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[鳥貝大学1年の冬]

NewYear【1】


○12月31日、早朝。東京都S区某寮。
 朝食の用意を済ませ、自分だけ早い目に朝食を済ませた後、鳥貝は皆に見送られて寮の玄関に立つ。
「結局、大晦日まで付き合わせて悪かったね。」
「いいえ。わたしも徹底的に大掃除したかったですし、ミス・ノーラの事も気がかりだし・・・、」
 今は安羅の腕に大人しく抱かれているミス・ノーラの頭を撫ぜてやって微笑む。
「どのみち、帰って家事は母任せでごろごろするだけで暇ですし・・・そんなに長期間帰るつもりもなかったんです。」 
「毎日食事作ってもらってるから、たまにはゆっくり休んでよ。」
 鳥貝の帰郷である。
 夏の間もほとんど帰郷する事なくこの寮で過ごしてきた鳥貝が、久しぶりに長期間寮を開ける。とはいえ、たった3泊4日の帰郷。
 男達はもっと実家でゆっくりしてきておいで、と労うのだけれど、当の鳥貝が妙な責任感で、ミス・ノーラのお世話と食事係をそう長期間休めません、とばかりにその期間で折り合った。男達が説得しなければ、2泊3日で帰ってくるつもりだったらしい。
 もっとも・・・百合子はたった4日鳥貝と離れるだけなのに、最後までぶちぶちと何やら云い続けた。つまり「おれも一緒に、」とか「実家にはそのうち帰るんだから、今くらいこっちで正月すごせば、」とか。
 もちろん、ごく自己中なそれらの言葉は、本人にも自覚はあるので、あくまで独り言で片付けられるように呟いていただけなのだが。
「それでは、ミス・ノーラのお世話お願いしますね。あと、台所の方も。最近わたしの好きなように片付けちゃってるんで、場所とか分からないものがあったら、連絡してください。」
 早朝の冷たい空気の中、白い息を吐き出してそれを云うとぺこりと頭を下げた。
 手には自分の鞄だけ。後の荷物は・・・百合子が持つ。駅まで見送りに着いてくるらしい。
 「いってらっしゃい。」「いってきます。」
 最後にそれだけ云うと、鳥貝は百合子を伴って寮を出た。
 そして、男達の呟き。
「百合子の奴、まんまとN県までついていく気じゃないだろうな?」
「無理だろ。帰省ラッシュで乗車率100%超えだ。春海ちゃんは事前にチケット取ってあったからいいけど。」
「というか、奴は奴なりに、鳥貝の家族団らんを邪魔するのがどれだけ野暮か分かってると思うぞ。」
「ま、そのうち凹みながら帰ってくるね。・・・さて、ぼくは朝ご飯いただいてから、一仕事片付けよう。」
 男達の大晦日の帰省はないようである。
 というか、白熊以外の在住関東圏者は年が明けてから一度実家に顔見せに帰る事を考えているだけだ。実家が関西の白熊も似たようなもので、顔見せに一泊だけして帰ってくるつもりらしい。
 どのみち、普段からいない息子を受け入れる実家も、長期の滞在はあまり望まないだろうし。もちろん、大切なひとり娘の鳥貝の実家は別だろうけれど。
 男達はそれぞれ所用に向かう。
 大晦日も、彼らはそれなりに忙しいのである。

