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[鳥貝大学2年の秋]

Festival【4】


 ・・・そして、翌年の学園祭の事である。

 鳥貝は前年度ミスとしてミスコンのトロフィー授与式に出席する事となった。心配性の百合子も付き添っている。
 百合子の方のトロフィー授与式は既に終了している・・・が、当然のように求められた昨年同様の女装を百合子は断固拒否した。百合子にそれを求めたTKMCの委員何人かは、しばらく心と体の両方の傷に悩まされたとか。
 この時期、百合子・・・と、事実を知る人間さえ誰もそう呼んでいるけれど、事実、彼はもうその存在ではなくなった。混乱をきたさないために、卒業まではその呼称を続ける事は大学側で了承済みだ。
 別に隠し立てしているわけではない。
 単に鳥貝が公にするのを嫌がっているだけだ。
 元々目立つ事は好きではない、極力避けたいと思っている彼女らしい。
 なのに、その日はお祭りである。年に一度きりの学祭である。
 お祭りは目立ってなんぼ。賑わせてなんぼ。
 事実を知る者たちの口がうずうずしている。
 そう、事前に鳥貝はTKMCには事実を申し立てていた。でないと、無茶なことをされかねない・・・と、同時にそれで百合子が激怒しかねないから。
 しっかりと口止めもしていたはずだけれど・・・。
「昨年のミス、鳥貝春海さんから、本年度のミス、Hさんにトロフィーの授与です! おめでとうございます!!」
 会場から拍手がわき起こる。
 鳥貝は微笑んで今年のミスにトロフィーを渡し「おめでとうございます。一年間頑張ってくださいね。」の言葉を手向けた。
 昨年の鳥貝たちのどたばた劇のおかげか、今年の参加者は予選を行う程度には集まったようだ。
 鳥貝の出番はここまで。
 鳥貝が、舞台袖で心配しながら待っている百合子の元に戻ろうと向きを変えた時、口をうずうずさせていた司会者が遂に口を開く。
 ミスター・ミスコンの方で押さえ付けられていた(同じ司会者だ)憤懣が爆発したというか。
「Mさん、一年間鳥貝さんにあやかって頑張って下さいね! もしもMさんも運命の人に出会えて、ゴールインとかになっちゃったら、TK大ミスの輝かしいジンクスができますから、期待してますよ!」 
 気になる言い回し。
 運命の人、ゴールイン。
 会場がざわめき、鳥貝が目を丸くして司会者を振り返る。
「鳥貝さんはミスになられてからまた一段と美しくなられました。それも、愛のせいですかね。愛される女は美しい・・・ああ、百合子先輩が羨ましい。鳥貝さんを生涯独り占めできるんですから・・・、」 
「ちょ、ちょっと!」
 鳥貝が慌てて司会者の口止めをしようと駆け寄るのを、咄嗟に百合子が抱きすくめて止める。
「むやみに走るな。」
「ゆ、千里さん、でもっ!」 
「構わないだろ、別に。事実だし、」
 司会者は仲睦まじく(いちゃついて)見えるふたりをいじりたくて仕方ないらしい。
 ついに口を開いた。
「本年度の新たなミスMさんの祝賀へと移る前に、昨年度のミスである鳥貝春海さんとそのご主人となられた百合子先輩・・・ではなく、鳥貝千里先輩に、お祝いの拍手をお願いします!」 
 入籍は先月末。鳥貝の自宅に挨拶に行った時に済ませてあった。
 鳥貝には葛藤があった。
 百合子はすんなり受け入れた。
 事が発覚した先月半ばからの急展開すぎる事態は、一旦終息すると、一気に穏やかなものになった。
 両家の家族が「まだ早いけれど、仕方ない、」と、割とあっさり認めたのは、この3年に及ぶふたりの付き合いを見て、それが生涯に渡る付き合いへの序章であると実感していたからだ。数年後のそれが今に訪れただけだと。
 何より、ふたりの間には動かしがたい既成事実ができあがっていて、それが始まりと終わりの決定打になった。
 盛大な拍手と、祝福の言葉と、野次と。
 鳥貝は真っ赤になって頬を押さえて俯いてしまい。百合子は上機嫌にガッツポーズなどしている。
 百合子が司会者を手招いてマイクを催促するのに、司会者も快く応じる。盛り上がればオッケー。来年度の参加者確保を期待!
「というわけで、鳥貝春海は完全におれの物になりました。いや、正確にはおれがこいつの物になったわけですが・・・おれの苗字変わったわけですから。だから、うちの嫁にちょっかいかけた野郎はボコります。悔しかったら、おまえらも嫁を持てばいい。ちゃんと3次元のな!」 
 会場からブーイングの声が上がる。
「あと、今こいつ急激な運動させられない状態なんで、くれぐれも気をつけるように。まかりまちがって、弾みででもこいつを突き飛ばすような輩は、おれが制裁を下します。」 
 また意味深長な百合子の言葉に、鳥貝は慌てふためいてマイクを取り上げようとしている。司会者はにやにや笑って、百合子からマイクを受け取る。
