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[鳥貝大学1年の冬]

Lovers X'mas【2】


 企画コーナーが終わり、舞台裏に戻った百合子の手には電話番号を書いた紙。先ほどの女性タレントからこっそり渡されたものだ。
 けれど、それに目を通すこともなく、くしゃっと丸めてポケットに押し込む。
 そして、視界の端にIのマネージャーだという男を認めて、すぐに呼び止めた。彼も丁度百合子を捜していたらしい。
「で、Iから言づてあるだろう?」
「ええ。楽屋で待つように、と。」
「・・・?はぁ? んだよ、ソレ。おれ、午後も講義あるんだけど、」
「すみません。自分もそう云うように云われているだけで・・・、」
 申し訳なさそうに頭を掻く男をそれ以上責めるわけにもいかず、百合子は息を吐いた。
 無収穫で帰るわけにはいかない。今日の目的はまだ達していないのだから。
 仕方なくマネージャーと共にIの楽屋で待つことしばらく。
 ドラマの宣伝もさんざん終わったらしいIが楽屋に戻ってきた。
「で、何の用だ?」
「お疲れ様くらい云ってよね。・・・Aさんに、携番渡されてたでしょ、あなた?」
「何か渡されたけど、さっき捨てた。」
 楽屋のゴミ箱を指さす。
「・・・見つかったら誤解招くから、私の楽屋に捨てないでよ。マネージャー、それ持って返って事務所で捨てて。」
 百合子は相変わらずだ。Iはほっとした思いで苦笑する。
 番組内で、恋人の事を愛しているだの何だの云っていたのは、テレビに映るのをかわすためのこの男なりの機転だと理解していた。
「例のネックレスの出所、直接伝えたかったからよ。」
 百合子は、不快感を表した眼差しでIを見ている。
 これも、この男らしい。
 そんな眼差しで見つめられても、嫌な気分にはならないから不思議だ。
「けど、クリスマスまで一週間もないから、多分入手は難しいんじゃないかなぁ、」
「分かれば、なんとかする。教えろよ。」
「・・・特に、あなたはあの人に嫌われてるし、私の口利きがないと無理だと思うわ。」
「・・・あの人?」
 Iは笑う。
 自分の思う通りに事が運ぶ。自分の言動で人を翻弄するのは気分が良い。
「あなたも嫌っていた人。このネックレスのデザインは、私の学生時代の先輩。」
 何か思い当たる節があったようで、百合子は殊更に表情をゆがめた。
 年月を経ても、今でも変わらずにあの人の事が嫌いらしい。
「私が頭を下げてお願いしてあげる。あの人もお忙しいみたいだから、クリスマスには間に合わないかもしれないけれど、年内には入手できるかもしれないわよ。」
 こうして百合子に恩を売り、彼との繋がりを作りたいという下心があった。
 かつては自分から別れてしまったけれど、今でも好きな男。
 青い時代は過ぎた。今の彼女は、百合子に恋人がいても構わないと思う。恋した彼を時折でも腕の中に囲い込めるのなら、それだけでも満たされるとそう思う。
 なのに、百合子は「わかった、」と呟いて席を立った。
 もう諦めたのだろうか?
