| ★犬夜叉SS そして、選んだ <1> 私がこの世界に住むことに決めてから、もう三年が過ぎた。 三年・・・短いようで、長い。私と犬夜叉が離れていたのと同じ時間。 あの三年間、私は犬夜叉への想いを痛感する日々だった。とても長い、長い三年だった。 今は・・・どうだろう、向こうの世界の家族への想いは日々感じている。けれど、そこに犬夜叉のいない日々のような、焦がれる強い気持ちはない。離れていても、私の家族たちは私を想ってくれているのが分かるから。 私は、この世界で犬夜叉と生きる事を選んだ。そして、この世界で自分の家族を作り、ここが私の住む世界なのだと心は決まっていた。 さて、今回はそんな私の身の上話ではない。 語りたいことはいくらでもあるけれど、延々続くこの幸せな日々はまだ語れる段階ではないのだから。 今回は・・・身近に起こったかなり意外な出来事を思い起こしてみようと思う。 いや、意外というか・・・そうなる事も頭の片隅で漠然と思ったこともあるけれど、それがまさか実現するとは思わなかった。 ただ、現実はありえないと思える事さえ実現させる、と私は自分の人生から理解している。 だって、子供の頃はまさかこんな戦国時代で、半妖の旦那サマと暮らすことになるなんて考えてもなかった。・・・その前段階、まさか井戸から戦国時代にやってきて、妖怪退治をする事自体、有り得なかったんだけどねぇ。 私の物語は終わった。 だから、今度の物語の主役は・・・りんちゃん。 りんちゃんは楓ばあちゃんの所で暮らしている。 実年齢は本人も覚えていなかったみたいだし、分からないけれど、現在十五歳、という事にしてある。 幼いころに野盗に親兄弟を殺され、本人も一度狼妖怪に殺され、そして妖怪に生かされ。妖怪と共に旅をし。 今、人里で人間や半妖、妖怪と暮らしている。 彼女の中では人間と妖怪の区切りはない。人間にも妖怪にも、悪い存在も、良い存在もいる。それぞれに善と悪はあっても、妖怪だから、人間だから、で区別をつけない。 この妖怪の跋扈する戦国世界でその考えは希少なものだ。普通の村人なら畏怖する考えであるかもしれないけれど、私や私の仲間たちにとっては、普通になった考え方。私たちは妖怪の善悪、人間の善悪・・・そういうものに多く触れて旅をしてきたから。 その考えは否定すべきではない。 だから、楓ばあちゃんの所、私たちの傍で暮らしているのだ。 神社の鳥居の外に居を構える楓ばあちゃんの家にりんちゃんは住み、私たちはその反対側に家を建ててもらった。楓ばあちゃんは少々足腰が弱くなったとはいえ、まだまだ現役だけれど、何かあった時は私がその後を引き継ぐ事になっている。私の霊力は四魂の玉を壊した後も、犬夜叉と契りを結んだ後も、衰えなかった。あの旅で、自分の力への理解不足を痛感していた私は、こちらの世界に来てから修行もした。子供をもうけた事で力は弱まったけれど、そこらへんの雑魚妖怪程度ならまだ、破魔の矢で退治できる。 りんちゃんは、犬夜叉や私が仕事で家を空ける時は、私の子供・・・那由多の世話をよくしてくれる。とても助かってる。 りんちゃんは・・・すごくいい子。 誰に対してもわけ隔てなく優しいし、働き者だ。 村が農耕期で忙しい時は村の子供たちの世話をし、楓ばあちゃんや私の仕事の手伝いもしてくれる。田んぼや畑や、村の仕事の手伝いもする。 それに、かわいい。 美人に育ったなぁ、って思う。 弥勒さまが関心していたなぁ。・・・珊瑚ちゃんにはたかれていたけど。 そうそう、弥勒さまと珊瑚ちゃんは村の外れ・・・妖怪たちが侵入してきそうな場所に家を構えて、家族で暮らしている。うん、今や大家族。5人も子供がいる。一番下の子は那由多と同い年。上の双子ちゃんたちは、さっそく小さな武器を構えて、妖怪退治の真似事を始めている・・・今の所、主に犬夜叉や七宝ちゃん相手に。弥勒さま的にはふつーの女の子として育てたかったらしんだけど、ね。・・・実は、退治屋の村の再興を考えているふたりだから、子供たちが強くあれるのは結果的にはいい事なんだろうな。 