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[鳥貝大学1年の冬]

Conventus【5】


「・・・ぁ、はっ・・・百合子、さん・・・、」
 荒々しい呼吸を繰り返しながら、鳥貝は愛する存在を求める声を出す。
 まだお酒は抜けず、意識は朦朧としている。けれど、自分を愛していたのは・・・自分の身体に直に触れるのは、その男しかいないのだと、彼女の意識の根底にその認識があるから、その名前を呼ぶ。
「百合子さん・・・、」
 何をされていたのかさえ、朧気な記憶だった。
 ただ、愛された事、身体が彼の激しい愛撫を感じていた事、それゆえこれほどまでに身体が熱く、潤んでいるのだとは、分かる。
 すぐ側に誰かの気配は感じられるけれど、その人が視界に入らない。
 霞む視界は、見知らぬ風景を捕らえている。
 くすんだ色のコンクリートの天井、壁。視界こそ頼りないけれど、電灯がともっているから、その姿はわかりやすい。
 背中の堅めの感触には覚えがない。馴染みある自分の部屋や彼の部屋ではなさそうだ。
 意識を失う前の記憶が蘇り、自分は彼のバイト先の店でお酒を飲んだ事まで思い出す。
 ここは、まだお店なのだろうかと、ぼんやり考える。
「百合子さん?」 
 呼んでいるのに、どうして応えてくれないのか、少し不安になる。
 身体を動かしたいのに、上手く動かない。意識から身体に繋がる神経が切れてしまっているかのようだ。
 しばらく、意識して呼吸を繰り返していると、少しずつ身体が思うようになってくる、頭をもたげる。自分の足の上にまたがるようにして男がいる。
 それが愛する男なのだと、明瞭でない思考はすぐに判断してしまう。
 頭をもたげ、どうやら自分がこぢんまりしたソファーの上に寝かされているのだと気づいて、落ちないように気をつけながら上半身を起こす。
 服は、まだ着ている。けれど、まくり上げられ、裾が乱れ、タイツも途中までおろされて・・・行為があった後だと知れる。
 彼女の愛する男・・・恋人の百合子は、時々欲望のままに彼女を押し倒すこともあるから、今までこういう事態もなくはなかった。もちろん、無理矢理ではなく、彼女も同意するというか・・・流されるというかが常なのだが。
 だから、その事態もそれほど異常だとは思われなかった。
 自分の状態を何となく確認してから、彼女は腕を伸ばして男の首筋に絡めて、そのままキスを・・・。
 腕の中の感触が違う。匂いが違う。
 頭で考えるよりも、感覚が咄嗟に判断した直後に、低い声が耳に届いた。
「・・・おっと、キスはまずいだろ、さすがに、」
 百合子では・・・なかった。
 それでなくても朦朧としていた頭が完全に停止した。
 全く状況が飲み込めない。
 キスは、直前で男の手が止めた。タバコの匂いがする大きな手だった。
「・・・百合子、さん・・・じゃ・・・、」
 自分の出した声によって思考能力が活動をはじめ、彼女は・・・鳥貝は、悲鳴を上げた。
 状況が飲み込めない事には変わりがない。
 ただ、分かる状況・・・百合子以外の男にされたのだという状況が、悲鳴を上げさせた。
「やっ、やぁっ!」
 慌てた拍子にソファーから転げ落ち、膝の関節あたりに纏わり付く脱げかけのタイツで身動きできないままに、少しでも男から離れた場所まで這いずるようにして逃げた。
 男は追ってくることはなく、ソファーの上にいる。
 身動きとれず、頭の中は正常には動かず・・・行き止まりのロッカーの前で、小さくなって震えるしかなかった。
「っ、百合子さん・・・百合子さん、百合子さぁん・・・っ、」
 ここがどこか、百合子がどこにいるのか。
 さっぱり分からないままだけれど、鳥貝は泣きながらひたすら恋しい男の名前を呼んだ。
 彼が聞きつけてやってきてくれる事を期待して。
「っ、えっ・・・百合子、さ・・・、」
 涙が止まらない。鼻水も出てくる。嗚咽に喉が詰まる。
