※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| [鳥貝大学1年の冬] Anniversary20th【2】 女の子達が百合子を見て、あからさまに色めき立った後、鳥貝に不審な視線を向ける。 電車の中でも感じたそれだ。 いたたまれないにも程がある。 理由は・・・何となく分かるけれど。 空気を読めるだろうに、Cは誤魔化す必要もない事だから、と鳥貝を百合子の彼女だと紹介する。 鳥貝には、その集まりは小学校の同じクラスのメンバーだと云った。 表面上は納得している女の子達だけれど・・・その険しい視線はやはりいたたまれない。 百合子が女の子たちの挨拶を適度にかわしつつ、男友達らしき数人と挨拶をするのに、鳥貝は自分の場違いを感じる。 それどころか、百合子が横からいなくなった途端、百合子と同じ小学校の女の子達、のみならず、別の一団の女の子達からの視線も感じて、ぞっとした。 百合子の側に近寄るのも感じが悪いし・・・鳥貝は、どうしようか思案した後、混雑から離れた場所まで移動しようと歩を進めた、けれど。 「春海ちゃん、おれも付き合うよ。ちょい息抜き。」 いつの間にか側に来ていたCが笑って指を差す。人溜まりから少し離れた位置に、ベンチがある。 「・・・いたたまれないんですけど、」 ぼそりと鳥貝が漏らすのに、Cは声を立てて笑う。 「仕方ないよ。千里の彼女なんだから、君は。」 「・・・はぁ、」 「千里はね、多分、通っていた小学校の女の子達の大半に恋されてたよ。あの子たちも初恋は千里だって。」 「はぁ?」 ベンチに腰掛けて、Cの言葉に目を丸くして相づちを打つ。 「綺麗な顔してるし。勉強も運動もできるし。年上の人間、教師にさえも対等な口を利くし。既に目立っていた夏目さんの弟分だし。子供のくせに、妙に冷めていた所も、魅力的だったんじゃない? 女の子にはちっとも優しくなかったのに、それがいいんだってさ。・・・今でも、恋してる子がいるよ? だって、ますます格好良くなってるし。」 肩をすくめるCと、更に目を丸くする鳥貝。 「・・・確かに、見た目はいいんですけど・・・、」 「あ、やっぱりそう?」 「はぁ。色々問題児なんで・・・、」 「男色ってのも、女の子達知らないもんな。そもそもその趣味は中学入ってから開花したみたいだし、」 「・・・何かあったんですね、」 「あったんだろうねぇ・・・君は、それでも構わないの?」 「構わないというか・・・どうでもいいです。気になりはしますけど、過去の事ですし、」 鳥貝の言葉に、Cは笑った。 「・・・そうだね。うん、君はいい子だ。」 「はぁ・・・、」 ストレートに褒められて、鳥貝は頬を染める。 「見た目だけで千里を選んだわけじゃないんだ。見た目に騙さてない?」 「それは、そうです。見た目以前に、あの性格が目に付きましたから。」 初めて会った時、いきなりキスをされたことを思い出し、顔をしかめる。 「百合子さんなんて、見た目を抜いたら、多分誰も寄ってきません。メンドクサイ性格してますし、」 「どうだろうな。・・・見目抜きにしても、イイ男だと思うよ? だから、君も付き合っているんだろ?」 「・・・どうでしょう。わたしは、何となく百合子さんに流されたんで・・・、」 「千里からのアプローチ? へぇ、めずらし。あいつなら、黙ってても色々寄ってくるものだろうけど、」 「黙ってれば、ですよね。」 鳥貝の百合子批判的内容に、Cはくすくす笑う。 「ま、確かに、人の云う事聞かないし、気にくわないと徹底的に相手をやり込めるし、気の乗らない事には付き合おうとはしないし。面倒な性格はしてる。今日だって、どれだけ苦労したか。みんなに千里を引っ張ってくるように云われてたからさ、」 Cの言葉に、鳥貝はうんうん頷く。 「ずっと側にいると、もっと面倒ですよ。独占欲強いし、子供みたいな我が儘云うし、人をからかうの好きだし、色々引っ張り回されるし。すごく疲れます。百合子さんと付き合い出してから、結構痩せました。」 「独占欲、ねぇ・・・、それはあまりないヤツだと思ってたけど・・・、」 じっと鳥貝の顔を見て、今度は含み笑いをする。 