真昼のゴースト
〜ゼフェル、天使に出遭う
☆ゼフェルの語りによるプロローグ
オレは、昔っから神や霊の存在なんざ信じちゃいねぇ。
と、いうか、育った所が育った所なもんだから、そういうのを信じ得る環境じゃなかったんだな。
まぁ、年頃の女たちは、神頼みだ、心霊写真だ、怪談話だ、未知の生物だと、時々きゃーきゃーうるさく騒いでいたりはしたが。
ともかく……そんな非科学的な存在、信じちゃいないかったし、これからも信じる事なんざなかろうと思っていた。
そう、守護聖なんてぇ、ワケの分からん、女神に仕える未知の生物に近いモンにムリヤリ抜擢されたからって、目にしてないそんなモンを信じる気はなかったんだ。
あの日までは……。
鋼の守護聖として、ゼフェルが聖地にやってきてから、やっと一年が経とうとする頃……。
本人の意志などおかまいなしに、突然サクリアに目覚めたからといって、無理矢理鋼の守護聖にされた憤懣は、今だ彼の中にくすぶっている。
けれど、なにくれなく彼を気遣ってくれる人のいい地の守護聖にいつしかほだされて、それなりに、これが自分の命運だったのだと、思える部分も出てきた。
もっとも、それでもまだ、守護聖としての自覚が芽生えたかというと……真昼間に執務をサボって森の奥で居眠りするくらいであるから……教育係の地の守護聖の苦労が手に見てとれようもの。
そう、彼は……鋼の守護聖ゼフェルは只今、聖地の森の湖、その奥深くの静寂につつまれた森にて、木漏れ日の布団をかぶって、お昼寝中だったりした。
人気のない森の奥の空気は冷たいが、重なり合う木の葉の隙間を縫って降り注ぐ木漏れ日の下にいれば、レースのカーテンを通した陽射しを受けるよりも暖かい。そんな、いつものベストポジションにて、ゼフェルは心地よい寝息を立てていた。
昨夜も明け方近くまでメカいじりをしていて、寝たのはほんの三時間程。
疲れて、夢も見ずにぐっすり眠るゼフェル……その寝顔は、あどけない。
普段の切り込むように鋭いルビーレッドの眼差しは隠れ、キツク引き寄せられている事の多い眉も穏やかに開いている。弛んだ口元からは、かすかな寝息を吐き出して……ゼフェルは、眠る。
が、突然……。
『……あれ? ……あれれれ?? ここ、どこぉ!? ええ!? 私、どうなっちゃったのぅ!?』
妙に、甘ったるい少女の声が、彼の眠りを妨げる。
『だって、私……私……???』
うるさい。
うるさくて、かなわない。
意識を現に引き戻されたゼフェルは、半眼を開け、不機嫌きわまりない眼差しをさまよわせる。
『ううっ! どうしよう!?』
少なくとも、寝転んで見られる範囲には、人影はない。
「……っ、たく……なんだってんだ……」
不承不承起きあがり、まだ寝ぼけた目で周囲を見まわして、ゼフェルは、見つける。
ゼフェルが寄りかかる木をはさんで、ちょうど反対側に、それは、いた。
ふわふわした綿毛のような金の髪・森の緑より澄んだ緑の瞳……柔らかそうな白いワンピースに身を包んできょろきょろあたりを見まわす……天使!!
キラキラした木漏れ日が、彼女を包み、寝ぼけてぼやけたゼフェルの目には、彼女が燐光を放っているように見えた。
『なんでぇ!? ここ、どこぉ!?』
しばらく、呆然と天使を見つめて……ゼフェルは頭を軽く振った。
まさか、そんな事あるわけがない。
――いけねぇ、オレ、まだ寝ぼけてんだな……。
再度、その天使を見て……ゼフェルは意を決して立ちあがった。
「よう、おめぇ、こんなトコで、何してる?」
木の陰から出て、天使……いや、天使にも見える少女に声をかけた。
『え……?』
少女は、緑の大きな瞳を、零れ落ちそうなくらいに大きく見開いて、ゼフェルを振り向いて、一歩踏み出したのだが……。
「……!?」
絶句。
まさか、と、思って目をしばたかせ、目をこすり……けれど……。
「オレ、まだ、寝てんのか?」
呟きに、目の前の少女が首をかしげる。
木漏れ日から外れて、木影に入ったその少女は、どう見ても……。
きらきらとした陽射しを浴びている間は、その煌きがまばゆくて、気付かなかったが……。
『あのぉ……』
少女の甘い声は、良く聞けば、ふわふわと奇妙に反響している?
「……」
狐につままれているのかとも思って、頬を軽叩いた後、つねってみるが……。
「痛い……」
『あの? ちょっと……』
心配げに少女が声をかけてくる。
「……まさか……けど……」
再び、少女に視線を移し、きょとんとする少女につかつかと歩み寄って……。
『え? ええっ?』
少女がひどく戸惑った声を上げるのにおかまいなしで、ゼフェルは初対面の少女に手を伸ばして…………自分が今、目の前に見ているものが、現実だと確信したのだ。
『……きゃあああああああっ!?』
と、同時に、少女のとんでもない悲鳴、その後お定まりの行動!