「千里くん? なに、もういらないの? 気に入ったのでしょう。恋人に贈りたいのでしょう。ちょっと待てばいいだけよ?」
 思わず、呼び止めてしまう。内心の焦りで声がかすかにうわずった。
「自分で頼むよ、月成だろ?」
「そうよ。でも、あなた月成先輩に嫌われてるじゃない。作ってはもらえないかもしれないわよ?」
「・・・多分、大丈夫。おれはともかく、あいつの名前出せば機嫌が良くなる。」
「・・・? あいつ?」
 ふたりが離れていた年月は長くて、会話にかみ合わない部分が出てくる。
 Iは百合子の意図が分からず首をかしげた。
 百合子は、Iの本来の目的が分かっていたのか、Iに皮肉気に笑いかけ、自分の携帯を取り出した。
「リオ、おれだけど・・・、」
 月成の携番を知っていたらしい。
 Iは学生時代の彼らを知っていた。先輩である月成には可愛がってもらっていた。Iが百合子と付き合うよりずっと前に、百合子の友人が絡んで百合子と月成の間に何らかの確執を作ったらしく、Iが月成に百合子の事が好きなのだと漏らすと、月成はかなり本気でそれを思い直させようとしていたものだ。
 Iが百合子と付き合い出してからも、それぞれからそれぞれを嫌悪する言葉しか聞いたことがない。
 まさか、そんなふたりが・・・現在付き合っているとか、そんな冗談みたいな状況になっているわけはない、と思いながら、Iは携帯をかける百合子を注視した。
 携帯の向こうからの声も聞こえる。
『なぁに? 今新幹線の中だけど、急用?』
「急用だ。おまえさ、アクセサリーとかもデザインしてるんだろ? その中に猫を扱ったものあるか?」
『「la chat」のシリーズかしら? 人気あるけど、最近あまり新作出していないわ。それが、何?』
「クリスマス、春海に贈ろうかと思って。都合つかないか?」
『ぇえ、珍しい! ユキが私に頼み事!? でも、まぁ、春海ちゃんの為ならいっか。私も何かあげたいなーって思ってたのよね。けど、今クリスマス前で、彫金師達も大忙しだと思うんだけどー・・・割り増し料金いただくわよ? 春海ちゃん一日貸し出しでもいいけど?』
「割り増し料金でいい。」
『・・・ケチ。まぁ、でも了解。で、ものは何?』
「猫が鞠にじゃれついてるネックレス。鞠の部分をアクアマリンにして・・・できるか?」
『ひな形はあるから、早くできると思うわ。アクアマリンも特に珍しい石でもないから、すぐに入手できるはず。知人の彫金師に無理言って発注しておくわ。・・・料金の詳細はまた後で連絡するけど、それなりに覚悟しておいてね?』
「別に構わない。」
『かわいくなぁい。まぁ、春海ちゃんの喜ぶ顔は私も見たいから、今回は特別。ちゃんと、私のデザインだって云っておいてね? できあがり日程も分かったら連絡するわね、それじゃ。』
「助かる。」
 かつて、嫌い合っていたふたりだとは思えないスムーズな会話だった。
 そして、気になるのは『春海』。
 それが百合子の今の恋人なのだろうか。
 月成もその名前に好意を寄せている口振りだった。
 Iは困惑し、また不快になって表情をゆがめる。
「・・・というわけだ。情報はサンキュな。」
 携帯をデニムのポケットにしまいこみ、踵を返そうとする百合子をIは咄嗟に呼び止める。
 呼び止めてしまった直後、自分でも少し後悔はしたけれど、どうしても気になるのだ。
「春海って、あなたの今の恋人なの? 女の子?」
「うん、かわいい女の子。」
 百合子は皮肉っぽく笑う。
 けれど、すぐに優しい笑みをして、云う。
「おれの最後の女だよ、きっと。おれはな、もうあいつだけなんだ。あいつがいれば、もう他の男も女もいらない。」
 真摯な言葉、女の事を語るのに幸福そうな表情・・・百合子らしくない。
 Iはむっとする。
 恋人が男ならばいい。仕方ない。けれど、女・・・しかも、普通の娘なんて、あり得ない。
「あなたには、不釣り合いだわ。月成先輩や斎先輩のような人ならともかく、普通の女の子なんて・・・、」
