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[鳥貝大学1年の冬]

Anniversary20th【3】


 男女混合十数人のグループの半数以上の人間から鳥貝も参加することに賛同が得られた。不快そうにしている人間もいたけれど、不満は口に出さず押し黙るに留めたようだ。
 会場から少し離れたカフェレストランを予約してあるというが、さすが地元、メンバーのひとりの身内が経営している店らしい。
 着物姿の女の子達がいるから、完全に女性速度で歩く中、百合子はひたすら鳥貝にくっついて歩く。恥ずかしいし、鬱陶しいけど、抵抗しても暖簾に腕押しだし、騒ぎ立てて目立ちたくもないから、かすかな抵抗に留めて、他のメンバーからは少々はなれて歩く。
 ついたお店でも、関係のない自分が目立つのは嫌だから、と端に座れば当然のように百合子がその隣に座って、変に目立ってしまうし。
「百合子さんは、もっと皆さんと一緒に・・・、」
「だめ。おれは春海の傍を離れない。」
 とか云いながら、ソファータイプの席であるのをいい事に、鳥貝の膝枕を要求してくる。
「成人式の二次会でしょう? もっと皆さんと楽しんでくださいよ。わたしは放っておいてもらっても構いませんから。」
「・・・春海と離れられない病だから、だめ。」
 男たちはそんな百合子の様子に笑い、囃し立てる。けれど、女の子の半数以上が不躾な視線を向けてくる。
 いたたまれない時の再来だ。
「ご、ごめんなさい。邪魔にならないようにしますから・・・、」
 なぜか、鳥貝がぺこぺこ頭を下げる事になる。
 男たちは構わないと笑うけれど・・・やはり、女の子達の気持ちを考えると・・・辛い。
 そのうち食事が運ばれてきて、和気藹々とした雰囲気になったけれど、鳥貝の膝枕を堪能しているらしい百合子は一向に動かない。鳥貝もとてもじゃないけれど食事に手を伸ばす事はできない。
 途中、Cが傍に寄ってきて鳥貝に笑いかけると、膝枕で転寝する百合子を引っ張り起こした。
「春海ちゃんが飯食えないだろ、おまえがそうしてると。ちょっとは彼女の事も考えてやれ。」
 不承不承に百合子が身体を起こしたけれど、今度は、鳥貝に食べさせて、と恥ずかしすぎることをねだる。
 当然、鳥貝は、そんな恥ずかしい事はしない。お皿に百合子の好きそうなものを取り分けるだけ取り分けると、箸を百合子におしつける。
「自分で食べてくださいっ!」
「・・・ちぇ。あ、でも、おれこれ好き。さすが春海、分かってる。」
 溜息をついた鳥貝は、飛び交う話題に耳を傾けて、やっぱり話題についていけないなぁと思いながら、ぼそぼそと食を進めた。
 久しぶりに会った同級生の話題にありがちな近況報告のほかに、あの人はどうしてる? といった流れになった時、女の子のひとりが口を開いた。
「百合子くん、夏目先輩は今何してるの?」
 夏目の死を知らない人間もいる。
 知っている人間たちは呼吸を止め、場がしんと静まった。夏目の死が、百合子にとって禁句であると何人かは知っていたからでもある。
「・・・夏目は、いないよ・・・、」
 百合子は、憮然とした表情で云う。
 問いかけた女の子は、自分が場の空気を壊した事を悟り、気まずそうにして、親しい女友達に視線を投げかけた。
 視線を投げかけられた子も、まさか、夏目が死んだとは答えられず戸惑っている。
「あ、あの・・・夏目さんは、病気で亡くなってるんです。」
 実は大して気分を害してはいないけれど、場の空気が凍えた事に呆れているだけの百合子に代わって、鳥貝が云う。兄とは云えない。
「一昨年前です。TK大在学中に。」
 女の子は、あからさまにしまったという顔をして、うつむいた。
「で、でも、もう百合子さんも心の整理はついてますし、ね? 百合子さん、」
 憮然とした顔の百合子をつついて鳥貝は云う。
 知らなかったのだから、仕方のない失言だ。とがめる事はできない。
「・・・ああ、まぁな。春海のおかげで、だけど。春海がいなきゃ、おれ、今頃ここにいなかったかもな、」
 言葉の後半は冗談めかして云い、鳥貝に抱きつく。