『なに、何するの! この、痴漢、ヘンタイっ!!!』
顔を真っ赤にした少女が、ゼフェルの頬を引っ叩こうと勢い良く手を振りかざして……激しく頬が叩かれる音が、森に響……かなかった。
何故か。
少女の手が、ゼフェルをすり抜けてしまったからだ。
「……」
ゼフェルは、ごくんと息をのんだ。
『……え? ……??????』
少女も、自分の手を見て、ゼフェルの手を見て、わけがわからないように、呆然としている。
つまりは……そういう事だ。
少女は……透けていたのだ。
そりゃあ、着ている洋服だけが透けているというなら、ゼフェルも唇を緩めて見守る所だったろうが……勿論、そんな透け方ではない。全身が微妙に透けて、彼女の身体を通して背後の景色が映っているのだ。
夢でも、幻でもない事は、確認した。
てゆーことは、コレは何か?
冷や汗が、つっとゼフェルのこめかみを伝う。
ヘンなもんに関わっちまった。
正直な感想だった。
一般的な常識にしてみれば、全身が透けた人間なんて存在するはずがなく……こういう存在をなんと呼ぶか……それは、“幽霊”、であろう。
『えぐっ……あううっ……』
ふたり(?)が出遭って、しばらくしてからの事……幽霊、もとい、アンジェリークと名を名乗った少女は、半透明の姿のまま、その場につっぷしてさめざめと涙していた。
「だからさ……いい加減、もう、泣き止めよ……死んぢまったもんは、仕方ねぇんだしさ……」
『あなたなんかには、わかんないわよぅ。まだ、17歳だったのよ? なのに、どうして……。やりたい事も、いっぱいあったのに! 恋もしたかったし、将来は好きな人と結婚もしたかったわ!』
まだ、17歳。
ゼフェルと同い年の若い少女。
死ぬには、早すぎる。
泣き続ける少女の側で、ゼフェルは、ツキンと胸が痛んだ。
少女が、あまりに可哀想だったのだ。
だから、言葉に不器用な彼なりに、なんとか慰めの言葉を心の中から探していたのだが……。
『あううっ…………将来は、スチュワーデスか看護婦になってたかもしんないし、トリマーさんにもなったりして………そうよ、冷蔵庫に楽しみに取ってあったプリンもそのままだし、リンダに貸したままのCDも返してもらわなきゃだし、そうそう、この間の中間テストの結果、ママに見つかる前になんとかうまく誤魔化す方法を考えなきゃならないし……』
少女が続けて言う言葉に、気勢を削がれた。
幽霊になっても、なんとも、能天気な少女らしい……。
はあああっ、と、深い溜息をついたゼフェルは、能天気な少女の横に座り込んで、少ない“霊の知識”を鑑みて、言うべき事を探す。
「あのな……その……オレも、幽霊とかについては詳しくねぇけど……心残りとかあると、幽霊になってさ迷うとか言わねぇか? ……だから……その、オレで良ければ、おめぇの力になってやっから、よかったら、思い残した事とか話してみねぇか?」
ゼフェルとしては、精一杯の親切心で言ったのだろうが、ゼフェルの言葉に顔を上げたアンジェリークの目はひどく据わっていて……。
『思い残した事なら山程あるわよぅ! 今更、どうにかできるなら、どうにかしてるっ。でも、どれもこれも、どうにもできないんじゃないのぅぅ。てゆーか、もっと生きたかったよぅ〜!!』
叫んで、再び泣き出した。
そこで、優しくアンジェリークをたしなめられるほど、ゼフェルも人間が出来ていないし、もともとメソメソしている女性が嫌いなものから、その状況にカチンと来てしまったのだ。
――人がせっかく心配してやってんのに……!!
「あー、そうかよ! それじゃ、勝手にしろっ!! いつまでもめそめそして、一生幽霊やってろよ!」
幽霊に一生があるかどうかは謎だが……アンジェリークは、ゼフェルの言葉に更に激しく泣き出してしまった。
更にカッカしてしまったゼフェルは、その場を逃げるように駆け去ってしまったのだった……が……。
森の奥から人通りのある場所まで出て、やっと落ち着いてきて……後悔した。
結局、彼は、目にした捨て猫を放ってはおけない質なのである。
ツキンツキン胸が痛んだ。
幽霊の少女が、気になって、仕方がなかった。
17歳……そんな若さで死んでしまったら、絶望するのも仕方ないのではなかろうか?
