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[鳥貝大学1年の夏]

もしも兄弟だったなら


 鳥貝がアルバイトから帰ってくると、居間がやけに賑やかで、普段聞き覚えのない声が聞こえてきていた。
「、から・・・・・・絶対よ。で、春海ちゃんはねぇ、」
 女性の声。そして、自分の名前が話題に上っている。気になって、居間をこっそり覗くと、久しぶりに見る人物がそこにいた。美羽子さんだった。
「あれ、美羽子、さん?」
 美羽子と美羽子の周りに座っていた、多飛本、安羅、白熊が「おかえり」と声を揃えて鳥貝に言う。
「どうしたんですか?」
「近くまで来たからついでに・・・・・・と、言いたいところだけど、実は多飛本くんに誘われて、夕ご飯をご馳走になりにきたのよ。」
 なんで、またそういう事に? との、鳥貝の言葉なき言葉が表情から読み取れたらしく、安羅が鳥貝を手招きしながら説明した。
「実は、明日は夏目の誕生日なんだ。折角だから何かしようって事になって、美羽子さんたちをよんで、前日になるけど、今日に誕生会をしようってなって。とは言っても、主役抜きだから、とりあえず夕食会だけなんだけど。」
「誕生日だもの。お墓参りじゃなくて、ここでお祝いをしてあげた方がいいと思うの。夏目も、きっとここに来てると思うから。何しろ、今は春海ちゃんもいるしね。」
 そんな話初耳だな、と、自分にだけ連絡が回っていない事で少しだけしゅんとした鳥貝だったが、多飛本が首をかしげた。
「百合子のヤツが、メールしといた、って言ってたけど。見てない?」
「・・・・・・あ、」
 そういえば、バイトが終わってから一度も携帯を開いていなかったと今更気づいて、鞄から慌てて携帯を取り出した。
 確かに、着信ありになっていた。メールの内容も、一応今日の夕食の説明にはなっているが・・・・・・。
「あらあら。春海ちゃん愛されてるわね。」
 美羽子が携帯画面を覗き込んで、うふふと笑った。
 肝心の本文の前後に愛情たっぷりの言葉と絵文字の羅列があった・・・・・・百合子のこういう所にも徐々に慣れてきてはいたが、やっぱり、赤面してしまう。
「しかし、百合子は愛されてないな。」
 ぼそっと多飛本が呟き、安羅は苦笑して、ぼそぼそと白熊の耳に何事が囁いて、同意を求めた。「ふつうはさ、付き合い始めの頃って、頻繁に連絡やりとりしたり、気になって携帯もマメにチェックするよな。」白熊は、はははと同意の代わりに乾いた笑いを漏らした。
 居間をぐるりと見回した鳥貝が、愛されていない男含む約二名の不在を指摘すると、ふたりはじゃんけんに負けて買出しに出ているという事らしい。
「それで、さっきは、なんの話をしていたんですか?」
 鳥貝は、自分が中断してしまった先ほどの話題を問うた。自分の名前が出てきたものだから、興味を引かれたのだ。
 美羽子は思い出して、くすくす笑う。とても楽しい会話だったらしい。
「元はどんなきっかけだったか忘れたけれど、ここにいるみんなはね、私の子供同然だから、って話になって・・・・・・、」
「なら、誰が長男だろう、って事になったんですよね。」
「長男は勿論、夏目だろう。ぼくはそういう柄じゃないからね。」
「夏目は面倒見の良い、兄弟全員から慕われて頼られる、完璧な兄貴だよね。そして、苦労性。そして、春海ちゃんは・・・・・・、」
「皆からかわいがられている、末の妹。唯一の女の子だから尚更、猫かわいがりされてそうよね。」
「次男の多飛本は、兄の補佐役。基本面倒なことはしないし、他の兄弟の世話も焼かないけど、何かあったら真っ先に兄の助けになる。で、三男は・・・・・・ぼくかな。これでも、面倒見はいい方だと思うしね。」
「そうだな、時屋よりも安羅だろうな。年上と年下の人間の間に入って、上手いこととりまとめられそうだからな。それに、時屋はふらふらしていて危なっかしいから、同じ危なっかしくても安羅の方がまだ・・・・・・、」
「ちょっと待って。ぼくって、そんなに危なっかしい?」
