※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| [鳥貝大学2年の初夏] 2年と・・・それから【5】 薄闇の中、春海ちゃんは素直に百合子さんに体を預けている。 机の端ぎりぎりに座らせた春海ちゃんの腰を片手で引き寄せて抱えながら、スカートの下に百合子さんが顔を入れ込んでいる。何をしているかなんて、考えないでも分かる。春海ちゃんも協力的に脚をいっそう広げ、スカートの中にいる百合子さんの頭に手を置いて・・・喘ぎ混じりの細かい吐息を吐きだし続ける。紅潮した顔に、細められた瞳、半開きの唇・・・淫靡だ。 百合子さんの背中という障害物がなくなって、今は春海ちゃんの上半身が・・・表情も良く見える。 残念なことに・・・いや、幸い、先ほど百合子さんに露出させられていたと考えていい胸は服に覆われていたけれど。 「・・・っ、やっ・・・、んっ、っ、ぁ、」 春海ちゃんは必死に声を抑えているのだと思う。でも、その羞恥による切ない声が余計に、やらしい。必死に堪えるその姿に、たまらなくそそられる。 「・・・いつもよりすごい状態。ってか、おまえ、協力的だよな、」 百合子さんがスカートの中から顔を出して、くすくす笑って云う。 彼女をからかうのが楽しくて仕方ないというような口調だ。 「そ、そんな事ないですっ。ただ、ちょっと・・・、時間制限あるって思っちゃったら、そんなに抵抗してても仕方ないって・・・、」 「エライ。おまえが抵抗した所で、一旦火が付いたらおれは止めないからな。抵抗するだけ無駄、ってちゃんと理解してるな、」 「胸張って云わないでくださいっ。わたしは、制限時間が過ぎて誰か来ちゃったら嫌だから・・・、」 「・・・うん。春海もおれとしたいからだよな、」 「・・・っ、そ、う、もぉ、」 何か云おうとしつつ、結局頬を膨らませる春海ちゃん。それは肯定なのだろう。 百合子さんは春海ちゃんに抱きついて、くすくす笑った後、「じゃあ、早速一回いっとく?」って云いながら、彼女のスカートの中に手だけ入れて、それを動かし出した。春海ちゃんは目を丸くして抵抗する様子を見せたけれど、百合子さんに拘束されていたから抵抗できず、そのまま百合子さんの背中にしがみついた。 「・・・っ、ばかっ、もぉ、」 切れ切れに罵る言葉を口にするが、それはほとんど甘えているように聞こえるだけ。それに、その言葉もすぐに意味不明の喘ぎ声にとってかわる。 百合子さんの手がスカートの中で激しく動いて、音が、聞こえる。 男達は生唾を呑み込む。 生で聞くその音は、どうしようもないほどの官能の響きだ。 必死に声を押し殺そうとしていた春海ちゃんも、そのうち我慢しきれなくなって、切迫したような短い悲鳴を上げ始める。勿論、押し殺してはいるけれど。 顔は見えないけれど、きっと真っ赤な顔をしているに違いない。 「やっ、やっ・・・っ、あ、あぁ、っ、ぁん、」 そのうち、彼女の声はひときわ甲高くなり、百合子さんにしがみついた彼女の手がより強く彼のシャツを握り・・・突然に彼女の力が抜けた。 百合子さんの動きも止まり、力の抜けた彼女の体を抱いて支える。彼女の体は痙攣するように何度か震えた。 「・・・かわいい、」 百合子さんが嬉しそうな熱っぽい声で囁く。 彼女は何も応えられないでいる。 「なぁ、そろそろおれもしたいから・・・、ちょっと待ってて、」 力の抜けた彼女の上半身を、そっと机の上に横たえる。彼女は涙の流れた後のある顔をして、薄目を開いて百合子さんのする事を見守る。 で、百合子さんが何をするかといえば、部屋の中央、こちら(壁男側)に向けて設えてある長椅子を器用に回転させ、逆向きにした。