琥珀くんも村に帰ってくる頻度が前よりあがったのは・・・きっと、りんちゃんのせいだと思うのよ、ほんと。 珊瑚ちゃんはそれもいいなぁ、って笑ってた。珊瑚ちゃんのりんちゃんに対する少々の負い目は消えきらないみたいだけれど、りんちゃんは一切気にしていない。珊瑚ちゃんたちの家にもよく遊びに行っているし、仕事復帰した珊瑚ちゃんがいない間に子供たちの世話もしている。 楓ばあちゃんによれば、りんちゃんには巫女の資質があるらしい。慈愛の心や真実を見極められる目がそうなのだと。霊力も確認できているらしいけれど・・・それは楓ばあちゃんいわく、自分と変わらない程度のもので、必要がなければ延ばす事もないだろうと、修行はさせていない。 「どちらでも選べるように」と楓ばあちゃんは言う。人間であるりんちゃんが、妖怪側を選ぶ? そう思った私・・・でも、楓ばあちゃんはきっと巫女として、人生の先達として、『こう』なる事を予感していたんだろうな。 事の起こりは、年が明けてからしばらく。雪の降り続く頃。 私たちの住んでいる村は関東の方だから、雪はそれほど深くはない。ただ、私が住んでいた向こうの世界よりは雪深い。 この世界での暮らしは、基本、太陽と共に過ごす。日が沈めば眠り、日の出と共に目覚める。 その日の夜は、妖怪退治の犬夜叉の帰りが遅くて結構遅い時間まで起きていた。暖を取れるのは基本囲炉裏だけ、建築資材に断熱材なんて用いていない。かーなーり、寒い。でも、まぁ、慣れたと言えばそうかなぁ。 犬夜叉の帰りに、眠っていたはずの那由多が起きて騒ぎ出して・・・犬夜叉がそれを助長させる。小さな木刀を持たせて打ち込みを始めさせたのだ。 女の子なのに! まだ歩き始めたばかりなのに! で、いつも通りの夫婦喧嘩。 黒い犬耳となぜか犬尻尾まで生えちゃった私の娘は、その姿なくせ、妖力ではなく霊力が異様に高い。癇癪を起すと、周りの物を巻き込む事もしばしば。 ・・・で、今日も手加減の薄い犬夜叉にムキになって、癇癪を起しはじめ・・・囲炉裏の薪を爆ぜさせた。 更に夫婦喧嘩もヒートアップする。 だって、木造の家なのよ。燃えやすいものばかりなのよ!? 一歩間違えれば、大火事よっ! ああ、もう、こんな喧嘩、いっそ、犬に食わせたい・・・! それでも平和な私たちの声が届いてしまった事もあり、楓ばあちゃんの家のりんちゃんは起き出し、雪が静かに降り続く外に出て来ていた。 星のない空。 白い小さな雪が風に舞いながら静かに落ちてくる。 りんちゃんは何かに呼ばれた気がしたらしい。 風が、吹く。 北からの風なのに、何故か、暖かい。 長く伸ばして束ねた、りんちゃんのクセっ毛を雪と共に空に舞いあげようとする、風。 りんちゃんの記憶の中に、ひとりの女性の姿が浮かぶ。 風が、呼んでいた。 とても不吉な予感を感じた。 そして、空から下りてくる、見覚えのある姿。 「阿吽!?」 その背に見知った人の姿はない。騎乗する人は誰もいない。 けれど、阿吽に促され、その背に乗って、りんちゃんは自分がどこに、誰の元に向かうか理解していた。 そう、その日から、りんちゃんは姿を消した。 犬夜叉に匂いで痕跡を辿ってもらおうにも、雪がりんちゃんのにおいを掻き消して跡は追えなかった。 ただ、北の方に向かったのだとは推測できた。 そして、今北の方にいるのは・・・。 「殺生丸、か?」 妖怪退治屋として日本中を駆け回る琥珀くんが殺生丸と邂逅する事はよくあるのだという。 その琥珀くんからもたらされた情報によると、今殺生丸は北方に向かっている。もちろん、己の強さを極めるためだ。より強い妖怪と合いまみえ、父を完全に超える大妖怪になるため。 「殺生丸が連れて行ったのかな? どうして?」 だって、殺生丸はりんちゃんを人里に、楓ばあちゃんの元に置いておくことに賛同していた。本人は多く語らないけれど、邪見によれば、これ以上危険な目に遭わせないように、という理由らしい。 ただ、時折りんちゃんの様子をうかがいに来ることはあった。その頻度はまちまちだとしても。・・・そして、ここ半年近くは訪れていなかった。 「んなわけないだろ。殺生丸自ら、危険な所にりんを連れていくかよ。