※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| [鳥貝大学2年の秋] Festival【3】 「ど、どこ行くんですか?」 美人な百合子を見上げて鳥貝が聞く。 「とりあえず、この扮装を解く。それから、おまえも着替えないと・・・この扮装用に借りてるテニサーのクラブハウス。」 会場から離れたクラブハウスに向かう途上、ふたりは当然目立った。やたらデカイ美女がスク水女子をお姫様抱っこして練り歩いているのだから当たり前だ。 「テニサーの連中も出店でしばらく帰ってこない。妖怪どももあの格好で学祭満喫中だろ。」 扉の前で鳥貝を下ろし、扉を開けても誰もいなかったのは幸い。 中に入ってクラブハウスのカギをしめ、百合子は改めて鳥貝にキスをする。 鳥貝もそれを柔らかに受け、けれど、途中でゆっくり百合子の顔を引き離す。 「・・・斎さんの仲間になった気がします・・・。その扮装、早く解いてください、」 くすりと笑った百合子は、栗色ロングヘアーのカツラを取って髪をくしゃくしゃにした後、洗面台でメイクを落とす。 その間に、鳥貝は百合子のブルゾンを着て、百合子に押しつけられた、そこら辺にあった人様のスコートをはいた。 「百合子さん、そのスーツは?」 「借り物。コンテスト主催者から借りたけど、多分斎さんからのモンだろ。・・・結構いいトコの海外ブランドだ。」 そのいいトコのブランドを百合子は乱暴に脱ぎ捨てた。 「こっち見るなよ、」 「え?」 鳥貝の向きを無理矢理変えて、自分の方を見られないようにした理由は・・・不自然に膨らんだ胸。・・・詰め物をしたブラをしていたのを、目の前のガラスに認めて、鳥貝は思わず笑ってしまう。 「春海っ! ・・・だから、おまえにだけは見せたくなかったのに、」 むくれた百合子はすでに下着一枚だけの姿になっている。さすがに下は自前の下着で、一応いつも通りの百合子だ。 鳥貝は笑いなら百合子を振り向いて、首を傾げる。 「優勝、したんですよね?」 「ああ。北海道旅行、目当てでな。・・・おまえもミスコンの方で取れば、ふたりで行けるかと思ったんだけど・・・、」 長椅子に座って鳥貝をちょいちょい手招く。 誰もいないのをいい事に、鳥貝も少しだけ甘えたい気分で百合子の前に立ち、導かれるままにその膝の上に対面に跨った。 「それじゃ、自腹で行きます。」 「この夏、教習所で金使っただろ。おまえに無理させたくないから、おれが自腹切るよ。」 「・・・折半にしましょうか?」 「気にするな。バイト料あげてもらって余裕ができたから、構わないさ、」 キスを繰り返し、水着の上から鳥貝の胸をまさぐり始める。 「・・・ん、ダメ・・・、」 「水着の上からのおまえの胸の感触も、いい。・・・長いことしてなかったから・・・、」 「ばか、だめです。ここ借りてるクラブハウスでしょう、誰か来るかも・・・、っ、・・・あのっ、百合子さん、もう・・・、」 話している最中にふと気付く。堅い物が下腹部に当たる感触は・・・。 「・・・うん、したい・・・。それに、この部屋のヤツらは、出店してて忙しいから、当分帰ってこないよ、」 云いながら、鳥貝を抱きすくめ長いすの上に押し倒した。 「ひゃ、も、ダメっ!」 鳥貝の抵抗を意に介さず、水着の上から鳥貝の胸を揉みしだく。かなり激しく。 「・・・水着のこの感触、新鮮でたまんない。さわっとした手触りと、柔らかい胸の感じと・・・、」 「ダメッ! 水着も借り物なんですから・・・、やっ、んっ、」 首筋に落ちた百合子の唇がそこを吸い上げて鴇色の後を残す。胸元、それから水着の布とカップ越しに、胸にも・・・。 「・・・だめ、ほんとうに・・・、や、」 鳥貝の抵抗の声もいつしか弱々しくなる。 ・・・鳥貝だって、長い間百合子を感じていなかったから・・・恋しかったのだ。 「・・・春海、かわいすぎ・・・、」 鳥貝の胸を両手で押し上げたまま、頬を紅潮させて瞳を潤ませた彼女を上から見下ろす。 