つまり壁側に背もたれが来るように。 男達からどよめきとブーイングが起こるのを、サークルスタッフが小声で宥める。さすがに音で勘づかれかねない。 「・・・百合子は知らないはずだと思ったが、」 「勘のいい野郎だから、気付いてるのかもしれんな、」 と、サークルの男達が小声で囁き会う。 ぼくもそこでやっと少しだけ現実に引き戻された。 今まで目の前の現実でありながら非現実的ともとれる光景に捕らわれていた。 目の前のそれが、ぼくの知ったふたりの、よく似た別人ではないか、と思い込もうとしている。 だって、こんな春海ちゃん、ぼくは知らない! なのに、よく知った声で、口調で、彼らは会話する。 「・・・どうしたんですか?」 春海ちゃんがけだるそうな声で、机から身体を起こす。 「いや・・・おれ的にはこっちの方が得手がいいから。それより、春海、おいで、」 来客用のテーブルの上に腰掛けた百合子さんの言葉に、春海ちゃんは従順に従って側に寄り、その手を取って彼の前に立つ。それからゆっくりかがみこんで、彼にキスをする。キスをしながら、身体を沈み込ませていく。 「・・・養って、くれるか?」 静かな声の百合子さんに、くすっと笑う春海ちゃん。 返事はせずに、そのまま百合子さんのそこに顔を寄せる。 慣れた手つきで彼のデニムのボタンを外してファスナーを下ろし・・・それからは、もう・・・。 彼女にとって初めての男は百合子さんだったのだろう。だって、ぼくと別れてから大学に入学するまでの短い間に彼と出会い、付き合いだしたのだから・・・他の男と付き合った事はなかったんじゃないかと思う。 だから、男性への奉仕の仕方も、全部、百合子さんが彼女に教え・・・百合子さんだけが彼女にそうしてもらえるのだ。 今、目の前の光景の中にいるのは、高校の頃、ぼくと付き合っていた彼女じゃない。 キレイになった彼女。でも、中身は変わらない彼女。 ただ・・・最愛の恋人と睦み合っている時の彼女には、ぼくの良く知る彼女の面影はほとんど見あたらない。 呆然とするぼくの周囲では不快な声と音。もてない野郎どもの物音は聞きたくない。 春海ちゃんがやらしく手を唇を舌を這わせる百合子さんのそれは、男どもの嫉妬を倍増させるほどのもので、歯軋りする音も聞こえてきた。・・・ぼくも、多少は悔しいとは思うけれど、それの大きさよりも、春海ちゃんにしてもらえる事の方に対しての嫉妬が大きい。 「・・・春海、」 熱心に自分の物を舐める春海ちゃんの顔を上げさせて、云う。 「跨って、」 「・・・っ、もう・・・、」 春海ちゃんは動揺はするけれど、拒否はしない。 百合子さんは満足げに笑い、テーブルの上の謎の箱に手を伸ばす。中身は・・・スキンのようだった。 「・・・うちの製品だ、まだ試作品だが、」 のぞき込む男のひとりが云う・・・そういえば、その製品を研究している研究室があるのを聞いた事がある・・・まぁどうでもいいが。 百合子さんはすばやくそれを己に装着させると、春海ちゃんを自分の膝の上に導いた。 抵抗せずに彼女はその導きに従う。 スカートをはいたままだから分からない。でも、百合子さんがスカートの中でごそごそして、春海ちゃんがゆっくり腰を落として・・・切ない吐息と小さな声を漏らせた事で、ふたりが繋がったのだと判断できてしまう。 壁男達の嘆息。 「・・・スムーズに入る物なんだな、」 とかいう声は完全に彼女いない歴=年齢のチェリーボーイか。 一年以上付き合ったふたりが、これまでの交際期間でどれほど肌を重ね合わせたか、考えるのも野暮だろうけど・・・でも、きっと・・・数え切れないくらいに違いない。 