※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| <オリジナル話・9> 斎【2】 メイクも、ヘアセットも、鳥貝は得意ではない。 手先は器用だから、コツと要領を覚えて、本人にやる気さえあればいくらでも上達しそうなものだが・・・そもそも本人にあまりやる気がない。必要最低限のお洒落はするけれど、それ以上に自分を飾り立てることについては、いまいち乗り気ではない鳥貝だった。 だからその日も、本人は比較的努力したつもりだったけれど、あの日と同じようにはどうしてもならなくて・・・朝一番に斎にため息をつかれた。 「君は・・・折角の素材を台無しにするのが上手い。」 もちろん、褒め言葉ではない。 講義時間には余裕で間に合うという事で、斎の根城である学友クラブ事務所まで連れて行かれ、斎の私物の化粧セットを用いてメイクされた。髪型もむろんの事。 そんなに長時間いじられてはいなかった。 ほんの少し手を加えただけに思われる。 なのに、鏡の前の鳥貝の姿は、独力でしてきたメイクとは比べものにならなかった。 「美少女のできあがり、だな。」 それらの成り行きを見守っていた学友クラブにいた女生徒たちも、口を揃えて鳥貝と斎の腕を褒め称えた。 「君は元がいいんだから、ちょっとしたアレンジでいくらでも綺麗になるんだ。それを覚えておきなさい。」 鏡の前で目をぱちくりさせる鳥貝に斎は云う。 「ちなみに、リオのヤツは、元が良すぎて余計なメイクは演出過多の舞台女優になるから、ほぼベースメイクしかしていないな。手間がかからずうらやましい事だ。」 「斎さんだって、ほぼベースメイクだけですよね。うらやましいです。」 鳥貝は斎の顔をじっと見ながら云う。 やっぱり、顔立ちが整っていて綺麗だ。 外国人の血が入るリオは完全に西洋風に綺麗なのだけれど、斎は和風に綺麗なのだ。きっと、着物もよく似合うだろう。 「そうだな。ご先祖様と運には感謝しよう。」 褒められ慣れている斎は、謙遜することもなくそう云うのだが、それもまったく嫌みに感じられないからいい。 それから、斎のたっての願いで、まるで恋人同士のように腕を組んで歩いた。 腕を組むくらいなら別に構わないと思うくらいには、斎の事を受け入れている。・・・のだが、これが百合子や寮の男達に云わせれば「洗脳が進んでいる」という事になるらしい。 だが、男達がどう云おうと、鳥貝は斎には好感を抱いている。美人で、頼りがいがあって、鳥貝にとても良くしてくれる。鳥貝にとっては頼れる先輩や頼れる姉といった風である。だから、斎とのこうした付き合いも(これ以上を求められなければ)やめるつもりはない。 寮の男達は妹的存在として、百合子は恋人として、何かにつけ鳥貝を過保護にしがちな部分があるけれど・・・彼女には彼女の考えがあり、行動基盤があり、元来の勝ち気な性格と頑なさがそれを決定づけている。 見た目も、一見した雰囲気も幼く見えがちな鳥貝だけれど、彼女のアイデンティティは確立しているのである。 もっとも、男達や百合子もそれを十分に分かっていながらも、色々心配してしまうのは・・・兄として恋人として仕方がないのかもしれない。 朝一番の講義がなかったので、鳥貝は斎と校内をふらつき歩いた。 広い校内には緑が多く、ある意味公園のような雰囲気もあり、秋の初めのこの季節は、色づき始めた落葉樹を見ながらそぞろ歩くのも楽しかった。 斎は学内の有名人である。 学内で数少ない女性、美人、長身、首席入学、学友クラブの責任者という見た目の特徴と、人望、男性には対等に(むしろ厳しく)接し女性には限りなく優しいという実に分かりやすい性格と、本人が隠そうともしない同性愛者という性癖、などの内面的特徴。 かなり特殊なそれらを持ち合わせた彼女が、有名にならないわけがない。 対し、鳥貝もそこそこに人の意識に残る存在ではあった。ただし、斎とは少々事情が違う。 斎同様に目立つ存在の百合子の恋人である事、寮の男達と親しい事(同じ寮住まいである事、夏目の妹である事は内密であり、表面上は百合子繋がりの仲としてある)など、ほとんど彼女自身ではなく周囲の人物らによって目立たされえているわけなのだ。 