「やっぱ、ミスなんてメンドクサイものになんかならなくてもいい。おれだけの春海でいて欲しい・・・、」 鳥貝がキスを拒むことはなかった・・・けれども。 携帯の着信がふたりの時間の邪魔をする。 百合子のそれが、投げ捨てられたスーツの下から鳴動している。 「・・・無視だよな、」 呟いて、行為を再開しようとする百合子だけれど、鳥貝が制する。 「出てください。急用だったらどうするんですか、」 鳥貝にきつい眼差しでそう云われては、押し切りようがない。 百合子はしぶしぶ鳥貝から離れ、携帯を手に取った。 着信は安羅からだった。 「なんだよ、」 「なんだよ、じゃない。春海ちゃんつれて、会場まで戻ってくるんだ。すぐに!」 「・・・はぁ? だって、春海はもう候補降りたから関係ない・・・、」 「なくはない。おまえの言葉に彼女自身の意志が認められないからと、候補を降りる事は却下されたんだ。それで・・・、まぁ、いい。とにかく、来い。悪いことにはならないから。」 「折角・・・、」 「お楽しみの直前だったか? そんなもの、学祭が終わったらいくらでも楽しめるだろ。春海ちゃんはおまえから逃げない。だから、来いよ? 迅速にな。」 会話の内容は鳥貝にも聞こえていた。 「何かあったんでしょうか?」 携帯を置いた百合子は、しかめ面をしながら自分の着替えに手を伸ばした。 「・・・さあな。けど・・・あの云い方なら、もしかするとおまえが優勝したのかもな、」 「・・・。まさか。あんなに引っかき回しちゃったし、わたしは特に何もしていないのに、」 百合子は困惑する鳥貝の手を引いて、再びコンテストの会場に赴いて・・・百合子の言葉通りの事態となった。 拍手で迎えられた鳥貝がステージに上がると、待ちかねたようにしていたTKMCの役員が鳥貝にたすきをかけ、肩に赤いケープを羽織らせ、頭にティアラを乗せた。 「というわけで、今回の優勝は鳥貝春海さん!」 これまでにどういった審査や遣り取りがあったのかは分からないけれど、唐突にミスTK大になってしまった。 「昨年のミスTK大、Mさんからトロフィーの授与です!」 顔くらいは知っている昨年のミスの女性がにこやかに鳥貝に近寄り、「おめでとう。色々見物だったわよ、羨ましい限り、」と云ってトロフィーを手渡ししてくれた。 銅製でTK大の校章をモチーフにされたそれは、工学部の人間お手製との事だ。 「ミスになられた感想をどうぞ!」 いきなりマイクを向けられても、戸惑うしかない。 思わず、周りをぐるりと見回す。ステージ上では候補者の女の子達がみんな笑顔で(この状況では笑い処が違うような笑顔だ)鳥貝に拍手を向けているし、安羅を始めとした審査員も、TKMCの委員達も、拍手をしてくれている。 会場でも、斎や時屋(女装のままだ。気に入っているのかもしれない)を始めとする見知った顔から知らない顔までが拍手をしてくれている。 けれど・・・状況の飲み込めない鳥貝には、何をどう云ったらいいか分からない。 「えーと、状況がよく理解できないのですが・・・ありがとうございます、で、いいんでしょうか?」 挙動不審にあたりを見回し続けてしまう。 けれど、今はどこを見てもみんなの笑顔が見えるばかりで、鳥貝への状況説明は見込みなさそうだった。 「・・・何があったか分かりませんが、ミスに選んで頂きありがとうございます。不束者ですが、これから一年間・・・一年間ですよね? どうぞよろしくお願いします。」 混乱する頭で、嫁に行くような挨拶をして頭を深々と下げた鳥貝に、会場から好意的な野次と拍手が贈られた。 「鳥貝春海さん、ありがとうございました! スク水にスコートとメンズサイズのぶかぶかブルゾンの組み合わせもマニアに受けそうで、大層好ましいですね!」 司会者の言葉は事実。意外と萌えている人間が多いようで、携帯やデジカメをステージに向けて構えている人間多数。 