人生の半分も生きていない。長い人生、やりたいこともたくさんあっただろうし、それこそ、恋も知らないで死ぬなんて……あまりに可哀想だ。
「……オレ、なんでこんなに短気なんだろ……ったく……」
くしゃくしゃっと髪をかきむしって、ゼフェルは、呼吸を整える。
「仕方ねぇ……もう一度……」
『もう一度……? あっ、もしかして、私を心配してくれたの?』
踵を返そうとして、突然、背後からかかる声に、ヒヤリとした。
振り向いて……ふわふわと地上1メートル程に浮かぶ、半透明の少女を……アンジェリークを、見た。
「……!!!」
あまりに驚いて、けつまづいたゼフェルの前にふんわり下りてきて、視線を合わせる位置に座り込む。
『思いきり泣いたらすっきりしちゃった。ね、折角知り合えたんだし、お話、しない?』
「おめぇ……おめぇ!?」
『今更、驚かないでよぅ』
「オレは、おめぇの為に胸を痛めてたのに、そんな能天気な顔で突然……」
怒鳴ろうとして、やめる。
ふいに、気付いたのだ。
周囲を行き交う人々の、訝しげな視線に。
ゼフェルとしては、半透明のアンジェリークの存在に、そんな視線をするのかと思ったのだが……そうでは、ない?
『なんだかねぇ、私の姿って、あなたにしか見えないみたいなの』
やっぱり能天気に笑って、少女幽霊は言う。
『と、いう事は、私、話相手があなたしかいないのよね。ひとりは寂しいものっ』
なんだか、とんでもない幽霊にとり憑かれたような気がするゼフェルだったが……彼は、意外な順応力を見せて、人目のない庭園の端っこのベンチに腰掛け、アンジェリークと語らう事に決めた。
「じゃあ、思い残す事でも聞こうか?」
辺りに人影がない事を十分に確認して(鋼の守護聖ご乱心、なんて、また悪評を広げる気は一応彼にはなかった)、アンジェリークに話しかけた。
アンジェリークはベンチに座らず、ふわふわと宙に浮いたまま膝を抱えていた。
『う〜ん、だからね、それは山ほどあるのよ……』
「それじゃぁ……死んだ理由でも思い出しゃあ、なんか絞れるかもな」
『死んだ、理由?』
幽霊アンジェリークの声に不安が宿った……ような気がした。
――やべっ、まずい事を聞いちまったか!?
死んだ瞬間の事なんて、普通、怖い思い出に違いないのに、と、ゼフェルは思いなおして、少女の内心を考えて青くなったのだが……次の瞬間。
『……さぁ?』
幽霊少女は、きょとんとした顔で言いきった。
そこに誤魔化している様子はうかがえない。
『だって、本当に、気がついたらここにいたのよね。うう〜ん、日曜の朝、家を出た所までは覚えているんだけど……?』
小首を傾げて言い、次にぽん、と手を叩く。
『ねぇねぇ、そういや、ここって、ドコ? 私、まったく見覚えのない場所なんだけど? とっもキレイな所よね! 緑がいっぱいだし、お花もそこらじゅうに溢れてるし、とっても空気が澄んでるの! ほんと、まるで天国みたい。……って、ここにいる幽霊は私だけみたいだから、天国ではないんでしょうけど』
ぽやぁんと、言って周囲を見まわし、う〜ん、と首をかしげる。
なんとも、能天気な事だ。
それとも、幽霊になったから、吹っ切れたのだろうか?
深刻さを感じさせない少女の様子に、ゼフェルは頭を抱えるしかなかった。
「まぁ……天国、に、近いかもしんねぇが……それよか、おめぇ、これからどうするよ?」
『ん? どうしよっか? ここ、居心地がよさそうなんだけど、いつまでもあなたにとり憑いてるわけにもいかないでしょうしねぇ……』
言って、再びう〜ん、と腕を抱えて考え込む……ワリに、そこに本気で悩んでいる様子は見当たらない。
「……あのさ……オレの知り合いに、色んな事に詳しいヤツがいるんだよ。そいつ、信用できるヤツだし、もしかしておめぇが成仏する方法とか、何か知ってるかもしんねぇから、これから行って見るか?」
『あら? 紹介してくれるんだ? オモシロそう♪ 行ってみよっか?』
悩んでいた(らしい)腕を解いて、にこっと即答する。
「……なんつーか、おめぇって……」
呆れたように言いかけて、やめる。
なんとなく、この少女には何を言っても無駄に思えるゼフェルだった。
ゼフェルが今から行こうとしてるのは……もちろん、地の守護聖ルヴァの館だったのだが、ベンチを立ちあがった途端に。
『あらぁ。キレイな、小鳥! 青い小鳥ね。何か、良い事あるかしら?』
視界の隅をかすめる、どこかで見たことのある青い小鳥に、イヤな予感を感じたゼフェルは、足早にその場を去ろうとしたのだが。
「チュピ、待ってってば……って、あれぇ!?」
見つかって、しまった。
「こんな所にいたんだ! ねぇ、こんなに仕事、さぼってばかりでいいの!? 皆、君を探してたんだよ!」
菫色の瞳、金の髪の緑の守護聖マルセルの非難する声に、ゼフェルは振り向き、カッと一発。
「うるせぇ!! おめぇに言われたかねぇよ!!」
そして、振り向きもせずにその場から駆け出していた。
『ねぇ、ねぇってば!』
駆け足が早歩きになったころ、焦った声でアンジェリークが声をかけてきた。