 てっきり、寮のそばの駅までの見送りかと思えば、百合子は東京駅まで、さらには新幹線のホームまでついてきた。
「まさか、このまま一緒に乗り込みませんよね?」
「・・・そうしたいけど、我慢しとくよ。」
 寒い駅のホームで、鳥貝の体をきゅっと抱きしめて暖を取る。鳥貝にとっては恥ずかしいことこの上ない。
「4日も会えないのかぁ・・・、」 
 数日前から時々漏らす溜息を伴う呟きに、鳥貝は自分の腰に回った百合子の手をどけながら、くすっと笑う。
「そういえば、普段から3日と明けずに会ってますものね。キャンパスでか、寮で。」
「だろ? だから、寂しいなぁ・・・、」
「たまには、いいかもですよ?」
「なんだ、おまえは寂しくないのか。」
「そういう意味じゃなくて、久しぶりに会った時の喜びみたいなもの、感じられません?」
「・・・春海、いい事云うな。」
 折角百合子の腕から逃れた鳥貝を、再び腕の中に引き戻して云う。
「でも・・・折角の大晦日なのに、正月なのに、おれは春海と年越ししたいのに・・・。」
「それなら・・・電話、ください。日付変わる前に。声でだけなら、一緒に年越しできますよ?」
「・・・そうか。その手があるな。声だけでもいい。」
 その言葉から鳥貝も寂しがっているのだとわかり、百合子は笑う。
「でも、おまえは2年参りとかはしないのか?」
「うちの実家のお正月、知らないでしょう?毎年すごい雪です。そんな日の夜中に誰も出歩きたくないですよ。・・・明日、初詣は友達と行く予定ですけど。・・・百合子さんこそ、出かけないんですか?」
「おれは、今日は寮で年越し。」
「ご家族は?」
「うちの家はいつも通りだよ。呼び出しあれば病院だしな、親父たち。・・・20になったオトコが家族と大晦日もないだろ。」
「寮の皆さんも、お出かけするんじゃないんですか?」
「いいや。今年は安羅以外は皆いるらしいぜ。多飛本の奴はリオは海外で年越しだし。白熊は彼女とは年明けに会うみたいだし。時屋は寂しいことに予定なしだ。」
「・・・珍しい。」
「だろ? 時屋が部屋に炬燵持ち込んだから、そこで鍋でもしてるよ。」
「ミス・ノーラも入れてあげてくださいね。」
「そりゃ、勿論。」
 駅のホームで4日の別れを惜しむ。
 そのうち、構内アナウンスが鳥貝の乗る予定の新幹線の到着を知らせ・・・鳥貝は別れのキスを迫る百合子の腕をすり抜けて、新幹線に乗り込んだ。
 たった4日だけ。
 それだけの別れ。
 けれど、切ないくらいに寂しいのは・・・きっと、もの悲しい季節のせい。