「うん、確かに、かわいいんだよな、君。目が綺麗だし、雰囲気が柔らかい。声と口調も心地良い。・・・まぁ、独占、したくなるかもな、おれでも。」 「・・・え?」 鳥貝はきょとんとする。 半ば口説かれているのだけれど、それに気づかない。 Cは笑いを爆発させる。 「え? Cさん?」 「わかった、千里が君を独占したがる理由。・・・これは、心配だ。」 「は?何ですか、それ?」 「油揚げを取られないよう、警戒してるんだ、あのキツネくんは。」 「油揚げ?キツネ?」 首を傾げる鳥貝に、遠くから声がかかる。 勿論、百合子の声だ。 「春海! Cなんかと談笑してないで、こっち来いよ。紹介してやる。」 「ほら、横柄なキツネくんが呼んでる。鳶に食べられないうちに、いってやれ。」 言葉の意味が分からないうちに、鳥貝は背中を押しやられて、百合子の元に向かった。 先ほどの小学校の同級生たちとは違った相手と話をしていた。2人組の男だ。 「中高の頃、同じ学校に通ってた奴らだ。K市から通ってるのは少なかったからな。」 ひとりはメガネをかけた綺麗な顔立ちの小柄で細身な青年。ひとりは色の黒い細身だけれどがっちりしていそうな青年だった。 「ユキの恋人、ねぇ。ふつー・・・、」 小柄な青年がじっと鳥貝を見る。態度にも言葉にも敵意を感じた。色の黒い青年が、その行為を咎めて鳥貝に笑いかけて、結構衝撃的な事を云う。 「君には隠し立てする事もないようだから云うけど、こいつはユキと一時付き合っていた事があるんだよ、」 「中学の半年くらいだ。・・・おまえ、今はちゃんと恋人いるだろ? 梓とも一時遊びで付き合っていたくせに。」 百合子が補足して、小柄な青年を睨み付けた。 青年は肩をすくめてみせる。 百合子の過去の恋人の、男性。 ちょっとだけカチンときたけれど、鳥貝は平静に努めた。・・・つもりだけれど、百合子がじっと見ていた。 「・・・妬いてる?」 「妬いてません。」 ごく些細な感情の動きを、見破られている・・・というより、むしろ、妬いていて欲しいからの確認かもしれない。 「妬いてるだろ?」 「別に。」 素っ気ない態度を取るほどに、百合子がにやにや笑う。 「ほんと、かわいいなぁ、春海は。」 で、人前もものともせず、抱きしめてくる。 「や、ばかっ、」 慌てて百合子の腕を引きはがす・・・いつものじゃれあい。 目の前の友人ふたりは顔を見合わせて肩をすくめた。 「・・・ユキが女の子とじゃれてる、」 「夢みたいだな。付き合っている女に対しては、すげー冷たかったのに。」 昔の恋人とはいえ、男達はそれなりに生暖かくふたりを見ていたのだけれど、女はそうもいかないらしく・・・やはり、遠巻きに鳥貝に突き刺すような視線を向ける者達も何人か、いた。 「じゃあ行ってくるけど・・・、おまえも来ればいいのに。」 「わたしは部外者です。わたしはここら辺りふらついて、カフェでも見つけたらそこにいますから。終わったら連絡ください。」 式典が始まる直前の事。 非常識にも鳥貝も会場に連れ込もうとする百合子に、良識的な鳥貝は断固拒否する。 鳥貝のそういう所に関する頑固さは百合子も承知している。 だから、仕方なく鳥貝の手を離して、終わったらすぐに連絡する、と言い残してどうにか会場に入ってくれた。 鳥貝は、ほっと息をついた後、歩き出そうとして・・・。 「百合子くんの彼女、」 止められるのである。 痛いくらいに視線を送ってきた女の子のうち5人ほどが鳥貝を取り囲んだ。 皆晴れ着を着ていて妙な迫力がある上に、鳥貝を怖い顔で睨み付けている。 睨まれる理由は鳥貝にでも分かる。けれど、呼び止めてまで何をしようというのか。 「あの・・・、」 戸惑って、彼女たちの顔を見回す。 「あんたみたいな普通の子が百合子くんの彼女?」 「信じられないわよね? 何、どうやって彼をたぶらかしたの?」 「大して綺麗でもないのに、かわいい云われて誤解してるんじゃない、あなた。」 「あんたなんて、どうせ、ペットの犬か猫みたいなものよ、百合子くんにとって。」 「そうね。あの人、動物好きだものね。」 「きっと、気が済むまで可愛がったら、ぽいされるのがおち。」 「その前に、別れたら?」 