 百合子はIをじっと見つめてから、唇に冷笑を乗せた。
「あんたに云われる筋合いあったっけ? 第一、あいつは極上の存在だ。すくなくともあんたよりは上。」
 百合子はIを完全に拒絶した。
 それに気づいたIは顔を青くする。
 けれど、青くするだけで何もできなかった。
 百合子は踵を返して、振り返る事なく去っていった。
 きっと、もう二度と会うことはないと・・・確信が胸に落ちてきて、Iは唇を噛みしめ、頭を抱えた。
 完膚無きまでの失恋だった。

 
「斎先輩、お久しぶりです。」
「Iじゃないか。ご無沙汰だな。おまえの活躍、私も見ているぞ。頑張っているな。」
 久しぶりに学生時代の先輩の携帯に連絡を入れる。
 中学、高校、ずっと憧れてきたふたりの先輩のうちのひとり。世話好きのこの人には、女優として世間の注目を集めるようになってからも、色々と相談に乗ってもらっていた。
「・・・今日、千里くんに会いました。今のドラマの宣伝企画に出て貰うのに。」
「・・・へぇ、」
 相づちの声が少し意味深長に響く。
 百合子と同じ大学にいる斎が、百合子の恋人の事も知っているのだと確信する。
「・・・恋人、どんな人なんですか?」
 斎が電話の向こうで小さく笑う。
「君は、まだあいつの事が好きだったのだな。意外と一途だ。」
「・・・今日、完全に失恋しましたけど。」
 Iは苦笑する。
 諦めきれてはいないから、こうして斎に連絡をとっているのだけれど。
「君のような人があんな男に惚れてやる必要はないと思うが・・・さて・・・あの子は、そんな男にだからこそ必要だったのだろうな、」
 斎の言葉に相づちは打たない。続きが聞きたい。
「かわいい娘だ。濁りなく純粋で、心地良い空気を作り出す・・・そうだな、いわば空気清浄機のような娘。」
 斎の冗談めかした表現にくすりと笑う。
「あの男はな、ある事があって、一昨年以来ひどく打ちのめされた状態になっていたんだ。それをすくい上げたのが彼女だ。誰も、あの男を癒せはしなかった。・・・おそらく、彼女でなければ、あの男を助けられなかっただろうな。」
 斎の真剣な声に、Iは何も云えない。
「多分、好き、なんて生ぬるいものじゃないんだろうな、あの男にとっての彼女は・・・必要なんだ。唯一無二。彼女でなくてはならないんだろう。」
 斎のその内容は、Iの知る過去の百合子とは結びつかない状態だ。
「・・・実際、とてもいい娘だよ。私も、リオも彼女には癒されている。」
 言葉の最後に、笑う。
 電話の向こう、無言のIを想像してのこと。
「君には不満な答えかな?」
「・・・。・・・実は、少しだけ。」
 素直な言葉に斎は笑う。
「あの娘だって、苦もなくあの男と付き合っているわけではないんだよ。ああいう男だから、いつも振り回されている。辛い想いもしている。それに、あの娘は、あの男の見た目に惑わされているわけではない。あの男の内面をしっかり見ている。厄介なあの性格も、性癖も、過去も、全てを理解して、それでもあの男の側にいる。・・・彼女の方こそが、あの男を守ってやってるんだろうな。」
 斎の言葉に、Iは少しだけ考える。
 自分が彼に恋した時、彼の見た目しか見えていなかったのは確かだと。けれど、彼と付き合う内に、彼の内面も好きになっていた。
 ただ・・・。
「私は、彼の事を何も理解できていなかったのですね。」
「・・・多分な。」
 斎の言葉に、Iは笑った。
 大人の恋なのだと勘違いしていたかつての恋愛は、ごく幼い物だった。互いの表面をなぞらえるだけの、形だけのもの。恋に恋するように、彼と付き合う事、そこに焦がれていただけ。彼と身体を重ねて満足できたのは、自尊心。
 Iは斎に礼を云って電話を切り、大きく息を吐いた。
 幼い恋心の終わりさえ、己を育てる肥やしになればいい、と小さく笑って自分を慰めた。