「うん。時屋とちょっと別の意味でね。女性問題で何かおこしては、こそこそ逃げ隠れしてそう。そして、夏目にフォローしてもらってそう。」
「ちょっとまて。ぼくは今まで問題はおこしたことはないぞ。夏目にフォローしてもらったことも・・・・・・ない。うん、ないはずだ。」
「そうだよね。逃げるのも上手いもんね。こと、女性に関しては特に、詭弁論者になるからね、安羅は。」
「常に詭弁論者の白熊には言われたくないな。」
 ごく軽い調子で進む会話が、心地よい。普段、寮にいない美羽子が入る事で、普段よりもずっとアットホームな雰囲気になっている。本当に、美羽子が皆の母親のようだ。
 正直、鳥貝には彼女を母親として見る事にはまだ少し抵抗がある。だが、他のメンバーたちは鳥貝以上に彼女を母親的存在だと思っているのかもしれない。
「四男の時屋さんはどんな感じなんですか?」
 安羅と白熊の睨みあいに鳥貝が割って入った。ふたりが真剣に睨みあっているわけでないのは、分かっているから。
「自由人。」
 多飛本が即答する。
「個人主義で、家には滅多に帰らない。で、いつも長男を心配させている。けれど、その実必要な時には必ず助けになる・・・・・・って所かな。」
「じゃあ、五男の白熊くんは癒し系ね。場の雰囲気を和ませてくれる。」
「そして、和ませた後に、まぜっかえす。」
 安羅が言う。白熊が言い返そうと口を開く。
 しかし、その前に鳥貝が発言権を獲得。鳥貝もここでの生活に大分なれてきたと言える。
「六男の百合子さんは、末っ子気質ですね。我侭放題で、一番兄さんに心配かけそうな。」
「そうそう。甘えてるのよね。構って欲しいから、我侭を言ったり問題を起こしてみたり。で、唯一の下の兄弟、妹の春海ちゃんを構い倒すの。かわいいわねぇ、ユッくん。」
「構われすぎはちょっとごめんですが・・・・・・かわいいですねぇ、ユッくん。」
 みんながどっと盛り上がった。盛り上がる話題だったのだけれど。
 鳥貝の背後を皆が見たと思った瞬間に・・・・・・。
「・・・・・・っ、ちょ・・・・・・!」
 百合子に羽交い絞めにされていた。愛されていない男のご帰還だ。
「かわいいユッくんが帰ってきました。」
 硬い声だった。怒っている。
「何の話だよ。」
 笑いものにされていた腹いせのつもりか、鳥貝を羽交い絞めにしたまま、その耳元に息を吹きかける。
「っ、きゃ・・・・・・、」
「やだ、エロい、ユッくん。」
 百合子の背後からやってきた時屋が袋に入った荷物をよいしょ、と百合子の頭の上に置いた。
「百合子。荷物を運ぶなら台所まで持っていけよ。いくらかわいこちゃんがいたとしても、声をかけないで通り過ぎるのは礼儀違反だとしても、寄り道はするんじゃない。で、かわいい春海ちゃんおかえり、バイトご苦労様でした。お茶でものむかい?」
 前半と後半で声のトーンが天と地ほども違った。
 自由人の四男坊は、自分の荷物さえ百合子に押し付けて、かわいこちゃんにお茶を淹れるために台所に向かったのだった。
「甘えん坊の末っ子くん、おかえり。さて、我々も夕食の準備に食堂に向かおうではないか。」
 多飛本の言葉に安羅と白熊も素直にしたがい、問題児の末っ子は怒りたいけど怒れない、微妙な表情を拗ねに変えて、居間のソファに座りこんだ。当然のように、鳥貝のとなりだ。
「愛されてるわねぇ、ユッくん。」
「美羽子さん・・・・・・っ!」
「だって。愛してるからこそ、いじわるしたくなるものでしょう? 違う?」
 散々鳥貝に好きな子いじめをし続けていた百合子に返す言葉はない。
 黙りこんだかわりというか、鳥貝に抱きついて、その慰めを請うている。
「すっかり図体はでかくなったけど、子供なんだから、ほんと・・・・・・。」
 美羽子は呟いて・・・・・・けれど、鳥貝に抱きついた百合子が苦笑する彼女に優しく背中をぽんぽんされている様子を見て、とても愛しげに瞳を細めて微笑んだ。
 夏目が愛し夏目を愛した、彼の兄弟ともいえる彼ら。そして、夏目と会う事のかなわなかった、ただひとりの妹。彼らが幸せに過ごしているこの光景を、夏目もきっとどこかで微笑みながら見ているに違いないと、美羽子はそう確信した。



おわり