百合子は少々不快そうに会場の人間達を睨め付けているが、全員をどうこうできるわけではないのでとりあえず大人しくはしている。 「これから一年間、ミスキャンパスとして華の少ないこの大学に、華を咲かせてくださいますよう、お願いします! 一応大学の顔となりますので、百合子くんとのいちゃいちゃも、どうぞほどほどに・・・、羨ましいですけどねぇ。」 司会者の視線が首筋にやられている。 司会者の言葉を、言葉通りに取って顔を赤くした鳥貝は、さらにその視線の先がどこに注がれているのかに遅れて気付いて、慌ててブルゾンの襟元を手で塞ぐと更に赤くなった。 そこには勿論、先ほどの百合子の跡がばっちりと。 ・・・ともかく、今年のミスTK大は決まった。 そして、北海道旅行も獲得した。 全てが丸く収まった・・・のだろうけれど、さて? 百合子と鳥貝がステージ上から退出した後の事である。 「なかなか面白い展開になってますねぇ、斎さん、」 と司会の男が笑いながら云い、斎にマイクを渡した。 裏で結託していたらしい。 「まず、この場を引っかき回してしまった事、真剣にこのステージに挑まれた女性達に謝罪したい。申し訳ない。」 綺麗な笑顔で出場者の女性たちを見回し、深々と頭を下げる。 それから、再び真っ直ぐに前を向く。 「わたしは今回鳥貝春海の友人として彼女のアピールに一役買いたいと思いこのステージに上がっています。そして、わたしが主張する彼女のアピールポイントは今のどたばた劇でもありました。わたしが行った彼女のアピールはどうだったでしょうか?」 斎が会場・ステージをぐるりと見回すと、ぱらぱらと拍手が起こり、斎は口元を緩ませる。 「わたしはふとした縁で彼女を入学当初から知っています。その2年に及ぶ付き合いで、彼女の一番の可愛い表情がどこにあるかも知り得ました。つまり、からかわれてムキになっている所。真面目で勝ち気で純粋な彼女ならではの表情です。憤る感情に頬を紅潮させ、主張する所。泣きながら怒っている所。・・・どうしてやろうかと思うくらい可愛くはありませんでしたか? 抱きしめてやりたいとか、自分もキスしたいとか不埒なことを考えた人間こそ正常です。・・・そして、その表情を最もよく引き出せるのは、不本意ながらあの男、百合子。彼女が恋する男です。そう、恋する女とはああも可愛いものなんです。そして、わたしや男性諸氏がどうしてやろうかと思いつつもできない事を、平気でやってのけるのもあの男。だから、正直、わたしはあの百合子という男が嫌いなのですが、」 言葉で笑いを誘う。 斎と百合子を知る者は、彼らの仲がよろしくない事を大抵知るのである。 「ステージを降りた彼らが今どこにいて何をしてるかは・・・想像に難くなく、その想像を敢えて口に出せば・・・桃色のふたりの世界にいる事でしょう。・・・悔しくありませんか? 腹が立ちませんか? あの男だけがそんな美味しい思いをするのは・・・そう、今まさに美味しく彼女を頂こうとしている状況だと想像を巡らせれば、どうしようもなく憤りませんか?」 同意を求めるように会場を見回せば、頷く顔多数。特に百合子と交流がある人間、それから恋人のいない人間(過半数超)は強く頷いている。 「わたしは、あのいけ好かない不道徳自己中男に制裁を加えてやりたいと常日頃から考えています。そして、あの男にはどんな制裁が効くかと。・・・それは、今この現状では自明もいい所。彼女をミスに選出し、ここに戻ってこざるを得なくする事。私情で結構。賛同する者は、是非、鳥貝春海をミスに!」 アピールというよりは、演説になっている。 けれど、確かに、会場からは拍手がわき起こった・・・もちろん、男性ばかりである。特に、彼女がいない男。 安羅も審査員席で笑いながら拍手をしている。 加担していたわけではないけれど、斎の魂胆を知っていて、それに乗った節がある。おかげで、斎の云う「頬を紅潮させ、泣きながら怒っている」かわいい表情を引き出せたわけだ。 マイクは再び司会者の手に渡った。 