 テレビ局を後にした百合子は、その足で大学に向かった。鳥貝は確か午後二枠まで講義があったはずだ。
 午後一枠が終わった頃には大学にたどり着けるだろう。とりあえず、講義の合間の時間に鳥貝の顔を見ておこうと思って構内に入ったのだけれど。
「帰った?」
 鳥貝の講義が行われている教室の外でしばらく待機し、講義終了後、教室から出てきた鳥貝の女友達に声をかけて聞いた内容である。
「講義中に顔を青くしてたから、帰るように勧めたの。」
「普段なら多少の体調不良くらいで帰る子じゃないのに、素直に帰って行きましたよ。」
「目眩とかじゃないみたいだから、普通に歩いてましたけど・・・、」
「・・・百合子さんのせいじゃないかな、と、」
 ふたりの女友達が口々に云い、最後に少々非難めいて付け加えられたそれに、百合子は溜息をついた。
 昼の番組の件だろう。
 百合子としては、公共の電波を使って愛の告白をしたかっただけなのだけれど・・・多分、妙な誤解をしたのだろうと思われる。
 いや、誤解じゃないけれど。
 同じ講義を受けていたらしい、百合子の同級生が現れて「百合子、Iさんのサインくらいもらってきただろうな!?」「以前のIさんとの逸話、聞かせろよ!」「まさか、おまえIさんに手をつけてたんじゃ!?」などと百合子の頭をこづき回し、肩を叩き云うのを、百合子は振り払う。
 おそらく、鳥貝は周囲のこんな声にも流されているとみた。
「・・・で、実際どうなんですか?」
 鳥貝の女友達らの期待に満ちた眼差しに、百合子は溜息で応えた。
「・・・テレビで見たとおり、って事にしといてくれ。」
 鳥貝以外の人間がどう思おうとかまいはしない。けれど、周囲の人間が鳥貝に与える影響もある。
 百合子は、すれ違う知人達からかけられる声をかわしながら、寮へと向かった。
 

 鳥貝の靴は玄関にあった。
 一階に姿はないから、自分の部屋だろう。
 鳥貝に何を云われるか、色々考えながら二階にあがり、鳥貝の部屋をノックする。
 しばらく間を置いて、か細い「はい?」の声。
 寝ていたのだろうか。
「おれだけど・・・、」
 しばらくの沈黙。その意味するところが胸に痛い。
「・・・ごめんなさい、体調悪いから休んでいるんです。また、後で連絡しますから、百合子さんは講義に戻って下さい。」
 弱々しい声は、実際に体調が悪いのだと分かる。
 けれど、勿論、その状態の鳥貝を放っておけるわけがない。
「気分悪いのに、ごめん。でも、顔が見たい。・・・話がしたい。」
 鳥貝が心配すぎて、百合子の声も震える。
「ドア、開けてもいい?」
「・・・。鍵、かけてますから・・・、」
 それは拒絶の声に聞こえた。
 きっと、鳥貝の事だから、実際の体調が落ち着いたら顔を見せてくれるのだとは思うし、話し合い次第ではいつも通りの関係に戻れるとは確信があるけれど・・・今すぐ、鳥貝を感じたかった。
 それに、鳥貝の体調不良の原因が自分であるなら、今すぐそれを取り除きたかった。
「お願い・・・、おまえの顔が見たい、」
 しばらくの沈黙。
 ふたりの間の木製の扉・・・たった数センチしかない厚みのそれが、疎ましい。
 鳥貝は返事をしない。
 百合子はじっと待つ。
 鳥貝が声を聞かせてくれるまで、待ち続けられる。
 沈黙の中に、音が近づく。それは、鳥貝の足音なのだと分かる。
 カチリ、と金属の音。それから、少しずつ、少しだけ開く扉。
「春海・・・、」
 隙間から覗いた鳥貝は、パジャマ姿だった。それから、顔色が悪いのがすぐに分かった。
 無表情で百合子を見上げ、唇を開いて、再び閉じる。
「中、入ってもいい?」
 言葉なく頷く鳥貝。扉をゆっくり開いて、百合子を部屋に招き入れた。
 ベッドの上のシーツは乱れ、先ほどまで身体を横にしていた後だと分かる。
 鳥貝は重い足取りでベッドの縁に腰掛けた。
「熱、あるのか?」
 鳥貝の前に跪いて、彼女の手を取る。
 むしろ手は冷たかった。