キスをするのだけでも恥ずかしがっていたかつての春海ちゃんが、こんな風に羞恥もなく百合子さんと身体を重ねているのがその証に思える。 彼と身体を重ねる事が当たり前になるくらい、女性にとって見られて恥ずかしい部分を見せても平気なくらい、百合子さんに全てを委ねている。 「・・・春海、気持ちイイ?」 「はい・・・、」 「協力、できるよな?」 春海ちゃんはかすかに頷いて、百合子さんの背に腕を回す。 それを機会に、百合子さんは春海ちゃんを揺り動かしだした。春海ちゃんも、やらしく身体を揺らめかせる。 ああ、ぼくか望んでも叶えられなかった・・・彼女の中はどんな感触なのだろう。 きっと、熱くてトロトロで、心地良い締め付けと絡みつくような肉襞の感触で・・・想像してしまうと、興奮が激しくなる。とても悔しいけれど、こちら側の壁男達と同じ状態になっているのを認めてしまう。 ふたりの口から吐息と小さな喘ぎが漏れる。 最初は互いを擦り合わせるようなゆっくりした動きだったけれど、不意に百合子さんが春海ちゃんを抱きかかえ直して、激しく動き出した。ふたりの肌がぶつかり合う音だけでなく、座っている安普請の机ががたがたと激しい音を立てだして、春海ちゃんは小さい悲鳴を上げる。 「・・・やっ! だ、ダメ・・・っ、」 百合子さんの動きに翻弄されながらも、逃れるように身体をよじる。 「っ、百合子、さん・・・音、すごいからっ、だめっ、外に聞こえちゃうっ、」 百合子さんは動きを止めてくすっと笑った。 「聞きたいヤツには、聞かせてやればいい、」 彼女をからかう言葉なのだろうけれど、壁男達は少々ぎくりとはしてしまう。 「ばか・・・、」 甘さ控えめの拗ねる声で云いながら、彼女は百合子さんの腕を逃れ、彼の膝の上からゆっくり立ち上がった。瞳を細めた切ない顔をして、百合子さんを見つめる。 言葉にしなくても、百合子さんには全てが理解できるらしい。 笑って彼女の手を引いて、長椅子にまで導き、そこに彼女を横たわらせた。 もう、こちらから見えるのは長椅子からはみ出している、彼女の足先くらいだ。 百合子さんは身をかがめて彼女におそらくキスをした後、上から愛おしそうに彼女を見つめる。 「スカートも脱ごうな・・・結構、濡れてる・・・、」 「えっ、うそ・・・、というか、やっぱり、なんでしょうか・・・、」 「まぁでも、こんな天気の日だから大丈夫。雨にやられたって言い訳できる。」 「・・・はぁ・・・まだ講義残っているのに・・・、」 「だから、休めばいいって・・・、」 「休みたくないから、こうして百合子さんの我が儘につきあっているんです、」 「まるでおれが無理におまえを連れ込んだみたいじゃないか。おまえだったその気だったくせに、」 「・・・っ、否定は、しませんけどっ、でも、わたしは帰ってからがよかったのに・・・、」 「思い立ったが吉日。」 「・・・もうっ、」 じゃれ合うような会話はやがて終わる。 脱がし終えたスカートを再び机の上に放り投げて、百合子さんは自分の身体の下、長椅子に横たわる春海ちゃんを愛し始めた。 春海ちゃんの控えめな声だけが聞こえてきて、百合子さんは春海ちゃんに同意を取り付けると、すぐに彼女の脚を広げて・・・。 背もたれからも彼女の白い脚が見えて、ざわめきが起こる。 彼女が今、百合子さんによってどういう状態にされているのか、想像力が働いているのだろう。 百合子さんが身体を沈めると、春海ちゃんの切ない声が響いて・・・その上半身が動く度、長椅子がキシキシと音を立て、控えめな彼女の声と吐息が甘く熱を帯びる。 「もっと、声出せよ・・・、」 百合子さんが低い声で囁いて云うけれど、春海ちゃんは拒否しているらしく、彼女の控えめな声は変わらない。彼女は普段ならどんな声を上げるのだろう。 