※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
>>こちら

[鳥貝大学2年の秋]

Festival【2】


 そして、当日。
 コンテストは昼イチ、校舎前の特設ステージで開かれる。出場者たちは候補者用の教室で待機中である。
 出場者同士、頻繁に顔を合わせていたものだから、仲良くなってしまい、待機中まったり歓談をする。ほぼ全員他薦で出場する事になった面子なので、そもそもライバル心はない。ただ、優勝の「北海道旅行」だけは、欲しいけどねー、と話をする程度だ。
 1年生が4人、2年生が2人、3年生がひとり。やはり、基本的にまだ初々しい一年生が騙されやすいらしいと知れる。
「ミスター・ミスコンの方はどうなってるんだろうね、」 
 話題に登るのは鳥貝には聞き覚えのない名称。
「参加希望者30数人って聞いたけど、本選に残ってるのは5人なんだよね。」
「収拾付かないからでしょ。予選もヒドかったらしいよ。非公開だったけど、委員の子情報では、書類選考で15人までに絞ったのに、それでも丸一日がかりだったみたい。馬鹿騒ぎで。」
「ああ、今もなんか、盛り上がってる気がする。見たいな−、」
 鳥貝だけが話題についていけない。
「でも、まぁ、やっぱり優勝は・・・、」 
 ほとんど全員が鳥貝を見る。その意味も分からない。
「鳥貝さんの旦那でしょ、」
「・・・はぁ?」
 ダンナ、旦那・・・、といえば、時々からかいで云われる存在がいるといえばいる。けれど何の事やら分からない。
「わたしたち役員のAさんから口止めされてたんだけど、もう当日だからいいですよね、」 
「百合子先輩、優勝するよね。」
「真っ当に一番キレイですよね、」
「本当は安羅先輩も打診されていたみたいだけどね、研究が忙しいからってさらりと逃げちゃったみたい、」
「ああ、安羅さんかぁ。見たかったなぁ、」
「わたし、安羅先輩って遠目にしか見たことないんですけど、やっぱり格好いいですよね?」
「・・・ええ、うん、格好いいというか、綺麗というか、」
 問い掛けに応えながらも、やっぱり意味が分からない。
 取り残されて、始終首をかしげる鳥貝に、苦笑いの同級生が説明しようと口を開いてから、やっぱり口を閉ざして、他のメンバーに目配せする。
「やっぱり、云わない方がいいかな。百合子さん本人が云った方がいいよね、」
「そうね。終わったら報告に来るんじゃない?」
「報告に来るといいな。見てみたいです、わたし、百合子さんとお話したことない、」
「鳥貝先輩とラブラブしてるのをたまに遠目に見かけますけど、一度間近でお目にかかりたい。」
 鳥貝としては、一方的に百合子に擦り寄られているだけで、別にラブラブしているつもりはないと思うのだけれど・・・メンドクサイので否定はしない。
 大会の開催まであと15分後。
 リハーサルは前日に済んでいるし、説明も準備も終わっている。
 お祭り騒ぎの延長のイベントだけれど、大勢の前に立つ事を考えると、やはり皆緊張するようだ。雑談をしながらもそわそわし始めている。
 渡されたナンバープレートはネット投票の順位通りで、鳥貝は3番。1番2番はやはりというか、1年生の女子だ。初々しさには適わないと、最下位だった3年女子は笑う。
 と、そこに、部屋の外の騒ぎが飛び込んできて、室内で打ち合わせをしていた委員が扉を開けて顔をだす。
 一応この部屋は関係者以外立ち入り禁止になっているのだけれど・・・委員達を押しのけて進入してきた数人の人間。
 様々な格好をした数人の女性。看護士、婦警、巫女、ドレス姿の女性。それだけでも異常事態だけれど、何か違和感が。
 女性にしては、体格がいい気がするのだ。
 参加者達が呆然としている中、室内に入り込んだ彼女?達は、ミスコン参加者の女性達に向き合って、最初に婦警が声を上げる・・・野太いそれが室内に響く。
「ミスコン参加者の諸君!」 
 男だ。