『どうしてにげるの? あの子、あなたの友達? とってもキレイな子だよねぇ!』
なんだか、誤解が含まれているようなアンジェリークの口調だったが、相手にする気にもなれず、ゼフェルはダンマリを決め込んで黙々とルヴァの館を目指した。
この時、すぐさま撤回するべきだったと、ゼフェルが後悔するのは、少し後の話……。
「ルヴァ、いるか? ……………って、なんで、おめぇまで……」
いつものように遠慮なしにルヴァの館に入り、迷わず書庫に向かう。もちろん、肩あたりにアンジェリークをくっつけながら……。
が、そこで出くわした人物に、ゼフェルは眉根を寄せた。
「はぁ〜い☆ また、今日もおサボリしてたんだ? ジュリアス、カンカンだったわよぅ?」
フワフワ・ラメラメ・ビラビラ、の、ど派手な格好をした夢の守護聖が、ひらひらと手を振っていた。
『あらぁ? 女性? 男性? ……どっちにしても、とても綺麗な人ねっ! さっきの子といい、目の保養になるわ、あなたの知り合いって!!』
耳元で聞こえる、うきうきした声はこの際無視して……ゼフェルはオリヴィエにちらりと視線を向け、何事かと書庫の奥から顔を覗かせたルヴァに詰め寄った。
「なぁ、ルヴァ、死後の世界とか、幽霊とか……そういう関係の本、あるか?」
「は?」
「あらま」
詰め寄られたルヴァ、オリヴィエともみ、珍妙な表情をして、真剣極まりない表情をするゼフェルを見た。
科学と自然が対立する領域であるなら、ゼフェルは確実に科学の領域で生きる人間。けれど、死後の世界とか幽霊とかの話は、自然さえ越えて、超自然の世界だ。
――ゼフェルが、よりによって、そんな正反対の事に興味を持つなんて! もしかして、ストレスでどうにかなってしまったのか?
と、ゼフェルの先輩守護聖ふたりは思った。
「えーと、あのぉ、どうしたんですか?」
一瞬顔を見合わせたルヴァとオリヴィエ。その一瞬間にゼフェルに問いかける役割は、彼の扱いを心得たルヴァに渡ったようだ。
「なにか悩みがあるんでしたら、私に話してはくれませんかねぇ……?」
「どっ……どういう意味だ!? オレはただ、ちょっと、気になることがあるから、調べてぇだけだよ!」
「はぁ……そうですか?」
それでも、訝しげな視線をするふたりに、ゼフェルは(妙に疑われた)怒りと(アンジェリークという事実を隠した)恥じらいに顔を赤くして、それでもそれらの感情を押し殺して小声で問いかけた。
「あの、な、ルヴァ」
ちなみに、アンジェリークはふわふわと書庫の中をうろついて、ときどき『すっごぉい。本がいっぱい!』『うわぁ、この字、読めないや!』等々、叫んでいる。ゼフェル以外に見えない・聞こえないのだから、気楽なものである。
「死んだ人間が思い残す事があると幽霊になる、って話があるよな? あれってさ、やっぱ、思い残した事が解消しなきゃ、成仏できねぇわけだろ? 幽霊本人が、その思い残した事を忘れてて、いつまでもそれが解消できなきゃ、どうなるんだ?」
ゼフェルが珍しく真剣に訪ねてくるのに、ルヴァは首をかしげながらも、やはりマジメに答える。質問されたら答えなければならないという義務感のようなものがあるらしい。まさしく、教師体質!
ゼフェルのらしからぬ問いに、傍でオリヴィエが更に表情を唖然とさせていた。
「そうですねぇ、一般的に、思い残した事をひきずったまま現世に留まる幽霊は、不成仏霊とか言われていますね。まだ不成仏霊である頃は、思い残した事を解消できる機会もありますが、その機会さえ失った霊は時を重ねるごとに悪霊となって災いをもたらすようになると言いますねぇ」
「悪霊?」
「ええ。悪霊となると人間であった頃の何もかもを忘れ、さらに時を経ると、まだ意識体である霊でさえもなくなり、祟りとか・呪いとかを引き起こす怨念となります」
なんだか、どんどん話が恐ろしくなってきて、ゼフェルは顔を青くした。
「なぁ……じゃあ、さ……思い残した事が、不成仏霊の間に解消できればちゃんと成仏出来るんだな? それじゃあ、その思い残した事っていうのを、霊が思い出す方法は……?」
「さぁ、それは……一般的に、思い残した事を持つ霊は、その“思い残した事”を解消するように行動するらしいですけど……」
「けど……けど、思い残した事っつたって……」
――もし、今、あいつの思い残した事が解消されなければ、あいつは悪霊となって、怨念となって…………ダメだ! そんなの、ダメだ!! 初めて見た時は、マジで天使かと思った。あいつが、そんなモンになるなんて……。
出遭ってちょっとしかたっていない幽霊の少女だったが、ゼフェルは本人でも気付かないうちに、確実に心を惹かれていた。
「なぁ、ルヴァ、若い女の幽霊が、思い残した事って、なんだろうな?」
「……さあ。私は女性とは縁が薄いようですからねぇ。ですが、思い残した事なんて、大概が死ぬ直前に強く思っていた事だと言われていますが……」
――死ぬ直前に強く思っていた事? それじゃぁ、やっぱり……あいつが死ぬ前に何をしていたのかが分かればいいのか?