百合子さんが動きを早め春海ちゃんの声の間隔が短くなり、彼女の白い腕が溺れてしがみつくように百合子さんの背中に回った。 ふたりの切迫した呼吸が重なる、淫猥な音が響く。 押し殺した春海ちゃんの声が切なく響いた後、百合子さんの背中から滑って落ちた。 「・・・イクの早い。春海ばかり、ずるいな・・・、」 笑い含みの声。背もたれの影に彼の身体も見えなくなる。キスしているのか、彼女の身体を愛撫しているのか。 「おれは、まだなのに・・・、」 百合子さんの甘い声。幸せそうな声。 「でも、おまえのイク顔もかわいいから、何度見ても、いい、」 ・・・あの顔で、こんな声で囁かれて、こんな事をされて・・・春海ちゃんでさえきっと、百合子さんに蕩けきっているに違いない。 あの男に愛されて、蕩けない女はいないだろう・・・しかも、春海ちゃんは真剣に愛されている。 「・・・ばか、」 甘い声で百合子さんを罵る・・・幸せそうに。 それから、キスの音。 春海ちゃんは、彼に恋するただの女だ。・・・ぼくの中にいる彼女は、純真で汚れない聖少女・・・すでに妄想の産物でしかない。 聞き取れない百合子さんのひそひそ声の後、彼女が身体を起こした。上半身は服を身につけていたから、胸は見えない。ただ、髪が乱れ、顔は真っ赤になっているのが、どうしようもなく扇情的だ。 それからふたりは身体の位置を入れ替えて、春海ちゃんが・・・、百合子さんの身体に跨っている。おそらく、百合子さんのものを胎内に収めて。 「・・・春海から、」 百合子さんが囁くと、春海ちゃんはそのまま身体を揺り動かしだした。 ・・・彼女主体でも、こういう事をするんだ。しかも、気持ち良さそうに。まるでそういう造り物の映像そのままに、彼女は身体をしどけなくくねらせる。 地元の大学でぼくが付き合っていた子は、ここまでしてはくれなかった。主にぼくが主体となって彼女を抱いていた。彼女は自ら何かしようとはしなかったし、ぼくもそれが当然だと思っていた。そういった映像の中の光景は、造り物だから、より卑猥な事をしているだけなのだと理解していたのだ。 でも、今目の前にある光景は・・・お互いが自ら求め合って、気持ち良さそうに、幸せそうに、様々に行為をしている。 百合子さんからだけじゃなく、春海ちゃんからも、彼を、求める。 百合子さんの上に跨った春海ちゃんは、性の虜になった淫乱な女の子に見える・・・けれど、彼女が虜になっているのは、百合子さん自身にだ。彼女の本来の性格からして、きっと、彼の事が心から好きで、信頼しているから、こういう事ができるに違いない。 どこかで頭を掠めた、性経験のなかった春海ちゃんが、性経験豊富な百合子さんとの行為の虜になっているだけだ、という想像は、もう持てない。 このふたりがそんな浅い繋がりには、見えない。 百合子さんが春海ちゃんに心底惚れているのは、普段から理解している。でも、それだけじゃない。百合子さんだけじゃない。春海ちゃんも、きっと百合子さんに向けられる気持ちと同じだけ、彼に惚れているんだ。 ・・・そこに、他の人間が入り込む余地はない。 「百合子さん、気持ち、イイですか?」 これまで揺らめかせていた身体を、軽く上下に動かしながら問いかける言葉に、下から手が伸びて、彼女の腕を掴んで引き寄せる。彼女の姿は視界から消え、音だけが響いてくる。それも、より激しくなって。 肌と肌がぶつかる音。卑猥な水音。 春海ちゃんの声と抑えても抑えきれない嬌声も響く。 「・・・っ、ダメっ、また、わたしだけ・・・っ、」 「っ、大丈夫、おれも、限界・・・、」 切迫したふたりの声が重なり、そのうち春海ちゃんが悲鳴に近い声を上げた後、百合子さんの呻き声が上がってしばらくして、物音は止まった。 