鳥貝自身もそれは認識している。 ただ、見目も性格もかわいい部類に入る彼女なので、彼女と接点のある(履修講義が一緒であったり)一部の男には片想いを寄せられている部分もあるにはあるけれど、本人はそれに気づいていない。 と、いうわけで、学内をそぞろ歩くふたりに注目が集まっていたのは、斎のせいなのだとばかり鳥貝は思っていたけれど・・・それだけではなかった。 斎を見て、その隣で腕を組む少女を見て。 鳥貝を知っている人間はしばらくそれが誰か考えた後、鳥貝本人であることを理解して目を丸くし。 鳥貝を知らない人間は「あのかわいい子は誰だ?うちの学生か?」と惚けるように見つめ続けた。 可愛らしいけれど個人としてはあまり目立つ存在ではなかった鳥貝が、斎の手によって一気に、人目に付く美少女に祭り上げられた日になった。 まだ花開いてなかった鳥貝の存在感が斎の手で疑似的ではあるけれど一時花開いたのだ。 ・・・斎は、それを狙っていた。 すれ違う男達の視線を感じ、斎は薄く笑う。 「わたしの目に狂いはないよな。」 「はい?」 「いいや。・・・そういや、百合子のヤツは今日はどうした?」 講義の合間の時間などは鳥貝の側から離れようとしない男だけれど、始終くっつているわけではいのは斎も認識している。 「今日はお昼からみたいです。今朝メールが入ってました。」 「どこかで待ち合わせはするのかい?」 「いえ、今日は。お昼は友達と食べるからとだけ返信しましたけど・・・どうしてです?」 斎が百合子の事をあまり好いていないのは鳥貝も知っている。同様に、寮の男達の事も。 斎とリオ、寮の男達と百合子。 元々、夏目を間に挟んでできた知人関係。夏目がいなくなった所でその関係がどうこうなるわけではないけれど、かつて互いが苦手視していたように、今もってその関係が続いている。 今度は、鳥貝がその間に立っている事を、鳥貝自身はまだ認識していない。彼らの関係が変わるとしたら、鳥貝次第なのだ。 「あれから、その格好を百合子たちには見せたのか?」 「いえ、まだ。普段着るのは勿体ないですし、斎さんにいただいたものなので、先に斎さんとのデートで着るのが筋かな、と。」 律儀というか、生真面目というか。 斎は微笑ましくなる。 この心地よい気質は彼女の実の両親から得られ、育ての両親によって曲がることなく育まれたもの。 そして、まだ成長途上と云っても良い彼女のこれからは・・・。 「百合子のやつが羨ましいよ、まったく。」 「え?」 「君を自分好みに育て上げられるのだから。」 「・・・、斎さん、わたしはもう大人ですよ、」 鳥貝は子供っぽく唇を尖らせ、斎は笑った。 「分かってるさ。ただ、大人な君に一番影響を与えるのは恋人であるヤツだという事。あの男に変な影響ばかり受けないと良いのだが・・・無体な事はされていないか?」 「うーん・・・多分、ダイジョブですよ。百合子さん、あんなでも優しいですし、性格はちょっとアレですけど、基本的に常識知ってますし。」 鳥貝が百合子を見る目に恋のフィルターがかかっているとしても、鳥貝は比較的的確に百合子という男を捉えている。 斎は、惚気るでもなく、恋人を評する鳥貝に微笑んだ。 あの百合子が心底からこの鳥貝に惚れているという異常事態は、各所から伝わってきている。 百合子はきっと、このかわいい鳥貝を、大切に腕の中に囲い込んで、嫌われないように、逃げられないように・・・そして、自分から彼女を奪い取る存在には近づけないように注意を払っているのだろう。 以前の百合子を知っている斎は、それがとても滑稽に思われ、喉を震わせた。 「ま、確かに・・・、」 思わず声に出しそうになって、鳥貝のきょとんとした顔にごまかしの笑みを返し、心で呟く『この子を手元に囲っておきたい気持ちは、よく分かる。』と。 ・・・今時珍しいほどの純粋さと、心根の良さ、声や喋り方、表情、それらを含めた持ち合わせた雰囲気の心地よさ。捻くれた己を自覚する人間は、彼女のそういう部分には強く惹かれてしまうし・・・一緒にいると癒されるのだ。 