ルヴァの言葉に、ゼフェルを心配する口調が混じる。
ゼフェルの深刻な様子に、ルヴァは眉根を寄せて表情を曇らせ、オリヴィエは頭を抱えた。
普段のゼフェルからは考えられないような質問内容に、不安になったらしい。
考え込むゼフェルを横目に、先輩守護聖ふたりは顔を見合わせ、今度はオリヴィエが深いため息と共に立ちあがった。
「ねぇ、ちょっと」
ポンとゼフェルの肩に手を置く。
「私、あんたにとっておきの元気の出る事、教えてあげるよ」
正直それどころではないゼフェルは、忌々しげにオリヴィエを見上げた。
――じゃあ、あいつの住んでた所に行って、調べれば分かるかもしんねぇ……けど、あいつの住んでた所は、外の世界だ。聖地にいるオレは、外に出られやしねぇ……。
思い悩むゼフェルの耳元に、オリヴィエは囁く。
「こんな息苦しい所に四六時中いたら、窒息してストレスも溜まるわよ。だ・か・ら、私が、とっておきの聖地からの抜け道を教えてあげる、って……」
――聖地からの抜け道!?
「ホントか!?」
ゼフェルは、オリヴィエの肩に巻くショールを締め上げんばかりの勢いだった。
「ホッ、ホントだよ。あんた、いいから、ちょっと手を離しなって……いいかい、ただし、誰にも言うんじゃないよ?」
言いながら、ゼフェルを書庫の外に導くオリヴィエは、心配そうにするルヴァに振りかえってウィンクを送った。
ちなみにアンジェリークは、ふたりが書庫を出て行った直後、ゼフェルがいないことに気付いて、慌てて扉を抜けてきた。
『え? あら?? 待ってよ〜!!』
壁でも扉でも容易にすりぬけられる幽霊って便利。
ちろりと思ったアンジェリークは、自分の脳裏を掠めるよからぬ事に、にっこり笑ったりした。
緊張感がないこと、この上ない。
「分かっていると思うけど、そのまんま逃走しちゃだめだからね?」
オリヴィエに釘をさされて、約束に血判までとられそうになったゼフェルは、必ず返ると強く誓って聖地を抜け出した!
「一年、ぶりか……」
外界の空気を体いっぱい吸い込んで、ゼフェルは背伸びをした。
『ねぇ、あそこって、どこだったの? なんか、あの人に教えてもらった抜け道も変な感じだったし……そもそも、抜け道通らなきゃ、主星に来られないって……』
首をかしげるアンジェリークにゼフェルは苦笑した。
「おめぇ、天国みたいな場所だって言ったよな? そうだな、あそこは、天国みたいな牢獄だ。その名を聖地」
ゼフェルの言葉に目を丸くしたアンジェリークは、一瞬後、興奮したように喋り出した。
『聖地? って、あの? 女王様や守護聖様のいらっしゃる? ええ、ホントぉ!? それじゃ、光の守護聖ジュリアス様や炎の守護聖オスカー様もいらっしゃったのねっ! いやあぁぁ、お会いしたかった〜!! なんで、なんで、そういう事を早く言ってくれないの!? 聖地なんて、きっと一生行けない所なのにぃぃ!! あああ〜もうもうもうっ!! 悔しい〜!!! ねぇ、聖地に住んでるんだったら、あなたは守護聖様にお会いした事があるの!? ねぇ、ねぇってば!?』
空中で地団駄を踏んでいたかと思えば、ゼフェルに詰め寄ってくる。
「おめぇ……」
なんだか、やっぱり、アンジェリークと付き合っていると、妙に力の抜けるゼフェルだった。
「守護聖なんざ、知らねぇよ。興味もねぇし。それにしても……おめぇ、やけに詳しいな?」
『あら? だって、私、スモルニィ学院ですもの』
「スモルニィ?」
『知らない? 代々の女王様はスモルニィ出身なのよ。今の女王様もそうだとうかがっているわ。いまだに、女王特待生なんていうのがあるくらいですもの』
「へぇ」
ゼフェルは意外な繋がりもあったものだ、と、感心しながら、自分自身の言葉に妙な表情をするアンジェリークを見逃さなかった。
「どうした?」
『女王陛下……聖地……』
浮遊していた彼女はふいに地に足がつくまで降りてきて、深く頭を抱えた。
『なんか、知ってる気がする……ねぇ、ちょっと学校まで行っても、いい?』
初めて見る深刻な彼女の様子に、ゼフェルは頷いて、スモルニィ女学院に向かう事になった。
時間は昼時。
古めかしいが、美しい白亜の校舎から、女学生たちの賑やかな声が聞こえてくる。
『私、ちょっと自分のクラスに行ってみる! なにか、分かるかもしれないから……!!』
着いたとたんに、学内に飛び去って行ったアンジェリークを待つのに、学校前の公園のベンチに座り込んだ。
ゼフェルとしては、とても心配していたのだ。
生きていた頃の楽しい生活を、死んでから覗き見たら、一体どんな気分がするのか、と。
落ち込んでなきゃいいが、と。
足もとの小石を蹴り飛ばし、頭をかきむしり、待つこと三十分。
『ねぇ、ねぇっ!』
妙に浮かれた顔のアンジェリークが空から降ってきた。
ゼフェルの心配とは裏腹に、何か大きな収穫があったとみえる。
「どうした?」
『驚かないでねっ! あのね、私、もしかすると、死んでないかも、しれないのっ!』
「は?」
うきうきした顔をで告げるアンジェリークの意外な言葉に、ゼフェルは息をのんだ。
『クラスメイトの話を聞いたの! 私、今、意識不明で入院してるの! だから、私……!!』
「……って、事は……?」
『うん、そう。私ってば、生霊だったの! きっと、体に戻れば、生き返れる!!』
(“生霊”なんて言葉、普通は嬉しそうに言うもんじゃなかろうが……。)
「そりゃ……」
ふいに、言葉に詰まった。
“よかったじゃねぇか!”
