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[鳥貝大学1年の冬]

Conventus【2】


「っ・・・!」
 ぬくもりが軽く触れただけだった。けれど、カクテルで濡れたそれが、鳥貝の唇を濡らし、ほろ苦い味が実感できた。
 訳も分からない鳥貝は、ただ呆然としている。突然すぎたし、鳥貝にとっての時屋の立場は他の寮の男達同様に兄のようであり、云い換えても友人や仲間とか、そういった感覚しかなかった。
 だから、何をされたのかよく分かっていなかった。
「云っただろ、君は隙が多いって。」
 くすっと時屋の笑い声を聞いた直後、その前に百合子が立っていた。
「百合子さ・・・、」
 呆然としたまま鳥貝が呟く声を聞くことなく、百合子は時屋の胸元を掴んでいた。表情が、怖い。完全に怒っている。親友である男たちに対してそんな態度を取る百合子を見たのは、初めてかも知れなかった。
「ほら、飛んできた。」
 胸元をつかまれながらも、時屋は茶化すように云い、ヒロが百合子の背後で「ちょっと意外だわ、」とおかしそうな口調で呟く。
「時屋、何のつもりだ。」
 理性はあるのか、客の迷惑を考えた小さい声でも、かなり怒っているのが分かる。
「彼女が気になるって云うから連れてきたんだよ。なのに、なんだよその冷たい態度。最愛の彼女が来たっていうのに。」
 時屋は軽い口調で云いながらも・・・真剣な眼差しで百合子をにらみ返している。
「連れて帰れ、今すぐ。」
「・・・なんでそこまで怒るかな。さっきの不意打ちキスだって、唇に触れただけだぜ、おまえと違っていきなり舌までは入れない。紳士だからな、おれは。」
 時屋も他の客には聞こえないように小声で云うのに、百合子はますますムッとなる。
「ユキ、とりあえず、落ち着きましょ。女の子達が心配してるし。」
ヒロが百合子の肩にぽんと手を置いたのを合図のように、百合子は時屋の胸元から手を離した。
 それから、この店に入って初めて、自ら鳥貝に視線を送ると、短く一言。
「帰れ。」
 それに、鳥貝がむっとしない訳がない。おっとりしていると云われたけれど、感情をむき出しにしないだけで、鳥貝は勝ち気ではあった。
「・・・帰る時間くらい、自分で決めます。指図しないでください。」 
 真っ直ぐ百合子を睨み付けると、百合子は眉根を寄せた厳しい表情のまま踵を返して元の場所まで戻っていった。
「・・・オドロキ。ユキのあんな表情久しぶりに見るわ。かなり真剣だったわよね。いつもはね、苛立っても皮肉っぽい笑みで流すコなのに。」
 ヒロのため息の後の言葉に、時屋もクスクス笑うばかり。
「おっかしぃ。」 
 笑うどころではない鳥貝は、頬をふくらませる。
「時屋さん、悪ふざけがすぎます。」
「そう? や、でもさ、時々キスしたくなるぐらいカワイイから、君。」
「・・・子供っぽいからですか。」
 時屋の趣味は自立した大人の女性である。鳥貝が範疇外なのは知れている。
「いいや、カワイイ妹。兄が妹にキスするのは間違っているかもしれない。けれど、かわいいと思うと、やっぱりこう、触れ合いあるコミュニケーション取りたくなるんだよね。」
 くすくす笑って、鳥貝の頭をぽんぽんとたたく。
 完全にからかいの延長である。
 触れるだけのキスの一度や二度くらい、深い意味なくできる感覚なのだろう。
 鳥貝もさすがに、キスは好きな人とだけする大切な物、的な幻想はないし、恋愛感とは別に好意を寄せる時屋にされて嫌悪はない。
 が、よりによって百合子の前で、わざと神経を逆立てるためにする事ではない。
「それにしても、君もよく云ったよね。さすが。」
「百合子さんは時々、上から押さえつけるように云ってくるから・・・わたしでもムカツキます。」