聞けば、百合子が誰よりも慕っていた夏目を失って抱えていた心の空虚を埋めたのが彼女だというのであれば、それが夏目の妹であったならばこそ、尚更愛しいのだろう。 斎にとっても鳥貝はとても魅力的に映るし、彼女があの男達絡みの存在でなければ・・・そうであったとしても、ここまで誰かに強く執着されていなければ、手元に置いて、かわいがりたいと思うのだ。 もちろん、彼女はすでに百合子と深く結びついているらしいから、深入りするほどの愚挙は犯さないが。 それでも、鳥貝を早々に手に入れてしまった百合子には嫉妬を覚えないでもない。 だから・・・意地の悪いこと考えてしまう。 これまでになく幸せな百合子に、少しくらいの辛酸を舐めさせるくらい神様も許してくれるさ、と斎は思って笑う。 午前中鳥貝をより目立たせるように、学生が多く行き交う正門前を歩き回った後、お昼に学食で落ち合う事を約束して、講義の為にいったん別れた。 当初は学外にランチを食べに行こうかとも思っていたのだけれど・・・考えを変えた。 撒き餌はした。 斎の連れ回していた美少女の話題は、漣のように広まっていってくれるだろう。 仕上げをご覧じろ・・・と云った所か。 昼食時間、食堂で先に待っていた斎の元に鳥貝が急ぎ足で現れた。女友達も引き連れている。 昼食を一緒にとる事に、斎は快い返事をする。 鳥貝の友達はおおむねかわいい子(内面含む)が多いので、斎も悪い気はしない。 今回の鳥貝の変貌ぶりを見た友人達が、斎にアドバイスを請うているうちに、昼食時間は終わる。 メイクよりも、流行の格好よりも、自分に似合ったもの、それから、自分が好ましいと思う格好、というのが斎の主なアドバイス。 だって、好みは人それぞれで、自分が満足できる格好が一番なのだから。 今回の鳥貝の見目は、ほぼ斎好み。そして、それは一般の男性好みの格好でもあったようだ。 食堂でも、鳥貝は男子生徒からの視線を受けていた。 己の事に関して鈍い鳥貝は、それにあまり気づいていない。 午後の講義の後の曰く放課後デートは、寮の夕食の用意があるという事で、早めに切り上げることになりそうだけれど、斎としては中々に満足していた。斎の思惑が上手い具合に運びそうな気がしていたからだ。 この鳥貝の様子は、斎の思惑通りに人の噂に上った。そして、結果、午後2枠目の講義が終わると同時に、どうやら教室の外で待機していた人間達に鳥貝は取り囲まれた。 男2人女性1人の3人組は、鳥貝を廊下の端まで連れて行くと、いきなり鳥貝に手を合わせた。 「・・・え?」 目を丸くする鳥貝に、男のひとりが名乗る。 「鳥貝さん、突然すみません。ぼくはTKMC役員のAと云います。実は、君に折り入ってお話が・・・、」 TKMCとはなんだろう? 聞き覚えがない。 鳥貝が意味が分からずひたすら呆然としていると、放課後デートの誘いにやってきた斎が、鳥貝を囲む人間達に親しげに声をかけた。 「やあ、Aじゃないか。やはり、狙い通り勧誘にやってきたか。」 「斎さん。・・・狙われてましたか、やっぱり。」 「今年は人材不足だとYから聞いている。少し目立てばこの子を勧誘にやってくるんじゃないかとは思っていたが、」 「そうなんですよ、だから、是非!応募はもう締め切っているんですが、出場者3人では盛り上がりに欠けるし・・・他薦に頼って素質ありそうな子を探しているんですけど、中々・・・、」 何の事やら。 鳥貝は会話を続けるAという人物と斎の顔を交互に見やってから、ちょいちょい手招きする女性に向き直った。 「1年生だから、知らないわよね。TKMCっていのは、TK大祭におけるミスコンの実行委員会なの。で、このふたりの会話通り、今年は出場者が少なくって、こうして見込みありそうな女の子を探しているのだけれど、ここの大学、女の子少ないでしょう? だから、ね・・・、」 「鳥貝春海さん、お願いします。是非、出場してくださいっ。もし優勝したら、一年間ミスキャンパスとして君臨できますよ? 色々美味しい特典もありますよ!? 学食のチケットも商品のひとつですし!」 