阿吽の匂いだけが残っているとくりゃ、りん自らが向かったに決まってる」 「だから、それはなんで!?」 「俺が知るか! ただ、殺生丸になんかあったのかもしれねぇ」 犬夜叉は北の空を睨んで、不安そうな声を出した。 この兄弟は、不思議。不仲なんだけど・・・一応お互いを認め合ってもいるみたい。 男の子の兄弟ってそういうものなのかな・・・って、かなりレベルの違う話なのは分かってるけど。 ・・・殺生丸かぁ。 丸くなったよね、かなり。出会ったばかりの頃には考えられないくらい。 犬夜叉を蔑んでいるのは相変わらずだけど、そこには血肉を分けた存在への僅かばかりの情のようなものも感じる。人間に対する態度も、かなり変わった。以前なら塵芥のごとくにしか思っていなくて、殺すことに何の躊躇いも感じていなかった存在を、今は・・・どう思っているかは分からないけれど、自ら進んでは手にかけたりはしない。しかも、彼にとって微かでも好ましいと思ったような相手であるなら、手助けする事すらある。・・・たとえば、琥珀くん。私も、助けられた。 微かでも好ましいと思った相手・・・でも、りんちゃんは・・・どうなのだろう。 りんちゃんとの経緯については、本人と邪見から聞いて、大体知っている。 相変わらず何を考えているかは分かり辛いけれど、りんちゃんをとても大切にしている事はわかる。でも、それがどういう種類のものかまでは、やっぱり分からない。 ただ、りんちゃんの危機には、多分何よりも強く反応する。彼女を守ろうとする。 それは・・・どういう想いなの? 聞いてみたいけれど、笑ってその答えをくれる相手ではないし、聞いた途端に・・・殺されはしないだろうけれど、殺されそうな眼差しで睨まれる気がする・・・。 「犬夜叉、どうすんの?」 北の空を睨みつけている犬夜叉は今にも駆け出しそうだ。 犬夜叉は、殺生丸を嫌ってはいるかもしれないけれど、憎んではいない。それに、実は過去に何度か助けられている事もあって、殺生丸に少しばかりの恩義を感じている部分もあるらしい。 ただ、相変わらず素直じゃない犬夜叉が、素直な言葉を口にするわけはなかった。 「・・・りんを、探して行ってくる。楓ばばぁが心配しているからな。世話になってる楓ばばぁやおまえに一言もなく家出するような娘じゃねぇ。おまえも、ちゃんと事情を聞いてみなけりゃ、気持ちが納まらねぇだろ?」 素直じゃない。 りんちゃんを心配しているのも勿論だろうけど、本当は殺生丸の事も心配なんだ。 私は微笑んで犬夜叉の背を押した。 「うん。だから、お願い」 犬夜叉はにっと笑って駆け出した。 積もった雪に犬夜叉の大きな歩幅の足跡が残って、赤い後姿が森に消えた。 その日、犬夜叉は戻ってこなかった。 普段から遠方に妖怪退治に行くこともままあって、一週間以上帰らない事なんてざらにある。 だから、心配はしない。しないようにする。いちいち心配してたら身が持たないもの。 ・・・ケータイがないのって、不便だなぁ。電話さえないしね。 犬夜叉が戻ってきたのは、二日後だった。しかも、りんちゃんの確実な消息は掴めないまま・・・。 「邪見だけは見つけた。が、奴もりんの行方を知らない」 邪見に聞いた内容のため、犬夜叉の顔色は悪かった。 北方に向かった殺生丸はその地を古くから治める妖怪大将に戦いを挑んだ。陸奥の山奥を根城にする齢500年を超える大寅の妖怪だ。 三日三晩の死闘の末、殺生丸は寅妖怪に致命傷を負わせたものの、最後の最後で寅妖怪の倅たちに不意を突かれ、本性の姿のまま寅たちと組合を始めた。それはそれは恐ろしい光景だったと邪見は言う。 白い大犬は己の体半分ほどの3匹の虎に押される事なく、けれど、押し返し切る事もできず、木々をなぎ倒し、山を切り崩し、咆哮を、唸りを轟きとして周囲に響かせ、真白な雪を、凍った川を互いの血に染め・・・丸一日近く続いた壮絶な争いの末、殺生丸は・・・勝った、のだろうか。 大寅3匹の骸を邪見は確認したが、殺生丸は見つからないままだ。 おそらく、人の姿に変化してどこか静かな場所で傷を癒すためにじっとしているのだろうと考え、探し続けているが見つからない、と邪見は言う。 