 さっきは嫉妬と自己嫌悪に泣いたけれど、今度は完全に恐怖だった。
 今の鳥貝にとって、真っ先に頭に浮かぶ頼れる人間は百合子以外になかった。だから、必死で百合子を呼ぶ。求める。
「やれやれ・・・、」
 大仰な溜息が聞こえる。
 怖くて直視できないけれど、先ほどの男が身動きするのが分かった。
 また何かされるのではないかという、恐怖に体が震える。
「ぴーぴー良く鳴くひな鳥だな。結構美味そうだったんだが、味見だけにしとくか。親鳥も五月蝿そうだし・・・、」
 男は、鳥貝には分からない内容の言葉をぶつぶつ呟いている。
 良く通る低い声は、耳あたりの良い美声であるけれど、鳥貝はそういう状況を判断できる状態ではなかった。
 動き出した男は、鳥貝の方に一瞥だけくれると、部屋のドアと思しきところを開けて、出て行った。
 恐怖に小さくなって震えるしかない鳥貝は咄嗟に「逃げなければ、」と思ったけれど・・・体がすくんで動けなかった。頭はひたすら逃げたいと思うのに、足が、動いてくれない。腰が抜けているのかもしれない。
 だから、鳥貝は、身体を震わせながら、膝を抱えて泣いた。
「百合子さん・・・百合子さん・・・っ、」
 それしか言葉を知らないように、何度も恋人の名を呼んだ。きっと、彼が来てくれると信じて。


 ふいに事務所へと続く扉が開いた。
 その音に、百合子は反射的に振り返る。鳥貝が起きてきたのかも知れないと思ったからだ。
 けれど。
「なぁ、ユキ。おまえの差し入れ、食べていいのか?」
 そこから顔を出したのは、40前後の整った風貌の男。若い頃は繊細な顔立ちだったかもしれないが、今では重ねてきた年相応の精悍と云える風格を備えた男だった。
 来るはずのない男・・・この店のオーナーが顔を出したことに、百合子は驚いて一瞬思考が止まる。「差し入れ」の言葉に思い当たる節はない。
 ヒロが「あら、オーナー、」と驚いた声を出すと、店の客の何人かが「オーナー久しぶり、」と声をかけ、それに笑顔で手を振り返しながら、百合子に向き直ったのだが・・・百合子は、そこでやっとはっとして慌てる。
「差し入れ?」
 その言葉がやっと引っかかった。
 慌てて、男がふさいでる事務所への入口を、男を押しのけて通りながら、嫌な予感を感じていると。
「味見くらいはいいかなぁって思って、味見はしたんだけどね、」
「・・・!!!」
 倉庫から事務所の扉を掴む前に耳に入った暢気な口調での言葉に、驚愕の表情で男を振り返った。
「食べるのは、一応おまえの許可を取ってからじゃないといけないかな、と思って・・・、」
 笑いながらに云う男の言葉に、ぞくっとして、慌てて事務所に飛び込んだ。
 途端、耳に飛び込んでくる、今日2度目の嗚咽と、その合間から自分を呼ぶ声。
「百合子さん、百合子さん・・・っ、百合子、さん、っ、」
「春海!?」 
 まずソファーの上に視線をやり、そこに姿がないと確認して声の元を求めて視線を彷徨わせると、ロッカーの前に・・・いた。身体を小さくして、膝を抱えて、震えてる。
「百合子さん、っ、」
 涙でぐちゃぐちゃになった顔が、少しだけ笑顔になる。
 百合子が慌てて駆け寄って抱きしめて・・・鳥貝の乱れた着衣に気づき背筋を震わせた。
 鳥貝は百合子にしがみついて泣きじゃくっている。
「ちょーっと味見しただけなのに、ぴーぴー泣いておまえを呼ぶんだぜ。途中まで気持ちよさそうにしてたのに、」
 男の言葉に、鳥貝がびくりとして更に泣きじゃくる。
「っ、ごめんなさい、ごめんなさい、百合子さん・・・わたし、知らない人に・・・っ、」
「あんた、こいつにどこまでしたんだ!」
 鳥貝が泣きわめこうが、百合子が激昂していようが、男は飄々とした態度を崩さない。
「だから、味見だって。そうだな、まだ全然青い。おれの好みではない。けど、もう少し熟成したらかなり美味しくいただけそうだな。感度も、締まりもいいし、何より、声と表情が欲情をそそるな。もしおまえがいいなら、今からでもいただいちゃおうかと思ってたんだけど・・・無理そうだな、」