言いたかったが、何故か喉が詰まった。
喜ばしい事のはずなのに、ツキンと、胸が痛んだ。
『ありがと! 本当にありがと!! あなたのおかげだわ!』
アンジェリークは、満面の笑みを浮かべて、ゼフェルに飛びつこうとして……すり抜ける。
柔らかなアンジェリークの感覚と匂いが、幻のようにゼフェルをくすぐった。
『あら? あ、そっか、私、まだ霊体だったんだ』
くすっと笑うアンジェリークの無邪気な笑顔に、見惚れる。
――そうか、こいつが生き返っちまえば、もう、会う事はねぇんだな。オレは、隔絶された空間、聖地で生活する守護聖だし、こいつは、普通の、女。
『うふふ♪ そうと分かったら、さっそく病院に行こう!』
うきうきと弾んだ声で言って向きを変えたアンジェリークの手を、思わず掴もうとして、すり抜ける。分かっていた事なのに、やってしまった自分に苦笑いを浮かべた。
「……そうだ、な。これでお別れ、だ」
意識していないのに、切ない声になってしまった。
それに気付いたのか、アンジェリークは振りかえる。
そして、言うのだ。
『……お別れ? ……その前に、あなたにお願いがあるの』
「は?」
ちょっと意地悪そうな顔で言うアンジェリークに、ゼフェルはきょとんとした。
アンジェリークが、ゼフェルの耳元で囁いたその内容とは……。
『ここが、聖地、ねっ! うふふふ〜。ちょうどいい下見になったわ♪』
「下見?」
『ううん。こっちの事。それより、ねぇ、守護聖様全員にお会いしたいなんて言わないから、せめて、ジュリアス様かオスカー様のお姿、見られないかしら?』
アンジェリークの要望に、ゼフェルは深い溜息をついた。
“お別れする前に、もう一度聖地に戻って、聖地見学がしたいのっ!”
これが、アンジェリークのお願いで、あった……。
「ジュリアスはどうせ執務室に閉じこもりきりだろぅが、オスカーの野郎なら、この時間……公園のカフェテリアにでもいんじゃねぇか?」
『あなた、妙に詳しいわね? しかも、守護聖様を呼び捨てなんて、関心しないわよっ!』
「……」
幸いな事に、うきうきするアンジェリークからは、それ以上の深いつっこみはなかった。
別に正体が知れたっていいんだが、守護聖だからといって、いまさら畏まられるのもどうかと思ったのだ。
で、とりあえず、庭園のカフェテリアでオスカーの姿を垣間見て(あやうく見つかりそうになってゼフェルは茂みに逃げ込み、幽霊アンジェリークは、姿が見えていないのを良い事に、オスカーの真正面の椅子に座って、しばらくじぃっとオスカーを見つめて満足していたようだ)、偶然、噴水の傍でハープを奏でるリュミエールに出くわして(ゼフェルは木陰から、リュミエールの横でうっとり音楽に耳を傾けるアンジェリークを見守っていた)、聖殿を外から見学して、やっと満足したらしいアンジェリークを抜け道まで送ろうとした時に、またもや、会いたくない相手に会ってしまったりした。
「あれ? こんな所で、何してるの? もしかして、午前中からずっとサボり?」
マルセル、だった。
「……ふ〜ん」
「おめぇは、いちいちうるせぇんだよ。誰かさんに影響されてんじゃねぇ」
「別に、ボクはばらしたりしないから安心してよ。それより、ウチに来て、お茶に付き合わない? チェリーパイ、焼いてもらったんだけど」
「オレが、甘いもん嫌いな事分かってて、言ってるだろ?」
「なんだ……せっかく、誘ってあげたのに。冷たいんだ。いいもん、それじゃ、寂しくひとりでお茶するからっ!」
ぷんすか勝手に怒って帰ってしまった。
『怒って帰っちゃったわよ! いいの? だって、あの子、あなたの事が好きなんじゃ……?』
「気持ち悪い事言うんじゃねぇ!」
ゼフェルとしては本気で背筋が寒くなるくらいのアンジェリークの言葉だったのだが、アンジェリークはそれをゼフェルの照れと誤解したらしい。
『ちょっと、待ってて! 私、なんとかしてあげるっ! せめて、恩返し、したいものっ! できるかどうかは自信ないけど、多分、大丈夫っ!!』
「お、おいっ!?」
止める間もなくアンジェリークは飛び去って、戻ってきた時は……。
「なんだか、ヘンな感じ……」
「?????? まさか……?」
いつも以上にシナを作ったマルセルが目の前にいた。
「自分の身体じゃないのって、こんなにヘンな感じなんだ」
手足を動かしてみて、“マルセル”は小首をかしげる。
「どう? 連れ戻してきてあげたわよ?」
「まっ、まさか……もしかして……アンジェ、リーク……???」