「今頃、もっと捻くれて、マトモに成人できてなかったかもな。おまえ、夏目さん離れできてなかったし、」
 Cが冗談めかして云い、場の空気が和らぐ。
「今度は、春海ちゃん離れが出来てないから・・・マトモに成人できたとも云えないか?」
「ばぁか、いいんだよ、春海は。一生離れるつもりないしー。な?」
「し、知りませんっ。」
「・・・って、何度もプロポーズしてんのに、いつも煙に巻かれる・・・、」
 男の何人かが笑い、女の子もやっと笑い声を漏らす。
「千里、気ぃ早すぎ。その年でパパか?」
「おお、パパでも全然おっけー。けど、こいつが堅すぎてさー、」
「春海ちゃんって、幾つ?」
「あの、18です、」
「百合子、犯罪ギリだろ?」
「春海ちゃん、成人式に子連れは洒落にならんし、くれぐれも気をつけて!」
 冗談でもそういう事は恥ずかしい。
 鳥貝は赤くなって、固まってしまう。
「あ、でもでも、今日子連れで来てた子何人かいたよ、気づいてた?」
「なに、うちの学校のやつか?」
「違う、けど、わたしと同じ高校の子だった、」
 話題が逸れて、別方向に転がり出して、鳥貝はほっとする。
 Cだけが、鳥貝を見てにんまり笑う。
「君を待っている間の千里の惚気、すごかったよ? 君なしじゃ生きていけない、なんて云うし。朝も夜も、1日中手放したくない、とも。あと、手料理が絶品だって? 料理の上手な子はいいよねぇ。・・・で、女の子達はちょっと引き気味だったかな、さすがに。」
 鳥貝のいない所で、どれだけ恥ずかしい事を云われていたのやら。
「小柄だけどスタイルが良くて、抱き心地がサイコー、とかも云ったかも。」
「は? 百合子さん!?」
 Cはくすくす笑う。
「や、大丈夫。そこまでは云ってない。千里、これでも話す相手を考えてるし。」
「あたり前だろ。そんな事云ったら、女どもの反応が怖い。・・・春海、たいしたことなくて良かったよな。もしおまえが怪我でもしてたら、おれ、何してたか・・・、」
「・・・? え、あれ? もしかして・・・?」
 百合子の言葉は、今日、女の子達に囲まれた事を知っているようだった。
 でも、誰が?
「斎さん?」
「いいや。・・・千早から、メールで。」
 斎には云わない様伝えたけれど、千早にはしっかりと口止めをしていなかった。
「おまえ、そういう事、絶対云わないもんな。」
「・・・云う必要ないですから。だって、何もなかったですもの。」
「斎さんと千早が来たからだろ?」
「ううん、来なくても、多分大した事にはなってません。あの人たち、ただちょっと焼もちを妬いていただけだから、ひどい事はされませんでしたよ、きっと。」
「春海ちゃんは、人がいいなぁ、」
 Cはくすくす笑い、百合子は溜息をつく。
「ま、それがおまえのいい所で、おまえ自身に敵を作らない部分だよな。・・・おれのとばっちりばかり受けさせてるけど。」
「・・・とばっちりを受けている事は、認めます。でも・・・もう、諦めてます。」
 少し頬を膨らませて云う。
 その顔がまたかわいく見えて、百合子は鳥貝を抱きしめる。
「・・・っ、ちょ・・・! 離してくださいっ、」
 大声で騒ぎたてず、小声で抵抗するけれど・・・注目は集めてしまう。
 皆が口々に囃したり、呆れたり。
 いたたまれない。注目を集めるのは苦手だ。
「お、お手洗い行ってきますっ!」
 鳥貝は百合子の手を振りほどいて、小走りにトイレに駆け込んだ。


 同級生達といるのに、どうしてああいう事が平気でできるのだろうか。
「・・・久しぶりなんだから、友達と話せばいいのにっ。まったくもう、」
 トイレに駆け込んだ鳥貝は、洗面台の鏡に向かってぶつぶつ呟いた。
 別に実際トイレがしたいわけではないから、洗面所でしばらく顔の火照りを収めてから戻ろうかと思って。
 しばらく、呼吸を落ち着けていると、トイレの扉が開いて、晴れ着姿の・・・。
「・・・トイレ、いい?」
 鳥貝に絡んできた女性のひとりだった。
「はっ、はい。ごめんなさい、」
 鳥貝に冷めた一瞥を向け、トイレの扉を開ける・・・前に、ふぅとため息をついた。
「・・・夏目先輩のフォローありがとうね。わたしも、知らなかったから。それから、ごめんなさい。」