 次に声を上げたのは看護士。もちろん、男性の声だ。
「我らの戦いは終わった。我らは敗北した。次はきみたちの番だ。」
「互いに切磋琢磨してここまでたどり着いたきみたちなればこそ、人々の記憶に残る、素晴らしい戦いを極められるであろうと思う。」
「ついては、我々はきみたちの健闘を祈り、ここに万歳三唱できみたちを送り出したい。」
 数人の男?達が浪々と声を上げてそう云い、男?達の万歳三唱が始まった。
 野太い声での合唱である。けれど、姿は疑似女性である。
 最初呆然としていた参加者の女性陣は、途中から大爆笑の坩堝。
「これ、これって、アレ! ミスター・ミスコンの人達よね!」
「サイコー!!」
 お腹を抱えて大笑い。
 ただ、鳥貝だけが呆然としていた。
 しかも、その疑似女性たちの中に見覚えのあるような気がする人物もいたからである。
「春海ちゃ〜ん!」
 見覚えのあるような気のする、肩口の大きく開いたワインレッドのナイトドレスを着た、黒いストレートロングヘアのその人物が手を振った。
 聞き覚えのある声だった。
「・・・もしかして、時屋さん・・・、」
 不自然に膨らんだ胸の間から取り出したいつもの黒ブチメガネを掛けたから、ますます納得する。
「頑張れよ! ご褒美にいいモン待ってるからな!」
 励ましの言葉は有り難いけれど、異次元ワールドと化したその場で、その言葉は現実味を持って感じられない。
「優勝は誰だったんですかー?」 
 一年女子が声を掛けると、疑似女性たちは顔を見合わせた後、可愛らしく唇に手を当てて「ナイショ」と云った。ちっとも可愛らしくない。
 異次元ワールドを醸し出す疑似女性たちは、必死で笑いを堪えて泣いてさえいる委員に押し出されて退出した。
 が、参加者の女性達はまだ笑い続けている。
「あははは、はぁ・・・ふっ、腹筋イタイ・・・、」
「緊張は取れたけど、コンテスト前にこんだけ笑わせるなんて、卑怯!」
「で、でもっ、本当に見たかったですね、ミスター・ミスコン!」
「撮影はしてるみたいだから、後で見せて貰おう、」
 鳥貝だけが、笑うに笑えない。
 すこーしだけ予感が掠めていた。
 ミスター・ミスコンこの名称、女装した男性、いつか見た肌理細やかな百合子の化粧・・・等々。
 パズルのピースが良い具合に集まってきている。完成性は間近だ! しかれども、完成してそこに見えるものは果たして!?
 鳥貝が悶々としだした頃、コンテストへのお呼びがかかった。
 本番開始である。
 女性たちも笑いをおさめて、背筋をピンと延ばした。


 最初は1番から順番に簡単な自己紹介である。
 バックステージから私服で現れ、ステージ上を歩き、マイクの前でスピーチする。
 元々男性率の高い大学だが、さすがミスコン、会場はほぼ男性で埋まっていた。秋も深まる10月頭だというのに、激しい熱気だ。
 鳥貝も一応無難にこなせた。
 が、鳥貝が登場すると妙な笑い声が多数あがったのは何故だろう。あと、妙なヤジも飛ぶ。「がんばれ、春海ちゃん!」と、見知らぬ人から云われるのも妙だし、「美女美女カップル!」「目指せWミス!」等はイミフメイだ。
 全員が登場すると、特技披露。
 歌、楽器はごくノーマルな特技ではあるが、自作ロボット披露やら現在発見されている星団・星雲暗唱は特殊だと思われる。・・・会場からぶちぶちと小さな不満声が上がる。「色気がない」等が主な内容。
 鳥貝は比較的ノーマルに料理、だった。というか、それ以外思いつかなかった。世界有名現代建築物の名称・所在地・設計者名の暗唱も考えたけれど、妙かも知れないと思ったから取り下げたけれど・・・星団・星雲暗唱があるくらいなら、それでもよかったかもしれないとここに至って思う。
 ともかく、下ごしらえしてきた料理をステージ上で簡単に調理し、審査員に振る舞った。審査員には何故か安羅がいて(数日前に急遽特別審査員に抜擢されたとの事)、「いつも通り美味しい。でも、身内贔屓はしないからね?」とこっそり云って笑った。
