鳥貝が耐えられるわけがなかった。
 バランスが崩れそうになる身体を、目の前の三人掛けのソファーの背もたれに捕まる事で支え、腰を百合子に抱きかかえられて、鳥貝は身体を震わせる。
「あっ・・・ダメ、んっ・・・、」
 ショーツの中に指が入り込み、鳥貝の秘裂を軽くなぞる。
「ふっ、あ、」
 既に濡れている。
 百合子は満足げに笑う。
「春海、カワイイ・・・、素直なイイ子だ。まだ、早そうだけど・・・、」
 鳥貝がどうにか快感に抗おうとなけなしの理性を総動員している時間より、百合子の行動の方が早かった。
 いきなりだ。
 普段なら鳥貝を十分に気遣ってくれるのに、その日は少し乱暴だった。
「いっっ・・・っ! んっ、っ!」
 濡れてきてはいるけれど、まだ十分でないそこに、早急に百合子のモノが突き入れられた。
 初めての時くらいに、痛かった。
 後ろから突き入れられて、鳥貝は反射的に背筋をのけぞらせた。
 ほとんど濡れていない鳥貝の肉壁は百合子のそれの進入を強い摩擦でもって制する。それをおかまいなく、百合子は力任せにねじり込んできたのだから、痛い。
 痛みに息が止まって、声も出せなかった。
「キツ・・・ってか、痛い・・・春海、力抜け、」
 抜ける訳がない。身体が強ばっている。痛くて、泣き出しそうだ。
 鳥貝は左右に頭を振った。
「・・・ムリ・・・、や、もう・・・いや・・・、いや・・・、」
 はぁ、と息が出たら、言葉も出た。けれど、同時に涙もこぼれた。
 頭を振って、嫌がるけれど、百合子は聞き届けない。
「春海・・・、しばらく我慢しろ。すぐに濡れてくる。」
 云いながら、百合子は動き出した。
 滑りが悪い鳥貝の中を最初はかき混ぜるように動かす。それから、徐々に動きを広げていく。
 痛くて。
 鳥貝は、ソファの背もたれに顔を押しつけて、涙をぽろぽろこぼす。
 百合子が無理矢理こんな事をするのに、心も痛くて、更に涙をこぼす。
 嗚咽と、呻きが喉の奥から漏れる。
「っ、く、ひっ、・・・くっ、」
 服を着たまま、共用スペースの居間で、明るい場所で、後ろから、ほとんど前戯もなく・・・全てが、鳥貝にはあり得ない。
 突かれるたびに、身体ごとがくんがくんと揺れて、捕まったソファーがかたかた音を立てる。
「ん、や、も・・・んっ、」
 すぐに鳥貝の中は潤ってきたのか、百合子はいつものようにスムーズに出入りを繰り返す。
 でも、鳥貝は涙を止めない。
 心が、痛いままだ。
「・・・春海、すごい、おまえ・・・やらしい、ここもひくひくしてる、」
「ひっ! やっ・・・!」
 おしりの穴に触れられた。嫌悪でぞくりとする。
 しかも、百合子の指先は、そこを殊更に愛撫する。
 最初はそこをこねまわすように、それから・・・ふたりが繋がっている濡れた部分の蜜を指先に絡めて、それを塗り込みながら、中へ・・・。
「やっ! やだ、やめてっ!」
 そこに触れられるのは初めてではない。行為の最中に多少なりとも触れることはあったけれど・・・中に入れられたことは、ない。
 嫌悪と恐怖。
「そこ、やだぁ!」
 泣き声で身体をよじらせるけれど、百合子はそれを許さない。 
「大丈夫だ。すぐに良くなる・・・、」
 逃げようとする鳥貝の腰を強く捕らえて、己の腰を打ち据えながら、第二関節ほどまで入れた小指を、そこで蠢かせる。
 その行為は、鳥貝にはおぞましいものにしか感じられない。
「や、やだ・・・百合子さんっ、っ、んっ、どうして・・・、」
「かわいい、春海・・・おまえの全部、おれだけのものだから・・・、」 
 百合子が、自分にひどく執着している事は普段から身をもって実感している。けれど、自分だって百合子が大好きで独占したいとさえ思うから、その思いは同じなのだと鳥貝は思っていた。
 でも、百合子のそれは、少し違うのではないかと・・・初めて思う。
 恋をしたふたりが相手を想いながら求め合うそれではなく・・・子供が玩具を誰にも取られないように囲い込むそれに似ているかもしれない。
 大人の年齢である彼にしたら、少々常軌を逸した執着心。
「・・・や、やめて、百合子さん・・・、」
 少し怖くなって震える声で訴えるけれど、百合子は聞かない。
 腰の動きを止めて、そこに差し入れた小指を根本まで差し込んだ。
 痛くはないけれど・・・気持ち悪い。本来、排泄器官であるそこに入れられるなんて・・・。
「春海のココも・・・きっと、気持ちイイんだろうな、」
 指を中で動かしながら、そんな事を云う。
 鳥貝はぞくりとして、百合子の指から逃げようと身をよじらせる。
 鳥貝だって、百合子とこういう事をするようになってからは性知識も上がってきている。だから・・・そういう愛し合い方もあるのだと知っている・・・男性同士だけとは限らず。
 でも、無理だ。
 百合子の事が好きでも・・・それは、したくない。



つづく