もうひとりの男も手を合わせる。 「百合子も自分の彼女がミスキャンパスだと、鼻が高いと思うんです、」 百合子の名前が出て、その男はどうやら百合子の知人らしいと理解できた。 のだが。 「嫌な噂聞いて探しに来たら、やっぱりこれかっ!」 とても聞き覚えのある声が廊下に響いた。少し息切れしている風なのは、ここまで走ってきた為か。 「斎さん、あんた春海になにしてんだよ。朝からデートしてたって!? それから、F、おまえも何おれの名前出して荷担してんだ。ミスコンだって? そんなものに春海は出さんっ!」 百合子だった。 お怒りの形相で近寄ってくると、数人の中心にいた鳥貝を見て、少しだけ息を飲んでから・・・その腕を引っ張った。 「百合子。今日はわたしの方が先約なんだが?」 鳥貝の肩を捕まえての斎の言葉である。 「こいつの所有権はおれにある。」 「・・・っ! 所有権って!」 急展開に戸惑い続けていた鳥貝も、そこの所にはむっとする。 腕を掴んでいた百合子の手を振り払って、百合子を睨み付ける。 「わたしは、わたしのものですっ。」 「おまえは、いつもそうだ。夏にも云っただろ、おれはおまえの事が全部知りたいって。おまえも話すと云っていた。なのに、なんで、斎さんとの事を黙ってた?」 「行動を逐一報告する必要はないと思うんですけど。それに、斎さんと出かけるとなったら、絶対に反対して邪魔しにくるくせにっ。」 「当たり前だ。」 「・・・だから、云えるわけありませんっ。わたしにはわたしの交友関係も生活もあるんですからっ!」 ごくいつもの痴話喧嘩である。とういか、これもこのふたりの愛あるコミュニケーションのひとつ。 ある程度彼らの遣り取りのスタンスを知っている斎はにやにや笑いながらその様子を静観しているけれど、他の3人はおろおろしながら止めようかどうしようか顔を見合わせている。 「・・・じゃあ、ミスコンも出るわけだ?」 「・・・っ、それは・・・、」 ミスコンの件については、状況を飲み込み兼ねている所に百合子が登場したものだから、鳥貝の中ではまだうやむやな事柄だ。 考え始める鳥貝を見て取った、TKMC役員Aがすかさず口を挟む。 「鳥貝さん、お願い! 君なら優勝を狙えるから! 百合子くんも、頼む!」 かなり必死で手を合わせ頭を下げる3人組に、鳥貝は同情のようなものを覚える。 けれど、百合子は。 「絶対にダメだ。こいつをそんなものに出して、目立たせたくない。こいつはおれだけのモノなんだから、」 また、所有物扱いする百合子の頬を、鳥貝はぐにっと引っ張る。 「百合子さん、うるさい。困ってるみたいだし・・・、わたしなんかで頭数揃えになるなら、出るくらい・・・、」 ミスコンなんて興味の対象外である鳥貝が出る気になったのは、ひとえに百合子への反発心。 云いかける鳥貝の言葉に、百合子が言葉を被せる。 「水着審査もあるんだぞ? いいのか?」 「・・・。・・・え?」 海やプールで水着になるのは構わない。周りは水着の人間だらけなのだから。 けれど、ミスコンとなれば、ステージ上で水着となって、それを大勢の人間に注視されるわけで。 「鳥貝のスタイルならば問題ないだろう?」 斎が口を挟むけれど・・・動きを止めた鳥貝の真一文字の口角が震え・・・。 「すみません、お断りします。」 ぺこりと頭を下げた。 人前で水着姿になるなんて、鳥貝にそんな勇気はない。 百合子は我が意を得たりと、にやりと笑う。 鳥貝の事は、誰よりも知り尽くしているのだ。・・・ともすると、彼女の両親よりも。 でも、勿論、結構意志の強い鳥貝が、そう簡単に百合子の思うがままになるかと云えば・・・。 「さて、春海。そんじゃ、一緒に寮まで帰ろうか・・・、って、ん?」 百合子の手をすり抜けて、斎の側まで歩み寄った鳥貝は、斎に笑いかける。 「斎さんとの約束がありますから。ね? 斎さん。」 「そうだな。これから放課後デートだ。」 どこまでも律儀な鳥貝が約束を違えるわけがない。 ふたりは腕を組んで歩み去り、後に残された百合子とTKMCのメンバーはしばらく呆然とたたずんでいたとか。 つづく |