「そうよ、別れなさいよ。」 「大人しそうな顔して、実はとんだ性悪女なんじゃない?」 「別れたら、きっと百合子くんも目が覚めるわよ。」 非道い言葉の羅列に、鳥貝は呆然とする。 鳥貝はN県の田舎で育った。田舎だからといっていじめの類がなかったわけではない。けれど、基本的に余計なことを云わない、しない、誰に対してでも同じ態度を取る、そういった親和能力が高い鳥貝が、人からいじめられる事はもちろん、真っ向から嫌われることさえ今までなかった。 それが、単に百合子と付き合っているというだけで、ここまで云われるなんて。 人生初めての経験に、呆然とするしかなくても仕方ない。しかも、元からあまり感情を極端に出す方ではないから・・・。 その鳥貝の態度を別な風にとった女達は、また苛立ってまくしたてる。 「澄ました顔して、かわいくない。」 「百合子くんにだけ媚び売ってるんでしょ!」 「何とか云いなさよ!」 一人がヒートアップすると、志を同じくするだろう他の者達もそれに同調する。 「こんなのと百合子くんが付き合ってるなんて、むかつく!」 「別れなさいよっ!」 鳥貝の肩をどんと叩く、呆然としすぎて、よろめいた鳥貝はその場にへたりこむ。 冷え切った真冬の石畳に、お尻と手が着く。とても、冷たかった。 意味が分からず、反論もできず、ただただ混乱する鳥貝。 そして、更に何かをまくしたてる女達。 鳥貝の耳にはもう、その言葉も入っていない。 ただ、しばらくして、聞き覚えのある声がした。 ワンワン、と犬の声。大型犬のそれには聞き覚えがある。 それと共に、また聞き覚えのある少女の声。 「ちょっと、ターシャ!? どうしたの、ひっぱんないで・・・!」 それが近づいてきたな、と思ったら。 「春海ちゃん? どうしたの!?」 鳥貝が少しだけ頭を巡らせると、ターシャを連れた千早が、ターシャに引っ張られる形で近づいてきていた。 ターシャは牙をむきだした、険しい顔で吠えたてている。穏やかな気質のターシャのそんな顔は初めて見る。 鳥貝を囲んでいた女達の輪が崩れ、突然の大型犬登場に逃げ腰になった。 「ターシャ、だめっ! 静かにっ!!」 すぐそばまで来た所で、千早が叱りつけると、ターシャも大人しく黙り込んだけれど・・・。 「・・・千早ちゃん?」 地べたに座り込んだまま鳥貝は呆然として云う。 現状が把握できない上に、把握できない事が重なる。 「何があったの、春海ちゃん、」 何となく事情を察した千早は、鳥貝を見た後、女達を睨み上げる。 「この子、なに・・・、」 「どこかで見たような、」 千早はざわめく女達を睨みつけ、鳥貝に手を添えて立つ手伝いをする。 「もう式典始まってるよね。春海ちゃんは中に入れないだろうし、暇してるとかわいそうだからって、お母さんとターシャと一緒に来たの。」 女達を完全無視して、鳥貝に笑いかける。 「向こうの駐車場にいるから、行こう。」 「ちょ、ちょっと、」 「待ちなさいよ!」 鳥貝はまだ頭が回転しておらず、戸惑う眼差しで女達を見るしかできない。 「犬と子供は関係ないから、帰しなさいよ、」 「私達はあんたに話が・・・、」 千早が口を開いて何か云いかける、前に。 「鳥貝、来ていたのだな。で、何かトラブってるのか?」 再び聞き覚えのある声だ。 よく通る凛とした涼しげな声、口調。女性の声質だけれど、男性のような声調。 斎だった。 パンツのスーツ姿で、ヒールの音を石畳に響かせて歩み寄ってくる。 「斎さん? どうして?」 「百合子とロビーで会ってな、君が来ていると聞いて、顔くらい見ておこうかと。わたしもK市の人間だからな、成人の先輩としての挨拶をする事になっている、んだが・・・、さて、」 戸惑い、恐縮さえする礼服の女性たちに向き合い、斎は微笑む。 「式典は始まっているぞ。君たちは新成人だろう? みっともない真似はそろそろ卒業して、会場に入って大人になっておいで。」 女性のうち何人かは斎の事を知っていたようで、口をつぐんで後ずさりし、何人かは斎さえ睨み付けた。 「誰だか知りませんけど、あなたには、関係ない事でしょう、」 「私達とこの子との話です、」 斎はにっこりと笑う。 