お風呂に入ろう



注: とりあえず……映画の流れによる時間考証無視(笑)。
つまり、決して深く考えないで下さい(爆)。


 
 油屋は、銭湯。
 と、いう事は、一応色々なバリエーションのお風呂がある。

 基本的に、従業員がそれらを使う事はできないのだけれど……暗黙の了解のうちに、時々、こっそり使ったりする。要はバレなきゃオッケーという事で。

 その日も終業後、千尋はこっそり、露天風呂に足を運んでいた。

 油屋の露天風呂は、とにかく広くて豪華だ。
 小さな千尋が、端っこのほうでこっそり入っていたって、岩や木や……その外、様々な置物の陰に隠れて見えやしない。

「はぁぁぁ〜」

 暖かなお湯のまろみに包まれて、千尋はふにゃっと表情を崩す。
 一日の疲れが、融けて、流れ出てくるようだ。

 空を見上げれば、どこまでも深い蒼闇。とこどろころ、煌く小さな砂粒。

「綺麗、だなぁ……」

 ぼーっとして空を見上げる。

 頭の中で、ぼんやりと今日一日あった事を反芻してみる。
 毎日が失敗と新たな発見の連続で……小さな千尋は、ただただ毎日に流されている。

 けれど……。

「ハク……今日も忙しそうだったな……」
 
 ハクの事を考えると、きゅっと胸元が締まるような感じがして……まるで、ふわふわとした、足もとのおぼつかない雲の上を飛びはねているような気分になる。
 何故か、ハクの事を考えるだけで、毎日が嬉しくなりさえするのだ。

「お仕事の時のハク、まるで別の人みたいだから……。また、ふたりで、会えないかな……ゆっくり、お話がしたいよ」

 言葉を呟くたび、冷たい夜の空気息が冷やされて、白くなって、立ち上る。

 ふううぅぅ。

 また、大きく息をついて、お風呂の水で顔をじゃばじゃば洗う。

「ちゅぅ?」

「……え?」

 すると、どこからか、声。

「ちゅ、ちゅぅ」

 顔を上げると……。

「あれ、坊?」

 ねずみ姿の坊が、洗い場を嬉しそうに駆け寄って来ていた。

「どうしたの? またねずみ姿になったりして。あ……そうか、また、油屋の中、探索してたのね?」

 近頃、坊は勝手にねずみ姿になって(両姿を自由に変更できるようだ)、油屋の中を歩き回るのを趣味としてた。勿論、湯婆婆には内緒である。
 人間の姿は動く効率が悪いし……目だって仕方がない。
 小さなねずみ姿でこそ、従業員や神様方の普段の生態生活を垣間見れるというもの。

「ちゅぅ!」

「え?一緒に入りたいの? でも、そのままじゃ沈んじゃうし……あ、ちょっと、待ってて」

 十歳の少女に、さしたる羞恥心は、ない。

 と、いうか、相手が(多分)年端もいかない坊で、ねずみであるという事に油断している。

 無防備な姿のまま(<いわゆる生まれたままの姿ってやつ)、露天風呂を出て、檜の桶を持ってくると、そこに坊をいれて、湯船に浮かせてやった。

「ちゅ?」

 坊の言葉がなんとなくわかるのか、千尋は坊の身体を抱き上げて……そっと湯船につけてやる。
(ねずみに風呂を使わせてもいいのか? つーか、ひよこでも風呂に入っているからいいのだろう、ここでは<風呂掃除、マジ大変だな^^;。抜け毛、抜け羽、抜け根っ子)
 そっと手を離してやると、最初は泳ごうとばしゃばしゃ手足を動かすけれど、すぐに沈んでしまう。
 千尋は慌てて坊ねずみをレスキューして、(裸の)胸元に抱き寄せた。

「やっぱり、ねずみの姿のまでは無理みたいね」

 くすくす笑う。

 なんと、長閑な光景だろう……。

 ねずみと風呂場で戯れる少女!!!(萌え?)

 や、でも、ねずみの正体が正体だけに……と、いうか……。

 突然、にわかに空が掻き曇る。雷鳴が鳴り、まばゆい稲光が周囲を満たす。

 これって、何の登場シーンでしたか……古来から、日本の伝承によれば……そお、一般的に雨雲を呼び、雷鳴をとどろかせ、雨を降らせるのは…………!!

「え? なに??」

 突然の暗転に、千尋は慌てて空を見上げる。

 雨は、まだ降っていない。

 けれど……そこには……。

「え? 白い……竜?」

 滅茶苦茶見覚えのある白い竜が、長大な身体をくねらせて、すぐ頭上を飛んでいた。

「って、あの竜……」

 ひどく、目がいきっているのは、気のせいでは……なさそうだ。

「もしかして……」

 呆然として千尋が結論を口にしようとした途端、胸元にいた坊ねずみがぴぴっと毛を逆立てて、千尋の胸元を飛び退った。

「え? 坊?」

 さらに、きょとんとする千尋の脇を掠めて……。

 ピカッと稲光……稲妻が走る!

 ドカン!

 露天の石の床、坊ねずみのすぐ真横を雷は直撃!!

「きゃっ!? え?」

 雷を避けた坊ねずみ、一目散で建物の中を目指す。

 再び、雷光。雷が、坊ねずみめがけて落ちる。

 床石が砕ける。

 が、間一髪! 坊ねずみの姿は、露天風呂の出入り口の向こうに消えた。

「……………え?」

 まだ、よく状況がわかっていない千尋。
 きょとーんとしていると……。

「千尋……無事だったか……」

 聞き覚えのある声が耳元で……。

「あの性悪ねずみめ……今度、千尋に近寄ったら……」

 慌てて振り向くと、そこに………とても見覚えのあるヒト。

 凍り付く、千尋。

「ともかく……良かったよ、千尋……」

 にっこり爽やかに微笑まれてもさ……。

「……っ!!!! ん、きゃああああああ〜〜!!!!!」

 大絶叫!!

 十歳の少女とは言え、(一応)同世代の男の子……しかも、気になっている男の子に対する羞恥心は十分に持ち合わせています。

 ものの数秒の後に。

「どうした、千!?」

 油屋での千尋の保護者登場。

「……っ!? ハク!? てめぇ、千に何しやがった!? こんの、ど助平野郎め〜〜!!」

 ……その後、ハクは夜空のお星様になったとか、ならなかったとか(合掌)。

 坊が確信犯だったかどうかは分からないけれど………ハクが、千尋の入浴シーンを何処かから覗いていたのは、おそらく確実かと(爆)。

 しばらくの間『むっつり助平ハク様』と、皆から親しみをこめて呼ばれていたとか。

 めでたし、めでたし……?




一応〜幕〜



つづく……かもしんない(笑)。


++BACK++