 さて、一通り自己アピールが終わった後は、会場の男達お待ちかねの水着審査。
 お約束で、定番である。
 鳥貝は色々考えた末、ショートパンツ付きの水着を選んだ。上がタンクトップタイプのものである。こういう場で肌を露出するのには、やっぱり抵抗がある。
 ・・・が。
 準備時間に着替えようにも着替えの中にその水着が入っていない。
「確かに入れたはずなのに・・・、」
 鞄の中身を全部空けても見つからない。
 おろおろする鳥貝の前に現れるのは・・・斎だった。
 この定番の流れに、動揺しまくりの鳥貝は気付かず、思わず自ら斎に助けを求め・・・結局後悔して、事の後でこれは罠だったのかもと思い至るのである。
 ともかく、斎が差し出したのは白い水着だった。鳥貝が今まで着たことのない、露出過多のそれに、鳥貝は絶句する。
 下は横紐仕様。普段の下着だって、百合子の強い要請がなければこのタイプのものははかない。
 上は布が少なめで、ほとんど単なる三角形の布状態。
 外国人女性がどこぞの南国ビーチででも着ていそうなそれだった。
「嫌ですっ、無理ですっ!!」 
 鳥貝が拒否すると斎はわざとらしく(後で考えれば、確実にわざとだ)頭を抱えた後。
「となると、これしかないんだが、」
 と、取り出したそれに目を丸くしつつも、究極の選択に鳥貝は後者を選ばざるを得なかった。
 まぁ、後で考えれば色々おかしな事だらけの水着事件ではあるが、結果的にこれが彼女を勝利へと導いた・・・のかもしれない。


 参加者達が着替えている間、会場では中間投票があった。結果には反映されないが、会場に集まった先着100人の人間に投票権が与えられていた。
 順位には色々変動があったものの、鳥貝は相変わらず3位という中間の位置をキープだ。
 そして、水着審査後、それがどのように変わるのか・・・。
 各々が無難な水着を選んでいる。大半が今年流行したタイプのビキニではあるが、その中で異彩を放っていたのは・・・鳥貝の・・・いわゆるスクール水着だった。
 登場と同時にどよめきが起こり、司会を務めるTKMCの委員から突っ込みが入った。
 鳥貝だってかなり恥ずかしい。顔どころか全身が赤くなっている。
「鳥貝さん、なんでまたそんなマニアックなチョイスを?」
「ち、違うんですっ! 水着、忘れちゃったみたいで、それで、借りられるのがこれしかなくって、だからっ、」
 濃紺のスク水を着て赤くなり、しどろもどろになっている姿。
 意外と会場の男の大半がデレている。余談ではあるが、この大学にはマニアック好みの男が多い。
 最近ビキニタイプに押されてあまり見かけなくなったワンピースタイプのそれは、ビキニタイプよりも体のラインを顕わにする。白い肌にぴったりと寄り添う濃紺の生地。しかも、鳥貝はいわゆる着やせするタイプで、普段の見た目よりスタイルが良く、その部分が殊更強調されて見える。
 が、鳥貝としては、いたたまれないにも程がある。
 審査員席で、安羅が口元に手を当てて笑いを堪えてる様子なのにさらにいたたまれなさが募る。
 鳥貝も見た進行表通りの流れとしては、これから審査員からの質問に入るはずだったけれど、その前に鳥貝にだけ知らされていなかった流れになった。
 つまり、友人知人からのアピールタイムだ。
 他のメンバーは友人、あるいは先輩等、事前に打ち合わせをしてあった者達がステージに上がり、本人のアピールポイントをコメントしている。
 再度鳥貝の慌てる事態となるが・・・現れるのは水着事件と同じくの斎。
 正確には、委員の女性が斎の手紙をステージ上で待機する鳥貝にそっと渡した。
『きみの順番になったら、わたしが出るから安心しておくように。』
 斎らしい達筆でそう綴られていて、鳥貝はほっとしつつも、奇妙な胸騒ぎを覚える。元々女のカン的なものからは縁遠い鳥貝だけれど、ここ近年は鍛えられているのかもしれない。・・・あるいは、虫の知らせとも云うべきものかもしれないが。