「あれもまだお子ちゃまだからねぇ。」
「・・・時屋さんだって、悪ふざけは子供みたい。」
 あはは、と時屋は軽快に笑う。
 鳥貝はカクテルを口に含みながら、離れた位置にいる百合子を見た。
 怒る前と変わらない様子で、女性達と向き合っている。
 愛想は良くないけれど、決して無愛想でもない。時々笑みも浮かべるが、基本的に表情は崩さない。
 百合子と女性達の会話が先ほどから聞こえてきている。
「どうしたの、ユキ。時屋くんとケンカでもしてる? 珍しい。」
「あなたたち、子供の頃からの親友よね、確か。あと、安羅くんとか何人かいたっけ? いいわねぇ、イイ男同士で。今度、安羅くんも連れてうちのお店にいらっしゃいよ。女の子達喜ぶわよ〜。色々サービスしちゃうから。」
 女たちはかなりの常連なのだろう。時屋の事だけでなく、他の男達のことも知っているようだった。
 寮や大学でしか知らない百合子や男達の事は、こんな場所でも知れるのだと、鳥貝は思う。少しだけ、寂しく。
 自分が普段生活している場所はごく狭い範囲で、その中で知れることなんてたかが知れている。男達には、もっと広い世界があってそこで色々な人間関係を持っているのだ。
「で、あの女の子は? えらくカワイらしいわね。」
「うちのお店でスカウトしてみる? オーナー気に入るかもよ。」
「あら、いいかもねぇ。ああいう癒し系の子も最近人気。」
「今は地味だけど、ちゃんとメイクして飾り立てたら見栄えしそうね。マイフェアレディ的なの、オーナー好きそうだし。」
「時屋くんの彼女・・・じゃなさそうだけど。大学の後輩かしら。」
「TK大? じゃあ、よりオーナーのお気に召しそう。あの人、『頭の悪いオンナは嫌いだ』ってわたしたちの前でも堂々と云ってのけるからね。」
 綺麗な女の人たちからの注目が自分に集まっている。
 多分、お酒を飲みながら与太話にすぎないとは分かっているけれど、鳥貝はお酒も飲んでいないのに顔が赤くなる気がした。
「大学の後輩。あれはあなたたちのような商売に向くタイプじゃないですよ。相手の行動の先読みができないし、お世辞も云えない。」
「大学の後輩なら、ユキとも知り合いなんだ。」
「ええ、一応。」
 まさか、こういう場で「恋人」なんて云えないのは分かっているけれど、少しだけ鳥貝は傷つく。 
「ふぅん、ユキって相変わらず男にしか興味ない思っていたけど・・・もしかして、あの子、あなたの恋人だったりして?」
 女性のカンは鋭い。特に、人を相手にする商売をしている女性だから尚更かもしれない。
「違いますよ。」
 ごまかすでもなく、百合子はきっぱりと否定した。
 鳥貝の胸がずきんと痛む。
 それを察したらしい、時屋が、鳥貝の頭に手を置いて優しく撫でてくれる。
「女には興味がないと云い張るのね。」
「へぇ。じゃ、試してみよっかな〜、」
 女性のおもしろがる声がした。
「マズ、」
 時屋の声がして、時屋が動く前に、鳥貝は見た。
 百合子が・・・キス、されていた。
 マイと呼ばれた綺麗な女性が、カウンター席から立ち上がり、百合子の頬を引き寄せて・・・唇が深く重なっている。
 百合子が、目の前で他の女性とキスしている。
 その事実に、鳥貝は予想外にショックを受ける自分を感じた。
 自分が時屋とした時の、百合子の気持ちをふと思った。
 無理にキスされている百合子は、抵抗するでもなく・・・半目を閉じながら為すがままになっている。表情は、ない。
 かなり長いそれに思われた。
 鳥貝はただ呆然として、時屋が頭を抱えている。ヒロは面白そうにそれらの様子を見ている。
 やっと唇を離した女性は、眉根を寄せて唸っている。