「私も、最初から君たちの話を聞いていたわけではないが、それは、この子にも関係ない話な気がするけれどな。そういう事を云うなら百合子本人に云うがいい。もっとも、あの男は、この子以外の女性は眼中にないようだが。」 鳥貝の肩を抱き、向きを変える。 「ちょっと、勝手に・・・!」 女の一人が身を乗り出して叫んだ所、斎が急に振り返ってその額を指先で弾く。 「いくら清楚な格好をしていても、中身がどうしようもないのでは話にならない。君はまず中身から鍛えなさい。少なくともこの子は、中身は君たちより遙かに大人だ。」 険しい眼差しで、女性を一瞥し、鳥貝を伴った斎は歩き出す。 「あんたたちなんか、お兄ちゃんも相手にしないよ。春海ちゃんにいじわるするなら、ターシャに噛みついて貰うからっ!」 千早もべっと舌を出して、ターシャと共に斎に従う。 「お兄ちゃん、って・・・、」 「あの子、百合子くんの妹だわ。」 「あの人は、斎さん。有名人だけど、知らなかった?」 女達は、3人と一匹の後ろ姿を呆然として見送った後、ゆっくりと会場に入っていった。 彼女たちにとって百合子は初恋の人。そして、今もって好きな存在。 けれど、彼女たちの誰ひとりとして、素顔の百合子を知る者はいない。 「この事は百合子に云わないでもいいな?」 斎の問いかけに、鳥貝は無言で頷く。 「えぇ、どうして? 云っちゃえ、春海ちゃん。」 「千早ちゃん、それを云うのは良くないぞ? もしかすると、あの女性たちは将来君の家に来院するかもしれない子たちだ。」 「えー・・・、あんな人たちに来て欲しくない、」 「医者は患者を選べない。というか、選んだらいけないだろ。女医の卵のくせに、そういう事を云わない。」 「まだ卵にもなってないけど。努力はします、はい。」 斎と千早の遣り取りと、鳥貝に心配そうに纏わり付いてくるターシャに、鳥貝はやっと笑った。 「なんか、よく把握できてなかったんですけど・・・とばっちりですかね、あれは。」 溜息をつく鳥貝の頭をぽんぽん叩いて斎は笑う。 「ま、あの男と付き合い続ける限り、何かしらああいうトラブルはある。あれは、噂に聞いた、百合子親衛隊の子らだろう。」 「・・・はい?」 「小学校の頃、実際あったらしい。百合子は知った事じゃないだろうがな。あれはあれで一途だとは思うが、方向性が違うな。」 斎はくすくす笑う。基本的に女好きの斎は、女性に寛容だ。 鳥貝も、ああいう事をされても、あの女性達に別段憤りは感じない。百合子を少々恨めしく思うくらいで。 「君は、ああいう人達に対応できる度胸を身につけねばな。まぁ、いわゆる場数を踏むというヤツか。慣れだな。」 「・・・あんまり、ああいう場に遭遇したくないです。ああいう状況でとう対処していいか分からないから・・・多分、慣れません。」 鳥貝らしい言葉に、斎は微笑んでその頭を撫でる。 「・・・まぁ、護身術くらいなら教えてやる。いざという時用だな。時間がある時にでも声をかけてくれ。」 「あ、わたしも護身術やりたい!」 千早が手を挙げるのに、斎は笑う。 「君はたしか、うちの門下の道場に既に入っていると聞いたけれど?」 「子供の頃から合気道してて、去年から剣道もしてます。でもでも、護身術はまた違うでしょ!?」 「そうだな、じゃあ、鳥貝と一緒に学びにおいで。百合子くらいすぐに投げ飛ばせるようになる、」 「百合子さんを投げ飛ばすんですか?」 「喧嘩したら、春海ちゃんが勝つ!」 「それは、いい!」 斎が笑い、鳥貝もつられて笑う。 百合子の側にいると、時々どうしようもないトラブルに巻き込まれるけれど、でも・・・百合子や百合子を通じて知り合った人達は、トラブルで感じる不快な感情以上に幸せな時間をくれる。 斎と別れた後、駐車場にいたなお美の車でいわゆるドッグカフェに出かけた。 動物に慣れ親しんでいない鳥貝は、少しだけ及び腰だったけれど、千早となお美に手を引かれつつ、ターシャに導かれつつ、楽しい時間をすごした。 鳥貝は、自分が幸せだな、と改めて思って笑う。 ドッグカフェでお茶を飲んでいた所、百合子からの着信があった。 そろそろ終わる頃かな、とは何となく思っていたけれど、千早となお美といる時間が楽しくて、着信があってからはっとした。 