 その言葉に、鳥貝は百合子の胸元により強く顔を押しつけて泣き、百合子は怒りで顔を赤くした。
「あんた・・・っ、」
 声も出ない、全身が震えるほどの怒りだった。
「おやおや。ユキがそんな風に真剣に怒るところ、初めて見たね。」
 口調はおどけながらも、表情は真剣に百合子を見ている。言葉は真実らしい。
「ずっと前に、おまえが付き合っていた女、おれがいただいちゃった事あっただろ。その時は涼しげな顔してたくせに、さ。もっとも、あれは女の方からおれに云い寄ってきたんだったが。・・・おれだけがいただくんじゃなくて、おまえとその子と、おれと、3人一緒なら許してくれるのか?」
 始終ふざけた内容と口調。
 百合子は胸にしがみつく鳥貝の手をそっと引き剥がして、男に向かう。
「梓(あずさ)、大概にしろ!」
 男に向き合い拳を向けるが、百合子よりも体躯のいい男はあっさり百合子の腕を取り、逆に百合子の腕を絡め取って背中に回し、背後から百合子を締め上げた。
「ユキ、甘いな。おまえは元々ケンカ向きじゃないって云ったろ。遣り合うときは、相手を見て、上く立ち回れって。例えば、おれが相手なら・・・迷いなく急所を狙うとかな、」
「離せよ!」
 もがくほどに、背後で押さえつけられた腕が痛いらしく、百合子は顔をしかめる。
「百合子さん・・・、」
「まぁ、聞けって、」
 男は自分の腕の中にいる百合子と、目の前の鳥貝二人共に云う。
「誤解があるようだからちゃんと弁明する。おれは、その子を抱いてない。ユキみたいなのが本気で付き合ってるような子だからな、興味があったんだよ、」
「じゃあ、なんで、あいつがあんな格好・・・!あんたがレイプしたんだ!!」
「・・・誤解を招く云い方やめろって。レイプってのは、男が気持ちよくなるもんだろ。おれは、あの子を気持ちよくイカせてやっただけで・・・、」
「やっぱり、あんたは!」
「キスはしてないぞ。その一線は守ってる。感度確かめるのに胸と下を弄んだけどな、指と舌以外入れてないし、後ろもいじってない・・・未使用だと悪いと思ってな、」
 直接的な言葉に、鳥貝は小さな悲鳴を上げる。
 夢うつつで自分の中に何かが入っている感じはしていた。中で動くそれは、てっきり百合子のだと思っていた。鳥貝の感じる部分を的確に突いてきたあれは、この男の・・・。
「いやぁ・・・、」
 あらめて背筋を震わせて、鳥貝は泣いた。
 意識が朦朧としていたとはいえ、百合子以外の男に感じる部分を弄られて達してしまっただなんて、考えたくもなかった。
 堅い貞操観念を持ち続けている鳥貝にとって、恋人以外との情交は・・・たとえ、未通だとしても、あってはならない事だったのに。
「っ、ち、くしょ・・・!」
 百合子は唇を咬む。
 愛する女を守ってやれなかった・・・この男は勿論、今現在も不甲斐ない状態の自分自身に対す怒りもあった。
 唇から血が滲む。
「まぁまぁ。大きな犬に咬まれたとでも思って、諦めて忘れなさい。・・・ふむ、犬というならばおれはアフガンハンドかな。上品でいい感じだな。ユキの所のターシャも綺麗な子だよなぁ、」
 場違いにひどくとぼけた事を云う男に、百合子の怒りと苛立ちはますます膨らむばかりだ。
「梓、離せよ!」
「離さない。・・・今離すと、またおれに殴りかかるだろ? おまえの大事な子をいじめた、って。」
「そんな、ほのぼのした話題かよ! 離せよっ!」
「どうしようかなぁ・・・そうだ、こういうのは・・・、」
 自分の腕の中で抵抗し続ける百合子をものともせず、男は百合子のズボンの前に手を伸ばした。
「・・・っ!」
「おまえとは、長いことご無沙汰だったけど・・・、」
 黒い化繊の生地の上から百合子のものに触れる手の動きは、滑らかな身体をくねらせる蛇のようだ。
「おまえの感じる所は覚えてるぜ・・・、」
 耳元で低い声で囁く男に、百合子は苦痛に堪えるように瞼を閉ざした。