○12月31日 午後11時。東京都S区某寮
「炬燵、マジヤバイ。」
 正方形の炬燵には3人の男。その炬燵の上には片付けられないままの鍋パーティの後と、無数・多種類の酒瓶。それから、少し離れた位置のテーブルの上にはテレビが置かれ、大晦日特有の番組を流している。
「だろ? 貰ってきたはいいけど、このままじゃ冬中炬燵漬けになっちまいそうで、怖いな。」
「・・・このまま寝てしまいそうだよ・・・やる事あるのに、」
 多飛本以外の男達である。
 炬燵が危険だと察知した多飛本は早々に炬燵を出て、休みにも関わらず、自室で論文と戦っているらしい。
 鍋を囲んでいたのはもう3時間近く前なのに、まだこの状態なのは、まさしく多飛本の読み通り。
「春海がいたら、だらしないって怒られそうだな・・・、」
「むしろ、怒られたい〜。春海ちゃん、カムバック。」 
「…鍋、イマイチだったもんね。」
「時屋がやりたいっていうから任せたらこれだ。」
「百合子、おまえが適当に魚をさばくからだ。うろこだらけで、雑炊もできやしない。」 
「・・・素直に多飛本に任せとけばよかったんだよ、だから。」
 それぞれに、寝転んだり、卓の上に頬杖ついたりしながらの言葉。
「春海〜・・・、寂しい・・・、」
 俯せに寝転んで、溜息をつく百合子。鳥貝が帰省してからずっとこんな調子だ。
 たった4日、恋人と会えないだけなのに、この体たらく。
 炬燵の中で、時屋が百合子の足を蹴飛ばす。
「鬱陶しい。会えないのはたった4日だろ。どうせ、春海ちゃんが帰って来た途端、いちゃつく気のくせに。」
「会えない時間が二人の愛を育むんだぞ。当然だろう。」
「まったく、春海ちゃんもこんな男のどこが良かったんだか。束縛しまくりじゃないか・・・そのうちキレられるかもな。」
「大丈夫。春海は束縛されるのが嫌いじゃない。」
「・・・よく言い切れるよ・・・、」
「だって、あいつもおれに惚れてるしな。」
「あーそう、」
 百合子の惚気はいつものこと。
 どうしたらここまで惚れられるのかというほど、鳥貝に惚れている。今までに色恋が絡んで愚かになる百合子は見てきたけれど、恋する相手へのこういう対応を見るのは初めてで、最初の頃は、半年もすれば落ち着いていつもの状態に落ち着くだろうと誰もが思っていたけれど・・・熱は相変わらず続いている。
 普段は、あまり突っ込んで聞く事も無かった事を、この機会に突っ込んでやろうと時屋は思う・・・まぁ、返ってくる返事は惚気だと分かってはいるけれど。
「おまえ、春海ちゃんのどこに、いつ惚れたんだ? やっぱり、夏目の事でN県に行った時からか?」
 すぐに返ってくるだろうと思った返事には、しばらく、間が開く。
「・・・だよなぁ・・・、」
「あん?」
 惚気と云うよりも、悩ましい声で呟く。
「や、多分そうなんだろうな、と。あいつがTK大受かった話聞いて、戸惑った記憶あるし。」
「戸惑う?おまえが?」
「・・・戸惑う・・・というか、ときめく?」
「はぁ・・・?」
「多分、その頃はまだ好きになったのを、自覚してなかったって事だな。」
 少しだけ真剣な声。
 百合子は、今更ながらに鳥貝への想いを整理する。一年の終わりの今日だからこそ。
 鳥貝がTK大に受かった事は、当時鳥貝と接触していた美和子から聞いた。 
 その時、百合子はただ、戸惑った。
 春に旅に出ようと決めた先がN県の鳥貝の地元なのは・・・彼女の姿が見たかったから、というのも理由だったかもしれない。
 そして、偶然にも鳥貝の両親に助けられ、彼女が今部屋探しの為に上京しているのを聞いた時、はっきり彼女に会いたいと思った。
 彼女を寮に迎え入れる算段は、美和子から鳥貝上京の話を聞いていた男達が既につけていた。けれど、その計画の詳細を、百合子は知らなかった。
 だから、寮に立ち寄って白熊からその話を聞き、白熊が鳥貝が寮にやって来るとの連絡を時屋から受け取ったのを聞いて・・・運命を感じた。
 彼女は自分の事を何も知らない。
 だから、どういう風に彼女と関わればいいか、少し考えたけれど・・・彼女の姿を見て、初めて交わす会話を声を聞いて、嬉しさにぞくりとした。・・・意外と勝ち気なのも好ましくて、不意にいじめてやりたい気分がわき起こって、衝動に任せて行動した。
 好きだと、思った。
 何も知らない彼女を、自分の思うままに翻弄されてくれる彼女を、けれど、結構勝ち気な彼女を、はっきり愛しいと思ったのは、N県の彼女の実家での再会の時。拒絶されて、痛む胸がそれを実感させた。
 翌日、K市の自分の実家で再会した時、運命を実感した。
 最初の頃、彼女の中に夏目を探そうとしていた心の動きは、もうなかった。ただ、彼女だけを見つめていた。
 だから、彼女に「兄の代わり」だと云われた時、本当にショックだったのだ。
 この時点で、もう、百合子は鳥貝にベタ惚れの域にまで達していたのだ。
 翌日の、寮での歓迎会の前に、抱きしめた自分の行為を拒否らないでいてくれた鳥貝、つまり自分の心を受け入れてくれた様子の鳥貝に、幸せを感じた。
 それからは、もう。
 ひたすら鳥貝が愛しくて愛しくて。その想いは日に日に強くなる一方で。
「春海、好きだぁ!」
 今日、駅のホームで見た、寒さと羞恥に頬を染める鳥貝を思いだして、百合子は叫ぶ。
「うるさいっ!」
「何を想い出してるんだか知らないけど、迷惑だよね・・・。」 
「・・・助平、」
「そりゃ、春海の事に関したら変態なんで、」
「自分で云うかよ。」
 時屋は溜息をついた。
 何にしろ、この年下の親友の熱情は来年も続きそうである。怖いのはその熱がいつか冷めてしまうかもしれない時だけれど・・・確信に近く時屋は思う。
 いつか、この熱は適温で落ち着き、おそらくその想いは永続的に続くだろうと。
 テレビ番組が11時30分を告げる。
「誰か、酒、燗にしてきて、」
 百合子が云い、時屋と白熊が拒否る。
「そこら辺にあるワインでも飲んどけ。」
「こっちにはまだブランデーあるけど、」
「やっぱり、大晦日の日本人は熱燗だろ、」
「・・・自分で行ってこい、ついでに、空き瓶とかごみとか持ってけるもん持ってっとけ、」
「え〜〜、」
「おまえが、最年少。先輩の云う事は聞いておきなさい、」
「誰が先輩か・・・まぁいいや、じゃあ、行ってくる。日付変わる前に戻ってこないと・・・春海に連絡しないといけないしな、」
 結局ご機嫌な百合子は食器類と食材の入っていたざるをまとめて持って、台所に向かった。
 途中、鳥貝の部屋の前を通りかかり、その扉を少しだけ見つめて・・・4日もすればこの部屋にも再び明かりが灯るのだ、と、苦笑いを浮かべた。



つづく