「斎さん、熱のこもった演説ありがとうございました!」 笑い声で司会者は云い、状況を見守っていたTKMCの役員達もやけに楽しそうに笑っていた。 実はTKMCは斎と完全にグルであるから、ここら辺の話も事前に聞いていたようだ。 時間を取られ、かなりどたばた劇になったにも関わらず、彼らが喜んでいるのは、ひとえに「ミスコンの成功」が目前にあったからである。 そうして、審査員が審議した結果「鳥貝春海の辞退についての言明は、本人の言葉ではないため、そこに彼女の意志は認められず、よって彼女の辞退は却下する。」という事になった。 ミスの選出はポイント制である。 審査員5名と事前に無作為に選ばれた一般生徒男女各10名ずつが投票権を持つ。審査員が5ポイント。一般生徒が2ポイント。持ちポイントの限り、誰に何ポイント入れても良い事になっている。合計65ポイント。獲得ポイント数でミスは選出されるわけだ。 そして、結果は・・・前述の通りである。 半数以上のポイントを獲得し、鳥貝はミスに選出された。 本人の実力?あり、斎主催のどたばた劇あり、斎の演説ありの結果なのだろう。 そして、それらはほぼ斎の目論見通りだった。 TKMCの目的は、どんなやり方でもいいからミスコンを盛り上げて、来年の出場者を確保する、という事。昨年でさえどうにかかき集めて5人にすぎなかった。もし今年、あるいは来年それ以下になれば開催が危ぶまれ、委員会の存続が怪しくなる。 その盛り立てに、人望・人徳、魅力、統率力、存在感、要するにカリスマ性の高い斎が絡んで来てくれるのはありがたいかぎりで、斎と親交のある何名かが、昨年の鳥貝出場依頼の件を引き合いに出して結託を申し入れ、斎も快く受けたのが裏事情。 さらに、斎同様目立つ百合子が絡めばもっと盛り上がるに違いないとも踏む。 が、百合子がこういった事に参加する事はまずない。彼は自分の興味を持った事以外動かない。更に云えば現在の彼の行動基準はほぼすべて恋人の鳥貝である。 そこで。 ミスター・ミスコンの方はTKMCではなく、学生達からの要望で立ち上がったイベントで、主催の母体は一応TKMC有志だ。(ミスコン以上の盛り上がりは想定外であったけれど)そちらのイベントで、本来の本流であるミスコンが相乗効果を起こせばいいと、そう考えた結果・・・。 百合子をミスター・ミスコンに参加させる。 鳥貝をミスコンに参加させる。 事となった。 ここら辺については、主に斎の提案。 参加させるために百合子を脅すネタを提供したのは・・・時屋であるけれど、彼の場合は単に面白可笑しい学祭にしたかったのが理由で、ある意味愛校精神故とも云える・・・かもしれないが、多分違う。自分が面白がりたかっただけだ。 脅しのネタは、百合子がバイト先の店先で男とキスしている写真、である。しかもそれぞれ違う相手と複数枚。それを鳥貝に見せるぞ、と。写真はTKMC関係者が張り込んで撮ったとしてあるが、実際は時屋が張り込んで撮った。ちなみに報酬は学食の食券三ヶ月分。 写真の件についての百合子の主張は「無理にされたんだ、どれも。それに、ごく日常茶飯事の事なんだよ!」なのだけれど・・・そういう言い訳が通用する鳥貝ではないのは、脅された方はもちろん脅す方も理解済み。 結果、現状とあいなり、予想通り・・・それ以上の大盛況を見せた。 TKMCの人間もしっかりした手応えを感じて、笑いたくもなるというものだ。 鳥貝がミスに選出されるかどうかはともかく、鳥貝が出場する事が重要であった今回のミスコンだが、彼女が見事優勝する事で、協力者の斎の本懐も果たせたのだから、結果オーライ。 百合子のミスター・ミス優勝についても、当初から関係者のみならず、彼の出場を知った人間の大半から出来レースになるだろうと考えられていたけれど、こちらは経緯(とにかく学祭を盛り上げる)の方が余程重要だった事から、こちらも結果オーライ。 誰しもが満足する盛り上がりのある文化祭となった。 