「おまえ、快楽には逆らわないもんな。これで大人しくなるよな。・・・ほぅら、」
 百合子のその部分を握り、指先でその先端をなで回す動きをする。
 身体を強ばらせたままの百合子は身動きできないでいる。
 それは、快楽に身を任せているというよりも、わき上がる快楽と必死で戦っているようにも見えた。
 けれど、身体は正直なのか・・・昔、この男と肌を重ねた記憶を忘れていないのか・・・顕著な反応を返して、男を喜ばせる。
「っ・・・やめ、ろ・・・、」
 かろうじて絞り出された苦痛を伴う声が、精一杯の抵抗のようだった。
 男は喉の奥から嬉しそうに笑う。
 鳥貝がその光景を大人しく見ている・・・事はできなかった。
 ヒロに「淡泊」だと称された鳥貝だって、百合子を好きであるし、嫉妬も感じる。
 目の前で、百合子が過去の男にいいように嬲られているのに、我慢できるわけがない。レイプされかけた恐怖さえ、目前の光景にはじかれてどこかへ飛んでいった。そもそも鳥貝は感情を表立って出す方ではないけれど、負けん気は強い方なのだから。
「やめて、くださいっ!百合子さんを離してっ!」
 脱げかけていたタイツをはいて身動きしやすくして、鳥貝は百合子の元まで駆け寄り、咄嗟に力では叶わないと判断して・・・百合子の物を弄ぶ男の腕に噛みついた。
「・・・っ!」
 男の力が緩み、その隙に百合子は背後の男を突き飛ばして男から離れた。
「・・・痛いなぁ。泣いてユキに助けを求めるだけしかできない大人しいお嬢ちゃんかと思ったら、結構やるじゃないか。」
 噛まれた部分を見ながら、くすくす可笑しそうに笑う。
 どこまで行っても、男の余裕の態度は崩れない。
 鳥貝は百合子にしがみついて、百合子も鳥貝を抱き寄せた。
「あんた、ふざけるのもいい加減にしろよ! おれはもうあんたとは手を切ってる。おれにも、こいつにも二度と触るな!」
「・・・相思相愛? 美しいねぇ。まさかユキがねぇ・・・、」
 得たいの知れない男だと、鳥貝は思った。
 随分百合子とは懇意な間柄らしいけれど・・・だからこそ、この目の前の男が・・・「嫌い」だと思った。
 鳥貝が初対面の人間を嫌うのは初めてだった。かつて初対面で無体なことをしてきた百合子に対してさえ、「嫌われている」と思っても「嫌い」とは思わなかった・・・それはそもそも初対面で一目惚れしていたせいもあったのかもしれないが。
「なぁ、嬢ちゃん知ってるか。そいつさ、腿の内側、弱いんだぜ。」
「しっ、知ってますっ・・・、」
「じゃあ、感じてる時に、指の股舐められるのとかは?」
「・・・っ、」
「知らない。後は・・・、」
「梓!」
「アレ舐められながら、あっちの穴いじられるのが好きとか・・・、」
「・・・っ!!」
「梓っ!! こいつにそんな事教えなくていい!」
 鳥貝は百合子と付き合いだしてまだ1年も経たない。彼について、知らない事も多い。
 けれど、この男はきっともっと長い間百合子と付き合って、もっと沢山の百合子を知っているのだ。
 もちろん、男同士と男と女での愛し方が違うのは分かっているけれど・・・男の言葉が、悔しかった。
 多分、図星なのだろう、百合子が否定する事もなく怒っているのが、その言葉とふたりの過去の関係を裏付けている。
 悔しくて、悲しい。
 折角止まっていた涙が、またぽろぽろとあふれ出す。
 百合子の事でまだ知らない事がたくさんあるのは仕方がない。これから知っていけばいいのだから。けれど、それを人から教えられるのは、こんなにも屈辱的な事なのだ。
「春海、聞くな、気にするな。もういいから・・・、」
 鳥貝の頭の中は沸騰した状態のようなものだった。
 まだアルコールが体内に充満している状態で、混乱する事態に陥り、さらにこれまでにない感情を揺さぶられる状態となり。
 だから・・・普段の彼女であったならば、到底起こせない行動に出たのも仕方ない。
 手を、先ほどまで男が嬲っていた百合子の部分に軽く触れる・・・まだ、固かった。