「では、鳥貝さんの友人からのアピールタイムです、どうぞ!」
 ステージに颯爽と上がってきたのは、斎・・・だけではなかった。 
 斎の後ろに続いて、どこかで見たワインレッドのナイトドレス姿の・・・時屋を含む疑似女性数人が大きな黒い、不織布の袋を担いでやってきた。黒い袋はもごもご動いていて・・・。
 カンのいい人間はまさかと思ったのか、会場からどよめきの波が広がる。
 そう、黒い袋の大きさは、正しく人間大。
 そして、実際・・・。
 ステージ上に広げられたマットの上に投げ出されるように置かれた布袋。
 鳥貝だって、まさかと思っている所に、斎に促されて袋の口紐を空ける事になって・・・。
「・・・・・・!!!」
 中から出てきたのは、白地に濃紺のストライプの入った上品なスーツを着た美しい女性・・・ではなく・・・。
「・・・もしかして、」
 口には猿ぐつわらしきものを噛まされていて(鳥貝には理解が及ばないが、そういう専門の器具である)、手足は紐で縛られている。
 久しぶりに陽射しの下に出てきたためか、目を閉じ、しばらく瞬きをした後、目前に広がる会場を見て、自分の横にいる鳥貝を見て目を丸くして、自分の状況を把握したらしく、もごもごと何か云いたそうにしている。
 鳥貝が慌てて猿ぐつわを外してやると。
「てめぇら、何考えてんだっ!」
 開口一番の怒声だ。
 美女の口から男性の声。しかも悪態。
「時屋、おまえもそっちにグルだったのかよ! てめぇ、覚えてろよ!」
「やー・・・、長いものには巻かれちゃうかと思って、」
 美女?に鋭い視線を投げかけられた時屋が苦笑いで応え。
「何より、今回の件は、あんたが首謀者だな! 斎さんっ!!! 大概にしやがれっ!!」
 にやにや笑う斎は、笑いを爆発させた。
 まるで悪の女幹部のようだ。
「きみが女性、あるいは女性の心を持っているならばこんな事はしやしない。けれど、きみはあくまで男だ。これぐらいの経験、一度してみればいいんではないか。しばられて袋の中、か。なかなか出来る経験ではないな。貴重な体験だ。」
 哄笑の後、そう言い捨て、身動き取れずに呆然と座り込む鳥貝に笑いかける。
「それより、見たまえ。きみの愛しい恋人の姿を。」
「…春海、」
「えーと、やっぱり、百合子さん、ですよね?」
 名前を呼ばれてやっと鳥貝の金縛りはとける。
 声や口調が百合子のそれでも、今目の前にいるのは女性にしか見えないくらい麗しくて・・・。
 多重の驚きに、どこからどう突っ込んで良い物やら分からない。
 まごつく鳥貝に、百合子の溜息混じりの声。
「おまえ、なんでよりによってスク水なんだ? 逆にすげぇ、ヤラしいぞ?」
 なんだか、カチンとくる口調。
 自分でも結構気にしていたから余計に。
「ゆ、百合子さんに云われたくないですっ! なんですか、その格好は! すごい・・・すごい、綺麗すぎですっ! なんか、またわたしに劣等感植え付ける魂胆で、」
「ちょっと待て、綺麗すぎ? それ褒め言葉じゃないだろ、この状況で。というか、まず云う事、それなのか?他に何かあるだろ?」
「真っ先にそれしかないじゃないですかっ! 一体、何なんですか、それ。今日までずっと黙って何かしてると思ったら、そんな格好で現れて、」
「手足縛られてる事なら、不本意極まりないんだ。文句なら斎さんグループに云え、」
「わたしが云っているのは、その女装の事ですっ! 何で何も話してくれないんですかっ! わたしの方はミスコンのこと、ちゃんと話してますよね!?」
「聞いてるけど、スク水になるとは聞いてないぞ。おれだって、おまえのスク水見るの初めてなのに! おれより先に他の男どもにみせるなんて・・・!」
「ばかっ!! なんでそういうずれた事ばかり云うんですかっ、そもそも、百合子さんはっ、」
 ふたりのいつものじゃれ合いにしか見えない痴話喧嘩だ。