「反応なし? ヒドくない? わたしががんばってるのに。」
「だから、おれは女の人には感じないんですって。」
「マイ、ずるぅい。反応なくてもいいから、わたしもユキとしたい。」 
「普段はさらっと避けるくせに、今日はどうして。わたしともしましょうよ。」
 他のふたりがぶーぶー云いながら、手を伸ばしてくるのを、百合子は避けて苦笑いした。
「マイさんのは、不可抗力でした。二度目はありません。」
「折角のイイ男なのに。なんでかな、ユキは。」
「勿体ないなぁ。」
「おれの体質ですので。すみません。」
 普段にない丁寧な口調は、お客さんの前だから。
 ぼんやりと鳥貝はそんな事を思った。どうでも良いことを思わずにはいられなかった。意識を逸らそうとしたのだ。
 でも・・・涙は止められなかった。
「わっ、春海ちゃん・・・、」
 ぼんやりと流れてきた涙に慌てた時屋が、ハンカチを差し出してくれた。
「・・・ごめんなさい・・・、」
 時屋のハンカチを受け取って、鳥貝は唇を噛んだ。
 泣きたくないのに、どうしても涙が出てくるのが悔しかった。止めようとするほど、涙はひどくなる。
「・・・お手洗い、行ってきます。」
 かすれがちな声で鳥貝が云うと、ヒロが店の奥を指さしてくれた。
 泣いているところを、百合子には見られたくなかった。
 やきもちを妬いているのだと、そう思われるのが、癪だったのだ。
 個室に入ると・・・涙がどっと溢れてきた。
 この店のアルバイトの事を積極的に話さなかったのは、こういう事だったのかと思うと、切なかった。
 鳥貝は、しばらくトイレで涙に暮れた。


 鳥貝のいなくなったその場で・・・、百合子が必死で表情を取り繕っているのは、時屋には見て取れた。
 百合子が異様な程に鳥貝にベタ惚れなのは、時屋も知っている。それは、彼らが付き合い始めて半年以上も経った今でも変わらない。
 何故この店に来られるのを嫌がっていたのも分かる。今日分かったこともある。
 やはり、第1は会わせたくない人物がいるからなのだろうと思われる。今日は店には顔を出していないようだが、もしも鳥貝と鉢合わせをするようなことになれば、どんな面倒な事態になるかもしれない。
 そして、ゲイの多いこの店だけれど、常連の女性客もまた多い。そういう彼女たちにちょっかいをかけられた時の逃げ道に、自分が同性愛者なのだというレッテルを貼っておきたいのだ。最愛の恋人の鳥貝が来てしまっては、そのレッテルが剥がされる事になるかもしれない。
 さらに、自分のこの店での姿を鳥貝に見られたくなかった事もあると思われる。鳥貝の知る普段の百合子からはかけ離れているのだから。
 時屋が百合子を手招きすると、女性達の会話をすり抜けてやってきた。気のきくヒロが、百合子の代わりに女性達の会話に入っていく。
 仏頂面をする百合子の云いたいことはよく分かる。
「隠し事、したくなんだろ、春海ちゃんには。」
「それとこれとは別。今日はあの人が来る予定がないからいいけど・・・、二度と連れてくるな。」
「・・・ふぅん、おまえにも弱点があったんだ。」
「おまえ、分かってただろ、」
「何となくはね。でも、春海ちゃんが知りたがったからさ、おまえの事・・・嬉しくない?」
「おれに直接聞けばいいのに、」
「あの子は、人のこと根掘り葉掘り聞くタイプじゃないから。分かってるんだろ。」
 百合子は、鳥貝の姿を消した化粧室の扉を見てため息をついた。
「行ってくる。あと、任せた。」
「了解。彼女たちの意識くらい逸らせておくって。」


 店のトイレは入った所にまずは洗面台がある。
 ドアを開けてすぐ、百合子は鳥貝のすすり泣きが、人が入ってくる気配にぴたりと止まったのを感じた。
 鳥貝の勝ち気さ、頑なさは、百合子には分かっている。