「春海?」
 悔しくて、涙が止まらない。
 自分以外の存在が百合子の身体に触れて、彼の劣情を呼び起こしたことが。
 だから、戸惑う百合子の顔を見上げて、噛みつくようにキスをした。
 勢いをつけて抱きついたせいで、百合子が身体のバランスを崩すが、そんなの構わない。庇われながら、キスをして、床の上に腰を落とした百合子の上に跨っても、続ける。
 手は・・・百合子のそこをズボンの上からなぞっている。
「おやおや、」
 低い男の笑い声も、今の鳥貝の耳には入らない。
「っ、春海・・・!」
 唇を離した百合子が、戸惑いを表せた声で名前を呼ぶのも、気に留めない。
 ズボンのファスナーを下ろして・・・そこから百合子を探り出す。
「・・・っ、ちょ! たんま、たんま、おまえ、何を・・・、」
「百合子さんは、わたしの恋人です。百合子さんは、わたしのものですっ! これも、わたしだけのものなんです、誰にも、触らせたくないの・・・、」
「・・・っ、おまえ・・・、」
 正常な時はたとえベッドの上でも口にしないような事を、鳥貝は泣きながら主張する。
 普段から、独占欲なんてありません、という態度を取る鳥貝の・・・本音だった。
 百合子のまだ柔らかかったそれをしごくようにこすり上げて固くさせてから・・・口に含む。
「・・・っ!」
 こんなに積極的な鳥貝は初めてで、百合子の方こそ混乱する。それに、このあり得ない状況である。
「ユキ、その嬢ちゃん、なかなかヤルな。大人しいだけの娘じゃないのかな。・・・面白い。」
「・・・っ、あんた、いつまでいるんだよ!」
「いや、じっくりと見学させてもらおうかと。ユキが好きな女に攻められてどんな色っぽい表情してイクのかと・・・、滅多に見られないだろう?」
「・・・っ、春海・・・ちょ、ストップ、ストップだ・・・! それは、帰ってから・・・、」
 百合子は自分のものを熱心に口に含む鳥貝の頭を動かそうとするけど、頑としてどかない。こういう所でも頑なさが出ているというか。
 百合子だって、途中で止めたくはない。
 羞恥がすっかり麻痺しているのか、いつも以上に技巧的に百合子を攻めてくる鳥貝のそれが、気持ちよすぎた。
 喉元まで咥え込んで頭を動かして唇と舌で感じさせたり、裏側を丁寧に舐めたり、先の部分を舌先で弄んだり・・・。
 確かに、そういう事を教えた覚えはあるけれど・・・今まで、ここまで実践的にはしてくれなかった。羞恥が勝っていたからなのかもしれない。
「百合子、さん・・・気持ち、イイ?」
 百合子のものを手で挟んで、上目遣いに見上げながらの問いかけに・・・その鳥貝の赤く上気した顔やとろんとした表情に・・・百合子はたまらなくなる。
「・・・その子、結構エロいなぁ、」
 遠くでくつくつ笑う男の声が聞こえるけれど、もうどうでもよかった。
「うん、すっげ・・・イイ、」 
 鳥貝の赤い顔がふにゃっと笑みに崩れるのが、食べてしまいくらいにカワイイと思うけれど・・・今、食べられているのは自分なのだ。
 整った可愛い顔立ち、幼くも見える鳥貝がうっとりとした愛しげな表情で、百合子のそれに赤い舌を這わせている様は、淫靡と云うよりなかった。
 触感はもちろん気持ちいいけれど、それ以上に視覚からくるそれが、たまらない快感を百合子に与える。
 今まで、何人もの人間と付き合ってきて、こうされる事も多々あったけれど・・・この現状はこれまでになく・・・人生最高と云っていいほどに気持ちよすぎた。
 本気で恋する相手に、本気で嫉妬され、独占を主張され・・・堅いはずの理性を吹っ飛ばして、心まで裸になって愛撫されているのだから。
 百合子自身、自分がどんな間抜けな表情をしているのか何となく自覚があったけれど、もう止められなかった。
「・・・やれやれ、」
 男の声がわずかに鼓膜をくすぐり、事務所のドアの開閉する音がしたが、どうでもよかった。
 今は、ただ、彼女とこうしているのが幸せだった。



つづく