 と、ステージ上のふたりの前を、TKMCの役員が客席に向けてプラカードとスケッチブックらしきものを向けて往復する。
 が、もちろん、当のふたりは気付かない。
 客席がざわざわしたり、笑っていたりしても気付かない。
 完全にふたりの世界で云い争いを続けている。
 実はプラカードには写真が貼ってあった。つまり、百合子のビフォーアフター。
 女の子達から黄色い声が上がっている。
 それから、スケッチブックには。
『TKMCからお願い
ミスコンでは来年度の出場者を募集しています。自薦他薦は問いません。』 
『ミスコン参加者には、彼のようなステキな恋人ができる事必死!』
『1年かけて美しさに磨きを掛けて、来年こそは是非ご参加下さい!』
『ミスター・ミスコンも同時募集中! 美しくなりたい願望は、女性のためだけのものではない!』
『彼女のような可愛い恋人ができちゃうかも?』
『※これをきっかけに同性に言い寄られても、また恋人と別れても、当委員会は一切責任を負いません。』
 などである。
 ・・・実は、年々人材不足になげくTKMCが斎と噛んでやった部分もあるのだけれど・・・ふたりはその事実を知らない。
「なあ、鳥貝、」
 痴話喧嘩を続ける鳥貝の肩に斎が手を置く。
「そろそろこんな男、見限ってやったらどうだ? 今回の件で愛想も尽きたんじゃないのか? だって、女装だぞ、女装! 最悪だな。いくら性根が腐っていても、きみという恋人がいながら、これでは、な。」
「斎さん、あんた何を企んでるんだ!」 
「別に、何も。ただ、祭りをより盛り上げてやろうと思っているだけだ。ほら、おまえのおかげで会場も沸いている、」
「・・・っ、手足の縄、ほどけよっ!」
「ほどいたら、何かやらかすんじゃないのか? それとも、逃げるか?」
「逃げない!まず、そこにいる妖怪どもをぶちのめす、」
 妖怪ども・・・いや、疑似女性たちに鋭い視線を送り、歯軋りをする。
 美しいからこそ、今の百合子の激情を表した顔は最悪に凶悪になっている。
 疑似女性たちは、顔を見合わせた後、退去を決め込んだ。お別れの投げキッスがとても・・・キモチワルイ。
「おまえらーー!!!」 
「じゃあね、春海ちゃん、ガンバレ!」
 時屋が最後にひらひら手を振って、取り残され気味の鳥貝は溜息をつく。
「・・・収拾がつきません・・・。百合子さん、紐をほどくので、その扮装解いてきてください。・・・あと、余計なことしないでいいですからね、面倒ですから、」 
「鳥貝は相変わらず甘いな。もっとこう、『あなたがこんな変態だとは思わなかったわ! もう別れる!』とかになってくれれば楽しいんだが、」
「斎さんっ!!」
「・・・百合子さんが変態なのは、最初から分かってますから・・・。こういう事はもう、諦めてます。」
「春海、ちょっと待て。なんだ、おれが普段からこんな格好をしているような云い方! おれは女装なんてしたことないし、興味もないっ!」
「女装していなくても、変態です。それで、どれだけ苦労したか、」
「確かに、変態は自認しているがな、今回の件と同一視されるのは、遺憾だ!」
「変わりありませんよ、だって、」
 夫婦漫才の粋である。
 斎は完全に面白がっている。
 これこそ収拾がつかない。
 というか、結構時間を押していて、今回の首謀者でもあるTKMCの人間が止めようかどうかおろおろしている間に。
「もうここまでに、しよ?」
 審査員席から安羅が立ち上がって近寄ってきていた。
 姿勢のいい歩き方だ。
 濃紺のジーンズに皺のない白いシャツ、芥子色と茶色の秋らしい色使いのブルゾン。今日は落ち着いたゴールドの縁のついた眼鏡をしている。
 相変わらず文句なく格好いい。
 会場と出場者の女性達から溜息が漏れる。
「安羅さん、」
「安羅、おまえもさっきから関係ないフリしてるけど、絶対何か一枚噛んで・・・、」
 やっと腕の紐を鳥貝に解いて貰って、自分で足の紐を解きに掛かっていた百合子が、安羅にさえイチャモンをつける前に、安羅は・・・。