それはもちろん、裏事情を知らないまま担ぎ上げられていた鳥貝と、斎が絡んでいると知った段階で裏事情を把握した百合子にとっても。 「連休を利用しての北海道旅行、楽しんできたみたいだな、」 「はい。斎さんには色々お世話になったので、これとこれと・・・、」 学食で斎と待ち合わせてお土産を渡す。 友人達には北海道限定のお菓子をばらにして渡したけれど、お世話になった斎にはそうはいかず、色々買ってきた鳥貝だった。 「肌もつやつや。昼も夜も楽しんで、女性ホルモンたっぷり出してきたわけだ、」 くすっとからかうように笑われて、言葉の意味を解した鳥貝は真っ赤になり、けれど唇を尖らせただけで反論もしなかった。 楽しかったのは、事実。昼も・・・そして、夜も。 「大学の顔で華のミスが常に美しくあるのは当然だからな。今後も節度を弁えつつ、楽しく過ごすといい。勿論、あの男相手のきみだから・・・相談はいつでも受ける。」 「はい、ありがとうございます。でも・・・ミスってそんなに責任重大なんですか?」 「いいや。そうでもないらしい。所詮知名度の低い工業大学のミスだからな。時々各メディアからお声はかかるらしいが、基本的に学生課からTKMCに話が入って後にきみの元に届くから、内容は精査してくれるだろうし、嫌ならば断ればいい。露出が必要な依頼の場合は私に声をかけてくれたら、いくらでも手助けはする。」 「はあ・・・、」 学園祭以来、学内の新聞やフリペーパー等から多少のコメント依頼があっただけで、特別何かがあったわけではないから実感は湧かない。 でも、一応自分が大学の顔なのだとは自覚しないと、と真面目な鳥貝は思う・・・のに。 「はーるみ〜、」 「・・・っ!」 背後から急に抱きつかれてびくんとする。突然のことに驚いただけで、その相手が誰かはしっかり分かるので、悲鳴の声はない。 「お土産、配り終えたのか?」 「はい、斎さんで最後です。」 自分の腰に回ってくる腕を振り払いながら、鳥貝は背後を振り返る。 「北海道、存分にお楽しみかい?」 斎が笑い声で云う。鳥貝には理解しきれない意味を含ませて。 「もちろん。元はとらないとな。感謝もしてるけど、色々辛酸も舐めたから、まだ足りない。あいつらへの貸し付けは、これくらいじゃ精算できない。・・・あんたへの貸しにもしとくか?」 「わたしは関係ないだろう? 特に利益供与は受けていない。」 「黒幕になって、楽しみまくっていたのはどこの誰だ? 娯楽を与えてやっただけでも貸しだと思うが。」 「失礼な。鳥貝はこんなにわたしに感謝してくれていると云うのに、きみは私への感謝の言葉もなしか。」 きょとんとする鳥貝に笑いかけ、百合子を緩く睨み付けた。 「えーと・・・、話の筋が読めないんですけど、百合子さんがお借りしていたスーツって斎さんからのものなんですよね? 感謝というなら、そのお礼はすべきじゃないかと・・・、」 このふたりが顔をつきあわせた場合の常の軽い険悪なムードだけれど、それをいつも緩和させるのが鳥貝。 「さすが、鳥貝は物の道理を分かっている。だって、百合子?」 「・・・あんたからの物だって気付いたのは、全てが終わってからだ。あんたにとったらあれくらいの出費、痛くもないだろう。」 「金の問題じゃない。そこは、礼儀の問題だ。人から物を借りたら礼をする。常識だよな? 鳥貝。」 そして、斎の方が上手なのもいつもの事。 「百合子さん、やっぱりまだお礼していなかったんですね。」 鳥貝は百合子を睨み上げる。 礼を失した行いを、鳥貝は嫌う。 そして、かの事象の黒幕よりもむしろ被害者の百合子の方が下手に出なければならなくなるのは、鳥貝を上手く味方につけたもの勝ちの結果。 百合子は不承不承に斎に礼を云い、その後、思いっ切り鳥貝を抱きしめて高々と宣言した。百合子だけに許された勝利宣言かもしれない。 「あんたへの貸しはナシにしておいてやってもいい。何しろ、あんたが欲しくても手に入らない物をおれこそが手に入れているんだからな。