ふたりの粗い息づかいだけがする。 壁男達も、それぞれが低い呻きを漏らせ、各々備品らしいティッシュボックスを片手に持って腰をかがめているような状態。 嫌な匂いがするのを気のせいにしたい。 壁一枚隔てて、向こうは甘い芳香ただようバラ色のふたりの世界、こちらは澱んだ真夏のどぶ川の気色悪い世界。 自分が後者に分類されているなんて、信じたくないが・・・情けないかなこれが現状。 行為後のふたりの声が聞こえてくるけれど、虚しい欲望を満たし終えた男達は余韻にひたりつつもそれぞれ帰り支度を始めている。 ぼくは・・・行為後のふたりの会話に引きつけられた。 「・・・なぁ、もしもだけどさ、」 「・・・はい、」 「おれと別れる事になったら、おまえはどうする?」 あれだけ激しく交わった後に別れ話!? 意味が分からない。意味が分からなかったのは、ぼくだけではなかった。 春海ちゃんが悲痛な驚き声を出した。 「どうして? 急に別れるなんて、そんなの・・・、」 泣き出しそうに震えている。 顔は見えないけれど、きっと顔も声と同じに違いないと想像できてしまう。 「おれのいない生活、考えられるか?」 「・・・っ、考えられるわけ、ないじゃないですかっ・・・、だって・・・、」 涙声は、完全に・・・泣いている。 「だって、ずっと一緒にいるって・・・、百合子さんがいつも、云ってるじゃないですか、なのに・・・、」 声に嗚咽が混じってくる。 「春海、ああ、ごめん、違う。そういう意味で云ったんじゃない!」 多分、春海ちゃんは無言で泣いている。百合子さんの声がひどく慌てだした。 「もしも、って云ったんだ。おれは絶対に別れないけど、おまえがどうなのかと・・・いや、おまえの気持ちを疑ってるわけじゃなくて、おまえの気持ちがどれだけおれにあるのかの、自信がなくて・・・、」 信じられない。百合子さんが「自信がない」なんて云うなんて。普段から自信過剰なくらいの男なのに。 壁の向こうでぼくは目を丸くしてしまう。 「・・・いつも云ってます。百合子さんの事、大好きだって・・・、わたしの事、百合子さんが一番分かってくれてるんでしょう?」 春海ちゃんの声が軽くなった。まだ嗚咽は引きずっていたけれど。 「おれはおまえがいなきゃ生きてけないと思うくらい、おまえが必要で、大好きで、大切なんだ・・・、だから、不安になる。おまえは、こうしてずっとおれの腕の中にいてくれるわけじゃないから、」 甘すぎる言葉。よくそんな事が云えるもんだ。・・・でも、この男にこんな事を真摯に云われて悪い気のする女なんていない。 春海ちゃんはくすっと笑った。 「わたしも、同じくらい大好きで、大切です。百合子さんが必要です。・・・本当ですよ? 別れるなんて・・・ありえないです。・・・どこに行っても、必ず百合子さんの所に戻ってきます、」 聞いた事のない、彼女のこの甘い声と言葉は、百合子さんが相手だから、か。 どれほど強く百合子さんに恋しているのだろう。愛しているのだろう。 ぼくとのそれはまるでおままごとだったかのようで、情けない気持ちになる。 勿論、当時としては彼女がぼくに恋してくれていたのは確かだとは思うけれど・・・好きの度合いが、遙かに違うのだ。 彼女にとって、ぼくとの別れは少しだけの悲しい気持ち。 百合子さんとの別れはきっと、身を裂かれるような気持ちになるかもしれない。 別れるなんてあり得ないと男にすがる彼女は、ぼくの記憶の中にいる春海ちゃんではない。 春海ちゃんは、変わった。いや、人として成長してきているのかもしれない。あの頃はまだ頑なだった心の殻がもうすっかり柔らかくほぐれているのかもしれない・・・百合子さんに恋した事で。 