“マルセル”はにっこり笑う。
「うん、そう。こんな事ができるなんて。試してみて良かった。オモシロイ」
「……」
「それにしても……ヘンな感じ……」
しきりに違和感を連発するアンジェリーク。
もちろん、自分自身の肉体じゃない事が一番の原因だろうが、それに次ぐ原因は、恐らく……。
「おめぇ、なんかカン違いしてるかもしんねぇけど、そいつ……男、だからな……」
しばらく、凍る空気。
それから、アンジェリークの上ずった声。
「え? ……うそぉ!? だって、こんなにカワイイし、声も高いのに!?」
「気色悪ぃ事に、それでも男なんだな……」
「………………。じゃあ、あなた……そっちの趣味が……」
「誤解してんじゃねぇぇぇっ!! オレは、ノーマルだっ!!!!」
“マルセル”はクスクス笑い出した。
マルセルがそういう言動と取っていると思うと、とても腹立たしいが……仕草や話し方が、アンジェリークとダブってみえると……悔しいが、もう、おしまいだった。
ゼフェルは、マルセル相手に妙な気分になってくる自分を激しく諌めた(そりゃそうだ)。
けれど、とりあえず、目の前に見えるマルセルは意識の外に置いといて、そっと、≪アンジェリーク≫の手を取った。
「やっと、おめぇに触れるな……」
既に、ゼフェルの目には、目の前にいるのはアンジェリークに見えていたのだろう。
「けど、もうお別れ、か?」
「うん。そうだね」
≪アンジェリーク≫はにっこり笑う。
「でも、でもね……」
今度は、少し含みある笑い方をする。
――なんだ?
あからさまに顔をしかめたゼフェルに、≪アンジェリーク≫はただ笑うだけだった。
「……今は、いいや……言わない」
「なんだ?」
「うん……いいの」
「???」
≪アンジェリーク≫は混乱するゼフェルに、そっと身体を寄せて、耳元で囁いた。
「あのね……あなたの事、とっても好きよ」
「……え?」
マヌケに問い返すゼフェルの頬に軽くキスをしてから、飛び退るようにそこから離れ、≪アンジェリーク≫は大きく笑う。
「私ったら、あなたの名前聞くチャンス、逃してたわ。ね、最後だし、教えてくれる?」
顔を真っ赤にして呆然とするゼフェルを見上げて、アンジェリークは今更ながらに問いかける。ゼフェルも自分の名前を名乗っていなかった事に気付く。
「オレの名前は、ゼフェル、だ」
「え? なんか、それって、鋼の守護聖様と同じじゃない?」
ゼフェルは肯定も否定もしない。
≪アンジェリーク≫は小首をかしげ、じっとゼフェルを見た後、にこっと笑う。
「ま、いっか……それじゃ、ばいばい、ゼフェル!」
それはまるで、また明日会えるような別れだった。
手を振ったアンジェリークが、マルセルから離れ……透けたその全身が、まるで空気に溶けるように消えた。
一瞬の、別れだった……。
「あばよ、アンジェリーク……」
多分、ゼフェルにとっては、初恋だったのだろう。
あまりに淡く、切ない、初恋は、あっさりと破れた。
ゼフェルは、いつまでも、アンジェリークの消えて行った空間を見つめた。
ちなみに、その後しばらく……
【ゼフェル・マルセル、路上でちゅー! やはり、あのふたりはホ○か!?】
という、ゴシップが聖地を騒がせて、ゼフェルをグロッキー気味にさせ、マルセルを泣き喚かせたという。
☆ゼフェルの語りによるエピローグ
その↑後日談はどうでもいいんだが、とにかく、オレは、アンジェリークと別れてから、しばらく、周囲の誰もが目を見張るくらいにマジメに執務に励んだ。
そうでもしねぇと、あいつの事ばかり考えちまいそうだったんだ。
オリヴィエに教えてもらった抜け道を通ってあいつに会いに行きたかったが、会いに行った所で、どうにもなるモンじゃねぇ、余計に切なくなるだけだと分かっていたからこそ、オレは別の事で気を紛らわせてたんだな。
けど……あれから1ヶ月後、失恋の痛み癒えぬオレの元に、女王交代に際しての、次代女王を決める女王試験が行われる、ってワケのわからん知らせが届いた。
正直な所、オレはそんなもんに興味なんぞなくて、女王の前で女王候補ふたりの挨拶式もフケるつもりだったんだが……無理にルヴァに引っ張られて行って……心臓が止まるかと思った。
女王補佐官のディアの言葉で、謁見室の観音開きの扉が明けはなたれ、そこから歩みだしたふたりの女のうち、ひとりは……。
「……!!!!」
絶句して、立ち尽くした。
横の凛として前方を見据えた気の強そうな青い女とは対照的に、落ち着かなげにきょろきょろ辺りを見まわしながら入ってきた女!