「ひゃあ!?」
 鳥貝を抱え上げた。お姫様抱っこというヤツだ。
「百合子、おまえがあんまり騒ぐから、コンテストが台無しだ。それでなくても、かわいいミス候補者についたお邪魔虫なのに、」
「ちょっと、安羅さん!?」
「安羅、春海を離せっ!!」
 鳥貝を抱え上げたまま、コンテスト参加者が待機しているステージ端の席まで連れて行く。
 会場・ステージ上から悲鳴が上がる。その色は黄色。そして、主に女性。
「春海ちゃん、すごく手触りのいい肌してる。・・・百合子が羨ましいな、」
「・・・っ!」
 安羅は驚きで抵抗できず固まった腕の中の鳥貝にこっそり耳打ちし、さらには脚を抱えた手の指先をそっと肌に這わせた。
 ぞくりとして鳥貝は一気に赤くなった。自分がまだスク水姿だった事も思い出した。
「っ、ちょ、安羅さんっ!」
「ごめんね。でも、きみたちの痴話喧嘩をステージの真ん中で続けられると、中々進行しないからさ。」
 腕の中の鳥貝を、席近くでやっと解放して、参加者の女性たちにとびきり綺麗な笑顔で笑いかけた。
 女性たちはぽーっと見とれいるが、鳥貝だけがしかめっ面をしている。
「安羅さん、やらしいです。」
「そお?」
 頬を膨らませた鳥貝ににやりと笑った安羅、何か勘づきつつも避けきれない鳥貝。
 いきなり頬を引き寄せられて、キスされた・・・唇に。軽く吸い付くだけのそれだったけれど・・・鳥貝は目が点になって動けないし、参加者の女性たちは悲鳴を上げるし、会場はどよめくし・・・。
「安羅ぁ!」
 やっと足の縄を解いた百合子が怒声を発して駆け寄ってきて、安羅の肩を掴んだのを、安羅は制してその耳元で囁いた。 
「春海ちゃんに優勝して欲しいんだろ? だから、そんな格好までしてさ。なぁ・・・しっぽり北海道旅行、」
 百合子は今にも殴りかかりそうな拳を収めて、歯軋りをした。
「・・・っ!! この、最低の女タラシっ! 春海、大丈夫か!?」
「・・・。・・・。」
 鳥貝は呆然とした後、ゆっくり百合子を見て・・・。
「っ、やっ・・・ふっ、」
 ぼろぼろ大粒の涙をこぼして泣き出した。
 戯れのキスくらい時屋にもされた事があるし、兄代わりとして好意を持つ安羅にされても大してショックではないけれど・・・色々混乱している状態で、衆人環視の前でされた事に驚きすぎて感情の箍が外れてしまったらしい。
「っ、・・・だめ、止まら、ない・・・、っ、」
 こんな所で泣いてはいけないと理性がブレーキをかけるけれど、一度はずれた感情の箍を元に戻すのはなかなかに困難で。
 目元を必死で抑える鳥貝の腕を取って・・・今度は、百合子がキスをした。
 しかも、こんな衆人環視の前でするには濃密なそれ。
 ・・・が、女同士のそれにしか見えないのはご愛敬。
 斎がお腹を抱えて笑っている。
 安羅は肩をすくめて「上書きしてやがる。まったく、すげぇ独占欲。」と呟いて。
 最初こそ驚いてされるがままだった鳥貝も必死で百合子を引きはがして・・・今度は思い切り百合子の頬をはたいた。
「っ、ばかっ! ばかっ、ばかっ!」
 しかも往復ビンタ。
 まだ泣きながら、顔を真っ赤にして。
 百合子がいつも思うのは、顔を赤くして感情を顕わにしている時の鳥貝が一番可愛いと。
 だから、もう。
「あーもう。もう、いいよ、」
 自分の頬をはたく鳥貝の手を掴んで動きを止めさせると。
「おまえをこういう所に出したのが間違いだった。優勝とかそういうの、もういいから・・・、」
 真剣な顔で、泣き続ける鳥貝をじっと見る・・・美女に見つめられている鳥貝は、それが百合子だと認識できていても微妙な気分である。
「・・・行くぞ、」
「っ!」
 鳥貝を抱き上げて歩き出す。
「こいつ、辞退させるんで、後よろしく!」
「え? ちょっと、百合子さん、あのっ、」
 遠慮がちに引き留めるTKMCの委員の声も、その他のざわめきも、すべて無視して、百合子はステージを降りて会場を後にした。



つづく