ぼくだけ、まだ、あの頃に取り残されている気がしてならない。 壁の向こうのふたりも、長いキスの後でいちゃつく会話を収めて、講義に向かう準備を始めているようだ。百合子さんがまだ「今から帰って続きを・・・、」とか云っているのを、春海ちゃんが拗ねた声で一蹴している。 なんだかムカついてきた。 今更だけど、イライラしてきた。 壁男達は、隣室のふたりが部屋を立ち去るまで室内を出てはいけない規則があるらしく、息を潜めている。 壁の向こう、いちゃいちゃ。 壁のこちら、ぐちゃぐちゃ。 イラッとして、ぼくは思い切り壁を蹴飛ばした。 サークルの人間が止める間もなく二撃目を繰り出し、三撃目のまえに、取り押さえられた。 壁向こうで春海ちゃんの慌てた声がする。 裏事情はともかく、こちらに人間がいる事には気付いただろうな・・・ざまーみろ。 「っ、やだ、隣の部屋に誰かいる!?」 「誰もいないだろ、物置だぜ?」 「だって、さっきの! きっと、声とか、聞かれてた。やだ、どうしよう、」 「そうだとしても、もう後の祭り。いいじゃん、声くらい。」 「良くないですっ! でっ、でも、確かに、もう・・・、・・・、・・・、はっ、早く出ましょう! ああ、でも、椅子とか・・・どうしたら、」 「片付けは料金のうち。でも、ゴミだけ持ってく。変なことに使われたくない、」 「・・・っ、変なことって!?」 「・・・気にするな。それより、そろそろ講義時間が終わる。チャイムもすぐだ。身支度は良いか?」 「トイレ行ってきます・・・、チャイム鳴る前なら、人もいないから・・・、っ、とにかく、もう行きましょう、」 おそらく時計を見ているのだろう、慌てた春海ちゃんの声と足音と部屋の鍵が開く音。 部屋を片付けきるのは諦めたらしい。 隣の部屋にいる誰かも、既に聞かれた後なので、どうこうするのも諦めたらしい。 それより講義が優先。 それはとても春海ちゃんらしいよな。 雨の中、水しぶきを上げて走るふたりの足音が遠ざかって、男達は嘆息した。 そして、おれは怒られた。 「もう二度と、鳥貝さんは来てくれないだろうな、おまえのせいで!」 「あんなにかわいくて、普段とえっちの時のギャップのある子、滅多にいない。声も萌え。・・・それを、おまえがっ、」 知った事じゃない。 友人が猿ぐつわをほどいてくれたが、ぼくが云うべき事はない。 この大学に集団リンチをするような思考を持つ人間はいないおかげで、ぼくは言葉の矢尻を無視するだけですんだ。そもそも先の潰れた矢尻だから、傷つく余地もない。 「おまえ、分かっていると思うが、この事は絶対に他言無用だぞ!?」 云うわけがない。 春海ちゃんに「のぞき見してました」と告げ口さえされなければ。 お互いの口封じのネタは握りあっている。 「で、会員になる気は?」 責任者の男の言葉に、ぼくはほんの一瞬だけ考えてしまう。でも・・・きっと春海ちゃんは二度とここには来ないだろう。 だから、応えはノー。 「・・・むかつくけど、今日はいい経験をしたかもしれない。そこだけには感謝しとく。勿論、他言無用だから。利用料は払わんが。」 いい経験とは、今の春海ちゃんの真実の気持ちを知れた事。彼女を諦められるくらい。 ぼくを締め付けていた縄はもうない。 縄の後はくっきり残っているけれど、幸い服で隠れる。 ぼくの言葉に、サークルの人間達は嫌な顔をした後、友人の男が口を開いた。 「あの長椅子カバー、いつもはすぐに洗濯するけどね・・・どう?」 何がどう、か! 云いたいことは分かる。ぼくも実はちらりと考えていた。 百合子さんのそういうのもついている可能性もあるが、汚れているとしたら大半は春海ちゃんのそれだろう。 