その女の、さ迷う緑の瞳が、オレに止まった。
オレたちの、視線が、絡み合う。
「ちょっと、あなた……女王の御前よ! きょろきょろしていないで、ちゃんと歩きなさい!」
隣の女に小突かれて再び歩き出し、両サイドに守護聖の並ぶ緋毛氈の上をぎこちなく歩いててきてオレの前に……。
オレ、思わず、腕を掴んで、叫んぢまった。
「アンジェリーク!!!」
皆、一様にギョッとしている。
けど、オレは、意に介さない。
「おめぇ、なんで、こんな所にいんだよ!?」
「……ゼフェルこそ……。ずるいよ、心臓、止まるかと思った。まさか、あなた、守護聖様だったなんて……」
「おめぇ、もしかして、あん時、ここに来るの分かってたんだろ?」
「分かってたよ。また、会えるから、黙ってたの。驚かそうと思って。でも……こっちの方が驚いちゃったよ」
嬉しかったんだ。
ただ、嬉しかった。
こいつと、また、会えたのが。
つかんだこいつの細い腕から、確かな触感と生きてる温もりが伝わってきて、オレ、泣きそうになっちまった。
そんで、それ、誤魔化すように、アンジェリークを、抱きしめた。
アンジェリークも、戸惑いながら、オレの背に腕を回した。
何やら、回りから激しい叱責の声と、冷やかすような声が混ざって聞こえてきたが、んなの、知ったこっちゃねぇ。
オレは……オレたちは、再会を喜んで、抱き合ったんだ。
もちろん、その場でオレ達は無理矢理別室につれていかれ、散々ジュリアスの野郎に叱られて、暫くの間、自宅謹慎を命じられた。
けど、オレは諦めねぇ。
二度と会えないと思っていたもんが、意外な形で再会できたのだ。
諦めたくはねぇ。
そんで…アンジェリークを攫っちまった(笑)。
幸い、さりげなくオレに味方してくれる輩がいた事と、意外な事に、女王自身がオレ達を認めた事によって、オレ達は、聖地で、結ばれる事になった。
※後日談の後日談
アンジェリークが生霊となって聖地に来た理由は、意識不明になる直前に女王候補として聖地に赴くのが既に決定していて、それが心残りになっていた為らしい。その姿がオレにしか見えなかったっていうのは……どうも、波長が妙にあっちまったせいだと言う。
「つまりは、相性そのものがいいのよね」
とは、火龍族の占い師の言葉である。
ま、なんだな……結局、オレたちは、結ばれる運命だっと……。
ん? 運命なんて、非科学的なもん、オレが信じてちゃ悪ぃか!?
生霊ってなもんをマジで見ちまったんだ。今更、運命だろうが、モンスターだろうが、皇帝だろうが(?)、ラ・ガだろうが(?)、なんでも来やがれ、ってもんだぜ。
でもって、アンジェリークが意識不明になった原因というのは……しばらく、アンジェリークは決して口を開こうとしなかったが、オレの激しい攻め立てに、ある日やっと口を開いた。
「だって……大きな犬に飛びかかられて(しかも襲われたのではなく、じゃれられただけ)、滑って転んで、道路に頭をぶつけたなんて……恥かしくて言えなかったんですものっ!!」
……まぁ、こいつらしいと言えば、そうなんだがな……。
ともかく、魂が抜けちまっただけで済んで、よかったんだよな。それで、オレとも会えたわけだし。
あと、どうでもいい事ひとつ。
「ねぇ、ボク、なんか、アンジェリークがとっても懐かしく感じるんだ! これってなんだろ? デジャ・ヴってやつかな!?」
そりゃ、単に、アンジェに肉体を乗っ取られてた名残だろうさ。
「もし、ゼフェルが生霊になったアンジェと出遭ってなかったら、ボクが恋人同士になってたかもしれないね!」
てゆーか、おめぇ、しょっぱな、アンジェに女だと思われてたんだぜ?
ま、いいんだけどな。あんまり可哀想だから、そこらヘンはマルセルには伏せてある。
女王試験は、アンジェリークのリタイアによって、ロザリアの次期女王準備期間となり、その間にロザリアと友情を育んだアンジェリークは、ロザリア女王の補佐官となった。
そして、今でも、オレの傍にいる。
暖かな実在感を持って。
木漏れ日に金の髪を煌めかせて、身体から淡い燐光を放つようなアンジェリークは、やはり、オレの天使だ。
オレだけの、天使……。
END
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