 鳥貝は軽く頭を振って、じっと百合子を見る。
「体調悪いの、おれのせい・・・?」
「・・・。あのね・・・、」
 少し潤んだ瞳をしばたかせて、鳥貝はゆっくり口を開いた。
「百合子さんの事、分かってるつもりです。この夏にも、経験しました。百合子さんの過去、分かってて付き合ってるんですから。でも、それをできれば知りたくはないんです・・・、だって、分かってても、私が、おかしくなっちゃう、から・・・、」
 言葉の後半にぽろぽろと一気に涙がこぼれ落ちた。
「は、春海っ!?」
 百合子に握られていた手をふりほどいて、手で顔を覆う。
「っ・・・えっ、」
 顔を伝って、涙がぽろぽろこぼれ落ちる。
 鳥貝のパジャマを濡らしていく。
 色々と鳥貝に口にする言葉を用意していたけれど、それらは一気に消え失せて・・・ただ、鳥貝の頭を胸の中に抱きしめた。
 彼女を泣かせている張本人が自分であるのだから・・・何か間違っている気もしないでもないけれど、鳥貝に自分の気持ちを伝えたかったから・・・鳥貝を抱きしめた。
 鳥貝も大人しく百合子に身体を預けている。
 しばらく、そうしていて・・・鳥貝の嗚咽が収まってきた頃。
「春海、大好きだよ・・・、」
 優しく囁く。
「おれがおまえを泣かせるんだな、いつも。ごめんな・・・、けど、おれはおまえを手放せないから・・・、きっとまたこうやって泣かせてしまうかも知れないけど・・・、それでも側に、いてくれるよな?」
 鳥貝は頷いて、百合子の背に腕を回して抱きついた。
 互いの体温と鼓動がここちよい。
 ふたりにとって、それぞれがもうかけがえのないもの。
 百合子は鳥貝の顔をそっと上げて、キスをする。
 いつもより少し優しいキス。
 何度も離れ、重なり・・・互いを求め合う。
「・・・まだ、顔色悪いな・・・、」
 一旦唇を離して、鳥貝の顔をじっと見つめる。
 いつもより血色の悪い顔は、単なる体調不良なんだろうか。
 鳥貝は、戸惑って・・・俯いて、百合子の胸に頭を押しつけた。
「あのね・・・、」
 甘えてくる鳥貝がかわいすぎて、唇を綻ばせながら、百合子は鳥貝の言葉を待つ。
「・・・あの、私ね・・・、その・・・・・・・から、」
 聞こえない。
「・・・なに?」
「・・・。今日ね・・・せいり、だから・・・、」
 小さい声だけれど、やっと見耳届く単語に、百合子は苦笑いした。
 付き合ってもう結構経つ。
 鳥貝の身体のリズムにも慣れてきていた。やや不順気味の鳥貝の身体のリズムだけれど、丸二ヶ月来ない、などという緊迫の事態には、幸いまだなったことがない。
 だから、むしろ今月も来て良かったなーと思うし・・・。
「それなら、クリスマスには、大丈夫だよな?」
 鳥貝の告白は・・・実はその気になり掛かっていたので少し切なくはあったけれど、先の事を考えれば楽しみな物となった。
 鳥貝は、百合子の胸から顔を上げずに、小さく唸った。
 クリスマス、鳥貝からのプレゼントはなくてもいい。むしろ、ない方がいい。だって、そうすれば、プレゼントとして鳥貝自身をたっぷりと要求できるのだから。
 百合子は、その日を思ってくすくす笑い、鳥貝の身体を抱きしめた。
 いつもよりほんの少し暖かい鳥貝の身体は、百合子に至福を感じさせてくれた。


 どうやら、生理中の鳥貝は情緒不安定気味になるらしい。
 勿論、それは生理の為だけではなく、百合子の過去の女性、しかもそれが有名女優の美女である事が発覚した事が大きな引き金となったのだけれど。
 ちなみに、その後、百合子とIの過去の話は・・・知っておいてもらいたいと言うことで、鳥貝の生理が終わった頃、クリスマス前に百合子が素直に告白した。 
 百合子自身には彼女への恋情はなかったし、今でも一切そういう気持ちは起こりようがない、と、強調した言葉に、一応鳥貝は納得した。
 今回Iの依頼でテレビ出演した件については、すこし疑い気味だったものの・・・。



つづく