途中まで共にあった阿吽の姿もいつの間にか消えていたと。 「殺生丸の匂いを追えなかったの?」 私の言葉に犬夜叉は頭を振る。 周囲は寅と殺生丸の毒と瘴気と血の匂いに満ち、場所を特定できなかったのだ、と。 りんちゃんの匂いを辿る事すらできなかった、と。 「殺生丸は生きては、いるんじゃねぇかと思う」 犬夜叉の言葉は確信的ではないけれど、血の絆というものがあるのなら、それが犬夜叉に告げているのだろう。 「だから、阿吽を使ってりんちゃんを呼び寄せたの?」 「・・・それは、違うと思う。けど、自分の死に目をりんに見せるようなことはしやしねぇだろ、あいつは。阿吽がりんを迎えにきたのは、別の意思が働いている気がする」 じゃあ、阿吽自身の意思? 龍のような馬のようなあの妖怪は殺生丸に調伏され、殺生丸に遣えながら、りんちゃんにもとても懐いていた。言葉が話せるほど知能は高くないようだけれど、実際の馬程度にはお利口さんそうではあった。 「天生牙・・・」 犬夜叉がつぶやいたのは、殺生丸が父から受け継いだ、牙の刃。 鉄砕牙もそうだけれど、この刃には意思がある。長年使われた物品に付喪神が宿るように。いえ、年月を重ねた大妖怪であるふたりのお父さんの思念のようなものに近いかもしれない。 それが、持ち主の危機に何らかの意思を働かせたのだと、犬夜叉は言いたいのだろうか。 「・・・しばらく休んだら、また探しに行ってみるぜ。あいつは生きているはずだろうし、りんも、無事だ。だからおめえは心配すんじゃねぇ」 「・・・うん」 言葉通り、犬夜叉は一晩家で体を休めた後、夜明け前にはまた出かけて行った。 今度こそりんちゃんと殺生丸を見つけて見せる、と。 そして、翌日の夜遅く、犬夜叉はりんちゃんを連れて帰ってきた! ただ。 「りんちゃん!?」 犬夜叉におぶさったりんちゃんは、ひどい状態だった。 手足が凍傷で赤紫色になっていた。そのくせ顔は真っ赤で、激しい呼吸を繰り返している。ひどい熱だった。 理由を聞いている暇はない。 楓ばあちゃんと珊瑚ちゃんと共に、部屋を暖め、お湯を沸かし・・・凍傷の治療に当たる。後遺症が残らないといい。 それから丸一日は皆でりんちゃんにかかりきりだった。りんちゃんの意識は熱のせいで戻らない。 ただ、うわごとで殺生丸を呼んでいた。何度も。 殺生丸に何かあったのか、殺生丸と何かあったのか。 凍傷は幸い後を残さずすみそうだ。思ったより軽度だったらしい。ただ、熱は下がらない。これは、解熱効果のある薬湯を与え、部屋を暖かくしてやりすごすしかない。 熱は下がらないままだけれど、症状がだいぶ落ち着いた頃、犬夜叉がため息交じりに話し出した。 「殺生丸は大丈夫だ。あいつからりんを託されたんだからな」 「・・・そう。やっぱり殺生丸の所にいたの。でも、どうしてこんな状態に?」 「詳細は分からねぇ。あいつは詳しくは語らないからな。ただ、りんを呼び寄せたのは、天生牙かもしれない、と言ってはいた」 犬夜叉が捜索しだして間もなく、殺生丸たちが争いをくりひろげた場所から山一つ越えた森に、阿吽の匂いを感じたという。殺生丸やりんちゃんの匂いは感じないながらも、手掛かりになればとそちらに向かった。向かった先に・・・ふたりはいた。 争いから数日経っているはずだろうに、殺生丸の傷跡は未だ生々しかった。鎧は砕け、着物は破れ、そこらじゅうに血の跡がしみついていた。 殺生丸は腕に抱きかかえた意識のないりんちゃんを、犬夜叉に託すと、一言二言言葉を交わした後に、「頼む」と告げてその場を立ち去ったのだという。 殺生丸が犬夜叉に、頼む・・・有り得ない! 私が目を丸くすると、犬夜叉は苦笑した。 「ああ。俺が来たから平気な様子をしていたが、立ち上がってりんを抱え運ぶのもまだ苦痛だったんじゃねぇか。ただ、心配された所であいつは喜びやしないから、素直にりんだけ預かってきた。その後で邪見には声をかけてきてやったから、今頃合流しているだろう」 「・・・そっか。とりあえず、生きてはいるんだ。目が覚めたらりんちゃんに伝えてあげないと」 「元気になったら、りんの様子を見に来るだろう」 殺生丸は、何よりりんちゃんを大切にしているから。