 鳥貝の顔を見ないで、云う。
「あ、いいえ。その・・・私も、関係ないのにお邪魔してて、ごめんなさい。」
 少し慌てたような鳥貝の言葉に、女性はくすりと笑った。
「ホント、すごい邪魔。・・・でも、」
 顔を上げ、鳥貝を見る。苦笑いが浮かんでいた。
「百合子くんのこんな姿、初めて見たわ。中学高校生の頃はね、時々駅とかで遠目で見るだけだった。彼、女の子とはあまり話さない人だったから、声なんてかけられなかった。「あんた誰?」って聞かれたら、辛いもの。だから、小学校の頃と同じにクールな姿しか、知らなかった。・・・百合子くんの素って、こんな風なのね、」
「・・・イメージ、崩しちゃいましたか?」
「ううん。なんか、ほっとしたというか・・・百合子くんも普通の男だったんだな、って。」
 決して普通ではないけれど、そこらあたりについては、鳥貝は黙秘と決め込んだ。
「その、今でも、百合子さんの事・・・好きなんですか?」
 鳥貝の遠慮がちな問いかけに、女性はくすくす笑った。
「そりゃね。初恋だし、彼ますますカッコよくなってるし。でも・・・、わたし、これでも彼氏はいるのよ? だから、憧れなのよ。憧れの人に、つまんない女が纏わり着いてるのが気に入らなかったの。」
 笑いながら鳥貝を見る。
 悪意は感じない。
「・・・でも、むしろ百合子くんの方があなたを手放せないでいるみたい。」
 鳥貝は小首をかしげて女性を見た。
「多分、ずっと百合子くんには憧れ続けると思うわ。だって、ハンパなくカッコイイもの。・・・でも、どの道見ているだけしかしなかった自分が悪いの。玉砕してでも、一度くらい彼に告っとくべきだった。・・・多分、だめだったかもしれないけど。」
 鳥貝をじっと見て、溜息をつく。
「でも、やっぱりどう見ても普通の子よね、あなた。・・・どこがよかったのかしら。」
 微妙に気にしている事を云われて、鳥貝だって少しむっとする。
 鳥貝の表情の変化に気づいた女はくすくす笑った。
「百合子くんに愛されてるあなたがムカツク事には変わりないけど、でも・・・もう、いいかな。私にとって彼は所詮遠い存在だから。時々、姿を見られるだけでもよしとする。それだけでも嬉しいし、どきどきするのが心地いいから。」
「・・・わたしがこんな事云うの、不愉快かもしれませんけど・・・百合子さんと付き合うのって、結構大変ですよ? あの人の周り、厄介な人間が多いですし。それで、何度も泣かされてますし。何より、あの自己中な性格には、振り回されっぱなしで・・・。だから、あの人は観賞用が丁度いいんじゃないかと。」
 鳥貝の言葉を眉根を寄せて聞いていた女性は、言葉の終わりに溜息をついた。
「知らない方が幸せなこともある、ってわけね。・・・ま、あなたは、あんな彼に愛されているわけだから、その分精精苦労しなさい。」
 にやりと唇の端を吊り上げて意地悪に笑った女は、そのままトイレに入っていた。
 鳥貝は、ほっと息をついて鏡を見て、顔の火照りがすっかり治まっている事を確認して洗面所を出た。
 それから2時間近くを同じ店で過ごし、旧友たちは語り合った。百合子もほどほどに話の中に入りつつ、鳥貝も時々気を利かせた誰かが投げかけてくれる言葉に応えつつ、楽しい時間を過ごした。
 2次会の後、3次会としてカラオケに行く流れになったのだけれど、それを百合子は辞退した。勿論、メンバーからは非難の声が上がったものの、百合子はまたいつか会う、という不確かな約束をして黙らせた。


 さて、それから鳥貝と百合子がどうしたかと云えば・・・。
 しばらく街中をふたりでふらついた後、手土産を持って百合子家に帰り、お茶をしてから、別の場所での2次会に向かった。
 『Conventus』
 百合子のバイト先だ。
 普段店が開くのは6時頃のはずだけれど、その日は特別に開店前の1時間程を貸切にしてもらって、百合子の中・高の頃のふたり組みと落ち合ったのだった。
 少しだけアルコールを入れて、軽い話題で談笑して。しっとり大人な雰囲気でしばらくを過ごした。
 そこでも、鳥貝は少々いじられはしたし、百合子の昔の恋人の青年からチクチクと意地悪を云われもしたけど、それでも、ゆったりした時間を鳥貝は楽しんだ。