「まぁ、こんな急に結婚する大きな理由はそれですよね、やっぱり・・・で、仕込みはいつ?」
「・・・っ! ちょっとっ! いい加減にしてください!!」
 ダイレクトな言葉に、鳥貝がムキになって司会者を睨み付ける。
 けれど、惚気たくてたまらない百合子はあっさり口を開く。
「予定は来年の初夏かな・・・3年の後期試験の後から休学させるんで、よろしく、」
 再び祝の言葉が各所からわき起こり、鳥貝は顔だけではなく、全身を真っ赤にして、百合子の手を引っ張ってステージを降りると、逃走した。
 ちなみに仕込み日については、ふたりともにばっちりと確信があったけれど・・・それは別の機会に。
「ゆ、百合子さんってば、百合子さんってば、もぅ!!」
 涙目で叱りつけてくる鳥貝。
 まだ名前呼びになれていないから、興奮するとつい苗字で呼んでしまう。クセは抜け切れていない。
「あんま興奮すんなって。安定期までは穏やかに過ごしとかないと、」 
「ばっ、ばかっ! これでもう、学校中に広まっちゃいましたよっ!!」
「いいじゃん。知って貰ってた方が色々融通利くと思うぞ? つわりだってまだヒドイだろ。講義抜け出しても誰かがフォローしてくれる。」
 会場を少し抜けた人気の薄い植え込みの前で、百合子は鳥貝を抱き寄せて、腹部に手を添える。
「・・・無事に育って欲しいから、」
 ふたりが愛し合った結果が、今鳥貝の中で育っている。
 それと分かった時に、鳥貝は混乱して、困惑して、悩んで、泣きさえしたけれど、今ではもう、自分の中に宿る存在こそが幸せの証となっている。
 まだ学生なのに、との一番の葛藤は周囲の暖かく優しい協力で乗り越えられそうだ。
 子供がいたって、勉強は続けられるのだし。その分、他の学生の数倍の努力は必要だけれど・・・とは、百合子の両親の言葉。
 十分とは云えないけれど援助はしてあげられる。今の内にやりたい事をすればいい。とは、鳥貝の両親の言葉。
「今日はやる事やったし、どこか見て回ろう。・・・おまえの今のマイブーム、焼きそばの屋台、やたらとあるぜ?」
「普段あまり食べないのに、なんで焼きそばなんでしょうね。そのくせ、焼いている匂いはダメなんですけど、」
 妊娠中やたらとひとつのものが食べたくなる不思議。 
「ここの所、おれの焼きそばつくる腕は上達したろ?」 
「だって、焼きそばなんて簡単じゃないですか。それに、そればかり作ってれば上達します。」
「厳しいな。じゃあ、他のものもすぐに上達してみせるよ、」
「期待してます、」
 色々なことを器用にこなすくせ、料理を含めた家事だけは苦手な百合子が鳥貝のために努力してくれている。
 それが、嬉しくて幸せだ。
 ふたり、手を繋いで歩き出す。
「ねぇ、千里さん。来年は3人で来られますよね?」
 鳥貝の問いかけに、百合子はくすくす笑う。
「ああ。来年はステージで親ばか披露するか?」
「・・・。・・・それ、ばか親の間違いじゃないですか?」
「・・・そんな事云う嫁は、こうしてやるっ!」 
「っ、ひゃぁ!」 
 往来でお姫様抱っこ。
 今まで落っことされた事はないから怖くはないけれど・・・恥ずかしすぎる。
 お祭り騒ぎで箍の外れた構内でも目立つけれど、でも。
「来年はもうひとりごと抱っこしてくれますか?」
「当たり前だ。そうだな、おまえの体型が変わらないと仮定して、あと3年くらいは大丈夫かもな?」
「体型、頑張って維持しますよ、」
 幸せにくすくす笑って、口づける。
 沸き立つお祭りの気分が、今の幸福さと合間って大胆にさせている。その鳥貝の珍しい行動に、百合子も幸福そのものに笑った。


★余談
「幸せオーラ全開でむかつよなー、」
「あの歳でさっさと子作り&結婚かよ。しかも、ミスキャンパス相手に。」
「そもそも、ヤツが生まれ持ったあの面がムカツク。」
「さらに、あのクソ捻くれた性格に加えて無駄に頭がよすぎるのが憎らしい。」
「しかーし、おれたちはあいつの幸せを未来永劫かき回すネタをがっちりつかんでいる!」
「そうだ!」
「じゃあ、ひとまずこいつらを・・・ネットに流すか?」
 昨年の映像を引っ張り出した男達は これからあと何年、あるいは何十年か先、彼らの憎むべき対象が己の若気の至りを後悔しまくることを願って、いそいそと作業に取りかかった。
 昨年の映像をPCで編集する途上、その画面をじーっと見つめながら男のひとりがぼそりとした声で切り出した。
「けどさ、女装しても美人ってのは更にむかつかね?」
「・・・。・・・。・・・・・正直に云うとな・・・、あり、だと思った、」
「・・・。実はおれもだ、」
 かの写真をこっそり胸の中にしまいつつ、彼らもきっと若気の至りを後悔する。
 そう、それが、青春!
 若者達に、幸あれ!



おわり