でも、ぼくはそんなに変態じゃない。 どうせなら、直に感じたい・・・永遠に来ないとはもう分かっているけれど。 「さっさと洗濯すればいい! ・・・っ、でも、待て。まさかおまえら、」 百合子さんと春海ちゃんが完全に行ってしまったのを確信した男達はぞろぞろと隣室に移動し始めた。 こいつら、どれだけ変態だ!? ぼくも慌てて隣室に移動する。 誓って云うが、ぼくは変態じゃない! 「分かった! ここはぼくが片付ける。金も払う! だから、彼女の痕跡に気色悪い行為をするな!」 机やテーブル周りは百合子さんと彼女が片付けていったのか、そういう痕跡は見えない。ただ、やはり布製の長椅子のカバーだけは・・・。 ぼくは男達を制して、それをはぎ取って、テーブルの上の除菌ウェッティで長椅子を拭った。 男達は不満そうにしているけれど、構わない。 「・・・お持ち帰りはなしだぞ?」 ぼくの手の中のカバーを見ての男達の言葉にぼくは「誰がするか!」と怒鳴りつけた。 ・・・心の中では、せめて匂いくらい・・・とか、思っていたのは絶対に秘密だ。 こうしてぼくは、妙な体験をして・・・悟ったのだ。 彼女の全てが百合子さんのものなのだと。 心も体も、全て。 百合子さんが彼女を独占したがるがままに、きっと髪の毛一筋にいたるまで、彼女は百合子さんのものだ。 百合子さんのどこが良かったのかなんて、聞きたくはないし、想像するのも業腹だが・・・まぁ、普通に考えれば、ぬきんでて見目が良く、頭も良く、自分を心から愛している男を嫌える女はまずいないという想像に落ち着く。春海ちゃんも、女だから。 もちろん、ぼくの想像し得ないそれだけじゃない理由があるのだろうが・・・それを考えると更に腹が立つから止めとく。 ふたりの絆を理解しながらも認めたくはない片想いの男心だ。 ちなみに、その後に春海ちゃんが向かった講義は、ぼくも履修しているものであり、例の壁男達の幾人かも履修していたが、履修していないはずの百合子さんが窓際に座る春海ちゃんの横に何故か陣取っていて、誰も彼女に近づけなかった。 けれど遠目にでも、真剣に講義を聴講する生真面目な姿とはかけ離れた、数十分前までのあの淫靡な彼女を思うと、妄想は膨らんでいるようだ。途中で何人かが退席していた。 かくゆうぼくも、少しだけ妄想に捕らわれそうになって、慌てて己の頬を叩いて、思考を切り替えた。 ・・・思えば、百合子さんは完全にあの部屋のからくりに気付いていた。 だから、春海ちゃんの素肌は絶対に見せないように配慮していた。声や物音は聞かせていたし、多少の表情を見せてはいたが、悦楽に喘ぐ姿までは見せないようにも上手く立ち回っていた・・・彼女には決してそうと気付かれないように。 ・・・つくづく、食えない男だ。 その事情を彼女が知れば、百合子さんを軽蔑くらいはしてくれるかもしれないが・・・その告白はとりもなおさず、ぼくもその事情を知ると打ち明けるも同然。 まったく・・・不毛だ。 だから、ぼくは今回の事は胸の内に仕舞っておく。そして、二度と壁男達には関わらない。 春海ちゃんを諦めきれるか分からないが、ちゃんと恋人を作ろうと心に誓う。 そう、春海ちゃん以上に好きになれる恋人を作って、その恋人とふたりに負けないいちゃいちゃを・・・と、思ってしまうあたり、しばらくあのふたりの行為の夢からは逃れられないんだろうな、と、浅ましい己を受け入れる覚悟をした。 青春時代の綺麗な想い出は、いつまでも胸に残る。尊く、甘く、優しい気持ちと共に。 きっと、彼女の存在もぼくにとってはそんなものなのだ、とはっきり気がついたのは、彼女が真実あの人のものになった時。 それはほんの少しだけ未来の出来事。 おわり |