 元々芯の強い鳥貝だけれど、百合子と付き合うようになってからは、さらに打たれ強くもなってきているようだ。
 百合子自身、大層クセのある人間だけれど、その周りを取り囲む人間たちも、相当にクセのある輩ばかりだ。
 もしかすると、自分もそんなひとりになっているのかもしれない、と思って鳥貝は溜息をついた。


「春海、疲れた?」
 寮の夕食用に百合子の出費で(百合子都合で引っ張りまわされたのだから、当然である)出来合いのお惣菜を買って帰る。寮へと戻る電車の中で、溜息をついた鳥貝に百合子は少し心配そうに問いかけてきた。
「・・・ちょっとだけ。初対面の人に沢山会ったから。・・・でも、」
 百合子をじっと見て笑う。
「百合子さんの事、また色々知れました。・・・嬉しかった。」
 鳥貝の言葉に、百合子も微笑む。
「うん。おまえにはおれの事色々知って欲しいし・・・隠し事はしたくない。おまえにこの考えを押し付けるつもりはないけど・・・おまえの事も色々知りたいな。」
 普段は自己中で我侭なくせ、こういう所で自分の考えを強要しない百合子の優しさに、鳥貝はくすっと笑う。
 もちろん、鳥貝だって百合子には隠し事をしたくないし・・・これまでも、これからも彼相手に隠し事はない。
「もちろんです。・・・だから、来年はうちの実家に来てくれますか?」
 百合子は鳥貝の手を握り締めて笑う。
「着いてくるな、って云われても、ついてく。」
 来年、鳥貝の成人式には百合子と一緒に帰郷する事になるだろう。そして、今日のように鳥貝の昔からの友人たちと百合子とで過ごすことになるかもしれない。
「振袖、着るんだよな。」
「もちろんです。」
「・・・。・・・もちろん、じゃ、なくてもいいのにな、」
「・・・? なぜです?」
 にんまり笑う百合子の応えがロクなものじゃないと直感した鳥貝は、問い返した事をすぐに後悔したけれど、もう遅い。
「子連れかマタニティでもおっけーかな、と、」
 いつもながらの百合子の本気半分の言葉に、鳥貝は顔を赤くしてどう切り替えそうか考えた後、溜息をついた。
「なんだよ?」
「・・・いえ。成人しても、百合子さんは百合子さんだなーと。」
「当たり前だろ。というか、大人になったからこそ、よりおまえとの未来を考えるんだ、おれは。」
「年齢だけ大人でも仕方ないです。精神的にもっと大人になってください。」
「おれが大人じゃないって云うなら、おまえがずっと傍にいてくれればいい。おれの足りない部分を、おまえが補ってくれ。」
「・・・っ、・・・どうして、」
 結局、百合子はいつもそういう方向に言葉を向ける。しかもかなり本気で。
 そうすると、鳥貝は答えに窮さずにはいられない。
 鳥貝だって、百合子の言葉に呼応したい。けれど、現実は百合子がいつも云う様に簡単ではないと思う。
 思うけれど・・・でも。
「百合子さんなら・・・、きっと、有言実行で何でも思うままにやっちゃうんでしょうね、」
 百合子には、言葉にした想いを実現できるだけの行動力がある、能力がある。おおよその事は彼の思うままになるだろうと思われる。
「でも、おまえは思うままにはなってくれないだろ? だから・・・好きなんだ。」
 そして、やはりそういう方向に話が終着する。
 もちろん、嫌な気分ではないけれど・・・電車の中の会話としては、恥ずかしすぎる。
「・・・百合子さん、あのね、」
「うん?」
「百合子さんは、きっと、何年経ってもそのままです。・・・だから、わたしももうちょっと慣れるよう努力します。」
 百合子と付き合い続けるからには、結局自分が折れた方が早いと悟りを開きつつある鳥貝だった。
 鳥貝の諦めの言葉に、百合子は笑う。
「さすがに、何年も一緒にいれば、慣れるからな。」
 何年も。
 鳥貝は苦笑した。
 百合子と知り合って、まだ1年も経っていない。きっと、百合子が云うのは先の長い話。
「兄さんレベルに百合子さんを扱い慣れるには、何年かかるでしょうか。」
「18年・・・一緒にいてみる?」
 兄夏目と同じ年月を・・・あるいはそれ以上を、これから百合子と過ごしていけるのか分からない。