 素直に出てきてくれるか分からないけれど、拗れたまま今日を終えたのでは、今度会う時にに鳥貝の感情は確実に悪くなっている。
「ごめん、春海。」
 何はさておき、まずは謝罪。
「おまえに店に来て欲しくなかったんだ。ああいう女性達を避ける為に、おれが同性愛者っていうレッテルが必要なんだ。だから、おまえを呼べないでいた。」
「・・・なら、最初からそう、話してくれたら、いいじゃないですか・・・、」
 途切れがちな嗚咽を堪えた声が、痛々しい。
「云いにくいこともあったんだよ。・・・おまえに、会わせたくない人がいてな、その人の事を説明すると、おまえが気分を悪くすると思って。」
 鳥貝が沈黙する。
 百合子は溜息をつく。
「怒るなよ。」
「・・・怒りません、多分、」
「・・・、この店のオーナーなんだけど、さ。おれが昔付き合っていた人だ。」
「・・・。・・・。男の、人?」
「そう。」
「もしかして、今も、まだ・・・、」
「誓って云えるけど、あの人とは高校の頃までだった。あの人は大人だから、なんとなくの付き合いが3、4年あって、きっぱり別れてからもそういう関係なく会い続けた。大人で、色々割り切れる遊び人だよ。だから、今もおれは尊敬はしているけど、そういう感情は一切ないし・・・、あの人もそれはないはずだ。・・・性格的にクセのある人というのもあって、おまえに会わせたくなかった。」
 ドアの向こうの鳥貝の沈黙はしばらく続いた。それでも、こらえきれない嗚咽は響いてくる。
 百合子は軽くノックする。
 返事はない。
 不安になって、何か云わずにいられなかった。
「おまえが、好きだ、誰よりも。男でも女でも関係なく、おまえが一番だよ。おれには、おまえだけなんだ。・・・いつも云ってるけど、これは真実だから。」
 絞り出すような切ない声は、表情を見ないでもどんな想いが詰まっているのか理解できた。
 男でも女でも関係なく。
 普通の男なら女性だけが恋愛対象。けれど、両方ともと付き合ったことのある百合子だからそう云う。普通の男の「一番好き」は人類の半分を占める女の中で一番好きだという告白。けれど、百合子のそれは全人類の中で一番好きだという告白だ。それはつまり、倍の重い告白になるのではないか。
 閉じたトイレの蓋の上に座りながら、嗚咽を堪えて居た鳥貝はそう思って、微笑を浮かべた。
 もちろん、百合子の愛情に疑いはないのだ。
 ただ、これみよがしに目の前でああいう事をされたのが予想外にショックだった。
 百合子への恋情をしっかり自覚して以来、鳥貝は百合子の事に関しては理屈抜きで感情的になる自分を自覚していた。それまで、勝ち気な性分故にバカにされたりからかわれたりしてむっとする事はあったものの、最近はもっと色々と感情を顕わにしてしまう。主に、それが嫉妬に起因している事さえ自覚にあったけれど・・・嫉妬だと分かっても、それを上手く収められない自分に苛立って情けなくなって、更に感情が乱れるのだった。
 今回もほぼそれだ。
 百合子に対してももちろん憤っているけれど・・・自分への嫌悪もある。
「・・・も、いいです。大丈夫・・・、」
 そっと扉を開けると、いつも通りの優しい笑顔をした百合子がほっと安堵のため息をついていた。
 ドアにかかる鳥貝の手を、急に取って個室から引きずり出して、抱き寄せる。
「よかった・・・、」
 頭を強く胸に押しつけるように抱きしめられると、百合子の鼓動が直接身体に響いてきて・・・鳥貝は落ち着いた気持ちになる。聞き慣れた彼の鼓動と・・・体温と、香りと・・・滑らかな質感のサテンのベストには少しだけ、タバコの匂いは染みていたけれど。
 鳥貝もほっとしたと思ったら、今度は抱きしめた腕が離れて、唐突に顎を持ち上げられてキスされていた。