おれと春海が愛し合ってるのを指をくわえて見て、悔しがるがいい!」 「・・・っ!ちょっと!」 鳥貝がじたばたもがいても解放してくれない程に強く抱きしめられている。 斎は、ふぅとわざとらしく溜息をついた後、肩をすくめた。 「確かに、きみなんぞに鳥貝が惚れているのは悔しい事限りないが、わたしはきみと違って我欲的ではない。だから、鳥貝の幸せを優先してやりたいのさ。なんと純粋な愛。だから・・・鳥貝が拒否らない限り、思う存分いちゃつきたまえ。」 「斎さんっ!!」 「ただ、体に跡は残さないのがいいだろう。ミスとなった彼女には、いつ肌の露出のある依頼が舞い込むかもしれんからな。」 悔しがるどころか釘を刺すように云われて、百合子はむっとした後、にんまり笑った。 「こいつの肌を易々と他人には見せやしない。見せるくらいなら、おれの所有の証をちゃんと刻んどく・・・ずっと消えないように。」 云いながら、早速、鳥貝の首筋に唇を這わせて、甘く吸い上げにかかる。 「・・・っ!!」 人前である。 場所は学食である。 いくら講義中の時間帯でも、講義のない、時間の空いた学生が各所にいる。 もちろん、彼らの遣り取りは注目を受けている。 鳥貝は顔を真っ赤にしてじたばたと暴れ出した。 「止めてください!百合子さん、ちょっと!! 人前ですからっ・・・!」 周囲の人間の注目と野次を受けて、鳥貝の頭は混乱し始める。 普段割と冷静で感情を乱しにくい鳥貝だから、一旦混乱すると何を口走っているか分からなくなる部分が多々あり、それでいつも百合子に言質を取られるのだけれど。 「人前とか関係ないし。おまえがおれのものだってのを、大学の人間余すところなく知ってもらえるのはおれにとったら嬉しい成り行きだ。」 「わっ、わたしは嬉しくありませんっ。それに、わたしは肌を露出するような依頼は受けませんっ!」 「それはもうどうでもいい。おまえがおれのものだって証拠をしっかりと記しておきたいだけだから、」 云いながら、反対側の鳥貝の首筋に唇を押し当てた。さっきまで吸われていた場所は、既に痣になっているに違いない。 鳥貝はより慌てふためいて、自ら墓穴を掘る。 「なっ、何もこんな所で跡をつけなくても、帰ってからでも・・・、・・・っ!」 云いながら自分でもそれが墓穴だと気付いた。 でも、もう後の祭り。 一度口から出た言葉はなかった事にできない。 「・・・そ、分かった。じゃあ、帰ってからたっぷり跡をつけてやろうな。」 「っ、や、百合子さん、それはっ・・・っ!」 拘束する力が緩み、慌てて振り向けばにやにや笑う百合子。 「・・・ふむ、なるほど。鳥貝は存外好き者らしいな。」 「っ! 斎さん!?」 「ということは、今年のミスのキャッチフレーズ、考え直すべきかもしれん。さっそくTKMCに進言してこよう。《TK大にひっそりと咲いた純情可憐な一輪の花。あなたの心を癒します。》だったか。直すなら、そうだな《TK大に咲いた艶やかな花。あなたの夜を潤します。》とか・・・、」 「・・・っ!! 斎さん!? 斎さん、ちょっと!」 「春海が潤してくれるのは、おれだけだけどな、」 鳥貝としては、ミス・キャンパスというものを至極真面目に受け止めようとしているだけなのに、こうやって斎に翻弄され、百合子に弄ばれ・・・一番の被害者は鳥貝かもしれない。本人に被害者としての自覚が薄いとしても。 ・・・何にしろ、祭りの後は寂しいもののはずだけれど、鳥貝の場合は更に賑やかになったかもしれなかった。 「ミス・キャンパス、辞める事ってできないでしょうか!?」 真剣に詰め寄った鳥貝を、TKMCの役員が必死に宥め、さらに斎と百合子にもこれ以上鳥貝をいじってくれるなと泣きながら懇願したと云うが・・・裏で画策した報いがその程度で済んで良かったのかもしれない。 実際、翌年にミスコンもミスター・ミスコンも、盛況をみせた事を思えば、それくらい安い代償なのだろう・・・おそらく。 そして、その翌年はと云えば・・・。 つづく |