 百合子は鳥貝の言葉を待って、笑っている。
 今、百合子が望む未来が、実現するのかは分からない。けれど、鳥貝だって百合子が望む未来が、今の自分が望むそれと重なっているとは思う。
 ただ、その望みはいつか変わってしまうかもしれない。移ろいゆくのが人の心の常。特に奔放な百合子の心を、その望みを自分が繋ぎとめられるかは分からない。
 でも、それでも。
「・・・百合子さんが生まれて20年。これからその倍の年月を重ねた頃まで一緒にいられたら、きっと、わたしは百合子さんを扱うプロフェッショナルになってますよね。」
 鳥貝の言葉は、百合子の心のツボを押さえたそれだった。
 百合子は満面の笑顔で、電車の中だというのに、鳥貝を抱きしめた。
「ちょ、ばっ、ばかっ!」
「ばかで結構。20でも、40でも、きっとおれはこのまま・・・おまえへの気持ちも、変わらないから。」
「せっ、せめて、羞恥心くらいは理解してくださいっ。」
 百合子の腕を引き剥がして、鳥貝はむくれる。
「そっちは、おまえが慣れてくれ。・・・おれだって、これでも必死で我慢してるんだぜ・・・キスしたいのを、」
 瞳を細めて優しく笑う百合子に見惚れ、それからすぐに視線をそらせる。
 百合子に見惚れた事が悔しくて、鳥貝は唇を尖らせた。
「慣れるにも限度があります。それに、そういう百合子さんの言動に完全に慣れちゃったら、ふたりして変態です。」
 鳥貝の言葉に、百合子は珍しく大笑いする。
 ふたりして変態、の言葉が笑いのツボにハマったらしい。
「ふ、ふたりして・・・って、そりゃ、おれは変態だって自称してるけどさ、」
 笑いを収めながら、それでも声を詰まらせて云う。
「なっ、なんですか・・・、」
「いいや。おまえに限っては、絶対それはないと思ったら、可笑しくなっただけ。だって、絶対に理性失わないじゃん、おまえ。・・・だから、おれはそんなおまえをいじるのが楽しいんだってば。」
「いじるって・・・!」
 さっそくいじられている。
 言葉を発してから、くっくっ笑う百合子を見てそれに気づいた鳥貝は押し黙ってむっとした表情をした。
「たまらなく、かわいい。」
「もう、知りませんっ。」
 くっくっ笑う百合子の額をぴしっと叩いて、鳥貝はぷいとそっぽを向いた。そんな鳥貝に百合子はますます笑い、鳥貝もつられて笑い出して・・・。
 ふたりのこんな関係は、ずっと続いていく。
 ふたりが一緒に居続ける限り、きっと。


 ちなみに、その日の夜、のこのこ寮までついてきた百合子が、翌日平日であるにも関わらず、言葉巧みに鳥貝の部屋に入り込んで、今朝のいちゃつきの続きを要求したのは云うまでもない。
 鳥貝の抵抗むなしく、成人式のその日の締めくくりとばかりに、百合子は離れていた2時間分鳥貝を翻弄し、大人の関係を思う存分?堪能したとか。
「おれの病気が進行しないように、ずっと傍にいろよ?」
 鳥貝の身体を抱きしめながらかなり本気で云う百合子を、鳥貝は微笑んで抱きしめ返す。
「先の事はわかりません。でも・・・、」
 百合子の顔を見上げて、言葉の続きを真摯に待つ百合子に笑う。
「わたしが20歳になった頃にもこうして百合子さんと一緒にいられたら、きっと、もっとちゃんと応えられるかも、しれません。」
「あと一年と少し待てばいいのか?」
「・・・だから、先の事は分かりませんけど、百合子さんが心変わりしていなければ。」
「するわけがない。だって今、出会った頃よりずっとおまえを愛している。来年は、もっとずっとおまえを愛してる。」
 いつもながらの甘い・・・けれど、真剣なそれに、鳥貝は自分から百合子に唇を重ねた。
「私も、百合子さんと離れられない病気にかかっちゃってるのかもしれません。これから先に、百合子さんがいない事を想像する方が、難しい・・・、」
 鳥貝の言葉の終わりを待つ前に、百合子は鳥貝の唇を奪う。激しく、彼女を貪る。
「愛してるから、ずっと・・・、」
「はい、」
 これから先の長い未来、ふたりの人生がいつまで重なり合っていけるかは分からないけれど、ずっと重なっていければ良いと、ふたり願って互いを求めあった。



つづく