 不意打ちに近い。いつもの事だけれど。
 けれど、今日のそれはまた、しつこいほどに激しくて・・・長かった。鳥貝が嫌がって百合子の胸をたたいてしまうくらいには。
 唇を離した百合子は、じっと鳥貝の顔を見ながら笑う。
「口直し・・・、」
 それの意味する所を理解して、鳥貝は苦笑した。
「失礼です。」
「春海の、匂いがいい。春海の感触が好き・・・、気持ちイイ・・・、」
 今度は、云いながら耳元から首筋に何度もキスをする。
 その度にちゅ、ちゅ、と軽い音が響いて、鳥貝は気恥ずかしくなってくる。
「ちょ、百合子さん・・・ダメです。ここ、お店で・・・、」
 やんわりと百合子の顔を避けようとするけれど、百合子は許さない。鳥貝の頭をしっかりと抱え持っている。
 そのうちに・・・、
「したい・・・、」
「は?」
 百合子が云いだした言葉には、困惑せずにはおれない。
 何をしたいか、なんて・・・さすがにそれなりに長い付き合いになってきているから分かる。けれど、非常識すぎる。
「なっ、なに云ってるんですか! ここ、お店ですし、バイト中でしょう!?」
 さすがに声を荒げて、百合子を睨み上げるけれど、百合子は切ない表情で鳥貝を見つめ続けている。
 ・・・最近、時々百合子が使う手なのだと、鳥貝は分かってしまっているけれど・・・その表情には弱かった。
「ダメです。あり得ません。それに・・・お客さん、いるでしょう?」
 百合子の表情を見ていられなくて、視線を逸らせながら云うのに、百合子は鳥貝の身体をまさぐり始める。
「ちょ、百合子さんっ、」
「春海の赤くなった眼が、かわいすぎるから悪い。」
「また、意味のわららない・・・、んっ・・・、ちょ・・・、」
 膝丈のフレアスカートの裾がたくし上げられて、百合子の手が内腿を這う。やらしい手の動きだ。
「ほんとに、止めて下さい! 泣きますよ!」
「泣いてくれて、おっけ。おまえの泣き顔も好き。」
「じゃ、じゃあ、叫びます・・・、」
 脅しを含めて、すぅと息を吸い込むと、さすがに百合子の動きも止まる。
 一応、雇われている身である。こうしていちゃついている時間にも、雇用費用は発生しているはずである。
 ・・・十分に分かっていても、百合子はやるのだろうが。
「それなら、春海・・・、」
 ゆっくりと、実に名残惜しそうに鳥貝の身体を離しながら、百合子は云う。
「今晩、おれの家に泊まってけ。」
「はい?」
「おれのバイト0時までだから、それまで待ってろよ。一緒に帰ろう。」
「・・・時屋さんもいるんですけど・・・、」
「勝手に帰る。」
「わたし、明日はバイトもあるんですけど、」
「早朝出れば余裕で間に合う時間だろ?」
「・・・大体、百合子さんのお家に泊まるって・・・その、」
「構わない。前にも泊まってるじゃん。それに、0時過ぎに帰っても、みんな寝てるよ。親父とお袋は分からないけど。気にしないよ、あの人たちは・・・お気に入りのおまえなんだし。」 
 鳥貝の胸元と腰のあたりででもぞもぞ動く手を、鳥貝は払いのける。
「・・・わっ、わかりました・・・、じゃあ、時屋さんには帰ってもらいます。」
 鳥貝は百合子の腕の中をすり抜けようとするのだけれど、もう一度腕をつかまれた。
「慰めても、くれないよな・・・?」
 おかしそうに、けれど、熱い囁きを鳥貝の耳元に吹きかけた。
 何のことだろうと思っている隙に、手を掴まれ、鳥貝の手が無理矢理触れさせられたのは。堅い感触。
「・・・っ!」
「おまえがかわいすぎるせいだ。」
 笑いを含んだ声に、鳥貝は顔を一気に真っ赤にした。
「む、無理ですっ、」
 慌てて手をふりほどいて、鳥貝は飛び出すように化粧室を出た。



つづく