イラストをいただいたお礼に書かせていただいたものです。

私の猫


 

猫を、見つけた。

とても綺麗な猫を。

私だけの、気まぐれな猫を。

毛並みは藍色。

さらさらと指どおりののいい柔らかな毛並みは、
そっとなぜているだけで心地いい。

瞳は宵闇。

硝子珠のように、キラキラと光を反射する瞳に、まっすぐ見つめられると、
心の中全てを見透かされているような気持ちになる。

優美な曲線を描く滑らかな肢体が動作する事で描かれる螺旋の軌跡さえ、
とても美しい。

その一挙手一投足に、見惚れて仕方がない。

いつもはあまりに素っ気無く私の腕をするりとすり抜けていくくせ、
時々、思い出したように傍にやってきては甘える仕草をする。

なんて、気まぐれで奔放な猫。

……だから、目が離せない。

本当はいつも傍にいてほしいのに、決して傍にはいてくれない。

でもね、その姿を見てるだけで、幸せになれるから……
愛しい気持ちになれるから……。

傍にいてくれなくてもいいから、せめて、気づいたとき、
そこにいてくれればいい。それだけで、いい。

 

瞳を細めて空を見上げる姿が好き。

無防備にお昼寝している無邪気な寝顔が好き。

時々、睨みつけるような厳しい眼差しが好き。

 

――全てが、大好きでたまらない。

 

ずっと、傍にいてよ、なんて、言えない。

あなたを縛り付ける事なんてできない。

でも……でもね、時々わたしを思い出して、甘えてくれたら嬉しいの。

喉元や耳の後ろや、その背中を優しく撫ぜてあげるから。

ひと時だけでも、小さく喉を鳴らして、傍に寄り添っていて欲しい。

 

 

 

「何を、考えているんだい?」

 暮れ行く日差しが彼の白い頬を蒼闇色に翳らせている。

 膝に預けられた、彼の頭の重みが、心地よい。

「何を考えてると思う?」

 藍色の髪を、すくい上げて、手のひらからさらさらと零れ落ちる感触を楽しむ。

「……さぁて、ね。さしずめ……どうやって、僕をひきとめようか、とか?」

 明日にはまたどこかに旅立ってしまう恋人。

 確かに、傍にいては、欲しい。

 けれど……引き止める事などできないのは、分かってしまっている。

 私は、苦笑するしかない。

「……そうね、引き止められたら、どんなにいいかしら。
首輪をつけて、鎖につないで……いつも私の傍に?」

 上から、恋人の顔を見下ろす。

 女性とも見紛うばかりの整った顔立ちの恋人は、
唇に小さな笑みを浮かべて、揶揄するように囁いた。

「君に与えられた餌を食べ、君に与えられた時間を費やし、
君に与えられた愛情だけで生きてゆくわけかい?」

 私の応えを待つ、微妙に挑戦的な口調に、私は彼らしさを実感して、微笑む。

「ええ、そうね。私だけのあなたでいてくれるのなら、
私は、あなたに何でも与えて見せるわ」

 じぃっと、宵闇の瞳を見つめる。

 しばらくの沈黙。彼は、私を見つめつづけている。

 そして、私は、根負けしたように、息を吐き出した。

「……でも……そんなの、あなたじゃないもの。
あなたが、おとなしく私に飼いならされてるなんて……考えられないもの」

 切なく彼を見下ろすと、愉悦の光が、宵闇の瞳に細く光って見えた。

 私に向かってそっと伸ばされた、長く繊細な指を持つ彼の手をとり、
私はそれを頬にそえる。そのぬくもりを感じたくて。

「たまには、飼いならされてやってもいいけど?」

 くすっと笑う恋人。

 そこには、一片の真意もない。

「そうね……そうしたら、私の腕の中に閉じ込めて、
二度とどこにも行けないように、抱きしめてあげる」

 私もくすっと笑って彼を見下ろすと、彼は、瞳を細めて、私の頬を引き寄せた。

 そっと触れる唇。

 少し冷たい彼のそれを温めるように、強く押し付ける。

「……僕は、もう十分に君に飼いならされてる……」

 小さな囁きに、私は笑む。

「これでも、僕は情熱的なんだ」

 綺麗な指先が、唇に触れた。濡れた唇の輪郭をなぞるように指を這わせて、
再び激しく口付ける。

 長い長い口付けに、眩暈さえ覚える。

 普段はクールな彼の意外な情熱に、私は流される。

「……僕を鎖で繋ぎ止める事は、君にだって出来ないし、もちろん、僕自身にもできない。けれど、僕の帰る場所は、いつだって君にある。君という不動の場所があるから、僕はいつだって自由にいられるんだ。人間、いつか帰る場所は、必ず必要なものなんだよ……。僕も気づいたのはつい最近だけれどね」

 私の栗色の髪を耳元から手を這わせてかきあげて、乱れた髪の合間から、じっと私を見上げ続ける。

「君が、気づかせてくれたんだよ……」

 彼は体を起こして、私を真正面から見つめると、
私の両の頬をその綺麗な手で包み込んだ。

「君と出会ってから、僕は色々と新しい発見を繰り返し続けている。
悔しいくらいに、君に、インスピレーションをかきたたれれる。」

 私の瞳を覗き込むまっすぐな視線は、
不純物を混ぜない水晶のように透き通って、美しい。

「使い古されて陳腐な言葉が、時に、目新しく新鮮に感じる。何より、純粋に想いを伝える事もある……今の僕が、そうさ……言ってもいいかい? どうしようもなく、通俗なセリフを」

 彼が頭を傾げ眼差しを伏せると、長い睫の陰が白い頬に落ちる。
柔らかな髪が彼の肩から、音もなくさらさらと流れ落ちる。

 そっと近寄ってくる顔。紅い唇が、ゆっくりと動いて、言葉を紡ぐ。

「……愛してるよ」

 再び、彼は私に口付けながら、ゆっくりと体を横たえていった。

 明日には旅立つ恋人の背を、私は強く抱きしめ、
何より率直に想いを伝える言葉を、うわ言のように吐き出し続けた。

「好き……大好き……」

 彼は、そんな私に、満足して喉を鳴らしていた。

 

 

私の猫は、綺麗な猫。

私の猫は、気まぐれ猫。

私の胸の中で、甘く喉を鳴らす。

自由で奔放で、縛られる事を潔しとしない。

だから、私は、あなたを離してあげる。

離れていても、私だけを大好きでいてくれるから、それでいい。

ふらりとどこかに出かけていっても、
戻ってくるのが必ず私の腕の中だから、それでいいの。

 

 

―――私の猫は、私だけの愛しい猫。

 

 

〜END〜

 


イラストを二枚もいただいてしまったお礼に、蜜柑様
もらっていただいた創作小説です。

 

<言い訳・反省>

短い分、濃い目なのを目指してみました。

らぶらぶ・・・・・・の、つもりです。

情熱的な、セイラン様です・・・・・・多分。

で、勝気ちゃん・・・・・・多分。