この状態のりんちゃんを心配していないはずがない。 りんちゃんがいなくなって三日。 その数日間にりんちゃんは、瀕死の状態の殺生丸を看病していたに違いない。あんな薄着で雪深い北国にいれば、凍傷にもなる、風邪もひく。・・・でも、りんちゃんは殺生丸を助けたかったんだ。 幼いあの時と、同じように。・・・同じ、なのかな。 すっかり成長したりんちゃん。 殺生丸は、そしてりんちゃんは・・・あの頃と同じ感情をお互いに持っているだけ、なのかな? りんちゃんがはっきり意識を取り戻したのは三日後。 私が元いた現代世界と違って、てき面に効く薬もなければ、この村には医者もいない。 だから、助かって、本当に良かった。 目を覚まし、看病をする私の顔を見た後、りんちゃんはぼんやりと呟くように問いかけた「殺生丸さま、は?」。 私は苦笑した。 「大丈夫。生きてる。元気になったらりんちゃんの様子を見に来るでしょうから、りんちゃんもね、体元にもどそう?」 私の言葉にほっとしたりんちゃんは、再び眠りに落ちた。 りんちゃんの心の中で殺生丸が締める割合は相当に高いんだ。あの頃から、ずっと、りんちゃんには殺生丸が一番。殺生丸がりんちゃんの危機に敏感なように、りんちゃんも殺生丸を助けたいと思っているんだね。 それから数日後にはもうりんちゃんは普段通り生活できるようになった。後遺症も特に残らなかったのは幸いだ。 殺生丸の事を心配する言葉も時々漏れるけれど、元気になったら殺生丸さまはきっと来てくれる、といつも結論づける。 無事な姿を見たい・・・そう思う不安な心を無理に抑え込む。とてもいじらしい。 そんな彼女に吉報をもたらしたのは、琥珀くん。 珊瑚ちゃんたちの家に帰るより前に、真っ先にりんちゃんの所にやってきた。 少年、というより青年に差し掛かっている年齢の琥珀くんは、あの可愛かった容姿を精悍なそれに変えた。もっとも本来の優しい性格は相変わらずで、それは柔らかな笑顔に現れる。 いい男の子育ったなぁ、って思う。 「りん、殺生丸さまにお会いしたよ!」 楓ばあちゃんの家で薬草を煎じていたりんちゃんに声をかけると、当然りんちゃんはその言葉に敏感に反応する。 体調を元に戻した殺生丸は、さらに北進を続けている。妖寅の一族の残党狩り、という事らしい。 「おれも人食い寅退治の相談をされていた所だったから、ちょうど良かったんだけど」 琥珀くんの言葉に、りんちゃんはほっとした優しい笑顔をした。それに琥珀くんの頬が少し赤くなったのは気のせいじゃない。 「珍しくりんへの伝言を頼まれたんだ『わたしは無事だ』と、伝えてくれって。もしかして、何かあった?」 「・・・うん。でも・・・もういいんだ。ありがと、琥珀」 りんちゃんはにっこり笑う。 殺生丸の無事を第三者の口から確認できて心底安心した、といった感じだ。本人に会えなかったのは、いささか残念そうではあったけれど。 それから。 薬効のある樹皮を山まで取りに行くというりんちゃんの護衛に琥珀くんはついていった。 琥珀くんは見ていてはっきり分かるくらい、りんちゃんに好意的。りんちゃんの事を意識しているのが良く分かる。 対するりんちゃんは・・・友達・・・幼友達に対する親しげな態度、といった所に見える。 琥珀くんも一七歳になった。この時代では結婚するのも普通の年齢。十五歳のりんちゃんもそうだ。 ふたりはとてもお似合いで、年齢的にもつり合いがいい。 私の勝手な想いとしては、ふたりがくっついちゃえばいいと思ってる。多くは語らないけど、多分楓ばあちゃんもそう。 妖怪退治屋の嫁・・・というのは少々心配でもあるけれど、この戦国時代、どんな人と結婚したって何かしらある。戦に巻き込まれる事や、飢饉に遭遇する事、あるいは・・・野盗に襲われる、事。 琥珀くんは強い。人間より強い妖怪を相手にしているから当然だ。だから、そこらへんの野盗くらいには簡単に勝てる。そういう意味ではとても安心できる相手ではある。 ・・・まぁ、選ぶのはりんちゃんなんだけれど。 そう、選ぶのはりんちゃんなのだ。 つづく |