「はい、終わりましたか?」 「やっと終わった。今、どこ?」 「二次会とかいいんですか?」 「行かない。で、どこ?」 「・・・少し離れた所にいます。実は、おば様と千早ちゃんが一緒です。」 「・・・あー・・・、家族連れで・・・、」 「ターシャも一緒です。」 「・・・じゃ、そのままおれの家まで帰る? おれは、電車で帰る・・・いやけど、やっぱり、」 携帯の向こうから声が聞こえる。 男女混声で、二次会への参加を訴える声だ。 「お家で待ってますよ。二次会、行ってきても・・・、」 「ダメだ。」 きっぱり云いきってから、息を吸い込んでおそらく背後に向けて怒鳴った。 「五月蠅い! おれは帰る。帰って彼女といちゃつくんだ!」 なんという内容を怒鳴るのか。 鳥貝は顔を赤くする。 「ゆ、百合子さん、ちょっと・・・何を!」 「早く春海に触れたい。ずっと我慢していたんだ。・・・どうせ車だからそんなに時間かかんないだろ? 会場前で待ってるから、送ってもらえ。」 「は、はぁ・・・それじゃあ、」 「愛してるからな、春海、」 「・・・っ!」 思わず鳥貝は携帯を切った。 直接云われなくても、声だけでも相当に恥ずかしい。しかも、電話のそばには百合子の旧友たちがいるのだろうに。 「らぶらぶだね〜、」 とは、鳥貝の前で頬杖ついて、にこにこ笑う千早。 携帯での会話はおそらく丸聞こえだったと思われる。 お迎えの車が行き交う会場の前についたのは十数分後。 「どうせだから、千里を連れてきてちょうだい。一緒に帰った方がいいでしょ。電車代もかからないし。」 云うなお美の言葉に、鳥貝は首を振る。 「多分、寄り道してから帰るつもりだと思うので、おばさま達は先に帰って下さい。」 百合子の事を把握している鳥貝の言葉に、なお美は笑う。 「それじゃあ、お昼ご飯は外で食べてくるのよね? 用意はしておかないわよ?」 「はい、すみません。でも、お茶菓子は買って帰りますから。」 そんな遣り取りをしばらく車外でしている間に、向こうから鳥貝を見つけたらしく、駆け寄ってきた。 「春海っ!」 で、抱きしめる。 いつもの事。 「ひゃ、もうっ!」 「こら、ばか息子。あまり春海ちゃんに恥をかかせないの。」 「分かってるって。・・・それじゃ、春海は連れてく。夕飯も、いらないから。」 「了解。」 手をふってなお美たちを見送った鳥貝は、小首を傾げる。 「夕食も? 結局、二次会か三次会で食べに行くんですか?」 「ん? 夕飯は寮で食べるに決まってるだろ?」 「・・・決まってるって・・・、」 「おれの記念すべき成人の日。だ・か・ら、大人の関係を楽しませて?」 「・・・また、そういう事を・・・、」 百合子は鳥貝を背中から抱きしめて、耳元で囁いた。 「今朝も云ったじゃん。おまえに触れられない時間が長いほど、激しくなるって・・・、」 低い声で、熱い吐息と共にささやかれて、どきりとする。 「・・・っ、で、でも、たった2時間くらいだったじゃないですか!」 「だめだめ。今日は一日おまえに触れてるつもりだったのに、2時間も、離れてたんだ。」 も、に妙に力を入れる。 普段、一日会えない事だってあるのに。 「・・・そんな、大げさな・・・、」 「大げさじゃない。おれはおまえがいないと死んじゃう病だ、」 「・・・。・・・なんですか、それ?」 「そういう病気。」 「・・・。・・・二次会、行かないんですか?」 「おまえが一緒に行くなら、行ってもいい。」 遠くの方で、こちらの様子を伺いつつ、談笑している百合子の同級生の一団がいる。小学校のグループの方だ。 「皆さん、待っているんでしょう?」 「勝手に待ってるだけだ。」 「そんな事・・・、」 遠目では着物の色柄と髪型でしか判別できないけれど、例の鳥貝に絡んできた女の子のうち2人ばかりもいる。 鳥貝は小さく溜息をついて、自分の身体に絡まった百合子の腕を引き離す。 「・・・わたしも一緒に行きますから、行きましょう?」 きっと、彼女たちも百合子と話がしたいはずだ。自分が行く事で不快にさせるかもしれないけれど・・・彼女たちが、百合子と会うのは久しぶりのはずだろうから。 つづく |